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リノベーションした空き家で科学教室!

●きっかけ

 科学教室を行うきっかけとなったのは、ボク自身の「実験道具の荷物問題」でした。北海道の高校教師生活が7年間。通算で物理・化学・生物・地学の4分野をすべて受け持たなければいけなかった経緯もあるのですが、実験道具の荷物の山…。多すぎて、理科準備室には入りきらない状況だったのです。
 また、ボクが所属している研究会の人たちのうち、多くは「自宅に実験道具を置く」という術を用いています。ボクも「それしかないかなぁ…」と思いつつも、でも一方で「この実験道具はお荷物じゃーなくて、価値あるもの!もっと活用されるべき場所に置けないものかなぁ…」などと理想を掲げたりもしています。

 そんなとき、youtubeで「空き家をリノベーションして地域共同スペースを作る」という配信を見ました。リノベーションは大変そうだからさておき、「空き家に荷物を置けたらいいな」と考え、配信活動をされている7858projectの伊藤さんにお会いしにいきました。そこでは「空き家を借りる」までは到底いかず、空き家を借りることは断念しました。(…リノベーションが大変すぎることを知る)

7858ベース

●お誘いをもらう

 そんな中、伊藤さんから「7858ベース(伊藤さんが空き家をリノベーションしたスペース)で科学教室をやってみませんか」という提案をいただきました。もともとは空き家のスペースを使ってそういった活動ができないかと思っていたボク(いや、もともとは荷物置き場…汗)ですから二つ返事でやることにしました。

7858ベース

 ボクは普段は中学校の理科教師ですから、あくまで講師ボランティアとして参加。今まで教育委員会やら自主的やらで何度か講師を経験してきたので、いくつか講座内容についてアイデアを出し、会場である7858ベースはアートスペースという特徴を考えて、初回の内容としては「光のスペクトルと色」というテーマで3時間の講座を行うことにしました。(元ネタは『光のスペクトルと原子』(仮説社発行)という本)。
 ただ、「サイエンス講座と言われてもなかなか集まらないだろう」という伊藤さんからのアドバイス。さてどうする…!?と二人は頭を抱えるのですが、「せっかくだからアート作品をつくるものづくり(おみやげ)をしよう」「3時間も講座に参加していると疲れるだろうから、お茶とデザートを用意して休憩してもらおう」(両方とも伊藤さんが担当)ということになりました。講座・お茶・デザート・ものづくり(おみやげ)の全部を含めて2000円という価格設定。ほぼ原価…という気もするのですが、講座開催もはじめてなので、何をするにも仮説実験!。(でも持続可能を目指してできれば赤字は避ける!)。中身も告知も含めて試行錯誤な中、地域住民やフォロワーに対して講座がスタートしました。
 ところで、こういう講座を行う場合、チラシやSNSの告知が手間だったりします。しかし、それは一手に伊藤さんが引き受けてくれました。主催者とはいえありがたいことです。ボク自身は講師業にすべて専念することができました。

7858ベースの伊藤さんが作ってくれたチラシ。ありがたい…。

●いよいよ当日!

 いよいよ当日を迎えました。普段は中学3年生の担任をしながら理科を教えている日々です。今は12月…。ということもあって、その頃は進路面談に追われていました。講座の準備も当日朝!。なかなかなドタバタ劇でしたが、なんとか講座開始の30分前に準備を終えて、7858ベースに向かいます。
 と思った矢先、「チャリで運ぶには荷物が多すぎる!!!」という想定外。というのも、「ホログラムシート(筒)」「色セロハン(筒)」「15個ほどの分光器(バッグ)」「実験道具一式(コンテナBOX)」を坂の上にある7858ベースに持っていかなければ行くのがめちゃくちゃ大変…!。しかもチャリをこいでいるうちに、筒のふたがとれて道端にシートが落ちてしまったり。しかも最後には自転車ではのぼれないような坂、坂、坂!。途中で歩きに変更して、開始3分前に汗だくで会場入りしました。(当然、翌日は筋肉痛でした)
 当日は、下は小学5年生、上は高校生を子どもに持つ子育てお母さんまで、バラエティに富む8名が参加してくれました。そんなに年齢層に幅があると「これはやさしすぎないか?」「これは難しすぎないか?」と、講座内容が心配になるものです。でも、この点に関しては一切の心配がありませんでした。というのも、元ネタになっている「サイエンスシアター」という本のシリーズは、「芸術やスポーツを楽しむように科学を楽しむ」がコンセプトに1990年代後半に行われた公演内容が本になったものなのです。その公演では、老若男女、さまざまな人が早稲田大学の国際ホールに集まったと記録に残っています。ですから、きっとたのしんでくれるだろうという安心感がボクの中にありました。(参考までに本の紹介文を下記に引用しておきます)

サイエンスシアターシリーズ 電磁波をさぐる編4
『光のスペクトルと原子』板倉聖宣・湯沢光男 著

紹介文:光を分解すると虹のように色分かれします。虹のように分けられたその光の帯のことを〈光のスペクトル〉といいます。だから,虹は「天然の光のスペクトル」ということができます。〈分光器〉というものを使うと,いつでもどこでも簡単に光を虹の色に分けることができます。本のタイトルにある「サイエンスシアターシリーズ」とは、「芸術やスポーツを楽しむように科学を楽しもう!」と1994年から1999年,東京・早稲田大学の国際ホールを会場に行われ,大好評だったのが「サイエンスシアター」です。その公演内容が本になりました。

(『光のスペクトルと原子』問題1/より)

●開始!

