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1-2 アニメから学ぶ進路指導~宇宙よりも遠い場所~

これぞ 「今をたのしむ進路指導」 かな・・・!?
- 高校生とたのしんだアニメ「宇宙よりも遠い場所」-

 高校生に対する進路指導を考える中で,ふと思い出す言葉があります。教育学者の故・板倉聖宣先生の言葉です。

●おもしろくないことは勉強しない能力
教育学者とか経済学者,評論家といわれる人たちは,小さいときから勉強する習慣があったからいけないと思うんです。習慣があると,おもしろくないことまで勉強してしまいます。その結果,<人の意見に合わせる>ようになってしまうのです。…(中略)…,いろんな知識人とか学者という人がダメになっています。ぼくが気になる学力問題というのは,「そういうダメな人たちを育てたくない」ということです。どうすればいいか。「おもしろくないことは勉強しない能力」をつけることです。今,若い人たちが携帯電話で楽しそうに話しているでしょ。あれ,勉強じゃないですか。…(中略)…,携帯電話は楽しいからやってるんでしょ。「いけない」と言ってもやるでしょう。学校の授業が,携帯電話に負けているだけです。原子分子の勉強をやったあとに,「モルQ」という原子カードでトランプすると,子どもたちは夢中です。それって遊びですか,勉強ですか。「遊び」と「勉強」を,どうしてそんなに区別するの? みんな,予習や復習だけが勉強だと思っているでしょ。
「楽しさ」が一番-,これが大前提です。習慣で勉強するなんて,楽しくも学びがいもない。習慣的にやっている人は,ほどほどに勉強することを覚えているから,本当に勉強することがあってもやりません。エリートたちがヘタな勉強をして,ぼくらに「ヘタな知識」が入っちゃったら大変ですよ。「進路の勉強をする」なんて,あれ,脅迫だね。将来を考えるより,今を楽しくやっていればいいじゃない。「今がいま,楽しくないこどもがいる」ことがかわいそうです。ぼくは楽しさ最優先です。
(-「楽しく学びがいのある授業は可能か」-より『板倉聖宣の考え方』 仮説社) 


  現場の中学校・高校の先生に対しては過激な発言かもしれませんが…(汗)。でも,板倉さんの「将来のために今を犠牲にしない」という考えにボクも共感します。だからこそ,<脅迫>になりうる,かしこまった「進路指導(将来を考える)」のではなくて,過程(今)を楽しくしたいと思うのでした。

●アニメを観ながら
 そんな中,これから受験や就職活動を控える高校3年生と今観ているのは「宇宙(そら)よりも遠い場所」というアニメです。

ニューヨークタイムズ誌で表彰されたこの日本オリジナルアニメ。もともとは地学基礎という授業の中で,南極や地球のしくみを勉強しようと思って見始めたのですが,青春グラフィティアニメとして作られていて,だから?というわけでもないけれど,今の高校生にもキャリア的視点で見て欲しい点がいっぱいあるのでした。たとえば… 

【あらすじ】高校に入ったら何かを始めたいと思いながらも、なかなか一歩を踏み出すことのできないまま、高校2年生になってしまった少女・玉木マリ(たまき・まり)ことキマリは、とあることをきっかけに南極を目指す少女・小淵沢報瀬(こぶちざわ・しらせ)と出会う。高校生が南極になんて行けるわけがないと言われても、絶対にあきらめようとしない報瀬の姿に心を動かされたキマリは、報瀬と共に南極を目指すことを誓う。©YORIMOI PARTNERS

●監督の想い
いしづかあつこ もともとこの企画は,私が「頑張る女の子たちを描きたい!」と駄々をこねていたところから始まっているんです(笑)。そうなると「青春もの」だから,主人公たちは「女子高生」だよね,ということで,企画の骨格は早い段階で決まりました。ただ,そこから彼女たちに何を頑張らせるかは紆余曲折がありましたね。いろいろなアイデアがでて,あるとき「目的地が南極って面白いんじゃない?」という意見がポロっと出たんです。そうしたら花田さんも「旅ものをやりたいと思っていた」と仰って,それが本作のコンセプトとしてまとまりました。
(雑誌インタビューより)

