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北朝鮮の空軍基地で確認された大規模な工事と自爆ドローンの考察

亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917

はじめに

 以前に当DEEP DIVEで北朝鮮の明星系無人機の拠点について考察しましたが、ここ最近に有力候補とされる方峴空軍基地で航空機用の格納庫と思われる大型施設の建設が開始されたため、衛星画像を交えて説明します。
 また、これを機会に8月下旬に金正恩総書記が視察した自爆ドローン2種類について考察もします。

空軍基地の工事

 2022年に当DEEP DIVEが北朝鮮が(大型)無人機を開発した兆候を最初に報じたことについて、読者の皆様は記憶が新しいかと思います。今回はその無人機が確認された位置の直近で大規模な工事が開始されました。まずは衛星画像を見てみましょう。

 まず、工事前の5月28日の画像を確認します。画像の東側には赤い屋根の建物2棟(大型と小型が各1棟)が北西に向けて設けられていることがわかります(これらは過去から存在するもので新規に建てられたものではない)。このうち小さい建物の前で明星-9と思しき無人機が衛星画像上で確認されました。また、この基地では明星-4戦略偵察機も試験飛行を実施したことが朝鮮中央テレビでも明らかとなっています。ただし、この基地は戦闘機が配備されているため、これらの無人機を風雨から守るために格納するスペースがありません。そこで、既存の施設であるこれらの建物を専用の格納庫として活用されていると考えられます(2024年時点で別の空軍基地で無人機を格納する場所や動きはない)。

問題の場所は方峴基地の中央部にある(2024年5月28日撮影)Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

 上の画像が撮影されたから僅か数日後の6月2日には、大型の建物の北側の荒れ地で盛り土が確認されました。最低でもこの時点で整地作業が開始されたいたと推測されます。

少なくともこの時期から変化が確認された(2024年6月2日撮影)Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

 7月11日には整地作業をしている場所の北側(通路の向かい側)でも荒れ地の緑の部分が長方形に近い形状で土が剥き出しとなっていることが一目瞭然です。また、小型の格納庫と思しき前には車両2台が停まっていますが、普段は滅多に見ない光景ですので注目に値します。

作業の規模がより拡大していく(2024年7月11日撮影)Image ©︎ 2024 Maxar Technologies  

 8月27日になると付近の様相が一変する状態となりました。既存の建物群の北側で大型施設の建築作業が始まっていたのです。既存の施設の直近には、北朝鮮での建設作業現場で頻繁に見られるバラックも設けられています。

 新大型施設は画像の通り通路を起点に東西に各1棟ずつありますが、西側施設の大きさは縦180メートル✕横40メートで東側施設は縦135メートル✕横40メートルと異なっています。
 東西両施設の内部は数に違いはありますが、縦45メートル横40メートルの空間が設けられています。

8月から作業が本格化した(2024年8月27日撮影)Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

 この新施設の用途は航空機用の大型格納庫と考えられます。理由はいくつかありますが大まかに言うと①施設内の各空間内で壁で仕切られた部分(小部屋)が存在しないこと、②通路に面した位置に壁が存在しないことの2点です。
 また、格納すべき機体は明星-4や明星-9といった無人機となる可能性が極めて高いでしょう。この基地はMiG-15/17戦闘機の部隊の拠点ですが、戦闘機用にしては格納庫が大きすぎる上に最近の北朝鮮における戦闘機用格納庫(またはシェルター)のデザインから大きくかけ離れているからです。例えば、戦闘機用ならば①側面に壁は設けず8本の柱で屋根を支える方式であり、②機体尾部側にも扉が設けられていないという点が挙げられます。

朝鮮人民軍の順川空軍基地:2023年に大規模整備が終了した。Image ©︎ 2024 Maxar Technologies
同じく北倉空軍基地:現在も大規模整備中で戦闘機用シェルターは順川基地と同じ方式が採用されている。Image ©︎ 2024 Maxar Technologies

 もちろん、上記無人機がこの方峴基地で試験が実施された以上は同基地が拠点となる可能性は想像に難しくないばかりか至って自然なものと言えます。繰り返しになりますが、至って比較的高価でセンシティブな装備である大型無人機を風雨や雪に晒したまま駐機場に置くこと自体が台風被害が多く雪も降る北朝鮮ではリスクが高いわけです。したがって、機体を完全に格納可能で整備もできる格納庫は必須と言えます。
 こうした点を踏まえても、今回紹介した新施設が無人機用であると言っても過言ではないかと考えます。ちなみに、格納庫内の各スペース1室につき明星-9戦略偵察機が少なくとも2機は格納できる規模となります。

