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【3分で読める】「OneLastKiss/宇多田ヒカル」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【新世紀エヴァンゲリオン】

【あらすじ】
駅のホームで誰を待つでもなく、ただ一人空を見上げる。星以外に何もない真っ黒なパレットの上には、小さな星々が輝いている。その輝きがまるで人間のようで、ただただ自分という存在の小ささを思い知らされるばかりである。

誰かと別れることにも慣れてしまった。
一人でいることを、寂しいと思わなくなった。
当たり前を当たり前に受け入れられるようになったのは、果たしていつ頃からだろうか。


カフェで飲んだコーヒーの匂いが、マフラーにこびりついて取れない。その匂いを嗅ぐたび、私は彼の顔を思い出してしまう。

目尻が常に少し上がっていて、いつだって機嫌が良さそうに見える表情。
「バイト先の店長にへらへらするなと茶化されるんだよね」
彼はよくそんな話をしていた。そんな彼でも、流石に別れ話で笑うようなことはしなかった。

別れを告げたのは、彼の方だった。
なんとなく、いつかこうなることはわかっていた。しかし、いざそれが現実になると、身体の一部が奪われたような感覚に陥った。

どこにいくにも、何をするにも、彼と一緒だった。
夕ご飯は何を食べるのかを決めて。
明日の予定を確認して。
仕事の愚痴を語って。
理想の未来について話をして。
キスをして、身体を重ねて。

その単純な毎日の繰り返しが、どれだけ私の心を支えてくれていたのか、私は失ってようやく気がついたのだ。人間の生活のほとんどは、単純作業の積み重ねであり、終わりなき労働である。それでも、彼と過ごす時間だけはカフェオレに浮かべるメープルシロップのように甘く、味わい深かった。

田舎の駅は雪に埋め尽くされていた。30分毎に訪れる電車を待ちながら、ホームで一人アーモンドをかじる。味はほとんどしなかったけれど、何もないよりはマシだ。

空気中に浮かぶ白い吐息。それは宛てもなく、空気中を漂う。

その様は、まるで。
私みたいだ。


民奈涼介






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