[考察]我々はスギヒラタケをどう捉えるべきか
スギヒラタケ…
それは食用キノコとして親しまれていたキノコが事件をきっかけに猛毒扱いへと転落した珍しいケースのキノコです。
つい数日前、Twitterにこのようなツイートをしました。
[https://twitter.com/tanuki04544671/status/1283029786206535684?s=21]
今回はこのスギヒラタケというキノコについて考察していきます。
1.スギヒラタケとは 〜スギヒラタケを知ろう〜
まずスギヒラタケを知らない方のために、スギヒラタケがどんなキノコなのか説明します。
分類に興味がない方は2.人々との関わり〜歴史をご覧下さい。
スギヒラタケ
**
Pleurocybella porrigens**
所属科不明(キシメジ科?ホウライタケ科?)
スギヒラタケ属
(ヒラタケ型で材上生。多くは白色。日本産は一種のみ)
キノコとしての特徴
晩夏から秋(8〜10月)にかけてスギ、マツなどの針葉樹の倒木や古株に群生する白色の木材腐朽菌である。
傘の径は2〜6cm
扇形〜へら形
肉は薄い
縁部は内側に巻く
表面は白い
ひだも同様に白い
ひだはかなり密度が高く、柄は無い
Q. つまりどういうキノコ?
A.簡単にスギヒラタケを説明すると、夏の終わりから秋にかけて杉をはじめとした針葉樹の古い切り株に群がって生える白いヒラタケ型のキノコ🍄です。
Q. 食べれるの?
A.いい質問ですね。
昔は食べられていました。昔は…
現在は猛毒キノコの扱いを受けています。
手を出さない方がいいでしょう。
詳しくはこれから詳しく説明します。
2.人々との関わり、歴史 〜安心・安全の信頼〜
昔は食用だった
2004年の食中毒事例発見以前の長い間、スギヒラタケは主に北国において食用キノコとして知られ、広く食べられていた過去をもっています。
特に東北地方をはじめとした地域では人気のあったキノコで[スギカノカ]や[スギモダシ]などの愛称で親しまれていました。
缶詰や瓶詰めなどでの販売もされていたほどです。(栽培の有無を除けばほとんどナメコやヒラタケなどのキノコと同じ扱い)
しかも以下の理由により、キノコ狩りのターゲットとしても親しまれていました。
①杉林で簡単に見つかる
②一度にたくさん採れる
③間違いやすい毒キノコ(スギヒラタケを除く)がほぼない
④良い出汁がとれる
人気の高さゆえか人工栽培の試みもあったようです。
缶詰の流通もあったとか。
このようにシイタケやナメコ、マイタケのようなメジャーなキノコに比べれば知名度は劣るものの、一部の地方では貴重な食材として重宝され、親しまれてきたことになります。
そう、あの事件が発生するまでは誰もこのキノコを毒キノコとは疑わず、当たり前に食していました…
3.食中毒事件発生〜裏切られた信頼〜
しかし、以上のように多くの方に親しまれ食されてきたスギヒラタケですが、ある日を境に毒キノコの扱いを受けることになります。
〜2004年〜
この年の秋、スギヒラタケを腎機能障害を持つ人が食べて急性脳症を発症する事例が相次ぎ報告されました。
この時点でスギヒラタケが事件に関与している疑いが強くなりました。
同年中に東北・北陸9県で59人の発症が確認され、うち17人が死亡するなど極めて強い毒の強さが伺えます。
発症の原因は腎臓が原因かと疑われましたが、腎臓病の病歴のない者も発症していることから詳しい原因の解明には至っていません。
毒成分も詳しくはわかっておりません。
しかし、原因物質について、マウスの口腔投与および腹腔内投与でも致死性を示すことがわかっています。
〜発症するとどうなるのか?〜
発症には1週間程度時間を有します。
・下脚の脱力
・発語困難等の運動障害
・意識障害
・痙攣
・原因不明の急性脳症
死因のほとんどはこの原因不明の急性脳症と考えられています。
しかし、詳しいことはわかっていません。
無論、2020年現在も詳細は明らかになっておらず「危ないから食うな」状態です。
以下、農林水産省ホームページより記事の一部を引用させていただきます。
農林水産省や厚生労働省が原因究明のための調査研究を実施してきましたが、スギヒラタケが安全に食べられるきのこかどうかは現時点ではわかっていません。
農林水産省の委託研究では、スギヒラタケに天然に含まれる複数の成分が関係して、急性脳症が起きるのではないかと考えられる成果が得られています。
このようなことから、スギヒラタケはこれらからも引き続き食べないようにお願いします。
この事件は多くの人々に大きな影響を与えました。
いままで食用と信じられてきたキノコがいきなり人を殺した?状態だったのですから当然です。
当時は図鑑の改訂も間に合わないほどの勢いだったため、当時の図鑑には「食用として記載したスギヒラタケは毒キノコと判明したため、食べないように!」と警告した紙が付属されるといった緊急対応が行われたほどです。
4.深まる謎〜なぜ見逃されていた?〜
しかし、なぜ、これほどの猛毒キノコが今まで見逃されていたのでしょうか?
