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「AI 時代に求められる新しい教育の形とは?」STEMON中村一彰×炭谷俊樹トークライブレポート

「探究型」や「アクティブ・ラーニング」などと並び、変革期を迎えている教育業界のキーワードの1つである「STEM教育」。

「STEM教育」とはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字をとったものです。 理系やIT分野は苦手という保護者や教師にとっては、聞くだけで気が重くなってしまう単語ではないでしょうか。

ですが「STEM教育」は、単なる「理系教育」ではありません。これからのAI時代に「自分らしくいきいきと生きていくために必要な力」を育む教育として、非常に有効であると、STEM教育スクールを主宰する中村さんは言います。

では、「AI時代にいきいきと生きていくために必要な力」とは、どういう力なのか。STEM教育では、どのような力が伸ばせるのか。そのために、公教育・民間教育・保護者が、それぞれの立場から何ができるのか、考えました。

中村一彰
1978年埼玉県生まれ。埼玉大学 教育学部卒業後、民間企業に就職。大手企業を経てITベンチャー企業に転職。創業期から東証一部上場までの成長期にて新規事業開発や人事責任者を担当した際に、「学び続ける力」や「IT教育の重要性」を感じ、教育事業を行う株式会社ヴィリングを創業。自分が求める教育プログラムを探しに、当時2歳の娘を連れ、日本や世界各地の教育現場を訪れた。試行錯誤しながら自身が理想とするプログラムの開発を続け、現在では、日本初のキッズ向けSTEM教育スクールSTEMON主宰。2017年度小金井市前原小学校理科教員、東京都プログラミング教育推進事業者、大阪市プログラミング教育推進事業者、2児の父親。著書:「AI時代に輝く子ども」(CCCメディア出版)

炭谷俊樹
神戸情報大学院大学学長、ラーンネットグローバルスクール代表。1960年神戸市生まれ。マッキンゼーにて10 年間日本企業及び北欧企業のコンサルティングに携わる。 新人コンサルタント採用・研修の責任者も担当。デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、阪神・ 淡路大震災後の1996年、神戸で子どもの個性を活かす 「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。1997 年、大前研一氏とともに企業のビジネスリーダー育成事業を創業、2005年よりビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科教授(2010年より客員教授)。2010年に神戸情報大学院大学学長に就任。3歳の幼児から 企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。東京大学大学院理学系研究科修士(物理学専攻)。著書に『第3の教育』(角川書店)『ゼロからはじめる社会起業』(日本能率協会マネジメントセンタ ー)などがある。学びを探究するメディア『Q』責任編集 。


1. AI時代に必要な3つの力

中村:STEMONでは、AI時代に必要な力として「ゼロイチ力」「初動力」、そして「学び続ける力」を育むことを目指しています。

まず、「初動力」とは、初めからゴールが見通せていなくても第一歩を踏み出せる力のことです。できるイメージがあまり持てなくても「まずは一歩やってみよう」「僕ならできるはずだ」と踏み出せる人と、踏み出せない人とでは、学びの量が違ってきます。「まずやってみよう」と踏み出せるかどうかで、学び続けられるかどうかが、変わってくる。

「ゼロイチ力」は新しいものを作る力です。多様で豊かな社会では、多様なニーズに合わせた小さなイノベーションをたくさん起こしていくことが必要になる。そのためには、みんなが小さなイノベーターやクリエイターでなければいけません。「こんなものもあって良いんじゃないか」と発想して、まず作ってみる。これからは、そういう力が必要です。

「学び続ける力」というのは、未知の領域について、たくさん実践しながら自分なりに法則性を見出していくとか、自分の好きな領域を学び続けていく力のことです。科学技術がとても早いサイクルで発展し続けていく時代には、新しいことをどんどん学び続けていく力が必要です。

炭谷:こういう3つの力が必要だというのは、僕もまったく同感です。子ども達は全員これらの力を、生まれながらに持っていると思っています。ただそれを出せる環境にするか抑え込んでしまうか、それだけの違いなんです。

─ なぜ、子ども達は、生まれながらに持っている力を抑え込んでしまうのでしょう?

