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長期投資の視点で診るトヨタ

先日、トヨタが決算説明会を行いました。
業績が良かったとの話を耳にしたため、調べてみようと思います。

1.貸借対照表からの視点

トヨタは世界的に有名な自動車会社です。
資産として、工場や製造するための機械、土地などを含めた非流動資産が64%と大きな割合を占めています。昨年も1兆3500億円規模の大型投資を行っています。

私が気になった点は、流動資産における棚卸資産の少なさです。

棚卸資産とは主に、完成しているが販売していない車や、作っている途中の車などを指します。この額が2,700,000百万円なので、一台当たりの価格の平均が3百万円とすると、在庫として90万台しか保有していないことがわかります。トヨタが一年間に販売する車の目安は870万台とされているので、
約1/10の台数が在庫としてあることがわかります。この辺りから、トヨタのジャストインタイム生産方式や受注生産の強みが伺えると感じました。

貸方項目を見ると、後ほど 3.キャッシュフロー計算書からの視点 
で触れますが、短期で3兆円、長期で2兆円程の借り入れを行っています。
これにより、その他の項目は例年と大きな違いはないですが、貸借対照表が大きく膨れたことが読み取れます。

2.損益計算書からの視点

売上高が27兆2145億円、純利益が2兆2452億円。売上高は前期と比べて8.9%減少した一方で、純利益は10.3%増加しました。
コロナ禍で販売体制の見直しが功を奏し、管理費を削減できたこと、
保有している金融商品や為替の変動などの影響が大きく、営業外収益が伸びたことが利益増加を後押したと考えられます。

注目すべきポイントは非支配株主持分の割合が減少している点です。

2020年度3月決算では、5000億円自社株買いを行いました。
また、2021年5月12日に1株を5株に分割する、株式分割を行うことを発表すると同時に2500億円の自社株買いを行う見通しも伝えました。
株式分割の要点は、①株の流動性が高まる、②一株当たりの価格が下がる。この二点により、これまで一株当たりの価格が高く、なかなか手を出せなかった投資家にとって、「トヨタ株に投資するか否か」の選択肢が生じます。
もしかすると、トヨタは近年話題になっている、NISA口座を開設した層をも株主として取り込みたい考えなのかもしれませんね。

3.キャッシュフロー(以降CF)計算書からの視点

財務CFを見ると今期、トヨタは多額の短期有利子負債(一年内返済)を返済する一方で、それを上回る長期有利子負債(=返済期限が一年以上の借金)を借り入れています。これは、融資する側が、トヨタは収益性が高く、成長が見込めるため、返済する可能性が高いと判断している証拠だと考えられます。
概算ですが、トヨタのインタレスト・カバレッジ・レシオ(=借入金の利息を返済する能力を表す数値)は8倍と、一般的に返済に問題ないとされる数値だと考えられます。

投資CFの面では、静岡県にスマートシティの建設や、アメリカに新工場の設立など、有形固定資産への投資を積極的に発表しています。長期的な視点を持った投資を行っていると、投資家に好意的に受け止められています。

4.自動運転による未来予測

近年、自動運転技術が話題に上がることが多くなっています。
既に自動でブレーキを踏む、前を走っている車に追走する、といった一部のシステムが導入されており、期待が高まるばかりです。

ドライバーの手を介さずに目的地へと運んでくれる完全自動運転システムの搭載された車が2025年完成目標とされています。
運転免許を取得した。という方も多いと思いますが、必要なくなる将来も近いのかもしれません。

この影響を最も受けるのが、運送業界に従事している人です。
例えば、タクシーやトラックの運転手が挙げられます。
会社からすれば、運転手を雇用せずに乗客を目的地に運べるのであれば、その分人件費を削減できます。
コストが下がることで、私たち利用者もより安い価格でタクシーや宅急便を活用できることが想定されます。

また、個人が車を保有する必要がなくなるといった議論も出てきています。

例を立てて考えてみましょう。
車両(購入価格300万円、5年間使用予定)、保険や駐車場代などの維持費が年間40万円の場合、年間100万円の出費となります。
月に換算すると83,000円です。意外とばかにならない額です。

現在のタクシー利用料の平均は4,000円なので、車を保有するよりタクシーを20回利用する方がお得だといえます。

マイカーの場合、7時に職場に移動した後、仕事が終わる5時まで車は駐車場に放置されたままです。

そこで、配送会社であるUberが目指しているサービスでは、自動運転の車が、7時に予約したお客様を運んだ後、7時半に予約したお客様を配送し、次は8時のお客様を…といったサービスです。この場合、一台でより多くの人の移動を助けています

基本的に車が移動し続けるため、駐車場だった土地を他に有効活用できるようになります。また、社会にとって最適な車の分配を行うため、余計な車の生産が必要なくなります。これはトヨタの売上減少、事業規模の縮小に繋がる可能性がある大事な論点だといえます。

5.EV市場への取り組み

環境問題への懸念から、カーボンニュートラル(脱炭素化)な社会を目標として、世界的にEV化の流れが進んでいます。
米国:2030年までに新車販売台数の半分以上はEV車にすると表明。
EU:2035年までにガソリン車の新車販売禁止を表明。

では、日本はどうなのか。
同様に、2035年までにガソリン車の新車販売禁止を表明しています。
トヨタの会長は「EV化に全力で取り組むが、それには原子力発電で10基、火力発電で20基程の追加的発電が必要」と発表しました。環境配慮の目的からすると、火力発電所を増やし、その電気でEVを走らせることことは本末転倒だと考えられます。そのため、原子力発電所や再生可能エネルギー(水力・太陽光・風力・バイオマス等)での発電が求められます。

東日本大震災の影響もあってか、現在、原子力発電所はほとんど稼働しておらず、日本の電力供給の約80%が火力発電によるものです。
かつて、日本と発電所の構成割合が似ていると言われたドイツですが、既に火力発電は41%。さらに、再生可能エネルギーが46%と最も比重を占めています。このままだと、世界的な環境保全の波に日本だけが乗れないことがわかります。

ガソリン車の新車が販売できなくなるため、強引にEV化を進める際に、課題が2つ挙げられます。

①設備不足と充電速度の懸念
日本ではEVを充電する電気スタンドの数が圧倒的に不足しています。家庭での充電が可能ですが、遠出する場合、近くの電気スタンドを探すのに苦労するでしょう。充電インフラの整備には30兆円近くかかるという試算がでています。
加えて、ガソリンスタンドとは異なり、急速充電に30分程かかってしまいます。そのため、多くの車を充電しようとすると、広大な土地が必要です。

②雇用の減少
現在、自動車関連就業人口は550万人程です。働いている人の家族も含めると日本の人口の1/10程の生活に関わっていると考えられます。ガソリン車の製造に必要な部品点数が3万点ですが、EVでは2万点で済むと言われています。そのため、多くの製造業者が仕事を失います。この人達の仕事・雇用をどのように守っていくか、考えなければなりません。

6.まとめ

今回はトヨタの分析・予想を行いました。
日本が世界に誇る一流企業で、資本力・影響力ともに大きいことを改めて認識した一方、世界的な潮流によって、産業を牽引する存在としての立場が揺らいでいることも感じました。

結論

企業規模や収益性の面でトヨタの債権が数年で貸し倒れることはなさそう。エネルギーの大転換や、電池の革命などがない限り、会社として著しい成長は想像がつかず貸借対照表が縮小していくと考えられる。
※あくまで個人の考えです。投資を推奨するものではありません。

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