白紙屋-10
〜続き〜
確かに10年ぶりだからな。緊張するのかもしれない。
「分かったよ。そこの茶色い二階建ての家でいいんだね。僕が見てくるから晴くんはここにいるんだよ。」
晴に確認し大きく首を縦に振ったので僕は一人で確認に向かった。なかなか大きい家で庭には大きなみかんの木が植えられていた。僕は門の前に立ちノブを回そうとしたがノブを握ることができない。
「そっか。一応幽霊敵扱いだもんな。」
僕は再度家の周りをグルリとまわり、縁側らしい所を見つけ壁に手をあてると貫通した。そのまま首だけを入れ、まず人の気配を確認した。
「味噌汁の匂いだ。人は居るみたいだね。」
そのまま体をねじ込んで庭にでた。みかんの木の周りに小さな花壇があり小さな双葉が均等に並んでいた。横には少し泥の被った三輪車と自転車が置いてあった。その時である。
「パパご飯よ。少し早いけれど朝と昼兼用で大丈夫ね。」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう。」
夫婦の何気ない会話が聞こえてきた。姿は見えないけれど日常の夫婦の会話がそこにはあった。
「その前に晴ちゃんにもお裾分けしなきゃ。卵焼きが好きだったからね。」
そう言うとおぼんに乗せたご飯と味噌汁と卵焼きを持って奥の部屋に消えていった。
「お邪魔します。」
僕は気の小さな泥棒が言いそうな一言を言い中に入って夫婦2人の後を追い奥の部屋へ向かった。
「さてさて晴ちゃん今日は晴ちゃんが好きなだし巻き卵を作りました。少し甘いかもしれないけれど虫歯にならない様にちゃんと歯は磨いてね。」
女性はそう言うと仏壇に品を置いた。そこには今僕と一緒に来ている晴くんの写真があった。余りにも重々しい黒の仏壇に似合わない屈託のない笑顔で。
「晴は向こうでも元気でやってるかな。走り廻ったりできているかな。こっちではずっとベッドの上だったからな。」
男性はそう言うと仏壇の横にある年代が古いウルトラマンの人形を手に取りながら物思いに更けていた。
「そうね。こっちでは走りまわれなかったけど天国では沢山のお友達と走り回れてるわよ。擦り傷だらけだと思うわ。でも。」
女性はそう言うと薬箱からいろんな国の国旗がデザインされた絆創膏を写真の横に置き
「ちゃんと怪我したらこれ貼るんだよ。ママ達はしてあげれないから。」
そう言うと2人は畳に沈むのではないかくらい首を垂れ下げた。
「さて、私はお買い物に行くけれどパパはどうする?」
「僕もついて行くよ。最近運動していないから。」
2人は重そうな体を起こし身支度を整えるため各部屋に散らばった。
僕は事の真相を家の外で待っているこの物語の主役に伝えに行った。
「どうだった。」
僕は目で見たままのことを晴に伝えた。
「随分と憔悴されてる感じがしたよ。今からお買い物に行くらしい。」
「そっか。今からお買い物に行くなら行った後に家に入るよ。それまではここで待っていてもいいかな。」
「そうだね。でもここに立って待つのは疲れるから」
僕達は月のオブジェの噴水の前にあるベンチに腰を下ろし暫く待つことにした。
その時晴の目がまんまるになりある一点を見つめた。そこにはさっき僕がお邪魔した家の主人2人が僕達の前を通り過ぎようとしていたのだ。
「パパ。ママただいま。」
晴は自分が見えていないのを分かっている為、座ったまま2人を見つめそう言った。2人にはもちろん聞こえていない。僕は感情を押し殺したカレにかける言葉も見つからずその光景をただ見守ることしか出来なかった。
「晴くん行くなら今だよ。」
僕は今この現状を切り掛けてあげることしか彼にしてあげることはできないのでそう提案するしか出来なかった。
「分かった。時間もないし、久々の家に行くのも少し楽しみだし早く行こう。」
晴は遠くなる両親の背中を見送ったのち腰を上げた。
「大丈夫。僕はパパとママに甘えるためにここに来たわけじゃないんだ。」
小さく自分に言い聞かせたのが僕には聞こえた。僕の方が少し泣きそうになったが、ここで僕が泣いてしまうのは晴に対して失礼だと思い堪えた。
「みかんの木だ。こんなに大きくなったんだな。」
茶色の外塀から道路にはみ出ている木を見て晴は10年の時間を感じた様だった。
「あっ。僕の三輪車に自転車もある。自転車は結局練習せずに終わったから乗れないままだったな。」
彼は握れないのにハンドルを感じる様に握った。
「晴くん準備ができたら中に入ろう。」
時間は13時を過ぎようとしていた。時間は余りにも経つのが早い。公園から家に入るまでに1時間半くらいは経っている。
「分かった。中に入ろう。」
そして、僕達2人は僕が入った縁側から中に入った。
「懐かしい匂いだな。洗濯洗剤と太陽の匂いとそこのゴムの木の匂いだ。後この匂いはママの卵焼きの匂い。」
晴は大きく深呼吸をして思い出を全身で感じていた。
そして、家の中を歩き回った。玄関にある日本人形が怖かった事。2階に続く階段に飾ってある鯱と夕陽が写った写真が綺麗で好きだった事。一年中出してある風鈴がたまに外からの風でリンリンと鳴ると晴のお母さんが自作の鼻歌を歌い出す事。晴は思い出を語りながら部屋を回った。しかし、彼はやはり見つけてしまった。自分の仏壇を。
「向日葵お兄ちゃん。やっぱり僕は死んでるんだね。しかし、イケメンに撮れてる写真だな。しかもまだウルトラマンあるし。僕はウルトラマン卒業したのにパパが買って来てたんだ。8歳の誕生日にウルトラマン買って来て僕は正直違うのがよかったんだけど、それを言ったらパパ悲しむから喜んだフリをしたら次の日初代から全部買ってきて焦ったよ。僕の仏壇の周りはウルトラマンだらけだ。まだ知らないの増えてる。」
晴はそう言うと自分の仏壇の前に座った。
「向日葵お兄ちゃんこういう時は拝まなきゃいけないのかな?」
「いや、流石に自分に拝むのはおかしいでしょ。」
「でも仏壇の中にいるのは神様だから、パパとママの幸せを願ってもいいのかなって。」
「なら、2人で拝んでみようか。」
僕達は晴の仏壇に拝んでみることにした。
「晴くんは神様にあったことはあるの?」
「ないよ。でも、神様っているとは思う。地獄とは反対でいい事起きないかな?って考えたら時々おきたりするんだ。タカばーちゃんの梅ジャム食べたいって思ったら次の日作ってくれてたり。それはきっと神様の仕業だよ。」
「なるほどね。なかなか想像できないなー。神様ってのは。」
晴はその後しばらくの時間自分の仏壇に対して手を併せていた。
「神様はお願いを現実にしてくれるからパパもママもきっと幸せになれるよ。よし。そしたら今回のミッションに移るとしよう。」
晴はそう言うと。二階の自分の部屋に行き、バッグから白い本を取り出した。
〜続く〜
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