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「無題」を書いてよかった。

先日書いた有料記事「無題」を読んだ方から、お問い合わせを頂きました。

この記事はそのとき答えた内容を再現したものです。お問い合わせ頂いた方のご厚意もあって公開します。※公開できる範囲の内容にしています

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お手紙ありがとうございます。有料記事読んでもらえてうれしかったです。

発達障害のある人のご家族が読むことも思い浮かべながら、あの文章を書きました。ふだん大変な思いをされてる方からすれば、取るに足らないことのように思えるし、実際あの文章を読んでどんな感想を持たれるのか、配慮に欠けた内容になってないかなど、ずっと気にかかっていました。

丁寧なお手紙をいただいて、ホッとしています。
ありがとうございます。

* * *

診断に至るまでのできごとや、診断あとの学生生活を通して、taoさんの親としての心配はいかばかりだったでしょうか…?

やっぱり気になるのはここですよね。大人の発達障害の難しさはここに尽きます。大人の場合は診断に至るきっかけの出来事がありますね。我が家の場合は、大学生活に支障が出たこと。休学するという事態がなければ、やり過ごしてた可能性が高いです。このタイミングで判明してまだ良かったと前向きに捉えるようにしています。

発端

診断に至るまでの出来事を書きます。

大学続けられないかも?となった時点で、すぐ実家の兄に相談しました。高卒として働く?専門学校に行く?公務員を目指す? ふつうの会社サラリーマンの私には、どれも想像がつかなくて。会社経営してる兄は、私より知見が豊富だから、広い視野で一緒に考えてもらおうと思って連絡を取りました。

実家を頼ることなんて一度もなかったけど、今回だけは別です。
結局休学に落ち着き、2週間ほど実家に息子を預かってもらいました。

事情を知った上で息子を歓迎してくれたので、それは息子にとっていい経験になったようです。ホッとできる安全基地を得たような感じ。理解して支援してくれる人達がいると心強いということをここで知りました。

この経験は後々生きてきて、学校に対しても同じような環境づくりに取り組むことになるのですが、それはもう少し先の話です。

自閉症ではないか?

実家で預かってもらった後、息子は自閉症ではないか?と兄から打ち明けられました。話しても視線が合いにくいなど、明らかな特徴があると。

息子が自閉症ではないかと感じることは私もあったけど、困りごとが特段なかったため、これまであまり深く考えることはありませんでした。

専門家のアドバイスが必要ではないか?というのが兄の意見でした。素人の自分達だけでは今後の判断を誤るかもしれないと。

我が子を自閉症と認めてしまうことにためらいはあったけど、自分だけでは思い切ることが出来なかったので、客観的な周りの判断を聞けて良かったと思っています。これが診断に至る第一歩です。

ひきこもり支援センター

とはいえ、すぐ診断に踏み切ったわけではありません。

息子の状況をどう捉えたらいいか分からなかったので、まずひきこもり支援センターに相談することにしました。事情を話した結果、広義のひきこもりと捉えてよさそうだったので、月一回ここに通うことにしました。

私にとっては話を聞いてくれるありがたい存在でした。ずいぶん心が軽くなりました。息子の回には同席しないので、どんな様子だったか分かりませんが、事情を知ってる人と会って話すのは、いい効果があったと思います。

進路

その間も進路については息子と話してたけど、進展がないままでした。
なにしろ自分のやりたいことが分からない!自分の気持ちが見えにくい!
処置なしです・・

進路がはっきりしないまま年が明けて、どうやら消極的な選択肢として復学という線が濃厚になってきました。

大学は基本方針として対面授業に戻ったけど、同時にまだオンライン配信も行ってたので、このまま自宅で受講できないかと考えました。せめて1年間、いや半年だけでも。そうすれば上手くやっていける気がしました。

そのためには学校を説得する材料として診断書があったほうがいい。

心身障害福祉センター

自閉スペクトラム症を診断する心身障害福祉センターには、ひきこもり支援センターの方がこれまでの状況を連携してくれたので、スムーズに受診することができました。これはありがたかったです。

そして診断・検査結果が出たのが、あの記事にも書いた2月14日です。
休学してから5か月が経っていました。

* * *

どう受け止めたのか?

