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高校生や地域の人の「新しいことをやってみたい」を応援する、チャレンジ拠点「YOKANA(ヨカナ)」が目指す未来とは?

学校でも塾でもない、無償から低額でアクセスできる、地域の学び場を紹介する「まちの探究サードプレイス」。今回ご紹介するのは、鹿児島県種子島のチャレンジ拠点「YOKANA(ヨカナ)」。

地域で新しいことにチャレンジしたい。「YOKANA」はそんな思いを持った人の挑戦を応援する場所。2021年8月、中種子町の旭町商店街にオープンし、さまざまな地域活性化のアイデアを形にする手助けをしてきました。

「アイデアに伴走しながら、自分で地域課題を解決する人が生まれていく仕組みをつくりたい」。そう話すのは一般社団法人LOCAL-HOOD(ローカルフッド)代表理事の湯目由華さん。

「YOKANA」を運営しながら、2020年から地域おこし協力隊として中種子町で活動しています。これまでの経緯や活動内容、子どもとの関わり方、経営上の工夫をお聞きしました。


地方でもチャレンジしやすい仕組みをつくりたい

—— はじめに、地域づくりに興味を持ったきっかけを教えてください。

生まれ育った岩手県花巻市で見た光景が大きいですね。子どもの頃、よく通っていた駄菓子屋さんも、友だちのおばあちゃんがお店に立っていた文房具屋さんもなくなってしまって。遊び場だった商店街がシャッター街になってしまったんです。

それで「こんな地域を増やしたくない。自分にできることは何だろう?」と考えるようになりました。そんな中で思い浮かんだのは、「地方で働きたい」と思える仕事を増やしていくこと。地元で働きたくても、やりたい仕事がなくて地元を離れてしまう人は多いんじゃないかと思ったんです。

地方であってもやりたいことを叶えられる仕組みをつくっていきたい。それで、大学卒業後は経営を学ぶため東京でコンサルタントとして働いていました。

—— 2020年に地域おこし協力隊として種子島に移住されていますが、どのような経緯があったのでしょうか。

コンサルタントとして働く中で、地域に深く関わっていけないもどかしさを感じるようになったんです。コンサルタントの仕事上、契約が終わると新しい現場に入らないといけないので。コンサルタントを続けるか、もっと地域に関われる仕事をするかで悩みました。

最終的に、地域の魅力を底上げする人が生まれる仕組みをつくりたいなと思って、地域おこし協力隊として活動することを決めました。

種子島を選んだのは、海が好きで南の島に憧れがあったからです。生まれ育った岩手でも仕事で訪れた東京でもない、まだ行ったことのない南の地域で文化や風土の違いを感じたいと思いました。夫婦ふたりで採用してもらえたのも、移住を後押ししてくれましたね。

—— 地域で活動していく中で感じた種子島の課題はありますか。

ひとつは、子どもたちのモデルとなる大人が少ないことです。地続きだったら周辺の地域で学ぶことができますが、離島なので限られた大人にしか出会うことができないんです。

地域づくりが盛んではないことも課題のひとつです。これまでも種子島の方から「チャレンジしづらいこの風土を何とかしてほしい」と言われてきました。

新しいことを始めづらいのは、高校を卒業すると同時に進学や就職で9割の若者が島を出て行ってしまうからなのかな、と。種子島には仕事や新しいものをつくっていける働き盛りの世代がとても少ないんです。

島が大好きなのにみんな仕事がなくて帰ってこれないんですよね。こんな背景があって、地域のチャレンジを応援する場所として、2021年8月にチャレンジ拠点「YOKANA」をオープンしました。

生まれたアイデアを「いいね」と応援する場所

—— チャレンジ拠点「YOKANA」はどのような場所ですか。

「YOKANA」は何かを始めたい人が集ってつながり、新たな一歩を踏み出せる場所です。「こんなことをやってみたい」という個人や団体、行政のアイデアを実現するための伴走支援や仕組みづくりをしています。事業化に至らないような小さなアイデアをお持ちの方や、挑戦する勇気がないという方と一緒に活動することが多いです。

種子島の方言で「よかな」は「いいね」という意味。生まれたアイデアを「よかな」と応援することで、前向きに挑戦する人が増えてほしいという願いを込めました。

コワーキングスペースやカフェ、レンタルキッチン、イベントスペース、ゲストハウスを利用できます。高校生が学校終わりにふらっと遊びにきたりお休みの日に宿題をしたり。地域に開かれた公民館のような場所になっていますね。

