総務省とテレビ局の共犯による「地上波地獄」から抜け出せない日本の悲劇
庶民の娯楽であるテレビが、未だに政府と一部企業の利権構造による「地上波分断政策」に縛られているというお話を一席。
↑これは我が家のテレビのリモコンである。
テレビのリモコンに最初からNetflixやhulu、YouTube、AbemaTV(現在はAbema)、U-NEXT、dTVといったインターネットテレビ放送のボタンがついている。
テレビがネットに接続されていれば、YouTubeとAbemaは無料で見られる。他のチャンネルも契約すればもちろん見られる。
接続はWi-Fiで行えるので、家庭内Wi-Fiがある家ならLANケーブルを接続する必要もない。
ネット経由だから、電波を受信するのと違って荒天で映像が乱れるようなこともない。
テレビの電源がOFFになっていても、リモコンのNetflixのボタンを押せば、テレビの電源が入り、Netflixに接続して、前回見ていた途中からサクッと再生を始める。いちいち番組を探し出す必要もない。
……もう、テレビはこれでいいではないか、いや、こうあるべきだろう、と思う。
視聴者が自由に選ぶ。よいと思うものには金を出す。くだらないものを押しつけられる義理はない。
無料で視聴できるものに広告がついてくるのは仕方がない。
しかし、録画できる放送にいくら広告をつけても、見る側は録画して広告をスキップしながら見る。我が家ではマラソンや駅伝の生中継でさえ、録画して、30分か1時間遅れくらいで「追っかけ再生」して、広告をスキップしながら見ている。これでは広告主にとっても意味がないのではないか。もっと安い費用でターゲティング広告ができるネット広告のほうがはるかに有効だろう。
その点でも、録画できる地上波放送は廃れていく運命にあるはずなのだが、日本ではいっこうにそうならないのが不思議だ。
地上波テレビは地方局だけでいい
テレビ放送がアナログからデジタルに切り替わったとき、私は「テレビ放送を地上波でやる必要はない。衛星放送やケーブルテレビ網でやれば、全国どこでも同じ番組を同時に見られる。受像器やアンテナを総入れ替えする大変革を強行するのに、地上波での放送に固執するのは、電波利権を死守しようという総務省とテレビ局の悪行に他ならず、国民は大変な損害を被る」という主張をした。詳しくは⇒こちら。
衛星放送をメインにすれば、全国に新たな送信アンテナを建てる必要はない。つまり、送信側の費用はほぼゼロである。
受信側としても、アナログ停波となれば、どっちみちテレビそのものを買い換えなければいけないし、今までの地上波(VHS)アンテナもゴミになる。弱いUHF電波を受信するために屋根の上に高いマストを立てて不細工なアンテナをつけるよりも、家の外壁やベランダの柵にBSアンテナを取り付けるほうが、たいていの場合、作業が楽だし、費用も安い。
今売られているテレビ受像器にBS、CSを受信できない製品はまずない。地上波が届かない場所でもBS、CSなら受信できるというケースはたくさんある。実際、建物や山が邪魔して地上波の電波(UHF波)は届かないので、BS、CSだけ受信しているという人は多い。
現在、衛星放送(BS)にはすべての民放キー局がチャンネルを持っていて無料放送している。110度CSも合わせれば、チャンネルはありあまっている。衛星放送をメインに使えば全国どこでも衛星放送で同じ番組を見られるが、BSでは、各放送局が金をかけて制作している人気番組はわざと放送せず、通販番組やら大昔の再放送しかやっていない。BSで人気番組を見られては困るからだ。
こんなふざけた話があるだろうか?