地球の端っこを目指していく中で,主人公たち4人が見つけた小さな小さな感動をたくさん拾って大切に集めてみました。
 10代は永遠には続かない。仲間と過ごした特別な日々は残酷なまでに短くて,目に焼き付いた景色は涙が出るほど眩しくて。
 悲しいけれど,心が躍って幸せだった。そんな思い出を皆さんと共有できたらいいな,と思っています。
(ホームページ: 監督へのインタビューより)

●キャリア的視点…,たとえば…
◇やりたいこと・将来の夢がない →それは自分だけじゃなくて,多くの高校生だって一緒!(主人公のキマリだって一緒!)
◇でも… →なにがきっかけかはさておいて,「行動する」って大事!
(主人公だって,東京から広島まで飛び出した第1話!)
◇今の重要性 →もちろん将来を考えることも大事!周りの教師・オトナはそうやって「将来は?」としつこく聞いてくるかもしれない…。けれど,「今」も大事!(主人公だって「高校でこんなことしたい」といろいろ願っていた!)

そんな思いつき(しかも,もともとは地学教材としての意図 汗)で第一話を見せたところ,内容もスバラシイからでしょう。最初は友達と向かい合った座席でおしゃべりに花を咲かせていた高校生も,数分後は「シーン…」とみんな夢中で見るのです。しかもそれが毎話毎…。よく考えれば,教師が思いつきで「学習指導要領で教えると書いてあるから」という理由で,しかも日々の業務に追われながら短時間で考える授業よりも,数年間かけて構想を考え,10代を描くこの作品が心を打たないはずがありません…!(ってちょっと個人的感情が入っているな(汗))。キャリア的視点も大事だけれど,そんな視点で観なくたって純粋にたのしむ・感動できる,スバラシイ作品です。

●おおよその進め方
①「あらすじと「質問」を書いたプリント」を配る(写真右・最後は閉じる)②意見を全員に言ってもらったり,挙手や指名で出たものを黒板に書く
(ここまで教室/20分弱)③理科室に移動して作品視聴
(約23分/OPは飛ばす)④感想文を書いてもらい終了
 

他にも,作品画面をキャプチャーした画像を印刷した掲示物を黒板に貼りながら,主人公の気持ちを追っていったり…(国語か! 笑)。

●キマリの台詞を思い返す

一話:「高校に入ったらしたいこと…。日記をつける。一度だけ学校をサボる。あてのない旅に出る」
「いつもの学校から、私一人だけが飛び出して、あてのない旅に出る」
「私は旅に出る、今度こそ、旅にでる。いつもと反対方向の電車に乗り,見たことのない風景を見るために。怖いけど,辞めちゃいたいけど。意味のないことなのかもしれないけど。でも!」

二話:「なんかね,動いてる。私の青春、
動いてる気がする!」
「そう,こういうのだ。何かが起きそうで,何かを起こせそうで。毎日見ている景色が目まぐるしく変わっていって。」

四話:「はじめは誘われて…。でも決めたのはわたしです。いっしょに行きたいって。このまま高校生活が終わるの嫌だって。ここじゃないどこかに行きたいって…。でも,みんなと知り合って,観測隊の人たちの気持ちを知って,隊長と報瀬ちゃんのこと聞いて思いました。どこかじゃない。南極だって!」

◇人生も,進路選択も,きっかけは「親」や「友達」かもしれないけれど,最終に決めるのは「自分」。
→教師の言葉で伝えるのもイイけれど,こうやって同じ世代が登場する作品の方が伝わる瞬間もあるのでしょう(むしろそっちの方が… 汗)

●こんな場面も…
 「第8話」を観た時のことです。観る前に高校生たち(27人)に下記の質問を問いかけたのでした。一体どちらが多かったと思いますか?