理由ははっきりしません。が、いくつか説はあるのでご紹介します。
説1:突然変異説
この年のものに限り、突然変異を起こして有毒になったとする説。
しかし、この説は成り立たないと考える。
理由は中毒事故が発生したのが一箇所で止まっているわけではなく、全国各地あちこちで相次いだという点が物語る。
つまり、被害者は皆同じ所でスギヒラタケを収穫した訳ではなく、それらの全てが同年内に有毒化及び従来種以上の繁殖力という二つの変異を獲得し、勢力図を塗り替える程急速に繁殖するという点が不自然なのだ。
よってこの説は一理あるが出来すぎた説というのが今のところの見解である。
説2:元から毒キノコだった説
スギヒラタケはもともと毒キノコだったのでは?という説。こちらが一番有力な説となっています。
以下、引用↓
それでは何が起こったのか。これは吹春俊光農学博士の説であるが、「スギヒラタケは元々毒キノコであり、相応に犠牲者も出ていたが、誰もその事実に思い至らなかった」という説が挙げられている。スギヒラタケ中毒は食後1週間も経ってから発生することもある程発生が遅く、また必ず中毒が発生するわけではない(腎機能が低下している人が多く発症している)という特性もあったため。食中毒として関連性があると考えられていなかったとするものである。ところが2003年に感染症法が改正され、急性脳症が全数把握対象疾患に指定されたことで、急性脳症が多く発生していることが明らかになり、そこから調査されることで初めて毒性が明らかになったのではないか、というものである。
つまりは法の改正により、毒キノコであることに疑いを持てなかったために風土病もしくはそれに近い病だと思われていたものがスギヒラタケによる中毒だと判明されるようになったということです。(簡単に言えば)
スギヒラタケの毒成分の注目すべき点は、食べた全員が中毒するわけではないということです。すなわち、特定の疾患を持っている人に、致命的な毒作用があります。
近いようで遠いものにドクササコがあります。こちらも風土病と考えられていたため。
5.スギヒラタケから学ぶべきこと 〜情報はアップデートすべき〜
食用キノコから猛毒キノコに転落したスギヒラタケ。
我々はこのキノコからいくつか学ばなくてはならないことがあります。
①キノコ図鑑は最新のものを購入すべき
キノコ狩りにかかせない必須アイテムこそキノコ図鑑ですよね。
その通りなのですが、このキノコ図鑑には欠点があり、その一つに情報のアップデートが不可というものがあります。
結局のところ、図鑑が作られた年代・時代のデータに依存してしまいます。
ゆえに、古い図鑑では食用と記載されていたキノコが現在では毒キノコであることが判明し、新しい図鑑では上方修正して毒キノコとして記載されるというケースもあるわけです。
逆を言えば現在毒キノコとして扱われているキノコも一昔前は食用キノコとして図鑑に記載されて食べられていた…なんてこともあるわけです。
食用キノコ→毒キノコへと記載及び扱いが変わった代表的なキノコこそがスギヒラタケなのです。(他にもクロハツやガンタケなど例はありますがここでは省略します。)
食毒不明から猛毒キノコへと扱いが変わったキノコもあります。
みなさん大好きカエンタケ。
こちらのキノコは20年以上前、存在自体が珍しく図鑑に記載されるかされないか、されてもほとんど記載がないといった具合に扱われていました。
しかし、1999年にカエンタケによる初の死者が発生したことにより、猛毒菌であることが判明。
この事故に加え、近年すすむナラ枯れによる発生数の増加に伴い、近年の図鑑には必須と言っても過言でないほど記載され、危険なキノコとして扱われるようになりました。
このように長らく“食毒不明”扱いだったのが突然、中毒者が出たことで毒キノコと判明した例は少なくない。
キノコのほとんどは食毒がわかっておらず、危険なものも数多くあります。
したがって、キノコ図鑑は最新のものを用いるべきなのです。(無論、勉強のために過去の図鑑を用いることは良いことです。)
②言い伝えや高齢者の話を鵜呑みにするな
はじめに誤解を招かぬよう言っておきますが、高齢者=悪としたいわけではありません。
しかし、現実として知って欲しいのは毒キノコとされているのにもかかわらずスギヒラタケを食べる方々がいるということ。そして、その多くが地方の高齢者であるということなのです。
私の家族も今でこそ食べませんが、事故発生後も問題ないと食べていました。さらには食べないか?とすすめられたこともあります。(私はそもそもキノコ食べるの嫌いなので食べませんでしたが)
むしろ、キノコ図鑑を用いて「毒だから食べないで!」と子供ながら家族に死んで欲しくない一心で力説し、現在では食べないようにしました。
ただそれは我が家族に限った話。いまだに周りでは当たり前に売られており、食べられています。
毒と知っていようが知っていまいが、今まで問題なく美味しく食べていたキノコをいきなり「食うな」と言われてもしっくり来ないのでしょう。
私はそういった方を止めるつもりはありませんが、これからの時代を生きる若者には警告しますし、今まで食べれたからという理由ですすめてくる人にも注意します。
とにかく、高齢者が採ってきたキノコ=安全という幻想はいだくなということだけ言わせてください。
6.我々はスギヒラタケをどう捉えるべきか〜今後のスギヒラタケとの付き合い方〜
スギヒラタケというキノコは我々人間の想像を大きく打ち壊したキノコということになります。
ゆえに多くのことを教わり、学ぶこととなりました。
では、これから我々はスギヒラタケをどう捉え、どのように関わっていくべきなのでしょうか?