地上波(UHF帯)は遠くまで届かないし、遮蔽物に弱い。地上波は地方局が使って、その地域独自の情報をメインに放送すればいい。地上波はもともとそうした使い方が向いているのだ。
国はテレビの視聴環境地域格差を恣意的に温存した
テレビ放送をアナログからデジタルに切り替えるという大変革のとき、国と放送会社は結託して、国民に、まるで地上波でなければテレビを見られないかのような呪縛をかけ、巨額の税金を投入し、全国の地上波放送局の利権を守った。
結果、放送文化の地域格差は解消されなかった、というより恣意的に「格差が温存された」というべきだろう。
現在も、青森・秋田・富山・鳥取&島根・山口・高知・大分・沖縄は民放局が3局、山梨・福井・宮崎は2局、徳島・佐賀には1局しか民放テレビ局が存在していない。
民放の地上波テレビ放送は、いわゆる4大ネット(日本テレビ系列、テレビ朝日系列、東京放送系列、フジテレビ系列)+1(テレビ東京系列)と、独立系地方局(テレビ神奈川やとちぎテレビなど十数局)で成り立っている。
例えば世界陸上は東京放送(TBS)系列の独占生中継だが、TBS系列局がない秋田県と福井県では見られない。
山梨県は日テレ系の山梨放送とTBS系のテレビ山梨の2つしか民放局がないので、多くの家庭ではケーブルテレビに加盟してフジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の番組を周回遅れで見ている。
TBS系列以外の系列は「クロスネット」と呼ばれる方式で、相乗り放送を認めている。例えばテレビ宮崎(宮崎県)は、TBS系列以外のフジ、テレ朝、日テレ系列の番組をまぜこぜにして放送している「クロスネット」どころか「トリプルネット」と呼ばれる放送局だが、当然、同時間帯に放送できる番組は1つなので、人気番組は日時をずらして放送するしかない。テレビ宮崎ではフジ系列の月曜夜9時台のドラマ(いわゆる「月9」)は5日遅れの土曜日の夕方に放送して、月曜夜9時にはテレ朝系の「月曜ワイド劇場」を放送している。
契約者が700人しかいないチャンネル
ちなみに、総務省幹部が東北新社の「菅首相の長男」を交えた会食をしていた問題が露見した後、芋づる式に表沙汰になってしまった外資規制法違反で、東北新社の衛星チャンネルであるザ・シネマ4Kが放送事業者として認定取消になり、サービス終了となった。
そこでさらに明るみになったのは、このザ・シネマ4Kの契約者数が全国で約700人しかいなかったことだ。
700人のために日本の放送衛星の貴重な帯域(4K放送が送信できる広い帯域!)が1つ埋められていたというのだ。
ザ・シネマ4Kが割り当てられていたのは「BS・左旋」と呼ばれる新しい放送衛星によるもので、従来のアンテナ、ケーブル、ブースター、コネクターなどの設備を対応した製品に交換する必要がある。そこまでして4K(ハイビジョン画質の4倍)、8K(ハイビジョン画質の16倍)の映像を見たい人がどれだけいるだろうか。
4K対応テレビを持っている人は、NHKの朝ドラや大河ドラマをBSプレミアムとBS 4Kの両方で見比べてみるといい。ほとんど差を感じないはずだ。8K映像に至っては、畳1畳分とか、壁いっぱいくらいの面積に映し出さない限り、解像度の差など分からないし、それだけの高額機器を揃えられる環境を持てる人はほとんどいない。
BS左旋で契約者数700人のザ・シネマ4Kが免許取り消しになって消えた後、残ったチャンネルはNHK BS8K、WOWOW 4K、ショップチャンネル4K、4K QVCの4つだが、通販番組専門チャンネルが2つも入っている。4Kで通販番組を見る必要がどこにあるのか? そもそもこうしたチャンネルが運営可能であることに疑問がわく。
『テレビが言えない地デジの正体』でも取り上げたが、競馬専門チャンネルといえる「グリーンチャンネル」は農林水産省とJRAが深く関係している。2019年度での放送サービス契約数は24万2887件(前年より-6,326 件)で、インターネット配信契約数が81,806 件(同、+14,003 件)だという。
こんなものはネット配信だけでよいではないか。そもそも地方競馬全国協会(NAR)はライブ映像配信サイトを開設し、全国各地の地方競馬の競馬場から、パドック、返し馬、レース映像のすべてを無料で同時配信している。スマホ時代の今、なぜJRAだけBSの有料チャンネルでしか見られないようにしているのか?
(2017年6月に柿沢未途衆院議員が「一般財団法人グリーンチャンネルの競馬中継放送に関する質問主意書」として質問しているが、政府の回答は「政府としてお答えする立場にない」というものだった。「グリーンチャンネルの理事長および役員に農水省、JRAのOBは何人いるか」という質問には、「8人のうち農水省OBが1人、JRAのOBが5人」という回答だった)。
日本における電波行政がいかにデタラメで不透明なものであるかという問題を、日本のマスメディアはほとんど報じていない。同じ利権構造の中にいるからだろう。
放送電波は公共インフラではないのか? 視聴者はもっと怒らなければいけない。
Netflixの前に日本の娯楽業界は為す術なしか?