【質問2】突然ですが,あなたは,「高校に進学する」という進路選択をする際,「自分で選んだ」のでしょうか?それとも「それしか選択肢がなかった」のでしょうか?理由は聞かないので,どちらかマルだけつけてみてください。ア.自分で選んだ   イ.それしか選択肢がなかった


 毎週,一緒に作品を観てきたボクにとっては,高校生たちに「積極的に「ア(自分で選んだ)を選んで欲しいな」」と思ったのですが,結果は(ア.19名)(イ.8名)でした(これが多いのか少ないのか…)。郡部の学校ならではの事情があるのかもしれないし,過去の自分だからキモチは変えられないと思うのかもしれません。それに,考えが急に変わったらまるでファシズムです(笑)。人生の選択やキモチの変化は「あるひとつの出来事」で一瞬に変わるというよりかは,いくつもの考えや出来事があって,徐々に変わっていくのかもしれません。

 その後,8話の中で,船の揺れに対応できない仲間の弱音に対して「頑張るしかないでしょ。それしか選択肢がないんだから」とつぶやく仲間のもう一人。それに対して,主人公のキマリが語ります。「そうじゃない。選択肢は,ずっとあったよ。でも,選んだんだよ。ここを。選んだんだよ。自分で!」と。オトナでも組織や仕事に対して文句を言いながら過ごすことも多々あるけれど,それも,おおもとはその道・職業・企業を「自分で選んだ」んですよね。前提として。それをそのまま受け入れるか,変えようとするかはさておいて…。

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●高校生からの感想
★☆おもしろい。かわいい。南極に行こうってなるのがすごい。自分だったらついていこうと思わない。何かに挑戦したくなってくる(岩倉弥愛)。
★☆本当いけるのか考えられない。あんなに寒くて,何もない場所に行って,何したいんだろうって思った(菅悠花)。
とても感動した。自分の今とリンクしたこともあって,自分も変わりたいなと思った。南極がんばってほしい!!(森)

●こんな取り組みも
 「第6話」では,四人で南極まで向かう途中でパスポートを紛失し,「旅の最優先は?」と仲間に問いかけるシーンが。

「気を遣うなって言うならはっきり言う!気にするなって言われて気にしないバカにはなりたくない!先に行けって言われて先に行く薄情にはなりたくない!4人で行くって言ったのにあっさり諦める根性なしにはなりたくない!4人で行くの!この4人で!それが最優先だから!」
(6話 本編 より)


- 感動的なシーンなのですが,詳細はここでは置いといて…(笑),高校生たちにも,「旅」ではなくて「仕事選択」の上で優先順位の一番上に来るものを選んでもらいました(下記)。


【質問8】
本編の中で,「<最優先なもの>は?というフレーズが何回かでてきます。突然ですが,これから就職する・仕事を選ぶ上で,優先順位の「一番上」にくるものはなんですか?ひとつだけ選んでみましょう。

 

 そこで実施したのは,「キャリアコンサルタント講習会」で体験した「カードソート(日本マンパワー)」でした。生徒が15種類のカードをもとに,優先順位の一番上を選び,どれを選んだか周りの生徒にもわかるように黒板に目印の磁石を貼っていきます(写真)。

 選んでいく中で,「今の一番はこれ!」(とりあえず18歳の現段階では)と「とりあえず決めることのススメ」と合わせて「価値観は人によって異なる」(他人と自分は違う。仕事観ももちろん違う)というのが体験的に伝わればいいな(ちょっとアニメから脱線しました)。予想通り,人によって最優先にするものはずいぶん違います。そこも楽しめた気がします(違いを楽しむ!!)。