—— どのように「YOKANA」を立ち上げられたのでしょうか。

「YOKANA」は商店街の空き家をリノベーションしてつくりました。資金は助成金やクラウドファンディングで集めましたね。はじめは、クラウドファンディングをすることで白い目で見られたらどうしようと心配でした。

でも、実際の反応はすごくあたたかくて。クラウドファンディングで私たちの活動を知って、立ち上げを応援してくれた方々がたくさんいました。最終的に、92名ものみなさんに応援してもらうことができて、目標金額の150万円を達成することができたんです。

—— 「YOKANA」では大人だけでなく、高校生のチャレンジにも伴走しているそうですね。

はじめは、大人のチャレンジを応援することで、子どもたちが「こんな大人になりたい」と何かに挑戦するようになる姿を想像していました。でも、種子島は何かにチャレンジするよりも、子どもたちを応援する方が得意な大人が多くて。

それで、私たちが子どもたちのアイデアを応援する中で、いろんな大人を巻き込んでいけたらいいなと思ったんです。そうしたら、地域全体が元気になっていくのではないか、と。もちろん大人のアイデアも応援していますが、今は高校生と関わる時間が長くなってきています。

高校生の頃から自分で新しいものをつくる経験をしてほしいです。「やりたい仕事がない」ではなく「自分で仕事をつくろう」と考える若者が増えてほしいですね。

高校生から生まれたアイデアでまちを活性化

—— これまでどのような高校生のアイデアを応援されましたか。

「コロナ禍で夏祭りがなくなった商店街の飲食店を盛り上げたい」という高校生のアイデアから、農作物やテイクアウト料理が並んだ「よろ〜て市」が生まれました。

最初は、高校の先生から「生徒達にアイデアはあるけれど、どうやって実現して良いか分からない。このままだとイベントが形にならずに終わってしまう」という話を聞いたんです。

それで、私たちが授業に参加して、高校生と一緒にどうしたら思いを形にできるかを考えていくことにしました。コンセプトやイベント実現までのステップを整理するのを手伝って、そのあとは高校生が商店街まで自分たちで出向いてアイデアを共有したり、ボランティアを集めたり。そうして最後まで高校生が中心となって、イベントの準備を進めていきました。

2020年8月に旭町商店街で開かれた初めての「よろ〜て市」には、最終的に20店舗近くもの飲食店が参加してくれたんです。歩行者天国にした商店街に、当日は約700人もの方が遊びに来てくれました。

第一回の「よろ〜て市」の様子を見て、次の学年の子どもたちが第二回を開催したのも良かったです。

—— イベント前後で高校生に、どんな変化がありましたか。

第一回の「よろ〜て市」でリーダーを務めた女の子は特に大きく変わりましたね。元々すごく賢くて話も上手な子でしたが、周りを気にして自分の意見を言えなくなることがあったんです。

でも、「よろ〜て市」に関わる中で「自分の思いを話してもいいんだ」と思える仲間ができて、自信を持って話せるようになったんです。これまで下を向いて話していた彼女が、相手の目を見て喋れるようになりました。すごく素敵ですよね。

—— それは素敵ですね。若い人のチャレンジが生まれやすくなる地域づくりのためにされていることはありますか。

2020年10月から、種子島を愛する人たちが、子どもも大人も集まって地域活性化のアイデアをプレゼンする「たねがしまスープ」を開催しています。スープ(軽食)を食べながら喋れるような、ゆるやかな場をつくるために生まれたのが「たねがしまスープ」です。

これまで「アイデアを持っていても発表する場がない」「発表するのが怖い」という声をたくさん聞いてきました。一方で、「子どもたちを応援したい気持ちはあるけれど、どこにアイデアを持った子がいるかわからない」「どうやって応援したら良いかわからない」という声も大人たちからもらっていたんです。

全員のプレゼンが終わった後の食事会では、プレゼンターと参加者がざっくばらんに話せる時間をつくっていますね。会の最後には投票を行い、一番になったプレゼンターには参加費の一部が贈られます。最初に小さく始める時に、それを使ってもらえたらと思っています。

