今だったら、教育に関われるかも。20代で起業した僕が、放課後NPOアフタースクールに入社した理由。
アパレル会社での勤務や、飲食プロデュース会社の起業を経験された後に、教育NPOで仕事を始められた森澤雄基さん。子どもたちに安全で豊かな放課後を届ける、放課後NPOアフタースクールで、子どもたちに向けた様々なプログラムを企画されています。
異業種での経験は、どのように教育業界に活かすことができるのでしょうか。その実践をされている森澤さんに、これまでの歩みについて伺いました。
農業を体験したことをきっかけに、飲食プロデュース会社を起業
── 教育業界で仕事を始める前に、アパレルや飲食の業界で仕事をされてきたそうですね。
元々アクセサリーやジュエリーのメーカー社員として、4年間企業に勤めていました。会社員2〜3年目のときに、ボランティアとして東日本大震災の復興支援プロジェクトに参加する機会があり、東北に物資を届ける活動をしていました。その中で、現地の一次産業に携わる農家さんや漁師さんの苦労話などを伺い、食に興味を持つようになりました。
── 会社に勤めていた中で、ご自身で会社を設立されることにしたのはどうしてですか?
会社員4年目のとき、「つくっては捨て、つくっては捨て」というアパレル業界の風潮に疑問を抱いていました。仕事を変えたいと思って、青山にあるファーマーズマーケットでアルバイトを始めたんです。
アルバイトの傍ら、休日は主に東日本の農家さんを回らせてもらい、50組以上の農家さんと素敵な出会いがありました。実際に農業も体験させてもらったのですが、そのとき農業の大変さを身に染みて実感して。自分で体験してみないとわからないことが沢山あるなと感じました。
あと、毎日ご飯は食べるけれど、僕らは意外と「誰が作っているか」は知らない。その解像度を上げることが重要なんじゃないかと感じるようになりました。
また、動物たちによる農作物への被害を意味する「獣害」という言葉や、鹿や猪などの「ジビエ」について知ったのも、このときでした。
厄介者として扱われているジビエですが、人が自然を壊しているから、動物たちは食べ物を求めて人里にやって来ているわけです。それなのに廃棄されてしまっているジビエのことを知り、「食に関する問題解決がしたい」と思うようになりました。
そんなことを考えている中で、「一緒にやろうよ」と声をかけてくれる仲間や先輩が徐々に増えていき、28歳のときに株式会社PORTE(ポルテ)を設立しました。これまでフードトラック事業や食のプロデュースを行ってきましたが、「誰が作っている食材かわかる」ことやジビエを使用することを、事業の中でも大切にしてきました。
「社会人を経験した今だからこそ」と、放課後NPOアフタースクールへ
── 会社を経営してご活躍されていたと思うのですが、そこから教育業界で働こうと決められたきっかけを教えてください。
おかげさまで会社を設立してから忙しい状態が続きました。いただけるお金が増えていく一方で、自分がどこに向かっているのだろうと徐々に思うようになりました。
そのタイミングでコロナウイルスが流行しはじめ、会社の仲間と今後どこに向かうかを話し合ったりと、これからのことを考える時間が増えました。
小学生のときに学校の先生に憧れていた時期があったのですが、小学生なりに“社会に出ていない先生が社会について教えている”ことに、疑問を感じてもいたんです。そうして先生になる夢は一度諦めていたのですが、「いろいろ経験した今だったら、教育に関わることができるのではないか」と思い始めました。
また、「子どもたちの考えを肌感を持って知ることのできる現場で勉強したい」と考えていました。今の小学生がどんなことを思って、どんなことが好きで、どんなことを考えているのか、子どもたちから直接話を聞きたかったんです。
いくつかの団体に話を聞きに行きましたが、最終的に知人に紹介してもらった放課後NPOアフタースクールで働くことに決めました。
── 社会人を経験したからこそ、「今だったら」と思えたのですね。放課後NPOアフタースクールは、どのようなことに取り組まれている団体なのでしょうか。
アフタースクールは、日本の放課後を安全で豊かにするために「社会で子どもを育てること」に取り組んでいる団体です。学校施設を利用して、地域と共に子どもの育ちや学びを応援する放課後の居場所「アフタースクール」を各地で運営しています。
子どもたちは友だちと好きなことをして過ごしたり、地域の方々である「市民先生」から本物の知恵や技を体験するプログラムを経験したりして、放課後の時間を過ごしています。子どもたち一人ひとりの「好き」や「得意」を伸ばしていくことを大切にしています。
── 小学校の先生という選択肢もあったと思うのですが、アフタースクールで働くことに決めた理由を教えてください。
