Polarization(両極端)型トレーニングの紹介 陸上競技マガジン11月号 吉岡利貢環太平洋大学コーチの長距離講座の記事を深めてみた。


1Polarization(両極端)型トレーニングの紹介 豪州スチュアート・マクスウェン(Stewart McSweyn)のトレーニングをもとに

陸上競技マガジン今月(2021年11月)号で吉岡利貢環太平洋大学コーチから最新のトレーニング理論として、Polarization(両極端)型トレーニングが紹介されていました。

こちらの論文の紹介だったのですが、一言で言うと世界トップ選手の最新のトレーニングは、従前のピラミッド型ではなく、大半のEASY RUNとその真反対のかなり負荷の強い、二極化したトレーニングを行っているということです。

https://journals.humankinetics.com/view/journals/ijspp/aop/article-10.1123-ijspp.2021-0114/article-10.1123-ijspp.2021-0114.xml

(全文を読まれたい方は上手くググってください。私は読めました。)
この論文はオーストラリアのスチュアート・マクスウェン(Stewart McSweyn)のトレーニングをまとめたものなのですが、典型的な練習例、AWや色々なところに出てきますが、


Typical week
月 ①午前easy run from the house, 14km approx;②午後 7km easy.
火:③午前group training with the squad – longer endurance reps totalling around 8km of volume eg, 8 x 1km; ④午後7km easy run.
水 ⑤午前 14km, ジム (コアトレとウェイト) 45分; ⑥午後7km easy.
木 ⑦午前 threshold run, eg, 9km threshold at maybe 75-80% HR; ⑧午後easy 7km.
金 ⑨午前 14km easy その後45-60分のジム.
土 ⑩午前 1hill reps: “we’ll do either a 7km hilly continuous course where we’ll go 70% between the hills then 90-95% up the hills (I think the hills range from 35 to 90 seconds long), or we’ll just do hill reps. We’ll do about 12 hills in that 7km so it’s a pretty brutal session, especially if you’re tired towards the end of the week”; ⑪午後 7km easy.
Sunday: ⑫long run (1時間30分 – 1時間45分).
McSweyn’s weekly mileage averages around 160km/100miles a

吉岡コーチもこのメニューをもとに「練習の大半はジョグで、ペース走は閾値上限、あとインターバルとかやってるね」みたいな紹介をされています。

ちなみに、このメニューだと練習12回中EASY9回、閾値1回、ヒル1回、インターバル1回になります。

さて、先ほどの論文を見ていくと
 Z1(LT1以下)  85%
 Z2’(LT1~LT2)10~7%
 Z3(LT2超) 5~7%

でやっていたよというまとめになるようです。

しかし、トップ選手のメニューを参考にするとき、一番重要なことはその「選手のベストタイム」と「練習設定タイム」です。

色々ググったのですが、マスクウェインの具体的練習距離とタイムは出てきませんでした。マスクウェインのEASY RUNがLT1に限りなく近く速いのか、それとも所謂Eペースでも下限の方なのかそれよりも遅いかで両極端の下が全く変わり、また閾値走もTペースなのかMペースなのかで負荷が全く変わるためこれだけの情報では全く参考になりません。。

SWEAT ELITEでエリウド・キプチョゲなどもトップ選手のメニューを見ていくと、EASY RUNは、下手するとEペース下限より遅い可能性が高いことは想像がつきます。ではペース走はTペースなのはMペースなのかそういったことを一つずつ詰めていかないと、どこかの外人さん(ランニングタフの作者)のようにザトペックの400×100本を72秒でやってみたら
・本当に凄い。物凄く速い。私より速い。
後日真似をしたはずのレジェンドにお褒め頂きながら当の本人は故障で何の成果も得られなかったということになりかねません。

2 マシュー・セントロヴィッツ(リオ五輪1500m金)のトレーニング


SWEAT ELTEを見返したらリオ五輪1500m金のマシュー・セントロヴィッツのトレーニング例がでていました。

世界のファイナリストよりもゴールドメダリストの練習メニューの方がありがたいのでセントロヴィッツのメニューを見ていきましょう。

Matthew Centrowitz Jr.(VDOD82,E3:17-44,M2:58,T2:51,CR2:43,I2:38,R56)
800 m: 1:44.62 (New York 2015)
1500 m: 3:30.40[1] (Monaco 2015)
5000 m: 13:00.39[1] (Beaverton 2019)

