タンシロ

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夫婦、結婚生活とは互いを支配し合うもの?「ゴーン・ガール」デヴィッド・フィンチャー

ゴーン・ガールを観て何かを感じる人は多いだろう。結婚に対して前向きになれなかったりする人もいるだろうし、諦観を抱く人もいるだろうし、中にはいやいや結婚はいいものだよと感じる人もいると思う。 この映画の面白いところは決して歪な夫婦が描かれた作品というわけではないということ。エイミーに自己愛性があったり、サイコパス性があったりするのは演出上の極端な例と割り切れば、構造としては割とありがちな夫婦の帰結と似ている。 エイミー(妻)とニック(夫)、最初は互いに幸せだった。ここまでは

    • 人の「絆」は人の「記憶」とは無関係に構築されるのか?映画「マジェスティック」 フランク・ダラボン

      あらすじは、事故で記憶を亡くした映画脚本家がとある田舎町に漂着し、その町の人々に戦争の英雄ルークと間違われ、記憶が戻らないままにその町の映画館再建に手を貸し、ルークの恋人アデルとの仲を深めていく。 記憶が戻ったピーター(ルーク)は、自身がルークではないことに大変なショックを受けるが、その町の住人も同じようにショックを受ける。 ただ、この映画の肝は残念ながら人の記憶と絆にフォーカスをあてておらず、どちらかといえばマッカーシズム(ソ連冷戦時代のアメリカにおける共産党狩り:映画

      • 「満足」より「感動」

        村上龍のエッセイの1編にあって、感慨深い内容だった。 なんでも、レストランへのリピーターに関するアンケートでわかったことは、そのお店に対してのお客の「満足度」は、リピート率との相関がなかったということで、お客のリピートに関係するのは「満足」よりも「感動」ということだった。 いわゆる客商売での「感動」は、ハード面(設備や清潔さ)やソフト面(技術やマナー)なんかは前提として必要ではあるが、基本的には客と接客とのコミュニケーションから生まれるのだそうだ。 今の世の中、いろんな人が

        • 2023年1月

           世の中はようやくコロナ騒ぎが落ち着き、コロナも翌5月には5類感染症になるという。まあこれはウイルスの感染性や重症化率がどうのこうのではなく、窮屈で鬱々とした国民の暮らしへ変化を与えようと、一部の国民の期待に答えた形なんだろうなと推測する。  うちは一家全員昨年8月にコロナにかかった。株としてはBA.5だろうか。いまやBA.5の株も減ってきて、また新たな株におきかわりつつある。  コロナ騒ぎがはじまって、もう3年以上にもなる。 COVID19の19は2019年の19だ。201

        夫婦、結婚生活とは互いを支配し合うもの?「ゴーン・ガール」デヴィッド・フィンチャー

          雰囲気がいい。それだけではない、「ロスト・イン・トランスレーション」 ソフィア・コッポラ

          この映画は雰囲気がいい。音楽が洒落ている。スカヨハが可愛い。全部そのとおりではあるが、が、それだけではない。 自分自信、結婚して、夫婦生活を何年か続けてくると、ビル・マーレイ演じるボブ・ハリスの振る舞いがものすごくスマートなことに驚く。スマートとも言えるのだが、いや、だがちゃんとしっかりと落胆している。スカーレット・ヨハンソン演じるシャーロットと、一線を交えなかったことに対してちゃんと落胆しているだ。わかるかわからないか、本当に微妙な仕草とそのときの表情に、男の性や哀しみが描

          雰囲気がいい。それだけではない、「ロスト・イン・トランスレーション」 ソフィア・コッポラ

          本音と建前が燻る、「ダークナイト」 クリストファー・ノーラン

          クリストファー・ノーラン監督やっべえ!と6回繰り返し叫びたくなる作品。ダークナイト は「正義」対「悪」の構造ではなく、正義と悪は表裏一体として、(正義・悪)対(モラル)の構造になってた気がする。 社会が成熟し、正義も悪もない時代になると、主義・思想が暴発してくる。それを止めうるのは各個々にあるモラルの結集でしかない。 構図の観点で観ると面白い作品でした。 とくにコインの表・裏に現れているような物事の表裏一体の関係をメタファーとして色んなところに散りばめていたのがすごくノーラ

          本音と建前が燻る、「ダークナイト」 クリストファー・ノーラン

          「記憶にございません!」 三谷幸喜

          憲政史上、最も自由な総理。総理の恩師からの言葉に、ぐっときた。 記憶をなくすということは、たしかに人格が変わることだ。 記憶というしがらみから解き放たれることは「自由」といっていいのかもしれない。だけど、それは君たちは「記憶」に縛られているんだよという揶揄のような気もしてならない。 人の本質というのは「記憶」だと思う。私たちは、「目」からの情報に大半を縛られている。だからなのか、記憶が同じで見た目の違う人と、見た目は同じで記憶が違う人とを二項対立で比べがちであるが、それは「目

          「記憶にございません!」 三谷幸喜

          貧富の差は誰が問題にしている?、「ピザ!」 M.マニカンダン

          インド映画。 貧富の差を問題にした映画ではあるが、貧富の差を問題にしているのは、富める側だけではないか?というニュアンスを含んでいるやもしれない興味深い映画。 これはスラムに住む少年二人が、ピザ食べたさに奮闘していく話。 だけどそのピザは1枚300ルピーもする。 スラムに住む人の300ルピーとは、大人一人が一ヶ月精一杯働いてやっと得られる程度の金額だ。 少年二人はありとあらゆる手を使ってなんとか300ルピーを手に入れようと奮闘するのだが、それは言葉通り何がなんでもであり

          貧富の差は誰が問題にしている?、「ピザ!」 M.マニカンダン

          「ベルリン、天使の詩」 ヴィム・ヴェンダース

          抽象的な映画だった。こんな作品も楽しめる年になったんだなとしみじみ。 天使は天上から人々を見ているイメージだけど、この映画の天使は高いところから見下ろすにとどまらず、図書館にたむろし、人の目線の近くまで下りてきては、人々の内なる声に耳を傾ける。 どんな感情をもって人々の声に寄り添っているのだろう? そこのところが最初のうちは今ひとつ理解できないけれど、時間が経つうちに何となく感じ取ることができるようになってくる。 映画全体としてどんよりとした雰囲気の中に、詩のような台詞が

          「ベルリン、天使の詩」 ヴィム・ヴェンダース