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『海辺のプレリュード』Destiny

出会いと恋の始まり

1981年の夏、日曜日に暑い日差しが降りそそぐ中、真美は久しぶりに原宿へ出かけた。その頃、原宿では、ホコ天(歩行者天国)で竹の子族などのパフォーマンスが賑わいを見せていた。竹下通りで気まぐれに選んだサンダルは、薄っぺらいビニールの安物だった。

「今日に限って、安いサンダルを履いて…」と真美は心の中で呟いた。

   相変わらずの人混みの中、青山通りでふと、「あの車…」すれ違った瞬間に振り返ってみると、緑のクーペが止まった。

   ガラス越しに見覚えのある顔が見え、彼女の胸にかすかな痛みが走る。あの夏の日、同じ車に乗っていた彼との思い出が、まるで昨日のことのように蘇った。

ピアノコンサート

 真美と一也の出会いは、まったくの偶然から始まった。ある日、一也は友人の和彦に誘われて、学生のコンサートに足を運んだ。親友の和彦もその発表会に出演することになっていたため、応援に駆けつけたのだ。

 そのコンサートで、一也は真美の端麗な美しさとピアノの華麗な演奏に心を奪われた。和彦に頼んで合コンをセッティングしてもらい、そこで二人は初めて話をすることになった。

「真美さん、はじめまして、山田一也って言います。お話いいですか?」

真美の前には、日に焼けた顔に青いシャツが良く似合う青年がいた。「ええ、どうぞ」

  真美は、彼の笑顔に、とまどいながらもゆっくりうなずいた。一也は緊張しながらも、真美のピアニストになる夢を語る姿に、自然と二人の距離は縮まっていった。

二人の関係の発展

真美は仙川駅近くに住んでおり、桐朋学園でピアノを学んでいた。一也は、三鷹に住んでいた。距離にしてわずか数キロメートルの二人の生活圏は、互いに頻繁に行き来するのに理想的だった。

 彼の家から彼女の家まで、緑のプレリュードで駆け抜ける夜のドライブは、二人の関係をさらに深める時間だった。デートの回数が増えるにつれて、彼らの関係は次第に盛り上がっていった。

  真美と一也は、湘南のビーチでのロマンチックな夕日を眺めたり、新宿の高層ビルのホテルのレストランから夜景を楽しんだりしながら、お互いの世界をより深く知り合っていった。

海岸でのキス

ある日の夕暮れ、二人は湘南のビーチを歩いていた。波の音が静かに聞こえる中、彼らは手をつないで歩いていた。一也が立ち止まり、真美の顔を見つめた。

「僕らはもう離れられないね。」

一也は、少しはにかむ素振りで、言った。

真美は少し驚きながらも、彼の目を見つめてうれしそうにうなずいた。

一也はさらに続けた。

「おまえを誰よりも愛してるぜ。」

  そして、二人は静かに互いの唇を重ね合わせ、黙ったまま見つめあった。

真美の瞳からは、一筋の涙がこぼれた。

 海風がそよぐ中、キスは、二人にとって特別な瞬間となった。

すれ違う二人の心

 しかし、心が通じあったと思えた時は、時間が経つにつれて、彼らの関係に変化が訪れた。一也の遊び人としての生活が続く中で、真美は次第に彼に対する不安を感じるようになった。        

 彼の夜遊びが増えるにつれて、真美は彼との未来に対する疑念を抱くようになり、自然と会わなくなってきた。それでも、何故か彼が、好きだという自分がいた。

再会と別れ

そんな中、偶然、青山通りで再会した一也と真美は、お互いに少し戸惑いながらも、過去の思い出に浸った。彼のプレリュードを見ながら、真美は彼との楽しかった日々を思い出していた。彼の陽気な笑顔や、海岸での甘いキス、そのすべてが鮮明に蘇ってきた。

「真美、久しぶりだね。」一也が車から降りてきて、彼女に声をかけた。

「一也…本当に久しぶりね。」真美は微笑みながら答えたが、その微笑みには複雑な感情が隠れていた。

「どうしてた?元気だった?」一也の問いに、真美は少しだけ躊躇した後、答えた。

「うん、ピアノのレッスンを続けてるわ。あなたは?」真美の問いに、一也はニヤッとした後、答えた。

「相変わらずさ。でも、今日は偶然でも君に会えて嬉しいよ。」一也は一瞬目を逸らし、少し居心地悪そうに見えた。

「それで…今、どこに行くの?」真美が何気なく聞いた。

その時、一也の腕時計が鳴った。彼はそれを見て、少し困ったような顔をした。「実は、次のデートがあって…急がないと。」

真美の胸は一瞬痛んだが、彼女は微笑みを保ちながら、「分かったわ。楽しんでね。」と答えた。

一也の緑の車のボディには、薄い埃が積もっていた。真美は思わず指で車のボンネットにこっそりと「True Love」と書いた。その瞬間、真美は自分の心に問いかけた。「どうして私はこんなことをしてしまうのだろう?」

一也は気づかずに笑顔で「じゃあ、またね」と言いながら車に戻り、発進した。真美は彼が去るのを見送りながら、彼への未練や愛が完全に消え去っていないことを痛感した。しかし同時に、それが叶わぬ愛であることも強く認識した。

二人は互いに短く別れの言葉を交わし、それぞれの道を再び歩み始めた。真美はピアノのレッスンに向かいながら、自分が運命と向き合い、新たな一歩を踏み出す決意を固めた。

終わりに

ユーミンの「Destiny」に描かれる失恋のテーマは、真美と一也の物語に深く反映されている。再会と別れ、そしてそれぞれの道を歩む決意は、運命の力と人間の感情の複雑さを表現している。この物語を通じて、リスナーは失恋の痛みと美しさ、そして新たな始まりへの希望を感じ取ることができるだろう。


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