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ロッキー・ホラー・ショー〜世界中でカルト化した“観客参加”映画

『ロッキー・ホラー・ショー』(The Rocky Horror Picture Show/1975年)

真っ暗なスクリーンに、赤い口紅を塗った真っ白い歯を覗かせた唇がアップになり、そして音が鳴って静かに歌い出す。

『地球の静止する日』の時、マイケル・レニーは病気だった。
それでも私たちに立場を教えてくれた。

銀色の衣装のフラッシュ・ゴードンや、
『透明人間』のままのクロード・レインズや、
仲が悪くなったフェイ・レイとキングコング。
みんな映画ラッシュの渦の中へと消えていった。

そんな時空の彼方から届いた素敵なメッセージ。
SF怪奇映画二本立て。

ドクターXが人造人間を作って、
ジャネットとブラッドも登場。
そしてアン・フランシス主演の『禁断の惑星』。

始まるよ、深夜の二本立て映画。

映画『ロッキー・ホラー・ショー』より

映画『ロッキー・ホラー・ショー』(The Rocky Horror Picture Show/1975年)は、こうして始まる。

ロックファンや映画ファンなら、一度はこのタイトルを耳にしたことがあると思う。さらにその先には、強烈な印象を残すティム・カリー扮するフランクの女装ルックスの微笑みも、必ず現れるに違いない。

公開から50年近く経った現在でも、世界のどこかの都市のミッドナイト・シアターで上映され続けているという、超ロングラン・ムービーだ。

日本公開時の映画チラシ

すべては1973年6月、ロンドンの僅か60席ほどの小劇場で始まった。

売れない役者でソングライターだったリチャード・オブライエンが、10歳の子供でも楽しめることを前提に書いたミュージカルは、R&RノスタルジーとホモセクシャルとSFとB級ホラーを融合した奇抜すぎる舞台だった。

当時のロンドンはグラム・ロック全盛時。時代と流行に味方され、倒錯した世界を描いた舞台はまさかの大ヒット。その人気はアメリカに飛び火してブロードウェイにも進出し、NYでも大ウケした。

2年後には早くも映画化(本作)されるが、試写会では客が次々と中途退場したというエピソードが象徴するように、こちらはほとんどヒットしなかった。『ロッキー・ホラー・ショー』興行は、これで終わるはずだった。

しかし、話が面白いのはここから。映画館にはいつも同じ客ばかりが観に来る、いわゆるリピーター現象が起こっていた。これを知った映画会社は、すぐさまミッドナイト・シアター向けに配給を開始した。

そして、1977年1月。ニュージャージーで高校の教師をしていた、サル・ピロという青年が映画を観て胸を打たれたことから、物語は次章に突入する。

すっかり心酔してしまったサルは、ロッキー・ホラー・ファンクラブを組織(20世紀フォックスも公認)。

NYの8丁目の映画館プレイハウスでは、金曜と土曜の深夜に、映画の登場人物そっくりにコスプレした観客たちがサルを中心に集まり、上映前のパフォーマンスや一緒に歌い踊ったり、小道具(米、傘、新聞紙、マッチ、ライター、クラッカー、紙吹雪など)やツッコミを、スクリーンに向けて浴びせるということをやり始めた。

『ロッキー・ホラー・ショー』は“観客参加”型、つまり「自分自身が体験する」映画として新しく生まれ変わったのだ。

これは映画の楽しみ方として画期的なことだった(なお、この有名な様子は別の映画『フェーム』でワンシーンとして描かれた。また、日本では1988年にリヴァイヴァル上映されて、この観客参加を促したこともある)。

結婚を誓ったブラッドとジャネット(スーザン・サランドン)が、恩師に知らせるべく車を走らせていると、激しい雷雨に見舞われてパンクしてしまう。

電話を借りようと向かった先は巨大な古城で、不気味な召使リフ・ラフ(リチャード・オブライエン)に迎え入れられる。広間ではパーティが行われていて、城主のフランク(ティム・カリー)がプロデュースする怪しげでエロティックで、切なくて悲しい夜に巻き込まれていく……。

後に驚異のロングセラー『BAT OUT OF HELL』(1977)で大スターとなるミートローフが登場していることにも注目だが、『ロッキー・ホラー・ショー』の息の長さは何よりも、リチャード・オブライエンによる楽曲のクオリティの高さに尽きるだろう。

本人が歌う冒頭の「Science Fiction/Double Feature」や「Time Warp」はロック史上に輝く名曲だ。

文/中野充浩

参考/『ロッキー・ホラー・ショー』パンフレット

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