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相談:日本語が全くできないハーフの子が転入。国語や算数の指導が心配。どう対応したらよいですか。(小1)

子どもの言語能力を伸ばす楽しい国語の授業を実践して50年、今も現役教員の卯月啓子です。
現場の先生から受けた、質問・相談をご紹介します。

お悩み内容

小1担任の6年目の女の先生からの相談です。
(2022年10月の相談です。)


多国籍の子どもたち

明日から、フィリピンのハーフの女子が転入してきます。日本語は全くの✕で、いつも使ってるのはタガログ語。英語は話せますが、読めない書けないです。フィリピンではコロナの影響で小学校に行くこともできず、集団生活の経験が全くない状態で日本に来ています。
私のクラスの子どもたちが、すぐに友達になって仲良くなると思いますし、日本語については、週2で日本語指導の先生が教えてくれることになっています。ですが、私がどうやって、国語や算数の指導をしたらよいかが心配です。
お母さんも全く日本語ができないので、家庭での学習は難しいのではないかと思います。お父さんは日本人です。どのようにその子に対応したらよいでしょうか?


卯月啓子の写真

卯月啓子の答え

一番不安に感じているのはその子ですから、何とか学校でのストレスを感じることが少ないように、先生にも先生の学級にもなじませてあげましょう。どうやって学級になじませるか考えることが大切です。

【テクニック1】おうちの人との連絡について確認する。

お父さんが日本人であれば、お父さんを介して日本語での意思疎通ができますね。まずは、学校と家庭間の諸連絡がお父さんに伝わり、必要な対応ができるようにコミュニケーションしてください。可能であれば家庭訪問もしておいた方が良いです。

学校から家庭への連絡はとても多いです。日本の小学校ではふつう、子どもは連絡帳に明日の予定を書いて、おうちの人が持ち物や宿題をチェックするという生活を毎日送ります。定期的なお便りとしては1ヶ月に1度「学校だより」、「学年だより」、「保健だより」、「給食献立表」。不定期なお便りとしては「行事のお知らせ」、「持ち物準備」、「集金」のお知らせ等々が届きます。お手紙の来ない日はほとんどありません。紙ではなく、タブレットで送られてくる場合もあります。テストや宿題プリントなどの持ち帰りもあり、それをチェックするなども家庭でします。

家庭から学校への連絡も多いです。「欠席連絡」、「先生への要望や依頼」等も必要に応じて知らせます。連絡帳に書くか、電話で連絡か、メールで送るか等しなくてはなりません。

これらは子どもとの調整ではなく、おうちの人と話し合う内容です。基本的な学校⇔家庭間の連絡がスムーズにできていないと、ただでさえ言語的なハードルがある子が学校で困る状況を増やしてしまうことになります。

〔声掛けの例〕(おうちの人へ) 
・どなたに連絡すればいいですか。
・緊急のときはどうしたらよいですか。
・お手紙は読めますか。書けますか。
・家庭訪問をしてもいいですか。

私も以前担任をしていた際、ブラジルの日系の女の子を5年生の途中から受け入れたことがあります。この子の場合、日本語は全く読み書きできない状態で、なおかつ、ご両親も日本語が流暢にできるという状態ではありませんでした。

何日かしたとき、その子が登校しなかったことがありました。家にすぐ電話連絡をしましたが、お父さんは働きに出た後で連絡がつきません。家庭に行こうとしましたが、事前に家庭訪問をしていなかったこと、地図が曖昧であったことなどから、安否確認をするのに時間がかかったことがありました。事前に家庭訪問をしておくべきだったと後悔しました。

現在では地図アプリもありますからそんなに慌てることではないと思いますが、やはり、家庭訪問をして、その子がどんな環境でどんな友だちと登校できるかなどつかんでおくことは必要なことだと思いました。

【テクニック2】クラスの子どもたちにその子の事情を話し、仲良くしてくれるように頼む。

〔声掛けの例〕(クラスメートの子どもたちへ)
・あなたがほかの国に転校したらどんなことに困りますか?
・あなたは、クラスの友だちにどんなことをしてほしいと思いますか?

先生もおだやかに笑顔で子どもたちに、他の国の子と友達になれるのは楽しいことだね、というスタンスで話し、子どもたちに協力を求めましょう。この子の存在を困ったことであると感じさせてはなりません。

先のブラジルからきた女の子を迎えた私のクラスでは、男女ともにその子なりのやり方でコンタクトをとっていました。身振りや手ぶり、表情などから困っていることを察したり、イラストを描いて理解したりしていた子たちもいました。ふだんは乱暴な口をきく人たちもおだやかに話していました。この女の子を軸にクラスがなんとなく穏やかになりました。勉強はもちろん理解できていないようでしたが、私はその子がにこにこしているので安心しました。

【テクニック3】ひらがな・カタカナの読み書きを早急に教える。

クラスメートと仲良く生活ができてきたら、普段の会話の中で話し言葉はある程度身につけてくれるかもしれません。しかし、その子がひらがな・カタカナをどの程度読み書きできるかは把握していますか?

