これぞ 「今をたのしむ進路指導」 かな・・・!?
- 高校生とたのしんだアニメ「宇宙よりも遠い場所」-
高校生に対する進路指導を考える中で,ふと思い出す言葉があります。教育学者の故・板倉聖宣先生の言葉です。
現場の中学校・高校の先生に対しては過激な発言かもしれませんが…(汗)。でも,板倉さんの「将来のために今を犠牲にしない」という考えにボクも共感します。だからこそ,<脅迫>になりうる,かしこまった「進路指導(将来を考える)」のではなくて,過程(今)を楽しくしたいと思うのでした。
●アニメを観ながら
そんな中,これから受験や就職活動を控える高校3年生と今観ているのは「宇宙(そら)よりも遠い場所」というアニメです。
ニューヨークタイムズ誌で表彰されたこの日本オリジナルアニメ。もともとは地学基礎という授業の中で,南極や地球のしくみを勉強しようと思って見始めたのですが,青春グラフィティアニメとして作られていて,だから?というわけでもないけれど,今の高校生にもキャリア的視点で見て欲しい点がいっぱいあるのでした。たとえば…
●キャリア的視点…,たとえば…
◇やりたいこと・将来の夢がない →それは自分だけじゃなくて,多くの高校生だって一緒!(主人公のキマリだって一緒!)
◇でも… →なにがきっかけかはさておいて,「行動する」って大事!
(主人公だって,東京から広島まで飛び出した第1話!)
◇今の重要性 →もちろん将来を考えることも大事!周りの教師・オトナはそうやって「将来は?」としつこく聞いてくるかもしれない…。けれど,「今」も大事!(主人公だって「高校でこんなことしたい」といろいろ願っていた!)
そんな思いつき(しかも,もともとは地学教材としての意図 汗)で第一話を見せたところ,内容もスバラシイからでしょう。最初は友達と向かい合った座席でおしゃべりに花を咲かせていた高校生も,数分後は「シーン…」とみんな夢中で見るのです。しかもそれが毎話毎…。よく考えれば,教師が思いつきで「学習指導要領で教えると書いてあるから」という理由で,しかも日々の業務に追われながら短時間で考える授業よりも,数年間かけて構想を考え,10代を描くこの作品が心を打たないはずがありません…!(ってちょっと個人的感情が入っているな(汗))。キャリア的視点も大事だけれど,そんな視点で観なくたって純粋にたのしむ・感動できる,スバラシイ作品です。
他にも,作品画面をキャプチャーした画像を印刷した掲示物を黒板に貼りながら,主人公の気持ちを追っていったり…(国語か! 笑)。
◇人生も,進路選択も,きっかけは「親」や「友達」かもしれないけれど,最終に決めるのは「自分」。
→教師の言葉で伝えるのもイイけれど,こうやって同じ世代が登場する作品の方が伝わる瞬間もあるのでしょう(むしろそっちの方が… 汗)
●こんな場面も…
「第8話」を観た時のことです。観る前に高校生たち(27人)に下記の質問を問いかけたのでした。一体どちらが多かったと思いますか?
毎週,一緒に作品を観てきたボクにとっては,高校生たちに「積極的に「ア(自分で選んだ)を選んで欲しいな」」と思ったのですが,結果は(ア.19名)(イ.8名)でした(これが多いのか少ないのか…)。郡部の学校ならではの事情があるのかもしれないし,過去の自分だからキモチは変えられないと思うのかもしれません。それに,考えが急に変わったらまるでファシズムです(笑)。人生の選択やキモチの変化は「あるひとつの出来事」で一瞬に変わるというよりかは,いくつもの考えや出来事があって,徐々に変わっていくのかもしれません。
その後,8話の中で,船の揺れに対応できない仲間の弱音に対して「頑張るしかないでしょ。それしか選択肢がないんだから」とつぶやく仲間のもう一人。それに対して,主人公のキマリが語ります。「そうじゃない。選択肢は,ずっとあったよ。でも,選んだんだよ。ここを。選んだんだよ。自分で!」と。オトナでも組織や仕事に対して文句を言いながら過ごすことも多々あるけれど,それも,おおもとはその道・職業・企業を「自分で選んだ」んですよね。前提として。それをそのまま受け入れるか,変えようとするかはさておいて…。
●こんな取り組みも
「第6話」では,四人で南極まで向かう途中でパスポートを紛失し,「旅の最優先は?」と仲間に問いかけるシーンが。
- 感動的なシーンなのですが,詳細はここでは置いといて…(笑),高校生たちにも,「旅」ではなくて「仕事選択」の上で優先順位の一番上に来るものを選んでもらいました(下記)。
そこで実施したのは,「キャリアコンサルタント講習会」で体験した「カードソート(日本マンパワー)」でした。生徒が15種類のカードをもとに,優先順位の一番上を選び,どれを選んだか周りの生徒にもわかるように黒板に目印の磁石を貼っていきます(写真)。
選んでいく中で,「今の一番はこれ!」(とりあえず18歳の現段階では)と「とりあえず決めることのススメ」と合わせて「価値観は人によって異なる」(他人と自分は違う。仕事観ももちろん違う)というのが体験的に伝わればいいな(ちょっとアニメから脱線しました)。予想通り,人によって最優先にするものはずいぶん違います。そこも楽しめた気がします(違いを楽しむ!!)。