 いよいよ講座がスタートしました。まずは「スペクトルってなーに?」というトコロから。分光器を使って、太陽の光の成分(スペクトル)を調べます。7858ベースのスペースでは光が差し込んでこないので、外にでて青空や太陽に近い空の部分に分光器を向けて、スペクトルを観察します。スペクトルなんて言葉は難しそうだけれど、参加者からは「わぁ~すご~い!」「きれ~い!」と声がでます。
 あわせて、市販で売られている「サンキャッチャー」でも光のスペクトル(つまり虹!)が観察できるできることを一緒に確認しました。このクリスタルの中で光が屈折したり、反射したりする中で、光の色によって曲がる角度が違う…。リクツを説明するとなんだか倒れそうだけれど、そこは最小限にて、とにかく「ふだんあびている太陽光もちょっとした工夫で光の成分を調べることができるんだ!それってスペクトルっていうんだ!」ということを感じてもらえればいい。そんなカンジで講座がスタートしました。(※ そういえば、サンキャッチャーづくりを高校生と行ったことがあるのですが、そんな話も参加者に紹介したところ「え、つくってみたい」との声が!。さっそく次の講座内容はきまり…かな!?笑)

これがサンキャッチャー

問題:白熱電球の光を分光器で見たらどんなスペクトルが見えるでしょう。
 予想 
  ア.虹のような5~6色に見える。
  イ.だいだい色の光だけが見える。
  ウ.白っぽい光だけが見える。

 さて、今度は室内に戻って問題です。この「サイエンスシアター」は教育学者の故・板倉聖宣さんが提唱した「仮説実験授業」と同じような形で進行していきます。用意された問題に対して、参加者が予想を立てて、意見発表・討論し、実験で決着をつける。今回もそのような形で講座を進めていきます。最初の問題「白熱電球の光はどんなスペクトルか?」という問題に対して、年代も様々な参加者からはいろんな意見とともに、予想も分かれます。意見を聞くと、様々な意見が飛び出しました。

「太陽の光は透明だったけれど、白熱電球はオレンジっぽい光だから、イ(だいだい色)だよ」
「いや、光というものは、全部「虹のスペクトル」なんだよ」
「いやいや、太陽光は自然光だけれど、白熱電球は人工の光だよ。しかも白熱電球って名前からして白だもの!だから白!笑」
「いや、それはフェイクだよ。白熱電球だから白熱だなんて安易だよ!笑」「たしかに~!爆笑」

 こうして、この問題に限らず終始いろんな意見が飛び交いながら、時には参加者の意見に予想変更したり、小学生~高校生の意見に対して、オトナから「なるほどね~!カシコイ~!」「私じゃ思いつかないっ!」なんてリアクションが届いたり。
 そういえば、印象的だった発言としてこんなことがありました。
「私、参加者の意見を聞いて別の意見に予想変更しようとも思うんだけれど、やっぱり自分を信じたい気持ちもあるの。だから予想変更しない!」とある参加者が発言…。でも、実験結果で間違ってしまったときに「そうなんだ、すご~い!やった~!」と声をあげていたのです。その声に対して周りもウナウナうなづいていました。自分の予想も大事にしつつ、でも周りの意見もイイネと思い、結果に対して「周りへのスゴイ」と「それもあるかもと思った私へのスゴイ」が入り混じった「すごい」だったのでした。

問題1の正解は…「虹色」のスペクトル!


 そんなこんなで,講座も実施して1時間30分。小学5年生の子どももいることだし、ちょうど「ライトスコープでいろいろな印刷物やデジタル機器を見てみる」という個人作業の時間に差し掛かったので、休憩としました。当初は15分程度か?と伊藤さんと相談していましたが、こだわりの地産地消デザートなこともあり、準備に20分以上…(汗)。結局休憩は45分。これもやってみなければわからなかったこと。リソースに限りがあるようです(泣) 

手作りのワッフルと紅茶

●慌てる

 そんなこんなで、講座時間は残り30分となってしまいました。本来は2時間弱あった講座時間も、なんと1時間30分に短縮。そして後ろはずらせません。というのも、ボクの講座が終わった後は、伊藤さんが準備していた「ものづくり:ステンドグラスづくり」が控えていたのです!。
 でも、ここで焦ってはせっかくの講座もたのしさ半減!。講師のボクは、「あと30分なんて、プリントは配らずに現象と簡単な予想だけみんなで行い、どんどん実験していきましょうか」と声をかけました。参加者もウナウナ。テンポよく,予想を聞き、実験していきます。

炎色反応を分光器で見ると…!?


伊藤さん担当のものづくり

●やってみて

 伊藤さんのものづくりも30分押し、スタートも30分遅れたので、結局当初の計画より2時間30分も遅れて講座が終了しました。でも、年齢や立場も様々な中、たのしんで帰っていく様子が印象的でした。「先生、うちの子が通う中学で理科を教えてくださいよ…!」と参加者のお母さま。うれしい言葉です。参加者の中には普段は学校に通わず、自宅で過ごしているような子どももいたようです。今回の講座がポジティブな形で届いていればよいのだけれど…。
 中学教師であるボクの主戦場は学校現場です。そこでのたのしさや学びがいを届けるのがボクの役目。でも、たまにはこうやって学校外でたのしい授業を届けるというのも新鮮な気分です。伊藤さんとはその後の反省会で「来年度の科学教室は吹き矢でいく!?」「そもそもこのスペースをどうやって活用していく?」と話題がつきません。関心がある地域の方や大学生なども巻き込みながら、空き家というスペースの活用方法に思いをはせるボクたちなのでした。

(場合によっては無料で貸し出ししている場合もあります。東京・日野市でスペースをお探しの方は高野までご連絡を♪)


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たのしい教師へのトビラ

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