●フィクションじゃなくて
 そうして,アニメを通して南極やキャリアを学んできましたが,あと一歩,「現実感」を味わってもらいたいと思いました。構想に3年を費やして,綿密に下調べも取材もされた本作品。だからこそ,「アニメで触れたこと・学んだことは<リアル>なんだ」ともっと感じてもらいたかったのです。そこでお願いしたのは,現在,十勝毎日新聞社に勤めている塩原さん。面識はなかったのですが南極観測隊に参加した経験があり,思わず「学校で講話してもらえませんか!?」とお願いをしたのでした。

 まったく面識はなかった塩原さんですが,快く引き受けてくださり,2時間の講話をしていただきました。「南極に向かう際は本当に船が揺れる」「何百回もラミングして氷を割りながら進む(撮影動画を見ながら)」「南極の氷はホントにプチプチする(極地研究所から氷を取り寄せて…)」など,アニメのシーンが現実の現象として紹介されると「アニメと一緒だ!」という感想がいくつも届くのでした。


●高校生たちの感想文
★☆多くて3000回も厚い氷につっこんでいくのはビックリだけど,思ったよりアニメと同じ感じだった。船のゆれの映像みたら海の氷がめっちゃ入ってきてて,そうとうゆれてるんだろうなと思った。ゆれはムリだけど,こういう生活もたのしそう。でも,もっと氷の上であそんだりできると思ったけど仕事ばかりだった。はじめて知ったことばかりで面白かった

★☆アニメを観る限り,自由で楽しそうにしてるなって思うけど,やっぱり仕事だったり,勉強だったり大変なんだなと思った。日本にいないから,業やイベントがないけど,みんなで企画したりしていて楽しそうだと思った。

●想いは伝える
一方で,アニメを観たことがない生徒(地学基礎を受講していない生徒)の存在や,100分講話の中でも難しい話もちらほど登場するのを必死に聞き続ける生徒の様子を見て,ボク自身の想いも伝えたくなりました。「学ぶ視点」というのかな?「全部わかる(たのしい)と思えなくても全然平気!自分を責めるな!(自己肯定感下げるな!)」とでも言いたかったのかな?(笑)。何はともあれ,自分の言葉で想いを語ることも意識してするようにしています(ちょっとうまく言葉にできなかったな)。

●講話を振り返る 
夏休み前なのでもうずいぶん前のように感じるかもしれませんが,7月19日(金),ほぼ一か月前に十勝毎日新聞の塩原さんを呼んで南極について講話をしてもらいました。
 塩原さんが終わった後の第一声は「あー,話すのって難しいな!」でした。普段取材する側ですから,高校生の前で話すことはきっと少ないのでしょう(今回は,ネットで「南極 観測隊 帯広」で検索して,たまたま塩原さんがヒットし,メールでダメもとでお願いした 笑)。きっと伝えたいこと,話そうとしていたことがうまく伝えられた,とは思わなかったのでしょう。
 みなさんはどうでしたか?基本的にはずっと話を聞く形になった&ムズかしい話もあった100分講話。書いてくれた感想文は一枚残らず塩原さんに渡しましたよ。「たのしかった」という人もいれば,書かれていないけれど「うーん退屈した」という人も(もしかしたら)いたかもしれません。そう思った人がいたら,それは個人の感情だから仕方ありません。

●「講話の内容」以外に伝えたいこと

まず,地学基礎を取っている人たちにとって伝えたかったことは「南極の知識・現場の様子」もそうですが,「アニメ(フィクション)だけど,リアルにあるんだな」ということでしょうか。感想文の中にも何人か書いてくれる人がいました。きっとアニメで観た内容・これから見る内容が講話の中にたくさん登場したかと思います。アニメ・漫画・ゲームが好きな人も多いこの大樹高校の生徒たち。でもそんなサブカルチャーから「学ぶ」・「何かのきっかけをもらう」こともたくさんあることもあるはず。(あと3話残っています。一緒にたのしみましょう)。*
 別の授業から来た人たちは,よくわからない部分も多かったかもしれませんが,礼儀正しく聞いてくれましたね。また,氷や感想文・座席紙等の配布手伝いしてくれた人もいて,とても助かりました。みなさんにも,「いろんな分野から,文学や時事問題だって考えることができる」ことは伝えたいことかもしれません。合わせて「いろんな生き方があるんだな」ということはどの科目を取っていようが高校生に伝えたいこと。そんなキモチをちょっとでも味わえたのなら主催したボクとしてはうれしいです。


