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ラスト・チャンス(30) 〜ゲームの主人公に転生したら、どのルートもバッドエンドだったんですが!?〜

↑1話目はこちら(1話目の先頭に目次あり)

第30話 誤解

 マシューが王宮庭園に足繁く訪れる様になってしばらく、久々に私の所へルシア様が訪ねてこられる。ああ、そう言えばアカデミーやらイーサグラムの研究やらが忙しくて、お兄様のことをすっかり忘れていたわ。

「姫様、アカデミーでの生活はいかがですか?」
「とても順調ですわ。沢山の方々と交流して色々勉強することが、こんなに楽しいだなんて思っておりませんでした」
「それは何よりです。そう言えば……」

 アカデミー繋がりで話題はマシューのことに。最近良くここに来ているから、彼女も見かけたようだ。

「フォーセットのマシュー王子を良くお見かけしますね。姫様とは仲がよろしいとか」
「そうですね。マシュー王子だけではなく、ユージーン王子やレジナルド王子とも仲良くさせて頂いてます。マシュー王子は植物に興味がおありなので、ここの庭園が大層お気に入りの様で」
「そうでしたか。王宮内では良く姫様や王妃様とご一緒のところを見掛けると聞きましたので……ひょっとして姫様が婚約者としてマシュー王子を選ばれるのではないかと」

 あー、そう思われてたのか。確かに三王子の中ではマシューと一緒にいる時間が多いけど、それは彼が王宮にくるから。マシューには意中のサイモンと言う男性がいるわけだし、どっちかと言うと女友達みたいな感覚なのよねー。お母様もそのことは知っていて、その上で気が合って草花の話も楽しいからと彼とは懇意にしている。

 しかし、ここで『誤解だ』と否定してしまうと、私の相手がユージーンかレジナルドってことになってしまうか。今のところ私的には誰とも付き合う……婚約するつもりも無いんだけど、そう言う噂が広まってしまうのもマズい。ここは誤魔化しておこう。

「マシュー王子は研究がお好きな方ですし、ここの庭園や研究機関にも大変興味がお有りなんですよ。もし私と婚約すればイグレシアスに来られることもあるかも知れませんが、今はきっと恋愛なんて考えておられないでしょうし、私もそのつもりはありませんの。飽くまで仲の良い学友なんです」
「そうですか、姫様も今はお勉強が忙しい様ですね。私もてっきりすぐにでも婚約されるのかと思っておりましたので」
「フフフ、そうですね。でもマシュー王子は魅力的なお方ですから、私が夢中になってしまうこともあるかも知れませんわ」

 冗談のつもりだったけど、ルシア様が意外と真面目な顔になってしまってちょっと焦る。取り敢えずお兄様の事やアカデミーのことで話を反らして、なんとかその場は乗り切った。誰かと婚約する可能性を匂わせつつ、勉学にも励んでいるアピールは難しいって! しかしこれでルシア様も、私が婚約を引き延ばそうとしていることは何となく察してくれただろうか。しかしマシューだけが頻繁に王宮に来ていれば誤解されるのも当然か。たまにはユージーンやレジナルドも呼ばないとダメね。

 ルシア様の話では、お兄様は依然として離宮で引きこもり生活を送っているそうだ。妹がアカデミーに入学してしばらく経つと言うのに、一向に会いにもこないとは困ったお兄様だ。そう言えばお兄様もアカデミーを出ているから、アカデミーの教授との間で話題になっても良さそうだけど、誰も話題にしないわね。時々自室ではそんなことを思うんだけど、アカデミーに行くと忘れてしまっているのよ。イーサラム関係のことが楽しすぎるからかなあ。また今度、お兄様がどんな生徒だったか教授に聞いてみよう。

 いつものように世間話をした後に帰っていったルシア様。彼女を見送って私も工房へ行くことにする。ホバーボードの試作第一号が完成したから、工房でブラッシュアップしてもらうためよ。一号機を何個かのパーツに分解して大きいカバンに詰め込み、変装して出かけようとすると、扉の前には既に着替え終わったレオが立っていた。

「げっ」
「げっ、じゃねーよ。またお前は黙って出かけようとする!」
「街は安全なんだから一人でも大丈夫よ! 工房はすぐ傍だし」
「俺が怒られるんだよ。ほら、行くんだろう?」

 ちょっと怒りながらもカバンを持ってくれるレオ。こういう所は紳士なんだよなー。しかしレオにはまだ試作を見せないでおこうと思ってたのに、これでバレちゃうなあ。まあ、仕方ないか。

「なんで私が出掛けるって分かったの?」
「何年付き合ってると思ってるんだよ。お前が部屋でゴソゴソしてたら、雰囲気で何となく分かるんだよ」

 以心伝心ってやつ!? 長年付き合った恋人みたいなこと言っちゃって。前の扉の中ではエマはレオに対して恋心の様なものはなかったと思うんだけど、今の私から客観的にみればレオもなかなかのイケメン。実際結婚するならこういう気心の知れた相手がいいのかもなあ。庶民的感覚だろうけどね。

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