アフタースクールに惹かれた理由は大きく分けて3つあります。まず、「子どもたちとゆっくり話すことのできる仕事がしたい」という思いを実現できる場所だったからです。僕は子どもたちの話を聞きたいと思っていたので、子どもたちが余裕のある放課後に活動できるという点に魅力を感じました。
2つ目は、子どもたちに向けたプログラムを作ってみたいと思ったからです。アフタースクールは、プログラム作りにかなり前向きで、自分のこれまでのスキルや仕事の経験を活かせそうだなと思いました。
3つ目は、自分の考えとアフタースクールで大切にしている考えが重なったからです。僕は、「遊びの中から生きる術を見つける」ことがすごく大事だと思っています。勉強や習い事ももちろん大事です。その一方で、どうでもいいことや一見無駄だと思われるものの中に、面白さがあると僕は考えていて。代表の平岩さんもそのお話をしてくださったんですよね。それも大きなトリガーになりました。
子どもたちが“リアルな体験”から学ぶことのできるプログラムを企画
── アフタースクールは森澤さんのやってみたいことに挑戦できる場所だったんですね。具体的なお仕事内容を教えてください。
アフタースクールは、放課後の小学校で開校しています。子どもたちと関わる仕事以外にも、学校との連携や、今後どうしていくかについてチーム内で話し合いをすることも仕事の一つです。
入職したばかりなので、子どもたちとの関わりはまだ少ないのですが、子どもたちに向けたプログラム企画をメインの仕事として今行っています。新しいプログラムの企画書をどんどん出すようにしています。
── 具体的にどのようなプログラムを企画されているのでしょうか。
子どもたちと「食」について、話し合い、考える機会を増やしたいと常々思っているので、僕の作るプログラムは「食」が主体、目指すゴールは「農」でありたいと考えています。
現在は「地域と子どもたちの好奇心」をテーマに掲げ、町にリンクしたプログラムを作っています。この間は、燻製キットを作っておうち時間を楽しもうというプログラムを実施しました。
コロナウイルスの影響で、今学校は家庭科や食の制限がある状態です。学校で行えないものができればという気持ちで、食の仕事を活かしたプログラムを企画しました。
プログラムのポイントは2つあります。1つは、小学校の近所の木工屋さんにある廃材を使っているところです。一見不要だと思われている廃材を使い、アップサイクルを大事にしています。
もう1つは、子どもたちが地域の商店街を歩いて、地域の方々と交流し、魚やお肉を買うというプロセスです。当日は30人以上の子どもたちが参加してくれて、大盛況の中プログラムを実施することができました。
── これまでの森澤さんのキャリアを活かしたプログラムですね。他にこれまでのキャリアが活きたと感じる瞬間はありましたか。
飲食の経験で言うと、子どもマルシェを作りたいという話が最近出ていて。学校の校庭を開放して、畑で取れたものをマルシェで売るという企画です。また、飲食業界で働いているゲストを招いて、鰹節を削る体験をするなどの企画も考えているところですね。
また、アパレル業界での経験もプログラムに活かしたいと考えていて、本格的なアクセサリーを作る企画を今立ち上げています。別業界から入職したことで、前職での経験を活かしながらいろんな企画が生まれています。
── 魚やお肉を買って燻製をつくったり、アクセサリーをつくったり、子どもたちが実際に“体験”して楽しめますね。
僕自身がこれまで農業を実際に体験する中で感じたのは、自分の手でやってみて初めてわかることがある、ということ。体験を通してこそ何かをわかっていくことは大事だと思うので、子どもたちがリアルに体験できるプログラムを増やしていきたいです。
”失敗するかもしれない”と挑戦することを制限されてしまう世の中の風潮に負けないように、親切丁寧ではないかもしれないけれど、一人一人の子どもを尊重し感情を揺さぶる体験を増やしていきたいと考えています。
子どもの「やってみたい」を”すぐ”実現していきたい
── 森澤さんが子どもたちと関わる中で、大事にしていきたいことはありますか。
「やってみたい」と思ったことを、すぐに実現できる環境を作れたらいいなと思っています。「楽しい!挑戦してみたい!」という気持ちは、誰もが持っているもの。それを”いつか”ではなく”すぐにできる”ようにしたいです。
「本当は何かをやってみたいと思っているけれど、できない」ということが減ってほしいですね。子どもたちには、いろんな活動を楽しんで、遊びの中から学んでほしいと思います。
──「やってみたい」という熱が冷めないうちに、すぐできるのは大事ですよね。
ある男の子と遊ぶときに「何か欲しいものはないの?」と、聞いたことがあったんです。
すると、「絵を描いてみたいから、iPadとタッチペンがほしい。お父さんがガンダムが大好きで、ガンダムを描きたい」と話してくれたんです。
大人に自分の考えを言うことは、子どもたちにとって結構勇気のいるものだと思うんですよね。まわりの友達の目も気になったりしますし。だからこそ、子どもたちが頑張って話してくれたことは実現したい。
