壁
カリカリカリ
壁の中から音がしていた。
母はネズミだと言った。
引っ越ししても、やはりその音はした。
母は、どんな家でも壁の中にはネズミがいるものだ、と言っていた。
だが、友だちの家でそういう音が聞いたことはなかった。
祖父母の家にしばらくあずけられていたときも、その音はしなかった。
母が退院して、しばらく祖父母の家に一緒に住むことになったとき、またその音がしはじめた。
カリカリカリ
祖母はその音にじっと耳をかたむけていた。
もしかして、以前にもそのようにその音に耳をすましていたのだろうか、とおもえた。
もしかしたら祖母は、あの音からなにかがわかるのかもしれない。
おそらく、母に関するなにかが。
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