「人の助言はちゃんと聞くべき」は時代遅れ

先日、母が「やっぱり、人の言うことはちゃんと聞くべきだ」と言った。

ここでの「言うことを聞く」は、指示に従うというよりは、助言に耳を傾けるというニュアンスである。

進学、就職、結婚など、ありとあらゆる場面で的外れな助言をかましてきた母からそう言われて、私はつい苛立ってしまった。


私は30年近く生きてきて、「人の助言は聞くべき」とは到底思えない。

むしろ「人の助言を真に受けすぎるな」と思うのである。


まず、助言する側の人が世間知らずだったり、深く考えずに発言している場合が非常に多い。

私の志望校をわざわざ聞き出して「そんな大学、学年の上位1割くらいには入れないと行けないじゃないのよ!」「行きたい大学じゃなくて行ける大学に行くんだよ!」と言い放った養護教諭は、言われる側の私の気持ちを一切考慮していない上、そもそも私の実際の成績については全く知らない。

おそらく、「ろくに授業も出られないような奴なら成績も悪いに決まっている」くらいに思っていたのだろう。(ちなみに当時授業に出られなかった原因は過敏性腸症候群で、そのことは養護教諭も知っていた)


大学の学生相談室のカウンセラーは、私が就活に意欲を見せているにもかかわらず、しきりに派遣社員を勧めてきた。

履歴書を出せば派遣先を紹介してもらえてまともに就活をする必要も無く、仕事も簡単な作業しか任されないため、派遣社員は短期的に見れば楽だろう。

しかし、年を取れば取るほど状況は厳しくなる。
派遣社員は簡単にクビを切られる。若ければ次の派遣先もすぐに見つかるだろうが、年を取ればそうはいかなくなる。それで転職しようとしても、経験が重視される転職市場では、派遣社員として簡単な仕事しかしてこなかった中年女が苦戦するのは目に見えている。

そう考えれば、新卒で派遣社員という選択肢がいかに安易か分かるだろう。

そんな安易な選択肢を平気で推してきたカウンセラーも非常勤という立場で、カウンセラーという職業上、これまでに正社員として就職した経験がないのかもしれない。

教員やカウンセラーなど、人と深く接する職業の人に限って案外世間ズレしていて、人を傷つけることを平気で言うことも多いように思う。


また、人の助言を聞くにあたっては、まず相手の立場を考慮すべきである。

つまり、自分がどう動けば相手が得をするかを意識した方がいいということだ。

私は高校時代、担任教諭に私立専願で東京の有名私立大学を目指したいと伝えたところ、「私立専願で成功する人はほとんどいない。地方の国立大学を受けた方がいい」と言われた。

地方では国立大学至上主義が未だ蔓延っており、高校も国立大学の合格率を上げることを第一に考える。
そのため、私立専願で国立大学を受けない私は良い顔をされなかったのだろう。

担任は「私立専願で成功する人はほとんどいない」と言ったが、都内の高校では私立専願という選択肢はごく一般的であり、大手予備校では私立専願向けのコースも普通に用意されている。

つまり、私立専願自体が難しいのではなく、国立大学に進学してほしいという意図から「成功する人はほとんどいない」と言ったのである。


まず、「相手は自分のことを思って助言してくれているはず」という思い込みは捨てるべきだ。

自分に近しい人ほど利害関係が発生しやすい。
例えば親もそうだ。自分の子どもだからといって、子ども本人の意思をないがしろにして、自分の思い通りの進路を歩ませることだけを考えている親も大勢いる。

だからこそ、自分がどう動けば相手は得をするのかという視点を持つことが大切だと思う。

「頑固だ」とか「あなたは人の話を聞かない」と人格を否定し、自分が間違っていると思い込ませて扇動しようとするパターンもある。


もう1つ思ったのが、「人の助言は聞くべき」と言った母とは世代が全く違うということだ。

現在60代の母が若い頃は、情報を得る手段が今と比べると極端に少なかったはずだ。

そうなると、自分より長く生きている周りの大人の助言に頼るしかなかったのだと思う。


しかし現代では、インターネットを通じて幅広い情報にアクセスし、多種多様な意見を取り入れることができる。

近しい人の助言はもちろん役に立つ場合もあるが、上に挙げたように全く的を得ていなかったり、自分の思い通りに動かしたいだけの場合も多々ある。

だから、人の助言は聞いた上で、個人の意見の1つとして捉えるくらいでいいのではないだろうか。

今の時代に本当に大切なのは、人の助言を素直に受け入れることではなく、できるだけ多くの情報や幅広い人の意見を集めて、自分の頭で判断するスキルだと思う。


もちろん、私が今言っていることもしがない一個人の意見にすぎない。

ただ言いたいのは、素直な情弱が馬鹿を見るということだ。

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