中村:僕が出会ってきた子ども達の中には、小学校1年にして、勉強嫌いになってしまっている子もいました。その子を見ていて、勉強が好きになるか嫌いになるかは、「学ぶ」という体験がどういう体験になっているかが別れ道なのだと気付きました。

「学ぶ」ことが「新しいことを知る、発見する、楽しい」という体験になっているのか、または「記憶しているかどうかを試され、点数化されること」なのか、場合によっては「うまく出来なかったら叱られること」という嫌な体験になっているのか。

子ども達には、学ぶことは「新しい発見があって楽しい、面白い」という感覚をできるだけ長く持っていて欲しい。その感覚があれば、大人になっても学び続ける力を持ち続けられると思います。

炭谷:一生懸命学んだ時に、それがポジティブな体験になっていれば力はどんどん伸びるし、逆にテストされて怒られるネガティブな体験になっていれば力が出せない。

勉強が1年生にして嫌いになってしまっている場合、多分学校でネガティブな経験をしてしまったから嫌いになっただけであって、そういったことをなるべく取り除いてポジティブな体験になるように工夫していれば、子どもは学ぶことが大好きになるというのが、僕の20年以上やってきた実感です。

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2. 子どもが学ぶことを好きでいるために、大人にできること

─ 「学ぶことは楽しい」と子どもが思えることばかりであれば理想的だと思いますが、漢字や九九を覚えることは、多くの子どもにとってはつまらないことではないでしょうか。親としては、その時に目的意識を設定してあげたり、モチベーションをあげることが必要かなと思うのですが、どうでしょうか。

炭谷:基礎的な学習でも好きでやりたいという子は意外に多いです。「これは役に立つよ」とか「こうすべきだ」という「べき論」で、モチベーションを持たせるのは難しく、むしろ「やりたい」「面白い」と思える方が、自然なモチベーションになる。

そういう意味で、僕らが工夫できることは、本人の好きな題材で学ぶということ。「自分の好きなものに役立つ」「好きなことを探究するのにこの本を読むのがいい」「そのためには、この漢字を読めたほうがいい」というふうに、本人が興味のあること、自然にやりたいことに結びつけていく。

中村:僕も子ども達に「これを学ぶと将来こういういいことがあるよ」というコミュニケーションは、あまりしないです。個人的にも、サービスとしてもしていない。

炭谷:漢字や計算を覚えるには、反復練習が効果的だと思っている方が、日本にはすごく多い。けれど、反復練習が全く必要なく、一発で全部覚えるタイプの子もいる。そういう子は反復練習をすればするほど嫌いになります。

本人がやりたいやり方、合ったやり方を見つけ出すことが重要で、「何度も書けば覚えられるから書きなさい」と押しつけられると嫌いになる。子どもが自分で、「自分はこうやって漢字を覚えたほうが面白いな」と、自分にあった方法を発見して取り組めれば、嫌いにならない

─ 子どもに勉強好きになって欲しいと願いながら、教科書通りの「正しいやり方」を押し付けてしまいがちな親としては、ドキっとしてしまう内容です。すでに自分の子どもやクラスの子ども達が、勉強が嫌いになってしまっているという保護者や先生も多いと思います。その子に対して、何かできることはあるのでしょうか?

炭谷:学ぶことがが嫌いになってしまった子どもに対して、具体的にできることは、得意なことを伸ばしてあげることです。例えば、漢字が苦手で算数が得意な子どもには、漢字をやらせようとしてしまいます。

ですが、まずは得意なものをやってもらって、「やった、褒められた、自分はすごいんだ」と自信をつけるほうが先だと思います。そうして、自己肯定感のようなものを育む。

中村:保護者ができることとしては、子どもが、色々なコミュニティに所属できるようにすることでしょうか。みんなで同じことを同じペースで学ばなければいけなかったり、テストでの点数化が避けがたかったりと、公教育での学びは時にネガティブな体験になることがあります。

けれども、放課後、例えばSTEMONのような習い事に来て、自分が自由に作れる、表現できる。そういう、表現をするための安心・安全の場となるコミュニティが自分に1つあるだけでも、全然違うと思います。それは、公教育が中々変わりづらい現状の中で、民間教育が担える役割の1つだと思います。

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3. これからの時代の、公教育と民間教育

─ 公教育はなかなか変わりづらい現状があるというのは、中村さんの著書の中でも触れられていました。ですが、やはり、すべての子どもたちが質の高い教育を受けるためには、公教育のアップグレードが必要不可欠だと思います。