<練習メニュー例>
Monday
①7 miles’11.2km (42-45mins’6:00~6:26/mi≒3:45~4:00/km)
②5 miles ’8km(30-33mins’6:00~6:36/mi≒3:45~4:08/km))
Tuesday
③4-6 x 1 Mile (4.25>4.10≒2:46~2:36) or 6mile Tempo (29min’4:50/mi≒3:00/km)
④4 miles’6.4km (25-26min) + Gym (Core, Weights)
Wednesday
⑤9 miles’14.4km (54-57min)、⑥5 miles ’8km (30-33min) + Massage
Thursday
⑦7 miles’11.2km (42-45mins)、⑧5 miles ’8km (30-33mins)
Friday
⑨Rotating: 200m hill reps or 600/800/1000m repeats @ 1500m pace
⑩4 miles’6.4km (25-26min) + Gym (Core, Weights)
Saturday
⑪7 miles’11.2km (42-45mins)、⑫5 miles’8km (30-33mins) + Massage
Sunday
⑬15 miles’24km (83-86mins’5:32~5:44/mi ≒3:27~3:35/km)
Rest
<Specific>
3x 1 mile in 4:05, 4:01, 3:57 (easy 1km jog recovery)
6x400m in 51sec average (500m easy jog recovery) – this was completed the week before Rio 2016.
10x400m in 55-56sec average (400m easy jog recovery)
15x200m in 25-26sec average (2min/200m jog recovery)
1000m (2:21), 800m (1:52), 600m (1:19), 400m (51) with easy lap jog recovery.
出典:SWEAT ELITE


シーズンが深まるとより専門的(Specific)なトレーニングが行われるとのことです。③、⑨、⑬のポイントあるいはEASYのいずれか1回が入れ替わるのでしょうか。

さて、Polarization(両極端)型トレーニングの観点からセントロヴィッツのメニューを見ていくとああらびっくりマスクウェインの練習メニューの傾向と同じような感じになりました。


練習回数13回
Z1-1(Eペース下限以下) 10回
Z1-2(Eペース上限(LT1)以下) 1回 ⑬24キロ走3:27~3:35/km
Z2(LT1<≒LT2) 1回 ③
9.6kMペース走3:00/km
Z3(LT2超) 1回 ⑨200m hill reps or 600/800/1000m repeats @ 1500m pace

 
セントロヴィッツのジョグは6.4~14.4kmで、6:00~6:36/mi≒3:45~4:08/kmですので、Eペース下限3:44以下のスピードで走っていることがわかります。5000m15分~15分半の選手のジョグが4分~4分10秒(3:47~4:24)で走っていることが多いですから、セントロヴィッツのジョグはかなり遅めであることがわかります。キプチョゲもEASYの日はキロ4分超えたりするそうですから世界トップ選手のジョグはかなり体感的に遅いペースで走っていることがわかります。

これを例えばサブスリークラスVDOD54だと3:44~5:15ですから5:15~40でジョグっていることになります。私だとよほど調子が悪くないとジョグで5分20秒を超えることがないのでかなりゆとりあるペースでジョグってると改めて感じます。ただ、セントロヴィッツは元々が速いので、3分45秒~4分でジョグっても身体や心肺への刺激・負担は私が5分15秒~30秒で走るよりは遥かにかかっているのかもしれません。今後の科学的研究の成果を待ちましょう。

注目すべきは3回ポイントのうち1回の閾値走です。セントロヴィッツは10キロ弱をキロ3分で走ってますがほぼMペース以下で走っています。
オリンピック金メダリストのセントロヴィッツもペース走はMペースでした。このメニューはオレゴンプロジェクト時代なので練習拠点はオレゴンでしょうか。そうなると平地になります。
さて、皆さん、これでもペース走をTペースにこだわりますか?

3 ルーク・マシューズ(豪州、2018英連邦大会800m銅)のトレーニング

次はオーストラリアのルーク・マシューズを見ていきましょう。800mと1500mのPBは日本記録より少し速いくらいですが2018年の英連邦大会800mで銅メダルに輝いています。失礼を承知で言わせてもらえば、私は日本選手がこのレース(予選などを戦った上)で3位に入るイメージが全くわきません。タイム以上に強い選手といえます。

マシューズはストラバでメニューを公開しています。


Luke Mathews(VDOD80(,E3:21-49,M3:01, T2:54,,CR2:45,I2:41,R58)
800 m: 1:45.16 min (2016)1500 m: 3:35.57 min (2017)

2018年2月、3月のシーズン初戦1分45秒で走るまでのトレーニングです。
2/18月
①AM: 1hr8min. 16km. Average Pace: 4:17/km
②PM: Sprints/Drills + 15mins Jog
2/19火
③AM: Track Session. 4 sets of 1km, 600, 400. Recoveries: 60 seconds between reps, lap jog between sets. (1) 2:51, 1:38, 59 (2) 2:51, 1:38, 60 (3) 2:52, 1:37, 59 (4) 2:48, 1:35, 56.(Total: 17.24km including warm up/cool down)
④PM: 30mins. 6.82km. Average Pace: 4:22/km
2/20水⑤AM: 1hr8min. 16km. Average Pace: 4:18/km.
2/21木
⑥AM: Threshold: 2 laps of Albert Park. 29min36sec. 9.44km. Average Pace: 3:08/km (Total 17.5km including warm up/cool down.
⑦PM: 30mins. 7km. Average Pace: 4:11/km
2/22金
⑧AM: 59min21sec. 14km. Average Pace: 4:14/km.
2/23土
⑨AM: 30mins. 6.73km. Average Pace: 4:27/km.
⑩PM: Track Session: 3×500, 3×400, 3×300. All with 3 mins recovery. 73.7, 72.2, 71.4, 56.6, 54.5, 54.6, 39.1, 38.9, 39.8.
2/24日
⑪AM: 1hr30min. 22.13km. Average Pace: 4:05/km.