ここまでが診断に至る経緯ですが、では息子はそれをどう受け止めたのか?
息子抜きに進めると大変なことになるのでかなり時間をかけて話しました。

診断に至るまでの取り組み

・まず私が大人の発達障害について書かれた本を1冊読みました。
・息子に自閉スペクトラム症について説明。同じ本を読んでもらいました。
・スペクトラムの事例として、私自身の不得意リストを作って見せました。
・息子の得意・不得意リストを一緒に作って、理解を深めました。

でもこれだけではまだ不十分。次に家族の理解を得る取り組みもしました。

・発達障害がテーマの漫画『リエゾン』を最新刊まで購入。
・私が読んでるのをみて、下の子(高校生)もつられて読んでくれました。
・妻はふだんマンガ読まないけど、1巻だけは読んでもらいました。

自閉スペクトラム症とは

診断を受けるにあたって大切なのは、正しい知識をみんなが持ってること。
偏った見方をする人がいたらうまく物事が進まなくなるから。

・自閉スペクトラム症を病気だと思わないこと。
・治療すれば治ると思わないこと。性格を無理やり矯正しないのと同じ。
・発達の凸凹(得意・不得意)は個々の特性と捉えること。
・誰にでもスペクトラムの濃淡があると認識すること。

家族の共通認識として、ここまで理解して診断へと踏み切りました。
※下の子に詳しいことを伝えたのは 診断・検査結果の後です。

* * *

環境づくり

自宅でオンライン受講する申し出は、結果的には認められませんでした。

学科の履修担当の先生が学部長まで掛け合ってくれたけど、例外は認められないとのこと。トップがダメと言うなら仕方ない。方針転換を図りました。

それなら…環境のほうを変えればいい

大学や寮が息子にとって安全基地だと感じられたらいいのではないか?

復学後の学生生活について

自宅オンライン受講不可の決定が出てから、1か月で環境を整えました。

今はこんな環境です。

・大学近くの寮に引越し。学校まで歩いて通える。
・寮長には事情を知った上で見守ってもらってます。※特別対応はなし
・履修担当の先生、学生課、学生相談室に診断結果を見せ理解を得ました。
・履修担当の先生に、履修計画案を見てもらいました。
・息子はメールでその先生と連絡を取れる間柄になりました。
・週1回、学生相談室のカウンセリングを受けてます。

大人の発達障害で困りごとを軽減するためには、相談する力があるといいのだそうです。相談できる人、相談しやすい環境をつくってみました。

復学後の親子について

学校や寮については説明した通り。では親子の環境はどう変わったのか?

* * *

ひきこもり支援センターの方と私と息子の3人で約束したことがあります。

支援センターの方が私たち親子にこう問いかけました。

「大学に復学するとして、もしうまく行かなかったらどうしますか?」
そのときは縁がなかったと思ってあきらめます。別の道を探します、と私。

「分かりました。どうしてもだめだったら自分から教えてくれますね?」
そう聞かれた息子は、はいとうなずきました。

「ではこれは3人の約束です。みんな覚えておいてくださいね」


これがすごく大事なことは後になって気がつきました。
これはいわゆる「合意形成」というものです。

ここで決めたことは、
・復学がうまくいかなかった場合は、大学をやめてもいいという約束
・復学がうまくいかなかった場合は、本人から申し出るという約束

大人の発達障害で大事なキーワードが「合意」だそうです。

* * *

合意形成

息子の場合は受動型なので、自分から働きかけることが極端に少ないため、絶対的に経験値が足りてません。理解することには問題がないため、この半年間はとにかく一緒に行動して、知ってもらうことに努めました。