●最終回を迎えて
 そんな,作品「宇宙よりも遠い場所」も最終回を迎える日が来ました。巷では,「無駄なシーンがひとつもない!テンポがイイ!感動する青春アニメ!」という評価が多いけれど,一緒に観てきたボク自身もまったく同じ感想です。「飽きられたら撤退しよう」と思いながら始めたが,まったく心配することなく最終日を迎えました。ボクはこんな言葉とともに,本編をすぐに見始めました。

…最終話は,あまり事前に考えることをせずに見ましょう。終わったあとに,最終話で登場するエピローグの言葉や報瀬(しらせ)のスピーチ等を文字にしているので,紙で配ります。
 あわせて,監督の言葉も載せました。全13話をたのしくすごせたのも,スタッフ含め,監督のおかげです。でも,実は授業で使う(使った)ことはまだ報告していません(汗)(←ホントは事前に言うべきだよね…)。
というわけで,見終わった後の時間を使って「授業で高校生たちとたのしく観ました」とみんなで手紙を書いて,集合写真を撮って,監督に送ろうと思っています。あまりかしこまる必要はありません。自分の視聴後の感想を自由に書いてみてください。アニメや映画といったエンターメイト作品が,視聴者のココロも動かすことは, 伝えるときっと喜んでくれるはずです。

(最終日に配ったプリント)
●最終話/4人のエピローグ(語り)
旅に出てはじめて知ることがある。この景色がかけがえのないものだということ。
自分が見ていなくても、人も世界も変わっていくこと。
何もない一日なんて存在しないのだということ。
自分の家ににおいがあること。
それを知るためにも足を動かそう。
知らない景色が見えるまで足を動かし続けよう。
どこまで行っても、世界は広くて、新しい何かは必ず見つかるから。ちょっぴり怖いけどきっとできる。
だって、同じ想いの人はすぐ気づいてくれるから。

高野:みんなにとっての「足を動かす」ってなんでしょうね。ボクも考え続けます。自分なりの答えが見つかったら教えてくださいね。

●最終話/報瀬(しらせ)のスピーチ
みなさんご存じのとおり、私の母は南極観測隊員でした。
南極が大好きで夢中になって家を空けてしまう母を見て,実は私は南極に対していいイメージを持てませんでした。
私はそんな自分の気持ちをどうにかしたくてここに来たんだと思います。
空よりも遠い場所,おかあさん,いえ,母はこの場所をそう言いました。ここはすべてがむきだしの場所です。時間もいきものも,こころも。守ってくれるもの,隠れる場所がない地です。私たちはその中で,恥ずかしいことも隠したいことも全部さらけだして,泣きながら裸でまっすぐに自分自身に向き合いました。
一緒にひとつひとつ乗り越えてきました。
そしてわかった気がしました。
母がここを愛したのは,この景色と,この空と,この風と,同じくらいに,仲間と一緒に乗り越えられるこの「時間」を愛したんだと。
何にも邪魔されず,仲間だけで乗り越えていくしかないこの空間が大好きだったんだと。
私はここが大好きです。越冬がんばってください。必ずまた来ます。ここに。

高野:学校も,ある意味「仲間で乗り越えていくしかない空間」ともいえるのかも…。オトナになってからの方がきっと自由があります(責任もあるけれど)。学校の良さもあれば,社会の良さもある。もし学校でやり残したことがあればぜひ残り数か月でぜひ!もし「もう学校いいかな…」と思っている人がいたら,ぜひ自由と責任の隣り合わせ・社会人生活をたのしみにしてくださいね。