自爆ドローンについて

 北朝鮮が外国製の自爆ドローンを開発したことは想定していましたが、2種類を並行してということまでは想像できなかったので驚いたというのが正直な感想です。
 こちらでは開発した機体を考察してみましょう。

中型自爆ドローン(イスラエル製ハロップもどき)

 最初は中型の自爆ドローンについてです。これはイスラエルのIAI社製ハロップ徘徊兵器に酷似しています。
 北朝鮮がハロップもどきを開発する可能性は以前からありました。なぜならば、2020年9月のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャン軍・国境警備隊が投入したハロップが北朝鮮よりも質が高いアルメニア軍やアルツァフ軍の防空網などを壊滅状態に追い込み世界を驚かせたからです。これほどの効果的な同種兵器を(現代化を推し進める)北朝鮮が導入しないわけがありません。
 北朝鮮は同機をコピーしつつ独自の要素を加えたものにしたように見受けられます。画像を交えながら見てみましょう(性能に関しては詳細不明のため省略)。

 まず、おおまかな形状は一致していますが、①機首の形状及び電子光学センサの位置、②エンジンカバーの形状、③機体上部のアンテナの3点が異なっています
 ①について。ハロップは機首が普通の航空機のようなノーズコーンとなっており、機首の真下に電子光学センサが搭載されています。しかし、北朝鮮の機体は機首の先端に丸みを帯びた部分が突き出ており、その下の電子光学センサが搭載されている形となっています。百聞は一見に如かず、画像で比較してみましょう。

手前が北朝鮮のハロップもどき Image ©︎朝鮮中央通信
オリジナルのハロップと機首の形状が大きく異なっている Image ©︎IAI

 ②について。ハロップは胴体上部の後ろ側にエンジンカバーが大きく突き出た形状となっていますが、北朝鮮の機体では形状が明らかに異なっているように見えます。北朝鮮の環境でハロップと同型のエンジンを入手できる可能性は低いことから、代替となるエンジンを選択したことに伴う変更とみた方がいいのかもしれません。

 ③について。ハロップは機体上部からアンテナが突出していません。その一方で北朝鮮の機体では、機首と胴体を繋ぐ部分の上部から黒いアンテナが1本、胴体から細長い長方形状のアンテナが2本突き出ています。少なくとも1本が自己の位置を特定するためのGNSSアンテナだとすると、残りは操縦や電子光学センサからの映像・音声送受信用という可能性はありそうです。機体後部から大きく突き出たアンテナはイエメンのフーシ派が用いるイラン起源の自爆ドローンを彷彿させますが、関連性は薄いと思われます(関連があれば北朝鮮はすでにイランが開発したハロップもどきをベースに開発した可能性があるため)。

左がハロップもどき: Image ©︎朝鮮中央通信
ハロップの機体上部は滑らかである Image ©︎Wikipedia
フーシ派のヤファ自爆ドローン  ©︎Mehr News Agency
イランのハロップもどきは北朝鮮のものと形状が全く異なる(筆者が個人的に入手した画像)

 北朝鮮のハロップもどきは試射の段階で地面に備え付けられた発射台から射出されています。これを踏まえると専用の移動式発射台はまだ登場してないと言ってもいいでしょう。おそらくはオリジナルと似たものが採用されることは想像に難しくありません。

ハロップもどきが発射される様子: Image ©︎朝鮮中央通信
北朝鮮もハロップと同様の移動式発射台を装備することになるだろう(画像はアゼルバイジャンが装備するもの)©︎BakuMediaCenter

戦術ドローン(イスラエルのHERO-400及びロシアのランセットもどき)

 北朝鮮がこの種のドローンを開発したことはウクライナにおけるロシア軍のランセットがウクライナ軍の装甲戦闘車両を相手に活躍したことを踏まえると当然と言えます。しかしながら、特徴を見ると基本的にはイスラエルのUヴィジョン社のHERO-400をベースに開発したと思われるのが興味深いところです。その理由は①機首の形状、②主翼の形状、③発射方式の3点となります。これを含めて考察してみます。

右がランセット/HEROもどき ©︎朝鮮中央通信

 ①について。ランセットの主翼の先端が基本的に直線の形状である点に対し、HERO-400はやや楕円形状の特徴的なのとなっています(より小型のHERO-30も同じ)。北朝鮮のランセット/HEROもどきは後者に酷似しています。

