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ゲームのオーダーメイドを考える

スーツなどの衣類をはじめ、車や枕など、顧客の細かなニーズに合わせてオーダーメイドできる商品が増えてきている。ZOZOSUITも然り、ユーザーニーズに個別に対応していくトレンドは今後さらに加速していくと思われる。

僕らが商業でゲームを作る場合、最初にターゲットユーザーの設定を行う(ことが多い)。日本国内向けなのか、ワールドワイドに展開するのか、F1層、T層、K層、こんなゲームをしている人、あんな漫画が好きな人、などなど。服で言えば男性向けなのか女性向けなのか、Sサイズにするか、Mサイズにするか、フリーサイズにするのか、ストリート系なのかフォーマルなのか…といった感じで、いったいどんなお客さんを楽しませるためにゲームを作るのかを設定する。

「ターゲットは自分自身」であれば判断基準は自分自身なのでそれほど苦労はないけれど、例えば僕が以前担当した「小学校低学年女児向け」のゲームだったりすると、自分自身が経験したことのないターゲットのことを深く知るために、綿密なリサーチが必要になってくる。最新の少女マンガ誌を読み漁ったり、アニメを見たり、おもちゃ屋の女児向けコーナーに足繁く通ったり。そういうリサーチを続けることでようやく「ターゲットユーザーが何を求めているか」の輪郭が把握でき、ゲームの設計に反映することができる(この話はまとめておきたいこともあるので別の機会に改めて書こうと思う)。

しかし、どんなに頑張ってリサーチしたとしても、実際「ターゲットユーザーの設定」というのは、相当ぼんやりした性格のものである。「小学校低学年女児」にも当然様々な個性があり、全員同じ属性を持っているわけではない。結果、多数決に近いまるめ方をしていくことになる。

もっと個別のニーズに立ち入った、オーダーメイドのゲームは作れないものだろうか、とうことを時折考える。

身近なオーダーメイドゲームとしては、TRPGがそれに近い。
やろうと思えば限りなくオーダーメイドに近いゲーム制作が実現可能なTRPGにおいては、セッションの性格によって少しずつこの「オーダーメイド度」が異なっている。

例えば誰でも自由に参加できる大規模なコンベンションで卓を立てる場合、初心者はもちろん、小学生くらいのプレイヤーが卓に入ることもあるため、誰でも筋が分かりやすく迷いにくいシナリオ作りを心がける。プレイヤーも初対面である可能性が高いので、プレイヤー間の対立や、プレイヤー間の連携がないと成り立たないようなシナリオは極力避けるか、進行上クリティカルにならないように配置する。戦闘がある場合は、できれば「イージー」「ノーマル」「ハード」の3パターンくらいの難易度を用意しておくのが望ましい。これは商業ゲームでシナリオ制作する感覚にかなり近い。もっと言えば、任天堂ハード向けに丁寧に作る感じに近い。

同じコンベンションでも、特定のシステムオンリーコンベンションや、だいたいいつもメンバーが変わらない小~中規模コンベンションの場合、若干ターゲットを絞ることができる。ユーザーの熟練度だったり、年齢層の幅が狭いほうが、シナリオもある程度尖らせることができる。これは、プレイステーションやXBOX向けにシナリオを作る感覚に近い気がする。

さらに踏み込んで、遊び手専用にカスタムしたシナリオを用意できるのは、あらかじめメンツが決まっているプライベートセッションだろう。プレイヤー全員の知識を前提に映画や小説のオマージュを織り込んだり、「あのプレイヤーなら多分こう活躍したいだろう」という予測のもとに舞台設定やシーンを組み立てることができる。まさにオーダーメイドだ。事前にキャラクターデータが出来上がっていれば尚良し。見せ場や危機的な状況を一番気持ち良いバランスで仕込むことが可能だ。当然、ユーザー満足の確度は非常に高い。

しかし、ここまでのことを商業でやろうとしたら、大富豪のパトロンに開発費をすべて出してもらうとか、少人数からのファンド等でコストを賄うしかない。それはあまり現実的ではない。では、それに近しいことをどうにかして実現することはできないだろうかと考える。

その一つの答えは「ゲームソムリエ」ではないかと僕は思う。

スペースインベーダーから40年、デジタルビデオゲームはそれこそ星の数ほど生まれてきた。黎明期を味わった僕ら世代からすれば、それはリアルタイムの思い出であるわけだけれど、例えば「生まれたときにはドラクエのナンバリングは10でした」という世代にとってみれば、興味を持ったとしても1~9のどの順番で遊んで良いのか、派生作品もたくさんあるし…という、情報過多の状況に陥る。世の中には既に珠玉のゲームたちが存在するというのに、本当に好きなものに到達する可能性は極めて低い。

何も、過去のゲームを探す場合だけでなく、最新のゲームを選ぶしても、同人や海外インディまで幅を広げれば、今年リリースされたタイトルですら把握しきることは困難だ。自分のニーズに限りなく合ったゲームは実はすでに存在しているのに、一部の幸運なユーザー以外はそれに出会うことすらできない。おそらくそんなことが今現実に起こっているのではないかと思う。

あらゆるユーザーのニーズに合わせ、的確な遊びを提供する。それを実現するのは多分、一本のゲームではなく、その手前にいる「ゲームのソムリエ」のようなものなのだと思う。それは、古今東西あらゆるゲームの情報をビッグデータとして持ったAIのようなもので、ソムリエが客に合わせてワインをチョイスするように、ユーザーの属性や生活スタイルに合わせて的確なタイミングでオススメゲームを提示する。ゲームプレイ中の入力情報や脳波データなどもリアルタイムで取得して、遊び方までサジェストしてくれるとなお良さそうである。
特殊なデバイスの問題はあるけれど、基本的にはあらゆる古今東西のゲームタイトルがアーカイブされて、実際にゲームがプレイされたらその時間によって制作者や制作会社に既定のプレイ料金が支払われるようにすれば、名作はいつまでも名作として残り続け、作者は印税のように長期的な収益を手に入れることもできる。

ひょっとすると、情報がますます氾濫していくこれからの時代にゲームメディアが生き残っていく鍵は、オーダーメイド感覚でユーザーとゲームの橋渡しをする、ソムリエ的な存在になることなのじゃないかと思う。
膨大な情報の中からユーザーが必要な情報だけを見つけてくる。AIがそれを担う未来予想図より少し手前の未来は、進化したメディアが担っていくんじゃないだろうか。

ゲームを作る立場としても、そのコンテンツを最も楽しんでくれるユーザーさんに届くのは一番の喜びであるし、それが自分の死後も残っていくのだとしたら本当に幸せだなぁ。

(本日のおつまみ:ちょっと贅沢に「金目鯛の湯引き」いただきました)

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