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ラスト・チャンス(7) 〜ゲームの主人公に転生したら、どのルートもバッドエンドだったんですが!?〜

↑1話目はこちら(1話目の先頭に目次あり)

第7話 告白と結末

 アナスタシア妃殿下はゲームでも鍵となる人物で、彼女を攻略することがレジナルド王子との恋愛を成就させる重要なファクターとなっている。こちらの世界のエマはゲームのことなど知らないけれど、私がベースになっているせいか最善の選択肢をちゃんと選択してくれるのよね。だから後から思い起こしてみても、何が悪かったのかイマイチ分からない。実際この時も最適なプレゼントを持参して彼女に気に入られていた……はずだった。

「アナスタシア様、お加減はいかがですか?」
「これはエマ様、わざわざご足労頂き恐縮です」

 エマが彼女を尋ねてみると、彼女はベッドの上で半身を起こして出迎えてくれた。

「この様な格好で失礼しますね」
「いえ、お休みの所にお邪魔してしまって申し訳ございません……宜しければこちらをお納めください」
「これは?」
「イグレシアスでは古くから伝わる、滋養強壮の効果があるとされているお酒です。夜、お休みになる前にでもこのグラスで飲んでみてください」

 要はこの世界の養○酒みたいなもんね。因みにグラスの方も王宮御用達の工房で作ってもらった特注品。エマの父であるイグレシアス王もこの酒を毎晩飲んでいて、そのお陰なのかどうか、とても健康なのよ。

 このプレゼントが功を奏してアナスタシア妃とは少し打ち解け、互いに遠慮しながらも会話を楽しむことができた。喋ってみれば尚更彼女の聡明さや優しさが感じられ、噂に違わぬ人物だと実感するエマ。そして彼女と仲良くなったことでレジナルド王子との仲も一歩前進し、お互いに恋人として意識する様に。こうなると別国の王子、王女であることがネックになってきて、エマも会えない時間にどんどんレジナルド王子への想いを募らせる様になる。身分としては超絶勝ち組のエマだけど、恋愛時は他の女性同様胸が苦しくなる経験をすることになるのよね。これはどの扉を選んだ場合でも同じだった。

 会いたい気持ちを手紙を書いて紛らわすなどしながら、時々お互いの国に行き来して恋人同士の時間を過ごす二人。そんなことが半年程続いた後エマがインファンテを訪れた際、王宮の庭を二人で散策しながらレジナルド王子がついにエマに告白するの。

「エマ、俺はもう君と会えない時間を我慢できそうにない。ずっと一緒に過ごしたいんだ。俺と結婚して欲しい」

 彼女の手を取りながら片膝を付いたレジナルド王子。驚いて一瞬動きが止まったエマだったけど直ぐに胸に秘めた想いが込み上げてきて、それが涙として溢れ出した。

「はい!」

 彼女の返事に普段はあまり見せない少年の様な満面の笑みのレジナルド王子。立ち上がると力強いその腕で彼女を抱きしめ、こうして二人は結ばれることになった……そう、二人の間では。

 一分一秒を惜しむように、二人は夜も一緒に過ごす。お互いの立場上、流石に行為には及ばなかったけれど、キスをしたりお互いの体に触れ合ったりして甘い恋人同士の時間を堪能する二人。こうなるともう周りのことなんて見えてなくて世界には二人しか存在しない、そんな風にエマは感じていた。明日にはもうイグレシアスに戻らなければならない。

「エマ、そろそろ自室に戻ったほうがいい」
「できればずっとこうしていたいです……次はいつ会えますか?」
「すぐさ。何ならそのまま君に付いていきたいぐらいだけど、婚約したからには色々あるからな。でもすぐに片付けて君の元へ向かうさ」
「お待ちしております、レジナルド様」

 お休みのキスをねだり、ひとまずそれで我慢して王子の部屋を出る。薄暗い明かりの灯った廊下を一人部屋へと向かっていると、もうすぐ自室という所で唐突に背後から誰かにぶつかられた。

「うっ……」

 その拍子で前に倒れて膝をつく。そして背中に鋭い痛みが……その箇所を何気なく押さえてから手を見ると、彼女の手にはベッタリと血が付いていた。

「!?」

 状況が飲み込めない。しかし背後に人の気配を感じて振り向き、そこにフードを被った人物を見つける。その者の手には血が滴るナイフ。王子と過ごした甘い時間で麻痺していた思考が段々と働きだし、ようやく自分が刺されたのだと理解したエマだったけど、今度は出血で意識が薄れていくのを感じていた。

「あ、あなたは……」
「……」

 彼女の問に対してゆっくりとフードを取る人物。その相手は、なんとアナスタシア妃だった。冷たい表情で、どこか虚ろな目をしつつ彼女を見下ろす王妃。

「どうして……」
「王配にはさせない。そんなことは私が許さない」

 そう言い放つと彼女はゆっくりと背を向けて立ち去ってしまった。助けを呼ぼうとするも、もう声も出ない。ゆっくりと床に崩れ落ちると、廊下に敷かれた絨毯を真紅に染めながらエマは事切れてしまったのだった。

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