「速めのジョグ」「遅めのペース走」「遅めのインターバル」(抑えめのポイント練習)でなぜ速くなることができるかを考える。


1はじめに(速めのジョグと抑えめの抑えめのポイント練習について考えたきっかけ)


12月の9.98教室で現シスメックスの森川賢一監督から
・速めのジョグと抑えめのポイント練習
のお話を聞き、そんなに軽いポイント練習で速くなるんかなと半信半疑で試し始めましたが、その後、昨年福井県新記録を出した三国高校の後輩難波天の練習方法を1月末に聞き、ジョグやポイント練習の取り組みが似通っていることがわかりました。

2月には横田真人さんの講演会も聞けたのですが、講演会に先立ち、新谷仁美さんのハーフ日本記録への取り組みを読み返したところ、ペース走は3:45前後とレースペースより30秒遅く、インターバルも10kのレースペースで400×25や1000×10とゆとりのあるペースで行っていることがわかりました。


これまで私(多くの方もそうでしょうが)は
ペース走であればダニエルのTペースで6~8km、
インターバルであれば5kのレースペースを基準にやってきました。

10kmレースペースだとすると7~12秒/km遅い設定になります。
またペース走も速めのジョグより少し速いくらいの設定だとかなりゆとりのあるポイント練習ということになります。

2 これまでの考え方

 ①ペース走への考え方

スクリーンショット 2021-03-29 213203

・速く走る上で、乳酸がたまり始めるLT(血中乳酸2mol)、一気に上昇するOBLA(血中乳酸4mol)があって10kのレースペースより遅いがある程度速いスピードでペース走をすることでこれを改善する。
・ある程度速いスピードで長い距離を走ることで、筋肉も鍛えられる
・結果的に心肺、筋肉双方が鍛えられスピード持久力が高まり、LT、OBLAの値も改善される。
・ペース走の目安はダニエルのTペース(1時間は維持することができるペース)をもとに行う。
・5km向けの練習であればTペース(~+5秒)で6~8キロ、10km向けの練習出れば+10~15秒で12~15キロ走る。

 ①-2筋肉強化面でペース走を考える
・運動をしているとき、様々な筋肉を動員します。
 運動強度が弱いときには長時間運動が得意で力が弱い遅筋を主に使いますが運動強度が強くなるにつれ中間筋(持久系中間筋、パワー系中間筋)、速筋(力はあるが短期間しか動かせない)を動員するようになります。
・ある程度の運動負荷で一定時間運動することで、中間筋は遅筋的性質をもつように変化します。

スクリーンショット 2021-03-29 214134


 ②インターバルへの考え方
・インターバルは、目標とするレース距離を分割し、目標とするレースペースで行う。
 <例>ダニエル式を参考にペース設定
 ●5000m向けの練習 1000×5R200ジョグ、5kのレースペース、17分30秒の選手なら3分30秒
  1500m向けの練習 <300×5R100ジョグ>×2セット、1500mのレースペース、4分30秒の選手なら54秒
図 ダニエル式

スクリーンショット 2021-03-30 060906ダニエル式


 ③ジョグへの考え方
・ポイント練習で疲れが溜まるのでゆっくり走って積極的休養を行う。
 (あまり遅すぎるとよくない??人によっていうことが結構違う)
・ジョグは練習の大半を占める基本の練習なのでダラダラやらずしっかり意識して行う。


3 LT(LT1、LT2)について考える・・・TペースはLTではない。

スクリーンショット 2021-03-30 062606 LT1LT2

①一言でLT、閾値というがLTには2種類LT1、LT2(OBLA)がある。 
⇒自分が練習でLTを意識しているとき、LT1、LT2のどちらを意識しているか把握する必要がある。

②LT1はどれくらいの速さか?・・・少なくともフルマラソンのレースペース(Mペース)よりは遅い

③TペースはLTではなくLT2に近いと考えられる。
・ジャック・ダニエルズ博士の定義は「1時間くらい維持できるスピード」です。

④Tペース、Mペースはその日の体調や練習の疲労によって変わるもの
・疲労が溜まってくれば楽に走れるスピードは誰でも遅くなります。
・体調が悪ければ乳酸が溜まるスピードは遅く(良ければ速く)なります。
⇒その日の体調でLT1、LT2の位置は変わるしTペース、Mペースも変わります  
・ロング走、ロングジョグ、ペース走などで長時間練習していれば、今まで楽に走れたスピードでも楽でなくなってきます。

スクリーンショット 2021-03-30 063418LLT概念図

結論:その日の体調や練習中の疲労蓄積でLTの上昇ラインは変わるので、Mペースより遅いランでも十分負荷がかかることがありうる。



4 「速いジョグ」「遅めのポイント練習」で強くなる理屈を考える。


①体調や疲労でLT1、LT2のスピードは変わるので、例えばMペースであってもLT2を超えるスピードでありえ、遅めに走っていても調子が良いときのペース走と同じ身体への負荷となりうる。
⇔ 体調不良や疲労が大きいときに設定ペースに固執することで、ムダな力やおかしな動きでムリに運動することになり、オーバートレーニングや故障発生のリスクを高めることになる。
⇔ダニエルはTペースでペース走をしないと意味がないと指摘し、世間一般ペース走はTペースで実施することが多いが、LT1はフルマラソンのレースペースより遅いためフルマラソンのレースペースで走ってもLT1、LT2の改善は見込める。 