●いしづかあつこ監督
この作品が「女子高生もの」と決まった時点で、どこまで泥臭くするかというリアリティーラインが最初のポイントになりました。今回私が女子高生ものを描きたいと思ったのは、そもそも自分が高校生のとき友達とどういう付き合いをしていたかを考え、その頃の友達が見て面白いと思ってくれるものを作りたいと思ったからでした。それで、アニメだからと開き直らずに、もっとちゃんとした生っぽい人間ドラマをやりたいという話を脚本の花田十輝さんにしました。そこで、女の子の嫉妬心を描いた第5話のような少し重めの話(キマリの親友,めぐっちゃんと絶交!→絶交無効する話)もきちんとやる作品にしようと覚悟を決めました。その上でキマリのドラマを描いていったときに、彼女が南極を目指すに当たって成長するポイントはどこか考えると、「めぐっちゃん離れ」だったんです。特にこの年齢の自立できていない子どもにとって、友達とのつながりはどうしても依存関係になりがちだと思います。そんなキマリがいざ自立するというのが、地球の端っこを目指す上で非常に大事なドラマだろうと思い、思い切ってこのエピソードを入れてみました。そうしたら案の定、30代以上の私たちの世代からは共感を得られたんですが、逆に10代、20代の人たちにとってはつらいものだったと思います。多くの人が、まだ自分の親友は良い人だって信じているじゃないですか(笑)。単純に、裏切られた経験がほとんどないと思うんです。そういった人たちにとっては、きっと受け入れ難いドラマだろうなと思って作っていました。
 10代、20代前半の頃なんて、自分のことで精いっぱいだと思うんです。だから自分自身の性格や内面を、客観的に見ているようで見れていない。そうした完全に自立する前の状態において、心の中に占める友達のシェアってすごく高いと思います。その友達に対して直接向き合うことは、怖くてなかなかできないですよね。でもそこで怖くてもきちんと向き合ったのが、めぐっちゃんなんです。だからこのエピソードを見て、みんなもう少し素直になってくれたらいいかなとは思います。私は友達を失いたくないのでできませんけど(笑)。

旅に出てみると、もちろん旅の間に得られるものもあるんですが、帰ってきてからも続くものってすごく大きいと思っています。これは、制作にあたって南極観測隊の方々に取材している中で感じたことです。彼らは南極から帰ってきて何年たっても家族なんですよね。南極料理人の方が経営している「じんから」というお店に伺ったときも、たまたまその場に居合わせたOBやOGが当時さながら、家族が食卓を囲むように盛り上がるという空気感を感じました。
 きっとキマリたちも、旅を終えて帰ってきてからの絆は非常に強いだろうなという余韻を残したいし、そう想像してほしいと思っていました。だからこれを見た人たちも何か行動を起こして、そこで得られた友情や絆、新しい人間関係を大切にしてほしいですね。

そうして最終話を視聴した後,記念写真を撮り,「監督への手紙を書く」,という時間に。

全13話を終えてパシャリ!


途中,「予告されていない写真撮影は不機嫌になる女子(よほど美意識が高いのだろう 笑)」が一人いて不安になったのですが,その子が書いた監督への手紙が下記の文章でした。

いしづかあつこ監督へ
アニメを観て,自分は南極に行きたい!と思っても,やっぱり友達と行かないと楽しくないんだろうなぁと思いました。4人それぞれ抱えていることがあって,皆友達のことで悩んでたりして,最初は皆他人だったのに,ここまで仲良くなれるのはすごいなと思いました。私も友達だと思ってた人に裏切られ??今は関わっていませんが,学校の友達は仲良くしてくれていい事も悪い事も素直に言ってくれる友達がいて,毎日楽しいです。私もいつか,友達だけで,どこか遠い場所に行ってみたいなと思いました。でも,友達だけ…とか一人でどこか行くのはやっぱり不安で怖いと思ってしまいます。でも行動を起こさないと何も始まらないと思うので,思い出作りに,勇気を出して友達とどこか行ってみたいです。報瀬も,最初友達もいなくて,お母さんも亡くなって,辛かったと思うけど,一人でも南極行きたいっていってたし,そのために100万円頑張って貯金しててすごいなと思ったし,帰ってきた時のしらせを見ると強くなったと思いました。違う作品も見てみたいと思いました。次の作品も楽しみにしています!!