最近、WOWOWで『The Sinner』の第3シーズンを全話一挙放送していたので、録画して数日かけて一気に見た。
恥を忍んでいえば、アメリカでここまでのレベルのドラマを制作しているとは思わなかった。こうした人間の複雑な深層心理まで掘り下げ、なおかつリアルな描写をするサスペンスドラマは、欧州ものばかりだと思っていたのだ。
アメリカのテレビドラマでは、今までCSのスーパードラマチャンネルで『メンタリスト』や『ブラックリスト』などを全話録画して見ていたが、あのレベルというか、ああいうテイストがアメリカのドラマで、『ブリッジ』や『キリング』のようなドラマはイギリスや北欧でしか作られていないと思っていた。
しかし、それは知らないだけだった。
『The Sinner』のシーズン1と2を見たいと思って捜したところ、Netflixで見られることが分かった。というよりも、シーズン2以降は、Netflixが主体となって制作しているらしい。
Netflixの契約者は2020年末時点で2億370万人だそうだ。日本でも2020年8月末時点での有料会員数が前年比200万人増の500万人を突破したという。
この500万人というのはまだまだ少ないと感じる。
Netflixでしか見られない作品は多数あり、しかも『The Sinner』のような一級品も多い。
作品の質の高さもさることながら、技術の先進性や安定度にも感嘆させられる。
わざと本番障害を起こしてすぐ復旧させることを繰り返して実際の障害発生に備える、という「カオスエンジニアリング」を実践したり、低いビットレートでも高画質で見られる技術を追求したりと、純粋な技術面でのレベルの高さはいうまでもなく、ソフト的な技術追求のレベルも極めて高い。
Netflixが持つ視聴嗜好のプロファイルデータは3億人分に上り、常にどんな作品が好まれるかを分析し、作品の制作指針を立てているという。万人にうけるものはえてして俗悪なものになりがちなので一概に誉められたことではないが、未だに前世紀の遺物である「視聴率」に頼っている日本のテレビ業界が太刀打ちできるはずもない。
Netflixの昨年度の年間収益250億ドル(前年比24%増)。営業利益は76%増の46億ドルだそうだ。
利益率約18%というのはネット事業としては少ないほうだという。2019年度は年間収益201億5,600万ドルに対して利益は26億ドルで、利益率は12.9%とさらに低かった。
これは、同社が利益の大半を作品制作費に投入しているからだという。
オリジナル作品制作費は2018年度が120億ドル(1兆3,200億円)、2019年度は153億ドル(1兆6,830億円)で、これは日本の民放キー局1社あたりの番組制作費(多くて年間1000億円程度)の10倍以上だ。日本国内5社の制作費を合計しても5000億円には届かないから、その3倍以上。
これだけ金のかかったオリジナル作品を、定額の契約料(画質と同時視聴人数によって、月額税込990円~1980円)だけで見放題になるのだから、日本でも契約者数がWOWOWやスカパー!を抜いたのは当然だろう。
ちなみにWOWOWの2020年度末の契約者総数は約279万件、スカパー!の契約者数は約310万件である。
WOWOWは1984年「日本衛星放送」として、スカパー!は1985年に日本通信衛星(JCSAT)として出発して、どちらも35年以上の歴史がある。それが日本進出して6年に満たない(2015年9月から日本でのサービス開始)Netflixに大敗している。
契約者数の推移を見ると、WOWOWは2018年12月時点で290万人を超えていたのが2020年12月には278万人と、2年で12万人ほど減らし、スカパー!は2018年に325万人だったのが2020年には310万人と、2年で15万人減らしている。
ステイホームだの巣ごもりだのといわれて「おうち時間」が増えたはずの2020年度に契約者が離れていったというのはどういうことか。おうち時間が増えてじっくりテレビを見るようになった契約者が「なんだ、NetflixがあればWOWOWやスカパー!はいらないし高すぎるじゃん」と気づいたからだろう。
我が家ではWOWOWもスカパー!(110度CSの基本契約パック)も契約していたが、Netflix加入後、即、スカパー!は解約した。
スーパードラマチャンネルで見ていたドラマはほぼすべてNetflixでいつでも見られるし、ニュース番組もネットで24時間生配信している。残るはMusic Airでやっているアメリカのスタジオセッションや日本の無名ジャズバンド、アーティストたちの演奏録画あたりだが、それも滅多に「当たり」に巡り会うことはないので……。