中村:そうですね。日本の学校の先生達は、現状でも「教科を学ぶ」ということに関しては、すごく能力が高いんです。この点については、これまで通り、任せて良いと思います。

ですが、教科以外の学びとなると、学校の現状の枠組みでは難しい。教科の再編や、先生方の学び直しは重要だと思います。学校では、環境教育とか人権教育なども入っていて、やることが本当に多い。それに加えて、プログラミング教育まで入ってきて、これまでのリソースでやるのは、限界があります。先生達は本当に大変です。

それから、35人一斉授業の形では、どうしても平均よりも少し遅いペースの子に合わせて授業をしてしまいがちなんです。それよりもスピードが早い子は退屈しますし、スピードが遅い子は、ついていけなくなる。そこを変える必要はある。

例えば、スタディサプリのような動画教材で個別に学べていける環境にしてあげること。そういう環境が整えば、子ども達はどんどん次のステージに進んで行けるんじゃないかと思います。

─ 公教育が変わる必要があることは多くの人が感じている一方、法律が絡み、ドラスティックな変化を起こすことが難しいという背景があります。変化を起こしやすい領域である民間教育の立場として、公教育がアップグレードしていくために、何ができると考えていますか?

炭谷:まず、民間で新しい試みの成功事例をたくさん作ること。それと同時に、それを知っている大人と子どもを増やしていくことが、私達にできることです。この『Q』もそのためにやっていると言っていい。

その次のステップとして、公教育と民間教育、あるいは学校と一般社会の垣根をできるだけ低くして、人や情報のやりとりを増やしていく。もっと民間の人が学校に入ってもいいと思うし、先生方が民間に出ていってもいいと思う。僕が実際にすごく影響を受けたデンマークでは、そういったことがたくさん起こっているんです。

お互いに壁を低くして、交流がどんどん進んでいって、先生が悪いとか誰が悪いとかじゃなくて、一般の方と学校の方が協力して、子どもにとっていい教育を提供していく。そういうことが当たり前になればいいと思うんです。

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4. 公教育と民間教育が、いかに連動していくか

─ 垣根が低くなり、公教育と民間教育が有機的に機能しあって子ども達の学びを支えられたら理想的だと思います。現状、学校ではカリキュラムで定められたことをクラスの進度に合わせて学び、塾などで受験に向けた学習を行うという風に分断されている印象がありますが、それとはまた違った、民間教育と公教育の在り方のように感じます。

炭谷:最近では、受験教育を行う塾だけでなく、プログラミングを行う教室や、STEMONのように探究型の学びに取り組める民間教育の場が増えていますが、分断されているという意味ではそうかもしれません。

公教育で基礎をやって民間で探究をやる、これはもちろん現実的には取らざるを得ないステップだと思います。ですが、本来は、民間教育と公教育で、学んだことが連動できる方が良い。それは家庭も一緒です。STEMONでやったことが学校でも役に立った、学校で学んだことが家でも活かせたとか、それがあったほうが多分楽しいし、やる気がでる。

ラーンネットでは、自分の好きなことで探究しながら、探究テーマに関する基礎知識も同時にやる。両方同じスクールの中でやっているので、連動が取りやすいかもしれません。

中村:僕も同じように、「学ぶ意味がある」と感じることが重要だと思っています。身近な生活の中で、学んだことが活かされているから便利なんだ、安全なんだ、楽しいんだと、子ども達に実感して欲しい。その方が、楽しく学べるし、生きた知識になる。なるべくそれがタイムリーだといいですね。

─ 「公教育で基礎をやって、民間で探究をやる」のが、現実的に今取らざるを得ないステップだというお話がありましたが、やはり、基礎学力がないと探究力も身につかないものなのでしょうか?それとも、探究力がなければ、将来的に基礎学力が伸びないという風になってしまうのでしょうか?