 機嫌の悪さをひきずらないのがさわやかです。写真を撮られるのが嫌だっただけで,作品自体はたくさん感じるものがあったのでしょう。そうやって割り切れるところはもう高校3年生は大人です。

●他の子たちの手紙(抜粋)
いしづかあつこ監督へ
「宇宙よりも遠い場所」を観ていると,自分も旅に出たくなり,挑戦したくなりました。友情もリアルで何度か涙しそうになりましたが,学校の授業中なのでこらえました。お家で観ていたら,きっと号泣でした。4人のように自分も強くなりたいと思いました。ふだんあまりアニメはみませんが,この作品は誰にでも薦めたくなるような,なにか考えさせられるいいアニメだと思います。キャラクターがかわいくて内容もおもしろかったです。私はキマリの妹さんがお気に入りです。

自分も高校に入ったら何かを始めてみたいと思っていた人間です。このアニメを観て今からじゃもう遅いと思うので何か時間や機会があれば始めてみようかなって。南極に行きたいとかそんな大きな夢はないけど自分もどこかあてのない旅に出掛けてみたいと思いました。アニメとか全く興味なくて、むしろ嫌いな方ではあったけど,このアニメは面白くて感動しました。ありがとうございました。

最初は全く南極に興味がなかったけど,このアニメを観て南極に行ってみたいと思うようになりました。自分と変わらない高校生が南極に行くことによって沢山のことを経験して変わっていき,自分も何かしたい,遠い所に行きたいと思わせてくれるアニメでとても楽しかったです。友達と直接向き合うのはすごい大切なことだし,友情ってすごいなと思いました。自分も何かチャンスがあるときは色々なことに挑戦していこうと思います!

- 生徒と一緒に13回見続けたこの作品。正直,「面白かったから一緒に見よう~」と,「ただオススメしているだけ」というキモチもあったのですが,「アニメ良かった~」以外にもたくさんの感情を持って見てくれたようです。特に本作品は高校2年生のそれぞれの悩みをかかえる女子高生たちが主役。同じ境遇として自分と重ねて見る子も多かったのかもしれません。

(終わりに)
 今回の取り組みが「今を楽しむ進路指導」になったかどうかはわからないけれど…(汗),高校生が書いてくれた感想文や監督への手紙を読む限り,今の生き方・これからの生き方をいろいろ感じてくれたのではないかと思います。
 …と,こんな実践例を紹介されても「フツーの学校でマネできるか!」と言う同業者が大半でしょうね(汗)。「授業の13時間分を使う」となると
なかなか難しいかもしれないけれど,週1回の放課後教室や「ある一部分のエピソードや台詞を進路通信・学級通信等に使う」ことはできそうです。それに,高校生に歓迎されているモノは,アニメ等のサブカルチャー含めてスッと彼らの中に入っていきそう(もしかしたら,非常識と言われている学校現場の教師の言葉より…笑)
 「誰の言葉なのか?」にこだわらず,子どもに歓迎されるコンテンツを…。そんなことを考えていたら,大学で理科教育法を講義してくれた教授が休み時間に「最近,NHKの『真夜中のパン屋さん』ってドラマを観てる。ああいうドラマって学ばせてくれるよね」とつぶやいていたことを思い出しました。ジャンルを問わず,子どもたちに喜ばれる・響くコンテンツを提供できれば…。本資料を書いているうちに「これは「進路指導」なのか!?」と相当ギモンにはなってきましたが,そんなことを思うのでした(笑)

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