すぐに本部に連絡して、子どもたちにiPadを支給してもらいました。そういう意見の吸い上げは、これからもスピーディーにしていきたいと思っています。また、そういった思いにすぐ対応してくれるアフタースクールのスタッフさんにも感謝ですね。
── 子どもたちと関わる仕事をする一方で、法人や個人事業主としてのお仕事を続けられているそうですが、具体的にどのような時間の使われ方をしているのでしょうか。
平日はアフタースクールで決まった時間に働いて、平日の朝、また夜に少し、後は土日にPORTEや他の仕事をしています。個人の仕事では、企業のコンサルティングやプロデュースの仕事などをしています。そのため、休みの日は場所にとらわれずに働けるようになっています。
子どもに何かを届けたい大人と、子どもたちをどんどん繋いでいきたい
── これから教育業界がこうなったらいいなと考えていることはありますか。
ひとつは、教育に関わる人がもっと増えてほしいということです。
教育現場で働いてみて、学校が隔離されているように感じることがあります。もっと教育にいろんな人が交差して、子どもにとってお兄さん、お姉さんみたいな人が100人いるといったことが実現できたらいいなと思っています。
子どもを親御さんだけで育てることは、どうしても限界があると思います。いろんな人が教育に関わって、地域の人と一緒に、みんなで子どもを育てることができたら嬉しいなと思います。僕のように兼業しながら教育に関わる人も、増えていったらいいなと。
さらに欲を言えば「清廉潔白な人だけが集まる必要がない」とも思っています。同じ属性の人が集まりすぎるとどうしても保守的になったり、他を寄せ付けなかったり、考えが固まったりしてしまうと日頃大人たちを見ていてもよく思います。
自分がダメだと思っている弱みが武器になったり、逆に自分が正しいと思っていた価値観が子どもの才能を潰すこともあると思います。
僕たちの社会同様に、様々なタイプ、様々な価値観を持った人がいることが重要で、全ての人が「理想の大人像」である必要性はないと感じています。大事なのはその人自身を認める感性が育まれることなのではないでしょうか。
もうひとつは、教育の選択肢が増えていくといいなと思っています。「学校が楽しくない」という子どもたちの声を耳にすることもあります。「その選択肢が楽しくないと感じたら、こういう選択もあるよ」というように、別の選択肢がもっとたくさんできるといいなと思っています。
よく「角度を変えて物事を見てみない?」と子どもたちに話します。例えばドッジボールが苦手な子に「やりたくない」と相談された時「難しいもんね。でもさ、ドッジボールのここが好きだって部分はない?」と尋ねると「避けるのは苦手だけど、投げるのは好き」と言うわけです。
「じゃあ、外野でボールを投げる人に立候補するのはどうかな?」と提案すると、そのままスルスルーっと輪の中に入り、友達と話し合った後、外野で楽しそうにボールを投げて。終わった時には「またやりたい!」と笑顔でした。
取捨選択は大人でも難しい行動ですが、僕は「選択肢」は突然ポンッと目の前に現れるものではなくて、日々無数に散らばる「選択肢の芽」をきちんと育んだ人に与えられると思っています。そのためにはまず僕たち大人が「選択肢の芽」をきちんと育む姿勢を子どもたちに見せることも非常に重要なのではないかと考えています。
ハードウェアとして小学校が各地に整備されていることはとても大事です。そこが面白い大人が集まるプラットフォームになり、選択肢を多様に考えられるようにソフト面が充実していくと、学校はもっとよりよい場所になるのではないかと思います。
── 最後に、これから教育に関わりたいと思っている方に向けて、メッセージをお願いします。
アフタースクールではプログラムを作るときに外から講師を呼ぶ仕組みがあります。僕は子どもたちに何かを伝えたいと思っている人と子どもたちを繋げたい。だから、今ご自身で取り組んでいることがあって、子どもたちに届けたいという思いがある方は、一度アフタースクールにご連絡いただければと思っています。
子どもたちが「やってみたい」ことをすぐに実現するように、大人の「やってみたい」も実現できる社会だといいな、と。教育に関わることは、それほどハードルが高いわけではない、ということをお伝えしたいです。それは僕自身が教育現場に入ってみて一番感じたことだったので。
自分のしていることを未来に繋げたいという思いを持っている人が、どこにアウトプットをすれば良いかわからないとき、ハブになれたらいいなと思っています。
── 子どもだけでなく、大人がやってみたいことに取り組むことも、とても大切ですね。森澤さん、どうもありがとうございました。
(文:田中美奈、編集:田村真菜)
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