ランセット/HEROもどきの主翼はHERO-400に酷似  ©︎朝鮮中央通信
HERO-400  ©︎Uvision
ランセット   ©︎Wikipedia

 ②について。ランセットは機首全体が回転式の電子光学センサとなっていますが、HERO-400は機首の下部にセンサが装備されています。北朝鮮の場合は後者に似ていますが、センサ自体は円形のものとなっています(形状や色を考えるとハロップのものと共通である可能性が高い)。

ランセット、HERO-400、北朝鮮製を比較した簡単な図(筆者作成)

 ③について。ランセットもHERO-400もカタパルトを用いるのが一般的であり、後者は移動可能な発射管からも発射可能です(より小型のHERO-30や120も発射管を使用する方式)。北朝鮮の場合は後者の方式を採用しています。ただし、ロシアの新型ランセットことイズデリエ-53も後者を採用しているため、そちらを参考にした可能性も排除できません。

ランセット/HEROもどきは迫撃砲に似た発射管から射出  ©︎朝鮮中央通信
HERO-400はカタパルト方式だが発射管からも射出可能という ©︎Uvision
小型のHERO-30や120は発射管を使用(画像は30)©︎Uvision
ランセットはカタパルト方式  (SNS via TOPWAR)
イズデリエ-53は発射管方式だが機体の形状は大きく異なる ©︎Russia 1(via MEMRI) 

その他

 近年の北朝鮮は世界各国の最新兵器を模倣した兵器開発で一気に近代化を進めている印象が強いですが、筆者の印象ではイスラエル製兵器もコピーの対象にしている気がしてなりません。というのも、今までミサイルだけで2種類(ラファエル社製のスパイクシリーズの短距離対戦車型のスパイク-SRと長距離型のスパイク-NLOS)をコピーの対象としてきたからです。韓国軍がスパイク-NLOSを導入したことに対抗心を燃やしていた北朝鮮がそれを導入することは理解できますが、今回のドローンを含めてイスラエル製にも目を向ける理由は何でしょうか?
 以前に北朝鮮の傘下とされるハッカー集団がイスラエルの防衛産業をターゲットにしたという報道もあっただけに気になりますが、それが明らかになる可能性が低いだけに今後登場する新兵器の考察を積み重ねて答えを見いだしていくしか術がないのが現状です。

スパイク-NLOSもどき  ©︎朝鮮中央通信 
スパイク-SRもどき:北朝鮮版ジャベリンと呼ばれることがあるが実際はスパイクに酷似  ©︎朝鮮中央通信 
スパイク-SR   ©︎Rafael

参考資料

・金正恩総書記が無人機性能試験を現地指導http://kcna.kp/jp/article/q/0103ec967a6f37507f992fb4b39111c3.kcmsf

・Azerbaijan Victory Parade | 10 December 2020 | Patriotic War https://www.youtube.com/watch?v=AUuF-_moaWM

・VIDEO: Yemeni army releases video of Yafa drone https://en.mehrnews.com/news/218264/VIDEO-Yemeni-army-releases-video-of-Yafa-drone

・GS-2600-01 UAV/USV Video, Telemetry/Control System https://glocom-corp.com/index.php/product/detail?p=gs-2600-01

・British intelligence called the Lancet kamikaze drones one of the most effective types of weapons of the Russian Armed Forces https://en.topwar.ru/229359-britanskaja-razvedka-nazvala-drony-kamikadzy-lancet-odnim-iz-samyh-jeffektivnyh-vidov-oruzhija-vs-rf.html

・HERO-120 https://uvisionuav.com/loitering-munitions/hero-120/

・HERO-400 https://uvisionuav.com/loitering-munitions/hero-400

・HERO-30 https://uvisionuav.com/loitering-munitions/hero-30/

・Russian TV Report About 'Lancet' Kamikaze Drones: Production Increased 50 Times Over Since Start Of Ukraine War; Lancets Cannot Be Jammed; The Next Generation Will Be Able To Launch In Swarms, Intelligently Prioritize High-Value Targets https://www.memri.org/tv/russian-report-lancet-kamikaze-drones-production-ukraine-war-unjammable-next-generation

・金正恩第1書記、韓国のミサイル基地攻撃—上陸訓練を視察https://www.donga.com/jp/article/all/20140707/425358/1

・イスラエル軍、北朝鮮傘下ハッカー集団のサイバー攻撃を阻止…防衛産業が標的 https://www.yomiuri.co.jp/world/20200813-OYT1T50145/

・Supike-SR https://www.rafael.co.il/system/spike-sr/

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