ただ「理解」はしても、自分が「納得」してないと動かないことが多くありました。それを解決する手法が「合意」だそうです。

指示や命令ではなく「合意」という取り決めを行うことで、自分で判断して動きやすくなるようです。最近本を読んで学びました。

約束

復学するにあたって、息子と取り交わした「合意」はこんな感じです。

・親が出欠状況を確認することはしない。その代わり、気持ちの落ち込みがあったり、授業を受けられなかったら、自分から打ち明けるようにする。
・週に一回学生相談室のカウンセリングを受ける。次回のアポを取る。
・親からテレビ電話を掛けるのは週2回決めた曜日のみ。22:00-22:30の間。それ以外の場合は、LINEで事前に確認を取るようにする。本人からはいつでも連絡可。


実は息子と取り交わした「合意」にはもうひとつあって、それがとびきりユニークなんです。それを紹介させてください。

息子が旅立つ前の3月初めから毎日欠かさずやってる取り組みです。
それが「朝の読み聞かせ会」です。これを今でも続けています。

放っとくと一日誰とも話さず過ごすこともあるので、声を出す習慣をつくりたくて考えました。何でもよかったけど、たまたま松下幸之助の『道をひらく』を書店で見つけて、これを読むことに決めました。

以前読んだことがあって、見開き2ページ1テーマで1回約500字程度。

易しい言葉で深いことが書いてあり、読み直すと今の時代にも通じることが多くて驚きます。心に沁みるような優しさもあって、本当にいい本です。

前日に息子が読むページを決めて、それを翌朝私に読み聞かせて、次に私が同じ個所を息子に読み聞かせるのが、毎朝の日課。この提案を持ちかけたとき、息子は嫌がるかなと思ったら、意外と抵抗なく受け入れてくれました。

朝の読み聞かせ会の効果
1.毎朝決まった時間に起きる習慣
2.声を出す習慣
3.伝わるように話す技術の習得(私の読み聞かせを手本として)
4.自分の発する言葉を真剣に聞いてくれる人がいる喜び
5.相手の言葉を聴きとる練習(耳からの情報が苦手な人も多いので)
 ※一度自分で読んだ内容だから聴き取りやすいかも?と思って。
6.読んだ内容について短い感想&雑談(これは私のみ)
7.読み聞かせした日付をページ右上に記入。日々の達成感を得られる

こんな効果を期待して自宅にいる間から始めたけど、寮に引っ越した後も継続したいと提案すると、これもすんなり受け入れてくれました。

そうするとさらに思わぬ効果があることに気がつきました。

平日7:50スタート(週末8:30~)
読むのに2分×親子で2回、内容の感想で約2分、連絡事項で約2分。
息子と毎朝約10分話す機会ができました。

息子が起きてるのも自然と確認できるし、その安心感はとても大きいです。

毎朝話すので、気分や体調の変化にも気がつきやすいかなと思っています。

仕組みづくり

大学に近い寮なので、読み聞かせの後に朝食取って、身支度すませて学校行けばちょうど1時限目が始まる少し前。そんな仕組みが出来あがりました。

復学にあたって息子と話してたのは、やる気に頼るのはやめようということでした。やる気に頼ればうまく行かないときが出てくるから。

そうではなく、うまく回る仕組みをつくろうと打ち合わせしてました。無理をせず自然とうまくやっていける流れ、それを探そうと。

朝の読み聞かせ会は、親子でつくった仕組みのひとつです。

* * *

最後に

一人の読者として知りたいことは、今息子さんがどう過ごされているのかということでした。今春どのようにカリキュラムを組んでいかれたのか。履修や出席のサポートをどうやっておられるのか。

カリキュラムについては、履修担当の先生が早めに時間割を入手してくれて、ゆっくり考える時間をいただきました。履修計画案をメールで送って、zoom面談でアドバイスをもらいました。また今年度の新入生向けガイダンスとオリエンテーションにも特別な配慮で参加させてもらいました。

出席サポートは、今のところ特に何かお願いすることはしてません。学生相談室のカウンセリングで、何でも相談できるようになって、自然と学校に足が向くことを期待しています。学校近くの歩いて通える寮に住んでるので。


このままずっと順調に行けるわけではないだろうと覚悟しています。

うまくいかないとき、適切なサポートを適切な人ができるようにしたい。
親子だけで悩まず支援してくれる人達とこれからも連携を取っていきます。

長い文章読んでいただきありがとうございました。

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