中村:基礎学力を、「基本的な思考力や知識を身につけること」と定義するのか、「受験をクリアするのに必要な学力」と定義するのかで変わってくると思います。いずれにしろ、探究のプロジェクトで、基礎学力・基礎知識が網羅できるかというと、そうは思っていないです。ムラが出ます。

それよりも、学び方や学ぶことは楽しいという感覚、そういう学ぶ時の態度が基礎学力を吸収していくことに繋がっていくと思います。基礎学力の土台となる態度を、探究型のプロジェクトで作っていく。その態度があれば、基礎学力もキャッチしていけるのではないでしょうか。

炭谷:基礎学力を「読み書き計算的なベーシックな知識」と考えたとして、基礎学力と探究力は両輪だと思います。どちらが欠けてもダメ。経験的に言うと、探究力の高い子は基礎学力も高いです。

探究をやっていれば、本や話を聞き、アウトプットしたり、情報処理をいっぱいやるので、基礎知識が付きます。受験なんかも、わりと突破してしまう子は多いです。「探究をやっていると基礎学力が付かなくて、受験も無理なんじゃないか」という心配は、僕は経験的にはあまりあたらないなと思っています。

ただ中村さんが言ったように、網羅性に関してはムラがでます。それは、必要な時に補えば良い。本人が「ここの知識が欠けているから、これを補わなくちゃいけないんだ」と、自分で分かればやります。それを全部お膳立てして「これをやりなさい」と言う必要はない。

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5.3つめのステークホルダーとしての、保護者の役割

─ 民間と公教育の役割について伺ってきましたが、子どもに関わるステークホルダーには、公教育と民間教育に加え、保護者がいます。多くの子供たちにより良い教育の機会を提供していくためにも、保護者の役割も大きいと思います。

炭谷:そうですね。学校の先生は、クラス全体の子どものことを考えなければいけませんが、保護者は、自分のお子さんのことを最も考えられる立場にあります。親御さんは、自分のお子さんを見て「この子に合った教育は何だろう」と考えられるわけです。

その役割はすごく重要で、特にお子さんが「自分は今の先生や学校と、合ってないな」と辛さを感じた時に、そこを救えるのは親御さんです。そういう意味でのお子さんへの対応のサポーターとしての役割はものすごく重要だと思うんです。

学校で、漢字や算数の苦手なことばかりやらされても、家庭で安心して好きなことができれば、子どもは安定するそういう場所を作ってあげる役割はすごく重要だと思います。

中村:おっしゃる通りだと思います。保護者も、何をどのくらい学ばせればいいのか分からないことが多いと思うんです。でもそこは、子どもを信じて、子どもが子どもなりに色々な世界を見て情報を集めて、その中で選んでいく。それを見守る、応援する、信じるということが、すごく大事だと思います。

─ STEMONやラーンネットに関わることで、勉強をさせることに偏り過ぎていた親御さんが、変わっていったという事例はありますか?

炭谷:あります。子どもがしんどそうにしていたケースでも、スクールに来たり講座を受けたりして、自分が子どもの意欲を抑え込んでいたんだと気付く。そして、以前は怒っていた場面も、子どもに自由にやらせてみようと工夫し始める。

そうすると、子どもが変わってくるんです子どもがイキイキしてきて良いところが出てくる親御さんも「うちの子にもこんな凄いところがあったんだ」と気付いて、いいサイクルが回り始めます。

─ 「子どものことを、間近で、よく見る」「子どものことを信頼して見守る」ということが、保護者の大きな役割ということでしょうか。

炭谷:僕はよく親御さんに「お子さんは自由な時間で何をやってますか?」と聞くんです。多分それが好きなこと、やりたいことだから、徹底的にやらせてあげたほうがいい。やりたいことをとことんやると、満足感が得られる。遊びで構わないんです。レゴでも野球でも、ゲームでも良い。「やり遂げた」という満足感を得られることが大事です。

それが「好奇心爆発!探究サイクル」に繋がっていく。自分で一生懸命やって、「できた!」という経験があれば自信がつく。そうすると、苦手なことにも取り組めるし、自分で学びを深めていける。

─ 子どもが自分の好きなことを集中してやっていると、保護者がついそれを止めてしまうケースは多い気がします。親は、子どもが好きなことをしている時に「ご飯だよ」とか「何してるの?」と、声をかけてしまいますよね。

炭谷:よくありますね。子供が一生懸命集中し始めた時に、お母さんが「あんた何やってるの?」って声をかけたり、「こうしてみたら?」と提案したり…。子どもは、できた時に「お母さん見て」「こんなことやったんだよ」と言ってくれるので、取り組んでいる時には邪魔せず、子どもが言ってくるまで待った方が良い。

