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古民家と縁側

 旅館の部屋には障子で仕切られた板の間スペースがある。たいていは椅子とテーブルがあって、くつろげるようになっている。以前、私はこのスペースの名前を知らなかった。というか名前があることさえ知らなかったけど、あれは「広縁(ひろえん)」といい、縁側の一種なのだそう(幅120cm以上のある縁側のことを指す)。

 で、この旅館の広縁は何をするところかといえば、「ぼ〜っとする」ところでしょう! あそこで何かに一生懸命になっている人は、果たしてこの日本にいるのだろうか? と思うくらい人ぼ〜っとさせる威力がある。旅館には欠かせない。

 旅館の広縁だけでなく民家の縁側もまた、庭が見えるくつろぎのスペースだ。古民家と聞くと、縁側を思い浮かべる人も多いと思うし、古民家好きな人はたいてい縁側に憧れがあると思う。

 我が家にも縁側があり、真冬以外は、コーヒーを飲んだり読書したり昼寝したり、ときにはと七輪を持ち込んで床に座りながら焼肉パーティーをしたり、欠かせないくつろぎスペースとなっている。

 縁側は、意外と機能的でもある。ちょっとだけ専門的っぽい話をする。

 縁側とは、建物の縁部分に張り出してつくられた板敷きの通路のことをいう。

 屋外と母屋に面する位置にあり、母屋とは障子や襖などで仕切られていて、屋外との間にはガラス戸や雨戸など板戸が設けられているのが一般的だ。

 そして、軒(縁側から突き出ている屋根)と共に母屋を雨から守る、夏の強い日差しを遮る、冬場の寒さを緩和させる、といった機能がある。

 確かに我が家の縁側も秋冬でも晴れの日は太陽の光がよく入り、寒い寒いといわれる古民家でも、結構気持ちがいい。秋頃は、朝は縁側の戸をあけた外のほうが暖かかったりするので、ガラス戸も開けて空気の入れ替えをするとなかなか清々しい。

 真冬も寒さを緩和してくれる。縁側があることで、雨戸・ガラス戸・縁側のスペース・障子という層を経て部屋があるからだ。木造で縁側がなければ外気が近くてかなり寒いだろうことが想像がつく。夏の暑さも同様だ。

 ちなみに、古民家は、一般の住宅に比べて軒が大きく、これは太陽の位置が高い夏は暑さを遮り、太陽の位置が低い冬には太陽光を取り入れやすくなっているためだそう。

 縁側はまた、庭(や外)と母屋とをつなぐ役割がある。ウチの中と外、その中間の空間、“外を感じるウチ”という存在。まあ簡単にいうと庭や外の景色を眺めたり小鳥のさえずりに耳を傾けたりする場所。

 なので旅館の広縁で、外の景色を眺めながらぼ〜っとしてしまう、というのは正しい使い方!

 調べてみると、外や自然と住居が一体化しているのは日本の伝統建築において重要なポイントらしく、縁側はそういう意味では日本の和風建築に欠かせないものといえる。敷居を挟んでいきなり外! というのでなく、部屋→外に近い空間、をおいて→外というのは、曖昧さを好む日本人らしくておもしろい。

 古民家に住んで「外界や自然との距離が近い」と感じたのも、「木造だから」とか「古いから」という理由だけではなく、四季があり豊かな自然を感じられるようなつくりになっているのだろう。それを最も実感させてくれるのが縁側。

 ちなみに、我が家では、縁側でくつろぐだけでなく、野菜の下ごしらえや天日干しをしたり、天気が悪い日は洗濯物を干したり、吊るすことができない座布団を干したり、生活する場としてもかなり活用しており、一度その便利さを知ると、なくなったらどうやって生活すればいいのだ? と思うほど、なくてはならない存在。
 縁側は日本建築においての優れた発明品だと思う。

※ちなみにカバー写真は閉業してしまった平賀敬美術館の縁側です

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