奇説 今昔物語集 -藤原氏外伝-篇
四条河原町に着いたのは、夕方の5時を少し回った頃だった。ぼくはいま、阪急電鉄の河原町駅を降りると、両脇に連なる街路を貫いて、高台のある方へと歩を進めている。
一言断っておくと、ここは京都である。
京都へとやって来た目的は、日本の心、いわく、
「和敬清寂」
の心を少しく体得すべきことにある。だが、ぼくには、茶道を初めとした伝統芸能への興味に先立って、体の中心に大きく構えて陣取っている歴史主義という思考がある。ふと、ぼくはこのとき、
「今夜は、清水寺へ行こう」
と思い立ったのだった。
そういう訳で、とにかく、ぼくは今、河原町駅前の阪急から先斗町、祗園を突き抜けて、高台寺の山門から清水寺へと向かっているのである。
もちろん、清水行の主目的は、かの有名な
「清水の舞台から飛び降りた気持ちで・・・」
という文句に謳われた絶景にある訳ではない。
その真の目的は、清水寺に祭られている、古代東北で一大勢力を保っていた蝦夷(エミシ)の英雄、“アテルイ”を訪問するためである。実は、何の学術的根拠もないことなのだが、ぼくは、藤原鎌足を始祖とする藤原氏と、アテルイは、そう遠くない親戚であったと信じている。
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