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ラスト・チャンス(24) 〜ゲームの主人公に転生したら、どのルートもバッドエンドだったんですが!?〜

↑1話目はこちら(1話目の先頭に目次あり)

第24話 イーサグラム工房

 図書館でユージーンと話して以来、彼は今までよりもオープンになったと言うか、壁が一枚なくなったと言うか。どうやら王子として姉的存在のカーラの言う事を叶えようとして、キザっぽく振る舞って女性の気を惹こうとしてたみたい。なるほど、前の扉の中でエマにグイグイきていたのはそう言う仮面を被っていたってことね。しかしカーラの言う通りに王女であるエマと結婚しようとして、そのカーラにエマが殺されてしまったのは腑に落ちないわね。

 ユージーンと仲良くなりすぎるのは厳禁だけど彼の意識は多分カーラに向いているはずだから、このまま友達として付き合っていく分には問題ないだろう。恋愛シミュレーションゲームの恋愛対象をどんどん篩に掛けてどうするんだと言う気もするけど、今はイーサ関係の勉強が楽しくて仕方ない。

 最近私が夢中になっているのはイーサグラムだ。様々な紋様のものがあるが、どれも魔法陣みたいに丸い感じではなく、金属のプレートに縦横斜めの線が走っている感じ。これってモロに前世の電子基板風よね。電子基板の場合、絶縁体の基板上に導電率の高い銅が使われるんだけど、イーサグラムの場合ベースの金属が銅、銀、金が主で、線の部分は鉄、チタン、そしてミスリルが使われていることが多い。安いものは鉄、高級品はミスリルなことを考えると、やっぱりミスリルが一番魔法を通しやすいみたい。ミスリル! ちょっとテンション上がるわね。でも、鉄もチタンもミスリルも、融点が結構高いみたいだから専門の工房でしかイーサグラムは作れないんだとか。

 馬車を引っ張っている浮遊移動体の中に入っていたイーサグラムはA4紙ぐらいのサイズが何枚か繋げてあったけど、その上に書かれた模様の線は太めだった。普段使いの、例えば照明代わりのイーサグラムなんかは手のひらサイズで、線も細め。どうやらあれは、銅板の上に鉄の線。銅の方が融点が低かったはずだから、どうやって線を引いているのかは興味あるなあ。そこはイーサの力ってやつなのかしら? 図書館にあった本では詳しい製造法までは分からなかったから、これは是非とも工房に行ってみなければ。

 幸いにして、アカデミーの学生は王都内にある様々な工房を見学する権利がある。一部王族御用達のものなどは国外の生徒には公開してないみたいだけど、私は王族だからね! フフン。浮遊移動体用のイーサグラムを作った工房は学生には非公開なんだけど、私は大丈夫。『王族特権』……素晴らしい響きだわ。

 アカデミーが休みの日に変装して一人で出かけようとコソコソしていると、レオに見つかってしまって結局二人で工房に行くことに。王宮からそんなに遠くないから一人でも大丈夫なのに。

「なんで王女が工房の見学になんか行くんだよ」
「王女だって学生なんだから、今後の向学のためよ。レオも少しは勉強しなさいよ」
「俺はお前に無理やり入学させられただけだからな」

 その割には毎日レジナルド王子やサイモンと楽しそうにしてるじゃない? まあいいや。折角だから護衛のお仕事をしてもらいましょうか。

 向かった工房は王都でも一、二を争う大きさで超有名所。普段使いの一般向けから王族御用達のものまで幅広く作成しているが、普段使いのものでもその質の良さから高級品とされている。多分王宮の照明なんかもここのイーサグラムを使ってると思う。工房に入るとそこは販売用の店舗で、ありとあらゆるイーサグラムのプレートが並べられていた。テンション上がる!

「いらっしゃいませ」

 店員の女性が丁寧に挨拶してくれるが、その表情は明らかに『庶民が何しに来やがった』って感じ。町娘風の装いの少女に、腰から剣をぶら下げている男子……怪しげ満点なのでその対応も分からなくはない。

「工房を見学させて頂きたいと思いまして」

 学生証を見せながら言うと、それを受け取りながら更に見下した様な表情になる女性。

「あ、ごめんなさい。ここはアカデミーの学生でも見学の対象外なんですよ」
「……」

 やっぱそう来たかと思いつつ、彼女が持っている学生証を指さしながら名前を確かめる様に促す。と、彼女の表情は見る見る変わって慌てだした。

「も、申し訳ございません! す、すぐに準備致しますので!」

 慌てて奥に駆けていく女性。フッフッフ、ロイヤルパワーの勝利ね。

「店員のお姉さん、焦ってたじゃねーか。意地悪するなよ」
「あら、意地悪なんてしてないわよ。あちらが勝手に勘違いしたんだから」

とは言え、ちょっと可哀想だったかしら? 彼女にお咎めがないように後で謝っておこう。

 やがてさっきの女性が戻ってきて奥に通される。いよいよ工房! と思ったけど、通されたのは応接間だった。恐らくここの責任者らしき初老でビシッとした身なりの男性が待っている。

「姫様、ウチの者が大変失礼致しました。今日はどのようなご要件で?」
「いえ、こんな格好ですし彼女が勘違いしても仕方ありません。今日はこっそり参りましたし、突然訪問してご迷惑ではなかったでしょうか?」
「滅相もございません! ご入用の物がございましたら直ぐに準備致しますので」

 今日来たのは商品を求めるためではなく向学の為に工房を見学するためだと告げると、それはそれで驚いた様子。まあ、普通王族はイーサグラムを自分で作りたいなんて思わないでしょうからね。

「やはり見学は無理でしょうか?」
「いえ、問題ございません。それではこちらへどうぞ」
「……」

 私たちが部屋を出ていこうとすると、結構な角度で頭を下げて若干震えている様にも見えるさっきの女性店員。

「あなた」
「は、はひっ!?」
「手間を取らせてしまったわね、有り難う。今後もこの格好でここに来るかも知れないから、覚えておいて。ああ、そうだわ。いちいち私の身分を説明するのは面倒だから、今後もあなたに対応をお願いしようかしら」
「か、かしこまりました!」

 うん、これで彼女もクビになったりしないだろう。庶民的な感覚からするとあまり良いやり方とは思わないけど、まあこれも王族特権と言うことで。

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