君がいた夏〜ジョディ・フォスターが余りにも美しいノスタルジー映画の名作
『君がいた夏』(STEALING HOME/1988年)
少年少女時代に、年上のお兄さんやお姉さんに恋した経験がある人は少なくないと思う。
完全な大人の世界ではないが、かといって自分たちの世界でもない。自分たちが分かる部分とそうでない部分を持ち合わせていた年上という存在は、思春期で何とかバランスを保とうとする者には、特別な輝きと魅力があった。身近にいれば、その人と会うことが楽しみでならなかった。
映画では、この年上という存在は、ひと夏の体験ものとして描かれることが多い。例えば『ダーティ・ダンシング』や『おもいでの夏』といった名作では、避暑地での出来事がノスタルジックに綴られていた。
そして『君がいた夏』(STEALING HOME/1988年)は、そんな年上の存在と青春ノスタルジーの要素に、人生の再起というドラマを加味した作品として知られ、ジョディ・フォスターが余りにも美しくフィルムの中で呼吸をし、そのことが観終わった後でもしばらく心から離れない。
物語は、落ちぶれた生活を送る野球選手ビリー(マーク・ハーモン)のもとに、実家の母親から1本の電話が掛かってくるところから始まる。
従姉のケイティ(ジョディ・フォスター)が拳銃自殺をしたという訃報だった。ビリーは故郷への向かいながら、野球に夢中だった少年時代を思い出す。
高校時代のビリーは、将来有望な選手として期待されていたが、幼い頃から野球の魅力を教えてくれた最愛の父を交通事故で亡くしてしまう。
母親は若くして未亡人になり、ビリーの心は揺れ動く中、親友や女の子との遊びや初体験を通じて少しずつ大人になっていく。そんな時にいつもそばにいてくれたのがケイティだった。
ケイティの遺灰を託されたものの、その処理に困惑していたビリーだったが、自らの想い出を辿っているうちに、ケイティと訪れた特別な場所があったことが蘇ってくる。
そこは二人だけで心を通わせた場所。ビリーは人生をやり直すことを決意する……。
全編に流れる哀切な音楽はデヴィッド・フォスターが担当。ここぞというシーンで期待を裏切らずに流れてくるのが嬉しい。
また、ビリーの思春期が1960年代半ばのフィラデルフィアという設定で、シュレルズの「Baby,It's You」やフォー・シーズンズの「Sherry」、エヴァリー・ブラザーズの「All I Have to Do is Dream」など、同時代のヒット曲も満載。
日本公開時のコピー「誰にでも、一生忘れられない人がいる」も秀逸だった。静かな夜に、できれば一人で観てほしい映画だ。
文/中野充浩
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