スクリーンショット 2021-04-02 062521


②たとえ強度が低いであっても、長時間運動することで、遅筋や持久系中間筋も疲れるためそれまで動員されていないパワー系中間筋、速筋も動員される。
 そのためパワー系中間筋が遅筋的性質をもつ持久系中間筋に変化し、より中長距離選手向きの筋肉構成に強化できる。

スクリーンショット 2021-03-30 063709運動強度

⇒フルマラソンを走っていると色々な筋肉がつかれてきて違う筋肉を使おうとすると思います。ここでスピードやストライドを維持するような動きをしていくとしばらくたつとものすごい筋肉痛、太もも表の筋肉の痛みに襲われた経験はないでしょうか?これは、持久力のない速筋を多く動員し続けたため速筋がパンクしたための痛みだと考えます。

③強度が低い運動であればムダな力をいれず、リラックスして運動できるため正しい動きを身につけ、より美しくフォームに洗練することができる。
→走技術の向上はランニングエコノミーを向上させ、LT1、LT2をより速いスピードに改善する効果をもたらす。
        ↓
<まとめ>
フルマラソンのレースペースより遅く走っても
・体調によってはMペース、Tペースであること
・長時間運動することでパワー中間筋が鍛えられ持久性中間筋に変化すること
・強度が低いのでより楽に走る技術を意識して走ることができ、 走る技術(ランニングエコノミー)を高めることができること(ただしムダな力を入れない、リズムをよくする、着地を軽くするなど、技術的なことをしっかり意識する必要がある)
十分速くなる効果をもたらす。


4 速めのジョグ、控えめのポイント練習の実践方法

①ジョグは「速めのジョグ」で鍛える。
<目安>Eペースの上限より+15秒~5秒程度

 新谷仁美(横田真人講演会聞き取り)、他14分55秒ランナー4分/km
 13分44秒学生ランナー 3分40秒→3分30秒で13k(45~50分)
<我々の場合>
 サブ3「4:55→45」 サブ3.15「5:20→10」、
 サブ3.5「5:40→30」で30~50分

 ⇒軽いジョグを週2回入れ変えるだけでも効果が期待
<やり方>
・いきなり走るとかなり速いペースなので
  軽いジョグ(500m程度でよい)、
  準備運動、流し(40-50m)を数本入れて行う

・リラックスして・ムダな力を入れない。速くなったらペースを落とす。
⇒自然にペースアップするのはよいが「このペースを維持するのはかなり頑張らないといけないな」と感じたら上げすぎている。

②遅めのペース走
 一部実業団や関東の大学ではかなり遅いペース走をしている模様
・これまでの常識・・・ ~8kTペース 12kTペース+10秒

・遅めのペース走
<目安>Eペースの一番速いペース~あげてもMペース
 新谷仁美:3分45秒(3:52→40)で12km 出典noto
 13:44の学生:3:40→30で13~16km(45~60分)←ジョグもペース走も同じ

<目的>
 横田真人コーチ(講演会での聞き取り):
スピードを余裕のあるペースでのインターバルやペース走でリラックスしてスピードを出せるフォームの習得
(新谷選手が3:45だった理由)
 深く考えてなかったがジョグが4分と速かったのでそれよりちょっと速いくらいで設定した。絶対余裕持って走れるように。
(13:44で走る後輩が3:40⇒3:30で走る理由)
 ムダな動き、ムダな力をいれないフォームを身につけるため。
  
<その他トップ選手の工夫>
・速め遅め限らず2k毎に設定ペース⇔10秒遅くを繰り返す変化走が行われている。 

5 遅めのインターバル(CRインターバル)

①CRインターバルとは?
CRインターバルは「10kmのレースペースで行うインターバル」のことです。
②CRインターバルのメニュー例
・400×20~25R100
・500×20R100
・1000×5~10R200
・2000×3~5R200~400
・3000×2~4R400
※急走間の休み(レスト)は短めや速めのジョグで行うことを意識。
・私のレベル(20.3ハーフ83:45、21.3 10k38:23)だと
  従前型1k×5R200・・・3:35~40/km、R75~90/200m
  CR  1k×5R200・・・3:50~55/km、R60~72/200m
という感じで5kレースペースだとキロ6分半~7分ペースのつなぎが、10kレースペースだと心肺に余裕があるためキロ5~6分ペースでつなげる感じです。

③CRインターバルの目的
・スピードを余裕のあるペースでのインターバルで
 リラックスしてスピードを出せるフォームの習得
・心肺機能の強化




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