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京都にて 2020年8月

出張で京都に滞在している。

学生時代の修学旅行はもちろんのこと、40歳を過ぎてから突然旅に目覚めたので、ここ数年は京都にもちょくちょく寄るようになった。とはいえ京都だけを目的地にする旅をしたことはなく、夜遅く到着してそのまま一泊したり、他の場所から移動して半日だけ滞在したりと、あわただしい旅がほとんどであった。

今回の出張は二泊三日、翌日は公休なのでもう一泊京都にとどまって、計三泊四日の滞在となった。仕事がらみの事情もあり、京都市街の特に繁華街や飲食店の現状を把握する必要があったので、私は今までの旅よりも、じっくりと腰を据えて探索をする気満々だ。
しかし、日中はフルで業務が入っている。実際に町を探索できるのは主に夜間、早くても20時頃からになる。そういえば京都の繁華街を夜に散策した覚えはほとんどない。コロナ禍のご時世で夜の賑わいにも変化があるだろう。今まで足を踏み入れたことのない路地裏や飲み屋街にも、行動範囲を広げてみよう。

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滞在初日は、同僚が住んでいるマンションの一室を間借りして寝泊りすることになったので、職場からそのマンションまでの道のりを散策した。烏丸通りを越え路地裏に入る。
とりたてて特徴のない路地であるが、通り沿いに昔ながらの京町屋が点在しており、今でも住居として使われているものあれば、店舗やゲストハウスにリノベーションされているものもかなり見受けられる。通りかかったのが22時頃だったので、ほとんどの店舗はすでに閉店していた。

こういった路地裏の片隅に生き残っている町屋や、三条通りの郵便局や美術館のような明治時代から今に至るまで残されている建築物を見るにつれ、ひとつの感想というか感慨が湧いてきた。

「空襲や震災の被害を免れると、こんなにも歴史的建造物が残るのか」と。

時は8月。どうしても第二次世界大戦のことが頭の隅に残ってしまう。特に広島や長崎の原爆の惨状であったり、毎年8月の恒例になりつつある映画『この世界の片隅に』のTV放映で描かれる空襲や戦時下の日常であったり。戦時中に起こったことなどは、いまや各種メディアを通すことでしか知ることができないが、実際に京都を含め日本中様々な土地を訪れると、それぞれの土地に残された歴史や文化に関して、否応なく敏感になってくる。

京都の街に積み重ねられた、少なくともここ200年くらいの歴史や文化を目の当たりにすると、どうしても今までに訪れた広島をはじめとした多くの土地のことを思い出して、比較してしまう。
戦争に限らず、島国の特性として自然災害に見舞われるリスクが付いて回るこの日本では、今の京都のように文化が物理的に数百年続いていることの方が奇跡的なのだろう。

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滞在二日目と三日目は、先斗町や木屋町といった飲食街と、三条・四条・鴨川といった繁華街を探索した。週末であるが以前に比べて人通りは少なく、飲食店の客足も厳しめである。なにより驚いたのが、先斗町でも木屋町でもコロナの影響で休業している飲食店がかなりあったことだ。
正直、京都くらいの感染状況だったら、そこまでデリケートになることはないのではないか?と思う。しかし、京都民の県民性からすると、ひとつ間違えて感染者が発生したが最後、店舗を継続できないくらいの圧力が多方面から生じるのだろうな、とも思った。
いわゆる『風評被害』的なダメージに関しては、恐らく京都が日本中で一番強烈なのだろうと想像を巡らせる。

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京都滞在最終日、この日は公休を取ったので、まずは早朝に走った。四条烏丸のホテルから四条通りをまっすぐ河原町まで走り抜ける。バス停の天井からミストが噴霧されている。道行く人たちはほぼ全員がマスクを装着している。

鴨川の手前を左折し、木屋町と先斗町を走る。この辺りは典型的な夜の街なので人気もなく、ゴミをあさるカラスを眺めながら進む。
三条から鴨川に降り、鴨川デルタを目的地に進んでいく。歩く人・走る人・チャリの人すべて、マスクの装着率が一気に下がる。このあたりの人にとって鴨川は日常の一部なのだろう。

最近、私は川沿いばかりを好んで走るようになった。心地よい風を触覚でとらえ草木の香りを嗅覚に感じ、鳥や虫たちの鳴き声を聴覚で受け止める。ここはあえて視覚をキャンセルすることによって、沿道と一体化したいところである。しかし転んで鎖骨など折らないように、足元にだけ気をつけて走り続ける。

デルタの手前で車道に上る。新興住宅地が沿道に並ぶ。町屋や歴史的建造物のようなものは全く見当たらない。同じ京都市内でも地域によって歴史や文化の違いが物理的に迫ってくる。これが旅ランの醍醐味である。
もうすぐゴールだ。宿に戻って汗を流しチェックアウトしたら、市川屋珈琲でブランチを決め込もう。

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旅先ではあるが、この地に暮らす人たちの日常を追体験するかのように過ごすと、その街の見え方が変わってくる。おすすめの過ごし方だ。

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