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転職の経験が活きて妻と出会えた話(15) お見合い15人目の後 後編

「うーん……なんででしょうね。」
当日の光景を思い出す。
グランドプリンスホテル高輪の1階ラウンジ。よく晴れてて、庭園の芝生が美しかった。
あー…
「ちゃんとこちらの話を聞いて頂いて、しかも笑顔も多かったからかもしれません。」
「そう。とってもいいコじゃない。他には?相手の聞く姿勢以外にもない?」
「あ、某機械メーカーさんの製品開発されてる方で、お互いに仕事の話が面白くて、少なくとも友達にはなれそうかなと思いました。」
「いいじゃない。それが1つの目安かもしれないわね。」
うん、と頷いて、強めの笑みを浮かべて先輩がこちらを見た。
「仕事の話で盛り上がれる、ということですか?」
「んー、それも悪くないけど、『少なくとも友達にはなれそう』というところかしら。」
「そんなもんですか。」
「目安、ね。そこからさき、『こういう人と付き合いたい』『こういう人と生きていきたい』というイメージは持ててる?」
「うーん……いや、どうですかね。正直、難しいかもしれません。」
「私の勝手な予想だけど、タオちゃんのことだから、婚活を始めるときに紙に色々と書きだして、求めるパートナー像を明確化しようとした?」
「はい。――って、よく分かりますね。」
ちょっと驚く。
「分からいでか。中途採用の面接のときの様子を見てると、そうしそうかなと思ってね。」
――すげーな、この先輩。
(ちなみに、あーちゃん先輩は面接官の1人でした。……今思えば、この会社、よくこんな濃い人を面接官にするなー。)
「ただ、色々と希望を書き出してみたのですが、しっくりくるものがあんまり無かったです。」
「そっか。じゃあ、少し話を変えるけど、今回、見た目はタイプだったの?」
「はい。ストライクゾーンでした。ただ、見た目が全く好みでない人には申し込んでないですし、15回もお見合いして慣れてくると過度に異性を意識することが薄れてきて、見た目のウェイトが自分の中で減ってきたというか。」
「そ。いいんじゃない?」
そこそこ満足げなご様子。
「自分が本当にどういう人を望んでいるのか、これからもお見合いやデートを重ねたら見えてくると思うわ。タオちゃん、経験が少なすぎて、いま自分の中にあるデータだけじゃ分からないと思うのよね。」
「実践の中で得られるデータ、お見合いの中で自分が何をどう思うのか、しっかりと蓄積していくのが肝要と。」
「そうね。自分の中で色々と定まっていない今は、『少なくとも友達にはなれそう』で、仮交際に進む目安とするのでいいじゃないかしら。」
――おぉ、なるほど。例えるなら……
「学生時代に色々な経験をしておくと、自分は何をするのが人より長けていて、モチベーション高く、嬉しい気持ちになるのかデータが貯まっている。だから、いざ就活になっても紙面の自己分析でそのデータをもとに、自分のキャリアの方向性を導ける。その方向性に従って、企業にエントリーするし、面接でも自己分析結果を伝えることになる。」
「そうそう。そして、そのデータがないなら、色々な会社説明や面接、インターンを経る中で集めていくしかないわ。仮交際は、差し詰めインターンかしら。タオちゃんにとって。」
「分かりました。その心づもりでお見合いを進めていきます。」
「ん。いいお返事☆ 賛否あると思うけど、異性と接する機会が少なかった以上、これからこの部分の自分を知っていくしかないと思うの。」
「そうですね。」
苦笑いしかない。けど、ちょっとスッキリした。
「まだまだ先は長いかもしれないけど、焦らずいきましょ。」
「はい!」
「じゃ、お昼にしましょっか。」
あーちゃん先輩が左手を上げ、扉の向こう、小窓からこちらを伺っていた祐介を呼ぶ。
「へいお待ち!」
祐介が男性用の白い和食調理服を着て、かつ丼を持ってくる。
どこで調達したのか、岡持ちまで持って。
「……俺、自白は終わりましたよ?」
「やーねー!成功を祈願したゲン担ぎよ!古典的だけど!」
ほほほ、と先輩が笑う。
「ま、なかなか言いづらそうだったら先に出していたけどな。」
「やん!祐くん、バラしちゃダメ!」
うーん、2人の心遣いに泣きそうになる。

板さんの格好した祐介を混ぜて、3人で会議室でかつ丼を食した。
……まだまだ先は長そうだなぁ。

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