スカパー!はもう「オワコン」だろう。スカパー!は2012年度には383万人の契約者がいたが、それから8年で72万人が契約解除している。
慣れというものは怖ろしいもので、今まで月額4389円を垂れ流していたのだなあ。
WOWOWはまだ解約まではしていない。WOWOWでしか見られないものの代表がテニスの4大大会生中継だが、これだけのために月額2530円はちょっと……と考えてしまう。
ついでにいえば、NHKは現在受信契約料金が月額2170円(クレジット・口座引き落とし払い)だが、地上波だけだと1225円である。せめてこれの逆バージョン、つまりBSだけの契約コースというのを設定してほしいものだ。地上波NHK、特に地上波のNHK総合は月額1000円以上の金を払ってまで見なければならないようなコンテンツがないからだ。
まあ、それは個々人の価値観や経済事情に関わることなので、ここでは深入りしないでおこう。
ただ、ひとつ言えるのは、
ドラマや映画、舞台、コンサートの映像など、リアルタイムで見る必要のない娯楽ものを「放送」で視聴する時代は終わった ……ということだろう。
時間に縛られる上に、だらだらと広告を見せられる。それだけでも地上波放送は弱点だらけであり、番組の提供形態としてはネットのオンデマンド配信に勝てない。
Netflixは他のネット配信サービスに比べて、ユーザーインターフェースが優れていることにも感心させられる。サクッと間髪を入れずつながるし、途中で止めても、次に見るときはなんの前触れもなくそこから続きを視聴できる。
テレビのリモコンでほぼすべての操作がサクサクできる。
モバイル端末には作品を丸ごとダウンロードすることもできる。
これだけできて、月額1490円(税込/スタンダードコース)。
このスタンダードコースというのは1080pの解像度で再生でき、同時に2画面で再生できる。アカウントを共有すれば、離れた場所に住んでいる家族などが、同じ時間、違う場所で、別々に視聴できる。家の居間で夫婦がNetflixのドラマを視聴中、子供は下宿先の部屋でNetflixの別の映画を見る、などということが同一アカウントで可能なのだ。このシステムは、受像器1台ごとに契約しなければならないWOWOWなどとは大違いだ。
ダウンロードもできるNetflixは、電車内で、通信料金ゼロでドラマや映画を観ることもできる。
番組の質と数だけでなく、システムの上からも、WOWOWやスカパー!がNetflixに勝てる可能性はない。
このままでは日本全体が完全に「オワコン」になる
アメリカは今混乱のただ中で、ひどい面ばかりが目につく。しかし、GAFAにしろNetflixにしろ、腐ってもアメリカだなあ、とつくづく思う。
アメリカも日本も格差社会であり、その格差がどんどん広がっているが、アメリカはあらゆる面で「できる人たち」が活躍できる仕組みが生きている。
日本の格差社会は、金持ちがルールを逸脱してどんどん資産を増やし、庶民の生活が圧迫され、その結果、教育や文化が廃れていくという格差であって、本当に救いがない。
もう手遅れかもしれないが、完全に社会が崩壊する前に、なんとか教育をはじめとする社会制度を根本から改革していき、個人の才能や努力がしっかり花開き、他者の幸福に寄与するような社会に変えていかないといけない。
Netflixの社員の半数はエンジニアだという。技術者といってもいろいろで、システム開発だけでなく、ソフトウェアの解析や、より高いレベルの作品を生み出すための環境作り、発想やデザインを提供するという「技術者」も含まれる。日本の企業のように、上司からハンコもらうために書類の山と格闘したり、実りのない会議のために満員電車で出社したりする社員はいないのだろう。そういう部分をまずは変えていかないと、どうにもならない。
私のようなジジババ世代はもう人生の残り時間がないので、なんとか今をやり過ごしながらうまく死んでいくことを考え、なけなしの金で工夫しながら生活を続けている。
でも、若い人たちは、このままの日本では本当に悲惨な将来しか待っていない。
ネトフリあればテレビなんかいらね~、と喜んでいるだけではダメなのだ。若い人たちが、ただ与えられ、消費させられるだけのゾーンに組み込まれてしまったら、社会は進化しないし、文化は廃退する。どんな分野でもいいから、自分たちが主役になる人生を勝ち取ってほしい。
こんなご時世ですが、残りの人生、やれる限り何か意味のあることを残したいと思って執筆・創作活動を続けています。応援していただければこの上ない喜びです。