その答えの最終決定権は各自各々が持っています。
要するに「食うも食わぬも自分で決めろ」ということです。
キノコの世界はあくまで自己責任。無理やり食わされたなどのような特殊な状況を除けば食うも食わぬも自分の意思次第、つまりは食ってどうなろうが自己責任なのです。厳しいことをいうかもしれませんが、これが現実です。
中には「俺は腎臓悪くないから大丈夫!」という方もいらっしゃるようです。そういう方は好きになさった方が良いと思います。自分の人生、好きに生きた方がいいですから。
しかし、これから初めて食べる!という方に関しては警告します。絶対にやめて下さい。食べるべからずです。
死んでからではおそいのです。詳しいことがわかっていない以上食べるべきではありません。
同時に、今問題なく食べられているから他の人にも食べさせようと考えている方がいるのなら、こちらも同様控えてください。その優しさが人を殺すかもしれません。
7.まとめ
最後にまとめます。スギヒラタケと関わる際は、
①食べない②採らない③人にあげない、もらわない
これらを守りましょう。とにかく口に入れないことです。もし、誰かがスギヒラタケを食べるように勧めてきたら勇気を振り絞って断りましょう。最悪このnoteを見て納得してもらってもかまいません(^_^)
そしてテーマにしていたどう捉えるべきか、ですが基本的には猛毒キノコと認識し、食べないようにするべきです。
しかし、中には今まで食べて異常がなかった人というのがいる事実。かつ、死者もでているという事実。
これらを踏まえて、各々がどう接していくかを自己責任の上で判断して、行動すべきです。
8.おわりに
今回の記事を作成するにあたり、沢山の資料を読みあさり、情報の最新化に努めました。このスギヒラタケに関して、私自身勉強になることだらけでした。
スギヒラタケというキノコは実は田舎に行けば行くほど身近な、しかも地域の味として今なお根強い人気のある毒キノコです。
まずはこのキノコに関する正しい知識を沢山の人に持ってもらうことを目的につくりました。そして、このスギヒラタケによる食中毒を少しでもなくして死者を0にするのが目標です。
毒キノコは怖い!のは当然ですが、「なぜ怖いのか」「どうして間違うのか、食べてしまうのか」まで考えられるようになり、かつ互いに情報をシェアできるようになればキノコによる食中毒の事故は防げるようになるはずです。
テーマにある通り、スギヒラタケをどう捉えるべきかは実は個々が自分の意思と相談して決めるべきことであります。(本当は食べるべきではないのですが、一概には言えないとても珍しいケースゆえ)
とにかく、この記事がスギヒラタケに関して考えるもしくは知るきっかけになったのであれば幸いです。
もし、「自分はスギヒラタケをこう捉える!」というご意見があるのであれば参考にしたいのでコメント頂けるとありがたいですし、多くの皆さんのためにもなると思います。
また、「面白かった!」や「ここが違う!」などのご意見・ご感想などがあればお気軽にコメントしてください。お待ちしております。
ここまで閲覧いただきありがとうございます😊
私の記事を見ることでキノコに関する知識を少しずつでもつけていってもらえたら嬉しいですし、興味を持ってもらえたらそれ以上のことはありません。
私はnoteやYouTubeにてキノコ関連の記事や動画を投稿しております。是非そちらも覗いてみてください。
それではまた、他の記事でお会いしましょう😄
おわり
参考文献等↓
参考1:農林水産省 スギヒラタケは食べないで!
参考2:キノコの学校 第一講「食用キノコから猛毒キノコに転落!? スギヒラタケ中毒の謎を追う」
参考3:魔理沙と学ぶ珍キノコ講座11(ニコニコ動画より ガガンボ様)
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