約束。
「約束、ね」
「うん」
いつのことだかわからないけど、私は確かに約束をした。
そう、確実に。
あの人と。
遠い遠い不思議な空間。
柔らかな光に包まれた空間で私は彼と約束をした。
それは3万年後に果たされるはずのこと。
私の今は沢山の重たいものに囲まれていて、身動きが取れなくて、かなしくて苦しくて不安でとても辛いのだ。
それは自分自身ではどうにもできない重たさで、どうにもできずに泣いている。
ほろり、ほろり、ほろり。
零れ落ちていく涙の色は虹色できれいに見えるようだけど、頬には涙の流れた後がひりひりと残ってて、心が壊れてしまうほど苦しくてたまらないのだった。
忘れたい。
そんな時、必ず浮かんでくるものは、あの約束。
もう駄目で逃げたいと、何もかも辛くて受け止め切れないと、そんな風に感じてる時、思い出す、あの約束。
「必ずね」って、念を押された、あの大切な約束のこと。
苦しいの。
本当に。
許せない。
辛すぎる。
私は何も持ってない、 ごく普通の人間で、特別なことなんて何一つないのだけれど、あの日約束してしまった。自分ともあの人とも。
大切な約束。
本当に大切な。
3万年先につながる、大きな大きな約束を私はあの人とした。
間に合うのかもわからない、大きすぎる約束。
心が痛すぎて壊れそうなの。
砕けてしまった心のかけらを広い集めて両手の上にのせて見せても、許してはくれなくて。
三万年先。
このままの私ではつながることのできない人。
つながってしまったら、私は壊れてしまうから。
一人だけ、大切な、そして特別な場所でだけ、私たちは会える。
どこにも存在していない、他には誰も来られない場所。
私を守ってくれるのは、彼じゃない。
それでも私にとってほんとに大切で特別で、本当は温かい人。
沢山の人達に心を掛けてあげている人。
壊れそうなの。
本当に。
誰も傷つけたくないし、誰も困らせたくないし、苦しめるのも辛いから、ただ風に吹かれてる。
一人が嬉しいわけではなくて、どうすることもできない私がここにいるだけ。壊れてるだけ。
壊れた心。
壊れた明日。
壊れた今を変えられず、止まってしまった掛け時計。
振り子が消えてしまったの。
もう戻らない者たちのこと、忘れることもできなくて。
零れてく、零れてく、零れてく、何もかもが。
輪郭を保ってくれていたものが全部消えてしまったから。
怖い。
怖いから、本当はこのまま、、、
でも約束してしまったの。
だからやめることができない。
そしてね、ありがとうと伝えたい。
みんなにほんとに心から。
揺れる海。
寄せる波。
壊れてしまった心のかけら。
透明な色。
消えていく。
シロツメクサの咲いている広い野原にモンシロチョウがはたはたと飛んでいる。
まっさらな白いスニーカーを履いて、湿った黒い地面が見える野原の上を歩いている。ポケットにはルーペ。野原の草を丁寧に観察してスケッチブックに描くために。
草の匂いのする風が私の髪をなぶりながら吹き抜けていく。
シロツメクサの花を見る。
無数の小さな白い花弁が一つの花を作り上げ、その花に蜜蜂が、そして蝶々が集まって、野原の中で生きている。どの子も無心でそのままで。
見つめていたら知らないうちに時間はどんどん過ぎて行く。
小さな野原の小さなものをじっと見つめているうちに、時間は過ぎて消えてゆく。何も言わずに黙ったままで。
「間に合うの?」
「わからない」
心細くて泣きたくなった。
ごめんね
ごめんね
ごめんね
ごめんね
・・・・・
・・・・・
・・・・・
約束はいつだって、私の中でちくたくと時計の音を立てながら存在し続けているけど、動かない。
動けない。
壊れた心。
壊れたからだ。
待っていて、必ずきっと守るから。
三万年先の約束を。