読書感想 : 押見修造「血の轍」

「血の轍」の最終話を読んで「老人と海」を思い出した。結果だけ見ればたわい無いかも知れないが、過程を知っているから重みがある。夢野久作「線路」にも通じるものを感じる。結局本人しか知り得ないことがある。思想、思考、苦悩、信念、尊厳、価値観、美意識、生き方、評価されない努力。

押見修造さんの作品や純文学などを読むと、それらを肯定してもらえるような、共感してもらえているような、そんな気分になれる。

しかし、読むだけではなく、その内側に秘めたものを書きたくなった自分がいるのも事実だ。書かなければ、一個人としては分かってもらえない、一緒くたにされてしまう。「線路」でいうところの、昂然たる意気組もプライドもない、平凡で下らない無意義な死姿になってしまう。または、されてしまう。そこに悔しさが湧いてくる。

人間は死期が近づくにつれて、どんなに俗な野暮天でも、奇妙に、詩というものに心をひかれて来るものらしい。辞世の歌とか俳句とかいうものを、高利貸でも大臣でも、とかくよみたがるようではないか。

太宰治「犯人」

そのための技術を身につけておきたいものだ。

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