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地方の生徒に可能性を。探究学習の効果検証と事業化にチャレンジ Edo New School(エドゥニュースクール)

「人が育つ地域の生態系を強くしたい」

そう語るのは、岐阜県飛騨市で中高生向けの探究スクール「Edo New School(エドゥニュースクール)」を運営する、株式会社Edo代表の関口祐太さんと副代表の盤所杏子さん。

「『やってみたい』を見つけ『やれる!』と思える自分になる」をコンセプトに、興味関心を見つけ深めることのできる探究スクールを運営しています。さらに、難しいと言われる教育効果の可視化にも挑戦。エビデンスに基づいた探究学習を届けています。

中高生向け探究スクールの運営にとどまらず、教育や学びに関する様々な事業に取り組む株式会社Edo。どんな思いで活動されているのでしょうか。関口さんと盤所さんに話を聞きました。

社会と繋がった学びは、学生はもちろん地域も元気にする

—— はじめに、Edo New Schoolを立ち上げた経緯を教えてください。

関口:僕はもともと大学を卒業してから家業である学校教材販売業を継いだんですね。事業をいいものにしようと試行錯誤する中で、自分の人生について真剣に考えるようになりました。そんな中でお世話になっている方から教えてもらい出会ったのがコーチングでした。

東京まで隔週で通い、人の成長が促進されるコミュニケーションのあり方やスキルを学んだのですが、100人にコーチングするという実践や試験を経て資格を取得しました。そこでの2年に及ぶ学びがその後の人生に大きく影響を与えてくれたと思っています。

その後は学校教材販売事業の傍ら、経営者やアスリート向けにコーチングの仕事をしていたのですが、ある時高校生の探究学習に伴走するコーディネーターの仕事が舞い込んできました。1年間、地域の課題解決につながるプロジェクトを高校生と進めるという内容だったのですが、この仕事が僕の大きなターニングポイントになりました。

関わった高校生がプロジェクトの中でどんどん成長していく姿を見て、すごく自分の心が動いたんです。若い世代の成長に関わるのっていいなって。それにプロジェクトに関わってくれた地域の方々も感動してくれたんですよね。地域で暮らす人が若者の成長に関わることは、まちの活力もつながっていくんだということを知って。こんなにいいことはないなと思いました。

ただその後、こういった実社会と繋げた学びを実施する上での様々な全国各地の課題に出会うんです。「これは個人でやってちゃいけない。組織で持続的に課題に向き合う必要がある。」そう思って2019年に立てた会社が株式会社Edoです。

会社を立ち上げた当初は、自分たちで拠点を持って学生に直接関わるというより、主に教育委員会さんから業務委託を受け、地域教育魅力化プロジェクト「飛騨市学園構想」や市民むけ講座「飛騨市民カレッジ」など、主に地域教育全体に関わるビジョン作りや仕組みづくりをプロジェクトマネージメントという形でサポートしてきました。

でも、僕の原点は学生の成長に感動したことだったんですよね。自分が直接やってみたいと思ったし、学生の今に接している感覚がないと事業自体もうまく行かないって思ったんです。それで、2023年7月に中高生の探究スクールEdo New Schoolを立ち上げました。学校や家庭だけでは担えない地域の受け皿の一つとして、中高生の成長に関わりたいと。

—— 盤所さんも株式会社Edoの立ち上げに関わっていますよね。

盤所:私は結婚のタイミングで飛騨市に引っ越してきました。第一子を出産してからは、まちづくり活動や木育、飛騨市の広葉樹を活用した商品開発などに関わっていました。

そんな中で関口と出会って、高校生のプロジェクトの企画実現のサポートをするなど、一緒に活動するようになりました。忘れられないのが、初めて一緒に取り組んだプロジェクトで、これまで感じたことのない達成感を覚えたこと。それで、関口と株式会社Edoを立ち上げることに決めました。

ひとが育つ地域の生態系をつくる

—— Edo New Schoolの拠点は飛騨市ですよね。どうして地方で活動することに?