─ その辺りの声かけの仕方など、STEMONのスタッフは、どう工夫しているのでしょうか。

中村:STEMONでは、スタッフは、コーチングとティーチングとメンターと伴走者を使い分けています。まず、子ども達は知識が必要だからティーチングはしっかりしなきゃいけない。そしてコーチングすることで、子ども達に自分で考えさせる。

コーチングやティーチングしても、理解が進まなかったり流れに乗れない子には、メンターとなって励ましたり、次の一手を教えてあげたりします。それでもなかなか気付けない子には、伴走します。伴走しながら一緒に取り組んでいると、子どもはそのうち、大人の手を払いのけ始めますね。それが出たら、もう「どうぞ」という感じです。

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6. 子どもの発達段階にあわせて、急がず土台をつくる

─ 中村さんの著書『AI時代に輝く子ども』の中でたくさん触れられている、「広くて深い思考」について、ぜひお話いただければと思います。

中村:この言葉は、STEMONの講師の面接で、続けてでてきたキーワードなんです。東工大や東大の理系の学生が同じことを言っていました。「周りでどうしても敵わない人の、何が凄いのか」と聞いたら「広くて深い思考」だと。

加えて、学校で教員をしている中で、文章問題が解けない子どもが多いことに気付いていました。なぜ文章問題を解ける子と解けない子がいるのかと考えた時、文章にでてくる要素を構造化できる子と、できない子の違いだと思いました。長い文章問題では、言葉や数字などの情報が五月雨式に入ってきます。それをただ記号として受け取ってしまうと、頭の中の記憶が崩壊して、文章として理解できない。でも、各記号がもつ意味を、イメージを伴わせながら頭の中で関連付けていけると、構造化できるんです。構造化ができると、思考が深まりやすいし、問題解決に導きやすくなるんだろうと思います。

炭谷:僕もこういう力が重要だというのは全く同感です。でも、あまり急がないほうがいい。小学校高学年から中学生ぐらいにかけて、構造化などの能力が急についていきます。無理に小さい子どもに理屈で考えさせようとするのは、逆効果です。

─ 「思考力が大事」と聞くと、幼児期から「理論的に考えさせよう」とか「何か覚えさせよう」とか、何か知性的なことを練習させることが必要だと思ってしまいますが、そうじゃないということでしょうか?

中村:大体、小学校2、3年生ぐらいまでは抽象的な思考は難しくて、目の前にあるもの、手で触れるものでしか思考できない子が多いと思います。それまでは急ぐ必要はなくて、手で触れるもの、目に見えるものでやった方がいいと思います。

炭谷:目に見えるもの、手で触れるもの、目の前のもの、それから本人が好きなこと。お子さんによって、スポーツや音楽やゲームなど、好きなものがあると思うので、好きなことをやった方が良い。

─ 子どもの発達段階について、まず親が正しい知識をもつことが大事だなと思いました。では、それよりも前の段階ではどんなことを意識して、子ども達に関わっていけばいいのでしょうか。

中村:5歳位までと、6~9歳位までの2つに分けた時に、5歳位まではとにかくのびのびと色々なことを体験する、手で触ってみる、匂いをかいでみる。五感をたくさん刺激しながら、五感で体験することがすごく大事じゃないかと思います。そして、6~9歳には、のびのびと作ったり表現したりする。

炭谷:僕は、まず乳幼児はご家族の愛情をたっぷり注ぐ、声かけをしてあげることがすごく重要だと思う。特に3歳位までがすごく重要。それからもうちょっと上がってくると五感を伸ばす、五感を使って身体で色々な体験をする。それから、5分でも10分でもいいから自分が好きなことをずっとやり続ける力、集中力を育むことが大事です。

デジタルなことや知力に関しては、小さいうちにあまり必要ないと思っています。「3歳なのにもう字が読めた」「3歳なのにiPhoneが使える」とか、そんなことに喜ぶ必要は全くない。

植物も、根を生やして幹ができて、葉っぱが出て花が咲くという順番が大事です。花が咲くのが早ければ早いほど良い、ということはないですよね。まず、きちんと根を生やして、幹や葉がしっかり育たないと、力強い花は咲きません。土台をしっかり作っていくことが大事です。

(文:齊藤香恵子、写真:STEMON提供、編集:田村真菜)

※この記事は、2019年7月に行われた学びを探究するメディア「Q」イベントの対談を再構成したものです。



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