PHEICが終わっても忘れちゃいけない中東呼吸器症候群(MERS)
先日WHOがMERSのオンラインセミナーをやっていたので参加してみました。
EPI-WIN webinar: MERS-CoV, a circulating coronavirus with epidemic and pandemic potential - Pandemic preparedness, prevention and response with a One Health approach
2012年半ばにサウジアラビアで発見された中東呼吸器症候群(MERS)は、MERS-CoV (MERSコロナウイルス)によって引き起こされ、現時点でのヒトの症例致死率は36%です。ヒトコブラクダがリザーバーホストであり、そこからウイルスが散発的にヒトに流出する。基本は動物からヒトですが、ヒトからヒトへの感染経路は、医療現場や狭い範囲の地域でもみられています。
2012年半ばに報告されてから、MERS-CoVは中東、北アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ合衆国、アジアの27カ国から報告されており、これまでに2604例の検査確定患者と936例の関連死が報告されています。
日本ではまだMERSの患者さんは報告されていませんが、日本に関連しそうなことといえば、2015年の韓国でのアウトブレイクです。
2015年の韓国の事例では186人感染36人死亡しました。韓国はMERS対応のために政府の修正予算が8億ドル以上追加が必要となり、医療費は約1200万ドル、アウトブレイクの間は観光業が停滞し、経済的損失は2〜3ヶ月間で26億ドルとも言われていて、アウトブレイクは医療・公衆衛生以外にも様々な経済的損失の原因となりました。
韓国はMERS対応ののち、公衆衛生のキャパシティを高めて、COVID-19でも公衆衛生対策に貢献することができました。
MERS-CoVは、WHOの「流行する可能性のある病原体リスト」に掲載されており、緊急事態における研究開発の優先順位が付けられています。
流行する可能性のある病原体リスト
COVID-19
クリミア・コンゴ出血熱
エボラウイルス病とマールブルク熱
ラッサ熱
中東呼吸器症候群(MERS)・ Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS)
ニパウイルス感染症・へニパウイルス感染症(ヘンドラウイルスなど)
Rift Valley fリフトバレー熱
Zikaジカ熱
未知の感染症”Disease X”
MERS-CoVは中東だけのリスクではなく、リスクは中東以外にも広がっている。ウイルスを持った人が24時間から48時間以内に地球の反対側にウイルスを持ち込む可能性もあるため、人々の行き来が元通りつつになるので、MERS-CoVも含めて感染症には常に注視していかないといけないですね。
これまでのMERSへの対応がCOVID-19の対応に良い影響を与えたようで、また今回のCOVID-19への知見や取り組み(ワクチン、薬、公衆衛生対応、ゲノム解析など)がMERSへのさらなる準備に役立つ可能性があるようです。
References
EPI-WIN webinar: MERS-CoV, a circulating coronavirus with epidemic and pandemic potential - Pandemic preparedness, prevention and response with a One Health approach
Economic impact of the 2015 MERS outbreak on the Republic of Korea’s tourism-related industries
Prioritizing diseases for research and development in emergency contexts, World Health Organization
image: pixabay