—— 具体的に「たねがしまスープ」ではどのようなアイデアが生まれましたか。

「osagari(おさがり)」というアプリは高校生から生まれたアイデアです。種子島には、保護者がJAXA関係の仕事で引っ越してきたり、短期留学制度で転校してくる子どもたちもいるのですが、地域との関わりが少なくおさがりをもらうことが困難で、高額な制服を揃えなければなりませんでした。このアプリでは、卒業生が使った制服の受け渡しができるようになっています。NHKの取材を受けて全国でも放送されました。

「たねがしまスープ」の良さは、島の方が希望を持てて「子どもたちに投資が必要」と考えるきっかけになるところだと思います。

子どもを肯定して、教えすぎない

—— 高校生と関わる上で、大切にしていることはどんなことですか?

一番大切にしているのは、肯定して自信をつけてもらうことです。子どもたちのアイデアには、まず「いいね」とポジティブな反応を返します。その後に「どうしたらもっと良くなる?」「制限をかけずに考えるなら何をしたい?」と尋ねるようにしていますね。

勉強や部活動ではどうしても正解を教えることが多くなるので、自由な発想を認める場が地域の中で少なくなりがちです。子どもたちの柔らかいアイデアを受け止めることができたらいいなと思っています。

それと、子どもたちと関わるうえで、全部教えないことも大切にしていますね。うまくいく方法を教えすぎないで、どうしたらもっと良くなるか考えて実行してもらうようにしています。

もしプロジェクトがうまく進んだら一緒に全力で喜びますし、もし失敗してしまっても「こうやったらもっとうまくできそうだね」と提案するようにしていますね。

—— 高校生からはどんな声が寄せられていますか。

元々引っ込み思案だった高校生の男の子が「企画に参加して自信がついた」と話してくれました。活動を通して自分の強みがわかったそうです。親御さんも喜んでくださって嬉しかったですね。

他にも、進学先に悩んでいた高校生が「地域のために活動したいと思うようになった」と教えてくれました。その子は大学受験して、地域政策科に進学しましたね。大学生になった今も「たねがしまスープ」の運営に参加してくれて、交流を続けています。

「チャレンジしてみたい」思いを預かれる人に

—— すごく大切な活動だと感じますが、一方で事業にするのが簡単ではない領域だとも思います。「YOKANA」の経営上の工夫を教えてください。

地元でやってみたいことがある方の相談は無料で受けて、スペースの利用料はできるだけ低額に設定しています。家賃や光熱費はゲストハウスの宿泊費から賄っていますね。

私たちは「YOKANA」の収益では生活しないと決めているんです。それは「YOKANA」を利用するときにお金がたくさんかかってしまうと、地域で何かをするときのハードルが高くなってしまうから。

「YOKANA」は商店街に灯りをつけたいという思いで、いろんな人と一緒につくってきた拠点です。だからこそ、私たちは地域おこし協力隊の任期を終えた後も、別の仕事で生計を立てていきます。例えば、今は別の地域に「YOKANA」のような拠点をつくるために立ち上げを支援することもありますし、高校の授業で外部講師を務めることもあります。

軸足は種子島に置きながら、今後もいろんな地域で活動していきたいです。活動の中で「YOKANA」を紹介することで、種子島の発信にも繋がれば良いなと思っています。

今は助成金をいただきながら「YOKANA」を運営していますが、来年度からは助成金に頼らない仕組みをつくっていきたいです。

—— 地域で子どもたちの居場所をつくりたい方へアドバイスをお願いします。

一番は自分の心に余裕を持つことではないでしょうか。余裕がないと子どもたちの声を聞き逃して、本来ある子どもたちの「挑戦したい」気持ちを引き出せなくなります。

余裕を持つために、自分の人生を何に使いたいかをいつも考えています。私は地域の人たちがチャレンジできる仕組みをつくることに時間を使いたい。自分で地域課題を解決する人が生まれていく仕組みをつくりたいんです。

—— 最後に、まちの中でどんな存在になっていきたいか教えてください。

困ったときの相談者になりたいです。私は誰かのチャレンジに伴走することが一番の生きがいなんです。「こういうことをやってみたい」と話すことは、ものすごく勇気が要る最初のチャレンジだと思います。そんな地域の未来のタネを預かれる人になれたら嬉しいです。

—— ありがとうございました!これからの活動も応援しています。

(文:田中美奈、写真:本人提供)


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