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エレベーターホールでいい大人が泣きじゃくる理由

待ち合いのソファに滴る涙

(前回からの続き)
流産手術のために訪れた東京レディスクリニックにて、心拍があることを告げられた私。
クリニック・ドゥ・ランジュ に戻るように言われ、逡巡した先に……

診察室を出て、明るくて広い待ち合い室に戻る。
東京レディスクリニックは、基本的に婦人科なので、患者さんもナースも皆若くて、不妊クリニックと比べて悲壮感がそこまで漂っていない。女性しかいないし。

そんななか、ひとり、滂沱する。
後から後から涙があふれてきた。
ダメだって思ってたのに、3代目の卵さんはまだ生きていた。
胎芽が見えた。
たった3ミリの、私の、小さな赤ちゃん。

つながった希望。届かない想い。

会計が終わり、ランジュ に連絡を試みる。
来院を断られる可能性もあるし、と思い、建物の外には出ず、エレベーターホールで、かなりの勇気を振り絞り、電話をかけた。

もちろん、嫌な予感ほど的中する。

ランジュ の受付の女性が出る。たぶん、薄めの顔立ちの人。

「稽留流産と診断され、東京レディスクリニックに来ているが、心拍が確認できたので、そちらに急いで連絡するように言われた」

「以前にもお伝えしたように、心拍確認できても結果は厳しいと思われるので、こちらに来られましても…」

「いや、でも、そう伝えたうえで、ランジュ さんに電話するように言われたのですが」

「でも、こちらに来られても難しいので、そちらの先生と相談いただいて…」

「それは、院長と東京レディスクリニックの先生と相談いただける、ということですか?
私は、東京レディスクリニックの先生に指示を受けて、今、電話しているんです」

「いや、院長はお話にはなりません」

「院長宛ての手紙ももらいましたし、継続の診断をされたので、こうやって電話しているんです。どうしたらいいかわかりません!」(泣きじゃくる)

数分待たされた後…(院長にお伺いを立てている)
「それでは、木曜に来院してください」

「とすると、木曜までは伺えない、ということですよね?ホルモン剤が手元になく、流産が始まらないようにするにはどうしたらいいか?」

「ホルモン剤をお出しすることはしていません。とりあえず木曜に来ていただければ」

「ということは、そちらのクリニックは、見殺しにするということですね?」としゃくり上げながら言う。

だって、めっちゃ時間厳守でホルモン剤を飲んだり、膣錠入れたりしてて、時間守らなかったら流れてもおかしくない、と脅してきたのはそっちやんか。
流れないようにプロゲデポー打ってきたやんか。
心拍確認できたのに、何も手を打たないの?
なぜ?と。
(後から育良クリニックの先生に、この段階でのホルモン剤は気休めのようなもの、と言われたのだが、この時はまだその事実を知らない)

受付の女性も黙ってしまう。
「確認して折り返し電話します」と言って、電話は終わった。

東京レディスクリニックのエレベーターホールに誰も来なくて良かった。
引くと思う。いい歳した女が大泣きしながら、電話の相手と言い合いしてるわけで。

不妊治療のクリニックは、何があっても、患者を放り出すようなことはしてはいけないと思う。
だって、1人の患者から数百万の収入を得ているのだから。
そして、藁にもすがる思いで、必死に通っている患者がいるのだから。

この時の私の気持ちは、心細いの一言。
これまで全てを注ぎ込んで、言うこと聞いて、信じてきたクリニック・ドゥ・ランジュ から、来られても困ると見放されるとは、本当に思ってもみなかった。
ひとりぽっち、ってこういう気分なのかな。

旦那さんの「良かったね」のLINEで我に帰る

エレベーターホールにこれ以上いられない、と半べそかきながら外に出て、歩きながら旦那さんにメッセージを送る。

すると、
「心拍確認できて良かったね」
とのLINEが。

そうなんだよ。
ある意味では、喜ぶべきことが起きたんだよ。
その喜びは、束の間のことで、その後にまた悲しみがやってくるだろうけれど、でも、喜んだっていいことが起きていたんだ。

それなのに、クリニックの対応が最悪過ぎて、心拍があったことへの喜びが、遠く遠くに飛んでしまった。
このことは決して忘れない。
溶けない氷の塊だ。
死ぬ時の走馬灯にも出てくると思う。

ランジュの院長はじめ、看護師も受付も、流産なんかには慣れっ子で、よくあることなんだろうけれど、患者からしたら、もう二度と経験したくないことで、辛くて辛くて、どうしたらいいかわからないんだよ。
大金払って、傍若無人な態度も受け入れているんだから、流産した時だけは寄り添ってよ。
寄り添おうとしてよ。

不妊治療って、辛い。
今までで一番強くそう思った一日だった。

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