学校での学習のための最重要課題はひらがな・カタカナの習得です。スムーズに読み書きができないのであれば、早急にプリントなど別メニューで教えるようにしてください。(ここでは、卯月自作のひらがな、カタカナ勉強用のプリント)を使います。名称は「ひらがなあたっく」「カタカナアタック」です。

「ひらがなあたっく」「カタカナアタック」のご紹介

私が日本語学校で外国人に日本語指導をする中で、ひらがな・カタカナの学習に使用しているおすすめの方法があります。それが「ひらがなアタック」「カタカナアタック」の学習法です。

この勉強法は即効性があります。どんな用紙にどのように書くかなどの詳しいやり方は下記のnoteに書きましたので、そちらをお読みください。先生の手間はその用紙を何種類か用意するだけです。ぜひお試しください。


日本語学校で効果実証済み!「ひらがなあたっく」「カタカナアタック」のご紹介|卯月啓子の楽しい国語教室|note

〔声掛けの例〕 (その子に対して)
・(ローマ字でアの列にaiueo 各行にk、s、t、n、h、m、y、r、w、n がかいてある「ひらがなあたっく1」の表を示して)ひらがなです。最初に、ひらがな、勉強します。
・読みます。(先生が一字一字さして、はっきり読む。例えば、「か」なら、「k」と「a」で「ka か」)
・読んでください。(発音させる。何回か行う。ローマ字で書いてあるので容易に発音できる。)
・よくできました。(英語で、または身振りで)
・書きます。(先生が一字一字丁寧に書いて教える。形は図形で教える。例えば、正方形に入る形 「あ」「お」、 横長長方形に入る形「い」、 縦長長方形の形「う」「え」、▽の形 「す」などのように教えると字形が整う。書く順番も教える。「う」は2画目から書いて1画目を書く外国人が多い。)
「ひらがなあたっく1」(なぞりがき)に書きます。
・よくできました。(英語で、または身振りで)
※以下、書かせて指導し、ほめるということを繰り返していきます。
「ひらがなあたっく2」(うつしがき+かきじゅん)
「ひらがなあたっく3」(うつしがき)
「ひらがなあたっく4」(かきじゅん)
「ひらがなあたっく5」(じぶんでかく)

※同様に
「カタカナアタック1」(なぞりがき)
「カタカナアタック2」(うつしがき+かきじゅん)
「カタカナアタック3」(うつしがき)
「カタカナアタック4」(かきじゅん)
「カタカナアタック5」(じぶんでかく)
を行います。大体10日ほどで終了しますが、もちろん、子どもの様子をご覧になって進めてください。何回でも繰り返しできますので、習得まで適宜進めてもいいですね。


先生は、カリキュラム通りに授業をするので、日本語ができない子だけに時間をたくさんかけることは事実上不可能です。しかし、少なくともひらがな・カタカナだけはスムーズに読み書きできるところまでは優先して教えた方が、その後の学習の対するメリットが大きいと私は考えています。


【相談者の先生からの感想】

卯月先生ありがとうございました!
見通しつきまくりました。そして、自信つきまくりました。

一日目で、「む」を書いているときに「む…いぬ?!」と、文字から日本語をつなぎ合わせていました😳
「すごい!そうだよ!でも、いぬは、これだね、でもすごいよーー!」と、「い」と「ぬ」を丸で囲みました。
その後も、「く…くるま!」と、「く」から思いついていました。賢いです😳😳😳😳😳😳

二日目の今日、「ひらがなあたっく1が終了しました🥰
明日から「ひらがなあたっく2」です!

とても落ち着いています。
でも、転入早々5時間授業のフルコースですので、疲れていると思います。


終わりに

日本語を知らない外国人のお子さんが、ストレスをそんなに感じることなしに学校生活を送れるようにしてあげることが大切です。家庭とも緊密に連絡を取って、おうちの人の緊張を解いてあげることも必要ですね。

仲良く楽しく学校生活が送れるように支援していきましょう。クラスの子どもたちが、クラスに溶け込ませてあげられるように協力してくれますからその点は安心して大丈夫かと思います。

勉強はなんといっても文字習得が最優先です。そこからすべてが始まります。このアタック表をやることで、その子を勉強でお荷物状態にしないことに役立ちます。

今回お伝えしたテクニックは、クラスでも文字の習得が遅れている子にも応用できると思いますので、ぜひ、試してみてください!
勉強ができないと思われている子が、毎時間長期に渡ってひらがなとカタカナの習得を行っていけば、勉強にも追いついてきます。


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