●フィクションじゃなくて
そうして,アニメを通して南極やキャリアを学んできましたが,あと一歩,「現実感」を味わってもらいたいと思いました。構想に3年を費やして,綿密に下調べも取材もされた本作品。だからこそ,「アニメで触れたこと・学んだことは<リアル>なんだ」ともっと感じてもらいたかったのです。そこでお願いしたのは,現在,十勝毎日新聞社に勤めている塩原さん。面識はなかったのですが南極観測隊に参加した経験があり,思わず「学校で講話してもらえませんか!?」とお願いをしたのでした。
まったく面識はなかった塩原さんですが,快く引き受けてくださり,2時間の講話をしていただきました。「南極に向かう際は本当に船が揺れる」「何百回もラミングして氷を割りながら進む(撮影動画を見ながら)」「南極の氷はホントにプチプチする(極地研究所から氷を取り寄せて…)」など,アニメのシーンが現実の現象として紹介されると「アニメと一緒だ!」という感想がいくつも届くのでした。
●想いは伝える
一方で,アニメを観たことがない生徒(地学基礎を受講していない生徒)の存在や,100分講話の中でも難しい話もちらほど登場するのを必死に聞き続ける生徒の様子を見て,ボク自身の想いも伝えたくなりました。「学ぶ視点」というのかな?「全部わかる(たのしい)と思えなくても全然平気!自分を責めるな!(自己肯定感下げるな!)」とでも言いたかったのかな?(笑)。何はともあれ,自分の言葉で想いを語ることも意識してするようにしています(ちょっとうまく言葉にできなかったな)。
●「講話の内容」以外に伝えたいこと
●最終回を迎えて
そんな,作品「宇宙よりも遠い場所」も最終回を迎える日が来ました。巷では,「無駄なシーンがひとつもない!テンポがイイ!感動する青春アニメ!」という評価が多いけれど,一緒に観てきたボク自身もまったく同じ感想です。「飽きられたら撤退しよう」と思いながら始めたが,まったく心配することなく最終日を迎えました。ボクはこんな言葉とともに,本編をすぐに見始めました。
高野:みんなにとっての「足を動かす」ってなんでしょうね。ボクも考え続けます。自分なりの答えが見つかったら教えてくださいね。
高野:学校も,ある意味「仲間で乗り越えていくしかない空間」ともいえるのかも…。オトナになってからの方がきっと自由があります(責任もあるけれど)。学校の良さもあれば,社会の良さもある。もし学校でやり残したことがあればぜひ残り数か月でぜひ!もし「もう学校いいかな…」と思っている人がいたら,ぜひ自由と責任の隣り合わせ・社会人生活をたのしみにしてくださいね。
そうして最終話を視聴した後,記念写真を撮り,「監督への手紙を書く」,という時間に。
途中,「予告されていない写真撮影は不機嫌になる女子(よほど美意識が高いのだろう 笑)」が一人いて不安になったのですが,その子が書いた監督への手紙が下記の文章でした。
機嫌の悪さをひきずらないのがさわやかです。写真を撮られるのが嫌だっただけで,作品自体はたくさん感じるものがあったのでしょう。そうやって割り切れるところはもう高校3年生は大人です。
- 生徒と一緒に13回見続けたこの作品。正直,「面白かったから一緒に見よう~」と,「ただオススメしているだけ」というキモチもあったのですが,「アニメ良かった~」以外にもたくさんの感情を持って見てくれたようです。特に本作品は高校2年生のそれぞれの悩みをかかえる女子高生たちが主役。同じ境遇として自分と重ねて見る子も多かったのかもしれません。
(終わりに)
今回の取り組みが「今を楽しむ進路指導」になったかどうかはわからないけれど…(汗),高校生が書いてくれた感想文や監督への手紙を読む限り,今の生き方・これからの生き方をいろいろ感じてくれたのではないかと思います。
…と,こんな実践例を紹介されても「フツーの学校でマネできるか!」と言う同業者が大半でしょうね(汗)。「授業の13時間分を使う」となると
なかなか難しいかもしれないけれど,週1回の放課後教室や「ある一部分のエピソードや台詞を進路通信・学級通信等に使う」ことはできそうです。それに,高校生に歓迎されているモノは,アニメ等のサブカルチャー含めてスッと彼らの中に入っていきそう(もしかしたら,非常識と言われている学校現場の教師の言葉より…笑)
「誰の言葉なのか?」にこだわらず,子どもに歓迎されるコンテンツを…。そんなことを考えていたら,大学で理科教育法を講義してくれた教授が休み時間に「最近,NHKの『真夜中のパン屋さん』ってドラマを観てる。ああいうドラマって学ばせてくれるよね」とつぶやいていたことを思い出しました。ジャンルを問わず,子どもたちに喜ばれる・響くコンテンツを提供できれば…。本資料を書いているうちに「これは「進路指導」なのか!?」と相当ギモンにはなってきましたが,そんなことを思うのでした(笑)