練習回数11回
ℤ1-1(Eペース下限未満) 8回
ℤ1-2(Eペース上限(LT1)以下) 0回
Z2(LT1<≒LT2) 1回(9.44キロペース走3:08/kmM未満)
Z3(LT2超) 2回(うち1回1kペース走+IV,うち1回R)

マシューズの場合、ジョグはEペースよりかなり遅く、ペース走は3:08/kmとMペース3:00/kmよりもかなり遅いです。私だと4:25となります。朝6時に走ると骨が折れるペースですが、週末朝9時過ぎであれば楽勝ペースです。セントロヴィッツよりもゆとりあるペースでジョグもペース走もやっていることがわかります。

さてセントロヴィッツやマシューズら世界トップ選手の真似をするとすれば、はじめはマシューズのようにジョグをEペースよりも遅く走り、ペース走もMペースよりも遅く走る、で、余裕度が高まっていったら、セントロヴィッツのようにジョグはEペース下限、ペース走はMペースまで高めるイメージでいくとよいのではないのでしょうか?


さて私が友人と最近よくやるインターバルは、マシューズの「(1~1.5kmTペース+I/Rインターバル)×3~4セット」(先ほどの③)なのですが、最初メニューを見たときは
・素でエグイ!
と思いましたが実際やってみると意外にやれます。

1~1.5kはT~Mペース。これなら5本でも6本でも楽勝です。で次にやるインターバルは10kレースペースからマックス800mレースペースまで上がりますが、ビルドアップ的に上げていくので、マシューズの設定どおりにやっていけば、最初はちょい遅め、ゆとりあるペースのインターバルで、次のT-Mペースが物凄く楽に走れます。でどんどん動きが良くなって、1500m、800mのレースペースまでムリなく上げられる感じです。

マシューズのPBは800mも1500mも日本記録よりちょっと速いくらいです。高校の後輩がトーエネックにいるので1500m日本記録保持者である川村選手の練習を今度聞いてみて、欧米トップ選手と国内トップ選手の違いを分析したいと思います。

4 Polarization(両極端)型トレーニングのまとめ

世界トップ選手メニューの特徴は

①ポイント練習は週3回程度
②その他の練習はEASY RUNでEペース以下でジョグっている。
③閾値走(テンポ走、ペース走)はMペース以下で10キロ程度

であることがわかります。

これを我々に当てはめると、少なくとも2部練習をしている強豪高の選手であれば

①朝練はEペース下限程度に抑えるべき
⇒福井県内であれば14分台を目指していこうというレベルの選手のジョグは誰に聞いても男子4分ちょいが基準のようです。15分台前半の選手であればEペース:3分45秒~4分25秒なので、セントロヴィッツらに合わせると4分20~30秒以下がジョグのペースになるわけです。セントロヴィッツのジョグより20~30秒速くこれにペース走はTペース、あとインターバルはIペースが基準となって、月間500キロも高校生が走ればそりゃケガするわなって話です。
私は15分切るか切らないかの高校生のメニューと五輪金メダリストのセントロヴィッツのメニューのどちらを真似すべきかと問われれば、二つ返事でセントロヴィッツと答えます。
②2部練習しない選手であれば森川賢一監督方式でEペース上限(LT1)のジョグを週2回30~50分くらい組み込んでいくのもありかも。
③ポイント練習は週3まで
④ペース走は20分超える場合はMペースから。1~2kmのペース走インターバルであればTペース可

たぶん2部練習しない私のような選手がEペース以下でしかEASY RUNをしないのは負荷が軽すぎるような気がします
一方で森川式でジョグをEペース上限でこだわり続けましたが、この場合、週2~3のポイント練習の設定が肝になります。単純に25~30kのロング走や、Mペースでの1k×10~15のインターバルなどのポイント練習の質。量を高めたら脚が故障寸前までいったのでジョグをLT1で意識する場合は、ポイント練習を落とすか、Eペース下限と上限を半々にした方が良いのかなと感じています。

森川監督の名誉のために一言いえば、監督はペース走はEペース上限より10秒速い程度とEペース上限で2キロ⇔2キロで12キロ変化走をやるように、ロング走はサブ3ならキロ6分からでもよいくらいとおっしゃっていたので、要は私が監督の言うことを聞かずに、ポイント練習の設定は従前よりかなり落してはいたものの、回復力とのバランスがまだまだとれていなかったというのが実際のところです。

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