関口:僕らは、地方の教育が、そこで育つ個人、地域、日本社会全体、どれにおいても重要だと思っています。その上で、今の地方には人の成長においてメリット、デメリット両方が存在していると思います。

人口減少が進んでいくと、地域で子どもたちを育んできた行事、お祭りなども縮小せざるを得なくなり地域の教育力は低下します。私立学校や習い事なども成り立ちにくいため、興味関心を喚起する選択肢が少くなりがちです。加えて人の多様性が下がり、新たな気づきや出来事が起きにくい状況が生まれます。

一方、長い歴史の中で育まれてきた景観、食文化、生きる知恵など、多くの人が大切にしたいと思うものに囲まれていることはその地に生まれた誇りを生み、人を強くすると思うのです。また課題の多さは人の喜びが生まれる種が多いと捉えることもできます。

こう見てみると、人口減少が進む中、豊かさの源泉をどう守り、社会を今に合わせてどう作り変えていくかという日本社会や先進国の中心課題に挑んでいると思うのです。つまり地方はこれから社会で必要な力を育成する上でとても良質な場であると言えるし、うまくやれれば地方の教育にはすごい未来があると思っています。

—— なるほど。

関口:そんな地方で僕らがやっていきたいのは、人が育つ地域の生態系を強くすることです。これからますます人口が減り、コミュニティも学校も企業も小さくならざるを得ない状況です。そうなってくるとそれぞれが教育力を高めていくことも重要ですが、さらに「どう力を合わせていくか」が重要になってくると思うんです。

関係者同士が繋がり、良好な関係を持ちながら相乗的にいい学びをつくっていく。それができるとたとえ組織が無くなったり、人が入れ替わっても教育力は落ちにくくなる。教育力を組織で担保するのではなく生態系で担保する。会社全体としてそこに役立つことがしたいと思っています。

——スクールでは、具体的にどんなプログラムを行なっていますか?

「探究をどう進めたらいいか分からない」という悩みがあるので、これを解消するために、課題解決の力を身につけてもらう「地域クエスト」というコンテンツを作っています。仮説を立てたり、ゴールを設定したり、解決アイデアをデザインしたり、実際にアイデアを試してみたり。生徒は地域を題材にしたテーマを扱いながら、探究の基礎を学んでいきます。

その上で、「探究をどう深めたらいいか分からない」「もっと探究してみたい!」という中高生を応援するための「マイクエスト」という、子どもたち自身の探究テーマにメンターが伴走しながら、学びを深めていくコースもあります。子どもたちの探究テーマと同じフィールドで活躍するプロと子どもたちをつなぐことも多いですね。

ある子は、隣の高山市から通ってくれていますが、最初は自分の意見を言うのも苦手でした。でもメンターからチームでの物事の進め方やコミュニケーションについてアドバイスを受け、最近では企画会議でも一番最初に声を発する存在になりました。他にも、自分のまちをもっともっとよくしたいという思いから、「中高生が身近に立ちよれる場所や手軽に楽しめるスイーツを開発する」という案を考え、現在は試作品の制作中という生徒もいます。

—— さまざまなプログラムがあるんですね。探究学習で難しいことの1つが、評価ではないかと思います。そのあたりは何か考えていますか?

関口:そうですね。まさに難しいとされる教育効果の検証にもチャレンジしています。

民間の教育活動も公的な教育活動も然り、「人材育成にお金をかけることが、直感的にも長期視点で見ても重要」と多くの方が分かっていながら、そこにお金が回っていない状況があります。そんな状況をなんとかしたいと思っています。

手立ては色々あるかと思いますが、まずは教育活動が個人の成長と社会にどんな影響を及ぼしているのかを可視化したいと思っています。最近は社会的インパクト評価なんて呼ばれたりもしますね。

もちろん個人の成長支援においては生徒の様子をきちんと自分たちの目で見取っていくことも重要だと思いますが、そういった客観的なデータも参考にしながら、提供する学びや事業を磨いています。また測定して数値化した内容を本人にフィードバックする面談を定期的に設け、自分の成長目標を見直したり、次のアクションを一緒に決めていく面談を行っています。一緒に作戦会議をするイメージですね。親御さんからも好評です。

社会変革と学校改革の両輪に関わる

—— 関口さんと盤所さんはどう役割分担しているんですか?

