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体温管理療法(TTM:Target Temperature Management)

救急医において心停止患者の蘇生は重大な命題の一つです。
近年は一次救命処置の普及や病院前診療の発展に伴い救命率は徐々に向上しています。次にある課題は、蘇生した患者が生存退院できること、社会復帰できることです。心停止時には脳血流は極めて低下するため、脳に著しいダメージを受けます。神経学的予後をいかに保つかは、二次的な脳損傷をどれだけ少なくするかにかかっています。
今回は心停止蘇生後の体温管理療法に関してまとめています。


体温管理療法の目的

先ほども述べた通り、心停止に陥ってしまうと脳に甚大な損傷を伴います。年々改善してはいますが神経学的予後は厳しいです。日本における2018年の搬送された院外心停止患者では、社会復帰率は12.5%でした(JMA J. 2021 Jan 29; 4(1): 65-66. PMID:33575506)。
体温管理療法(TTM:Target Temperature Management)の目的は蘇生後の脳損傷の抑制、神経学的予後の改善です。高体温をさけることで脳の細胞障害が抑制されるといわれています。

低体温療法ではないのか

以前は低体温療法と呼ばれていましたが、現在は体温管理療法が一般的です。これまでは32‐34℃での管理が行われてきましたが、NEJMから発表されたTTM2 Trialにより33℃を目標とする管理と37℃を目標とする管理では差がないことが示されました(N Engl J Med.2021 Jun 17;384(24):2283-2294. PMID: 34133859)。この結果を受けて36‐37℃での、いわゆる平温療法も行われるようになり、いずれの意味も含む体温管理療法が一般的になりました。
冷やせるなら冷やしたほうがよいのでは、と思われるかもしれませんが、実際にはシバリングや循環不全が増えるというデメリットがあります。
また低体温が全く行われない、ということではありません。低体温療法が望ましい可能性があるケースも存在すると考えられています。どういった症例で選択すべきか議論されているのが現状です。

体温管理療法の適応

自己心拍再開後に昏睡 (GCS≦8)である心停止患者が、体温管理療法の適応です。心拍再開後に急速に意識が回復する患者では適応になりません。
また脳出血や制御不能な出血がある場合、治療をしても回復が難しい循環不全では慎重に適応する必要があります。これは体温をさげることで出血しやすくなったり、血圧が下がりやすかったりするためです。

開始後の管理

適応と判断し、禁忌にも該当しない場合には可及的速やかに導入に移ります。心停止の原因検索、治療と並行して行います。タイミングは心拍再開から4時間以内が推奨されています。以下の概略図を参考までに提示します。

院内での自作資料から引用

目標体温としては36℃とすることが多いです。
ただし低体温を選択する場合もあります。現在、院外心停止患者への至適な目標体温の層別化に関して研究されており、rCAST Scoreが提示されています(Crit Care Med. 2021 Aug 1;49(8):e741-e750. PMID: 33826582)。rCAST Scoreで中等症の場合には低体温を検討します。

体温管理中のポイントしては、けいれん/シバリングを起こさないこと、循環動態を安定化させることです。鎮静薬や循環作動薬の調整が必要になります。また低体温下では高血糖が起きやすいため血糖管理も重要です。体温管理を開始したら最低72時間は達成するように管理します。もちろんその後も高体温は害であり発熱を避けるようにします。

終わりに

今回は体温管理療法に関しての概略を簡単にまとめてみました。
心停止後の管理は非常に重要ですが、それ以前に一次救命処置、救命の連鎖がなければ始まりません。
BLSに関しては以下にまとめていますので、よければこちらも参考にしてみてください。

追伸:以下はGPTに「体温管理療法」で作成してもらった画像です。未来はこんな機械なのかもしれません。

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