盤所:関口が未来を描いて、私が実現するという感じですね。私は描いたことを実現させるにはどうしたらいいかを考えて調整・実行することが好きなので、そういう役割が多いです。後は、文句を言う(現場の課題を吸い上げる)係ですね(笑) 「それって役に立つの?」などいろんな角度から質問して、企画を良くしていく役割は担っているな、と自分では思っています。

それと、私は教育効果の検証にも関わっています。アンケート、ロジックモデルなどの構築を専門の事業者さんと連携して行い、これまであまり明確にされていなかった探究学習の成果について明らかにするチャレンジをしています。

Edoの未来を構想すると同時に、経営・財務全般は関口がやってくれていますね。事業を成立させるためにはどうしたらいいのかを様々な視点で考えてくれています。

—— Edoを運営する中で難しかったことはありますか?

盤所:一番大変なのは、人に関わることですね。私は現場に近いところにいるので、やっぱり社員の負担感は感じます。少ない人数で多様な仕事をしているので、どうしても属人的な仕事にならざるを得ない瞬間もありますね。社員のメンバーは理想を追い求めながらも、一方では売り上げをしっかりつくっていかなくちゃいけない。そのことが大変なのかなと感じます。今いるメンバーはそこの必要性を理解して頑張ってくれている大切な存在です。

関口:僕は別の観点から難しさを捉えていて。そもそも学校の中で何かをしていくというのは、事業としてかなり成り立ちにくい領域だと思っているんですね。でも力を貸して欲しいと言っていただけるのも事実。

会社を立ち上げる前は学校からの依頼だけを受けて活動していたんですけど、あの頃は本当に大変でしたね。組織にする必要性は感じていたもののそれをどうやっていこうかと。事業として光が見えない状況でした。立ち上げ当初は、まちの教育ビジョンづくり、市民講座のコンセプトや企画づくりなど、教育委員会さんからの仕事が増えたことで少しづつ経営が安定していきました。

企業や行政向けの研修も増えていきました。その中で、中学や高校で探究の授業の支援をしたり、大学でデザイン思考の講義をしたりして、学校内での活動も続けていくことができました。結果として『社会と学校の両方の事情をわかっている』というのが僕らの強みになったと思います。

Edo New Schoolを全国へ

—— 事業として成り立ちにくいとのことですが、資金面で工夫したことはありますか?

関口:ふるさと納税を通じて寄付を募らせてもらいました。飛騨市のソーシャルビジネス創出支援事業(旧ソーシャルビジネス支援事業)に手を挙げて、審査に通ることができたんです。それで、ふるさと納税の寄付先に加えてもらうことができ、令和3年度から8年度までの5年間の開発費に1億近い資金を寄付していただくことができました。

社会性が高くても経済性を生みづらい地方の民間教育領域にこれだけの資金を預けていただけたというのは本当に稀な出来事で、いただいた資金を使ってきちんと世に役立つものを開発したいと思っています。

—— 素晴らしいですね。最後に、これからの展望について教えてください。

関口:まず、令和8年度までに飛騨市のほかに3カ所のスクール拠点をつくって事業モデルや教材を整えたり、教育効果を測ったりと、研究開発を進めていきたいですね。その後全国の地方にローカライズしたモデルを20箇所に展開していきたいです。それから全く同じものを展開するのではなく、各地のアイデンティティをその場所やプログラムで目一杯表現できたらいいなと思っています。

通常の探究スクールと僕らが大きく異なるのは、「スクールで塾生や親御さんにこんな価値を提供したい」という話はもちろんのこと、「人が育つ土壌づくりに役立つ事業をつくりたい」と思っていることです。

学校や地域に役立つものを開発・提供する民間の教育研究所みたいな機能も担いたい。そういう意味で、全国の自治体や企業のみなさんから「うちの地域でもEdo New Schoolをやってくれないか」と言っていただけるのは、一番嬉しいことですね。現在数箇所からお声がけをいただいています。これからも人が育つ地域づくりに貢献できたらと思います。

—— Edo New Schoolでの活動が大きなうねりとなって、地方から日本の教育が変わっていくのが楽しみです。関口さん、盤所さん、ありがとうございました!

(文:田中美奈、編集:田村真菜、写真:本人提供)


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