【「学びを変える」を仕事にする/今村祐樹】 屋久島で仲間と始めた、家族を育てるキッズキャンプ
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【「学びを変える」を仕事にする/今村祐樹】 屋久島で仲間と始めた、家族を育てるキッズキャンプ

屋久島の雄大な自然の中で、自然の“翻訳家”と一緒に家族で過ごす四季。子どもたちは自然とともに生きることを学び、大人は家族のこれからについて問い直す時間になる。そんなキッズキャンプが、屋久島を拠点にした合同会社モスガイドクラブ・モスオーシャンハウス代表の今村祐樹さんと、磯野謙さんから始まりました。

経営のプロ・磯野さんと、自然とともにある現場のプロの今村さんが出会うことで、どんな学びの場が生まれたのでしょう? 2人のビジネスでの経験がつながって生まれた、「学びを変えるを仕事にする」をお届けします。

今村 祐樹(いまむら・ゆうき)
合同会社モスガイドクラブ代表・イマジン屋久島実行委員・屋久島ウェルネスツーリズム協会会長。1978年大阪府吹田市生まれ。都市に近いベッドタウンで、わずかにのこっていた田んぼや雑木林で秘密基地づくりや化石探しにあけくれる幼少期を過ごす。2002年、大学卒業後、就職した仕事をやめ「自然の中で生きる力を身につけよう」と23歳の時に屋久島に移住。2003年、屋久島の自然を楽しく遊びつつもサスティナブルな視点でプロデュースするエコツアーカンパニー「モスガイドクラブ」を仲間と創業。1000年を超す樹々が生きる深い森の中での年間230日を超えるガイドの場で、探求し学び培った屋久島の自然の仕組みや、島に自然とともに暮らす人々の生活文化を伝える場所として、2006年、島で暮らす宿泊体験を提供するモスオーシャンハウスの運営を開始する。2009年には「暮らしの中に自然を取り戻す」をテーマに、yoga、呼吸法、料理、アーユルヴェーダ、コーチング、パーマカルチャー、環境活動など、自然体で生きる様々なスペシャリストたちとコラボ合宿や研修、リトリートプログラムを企画、運営。2014年、長男誕生を機に「屋久島は観光地としての魅力をこのまま追いかけるだけでいいのか?」との問いが芽生え、「自分たちが暮らしたい、子育てをしたいと心から思う島の暮らしの魅力を磨きたい!」と思い、島の友人や団体、友人が経営する企業と共に、子供も大人も親子も、また企業で働く人々も、屋久島の1000年つづく自然の生態系から学びを得ることができる教育研修プログラムの開発をすすめ、暮らしたくなる島の魅力づくりとと共に、人が訪れれば訪れるほど島の自然がますます美しくなっていくような仕組みづくりに奔走している。
磯野 謙(いその・けん)
1981年生まれ。長野県、米ロサンゼルスで自然に囲まれた子ども時代を過ごす。大学4年次に30カ国を巡る旅に出て、そこで深刻な環境問題・社会問題を目の当たりにする。大学卒業後は、株式会社リクルートにて、広告営業を担当。その後、風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月自然電力(株)を設立し、代表取締役に就任。慶應義塾大学環境情報学部卒業。コロンビアビジネススクール・ロンドンビジネススクールMBA。

企業研修で実感した、見えないものを感じる「感性」の大切さ

─ これまで、今村さんはガイド・宿泊業、磯野さんは自然エネルギーの会社経営をされてきましたが、どのような経緯で教育プログラムであるキッズキャンプを始めることになったのでしょうか? 

今村:僕は2002年に屋久島に移住して、翌年仲間と合同会社モスガイドクラブをつくりツアー事業を始め、2006年にはMoss Ocean Houseという宿も始めました。「屋久島の自然と人を繋げる」仕事をずっとしていて、宿をやりたかったから宿泊施設を始めたというよりは、僕らが感じる屋久島の世界観を体感できる場所を島に増やしたかったからなんです。

屋久島は、本当に不思議なくらい「人も自然の一部だ」という自然との一体感を味わえる場所で、たとえ宿であったとしても豊かな自然の中にあって、島の季節の移ろいを感じられる料理を提供したいと考えたんですね。

屋久島には樹齢7200年以上と言われる縄文杉をはじめとして、樹齢1,000年以上の屋久杉と呼ばれる杉が点在しています。僕らはガイドをしながら、なぜ屋久島では何千年も樹木が生き続けられるのかを18年間ずっと考えてきたのですが、長寿の木の近くはそこに居るだけでめちゃくちゃ気持ちがいいんですよね。

たとえば縄文杉のある場所は、島で一番大きな川の源流域、つまり屋久島のゆたかな自然をささえる雨が降り風が吹く「水と空気の循環」が最も活発な場所に、シンボルのように存在しているのが縄文杉なんですね。

屋久島は観光地として有名ですから、正直訪れた人々は表面的な自然の姿だけを切り取って帰られることが多いです。でも僕らは、屋久島の自然が本当に心地良いこと、その背景に水や風の巡りと繋がりが隠されているという気づきが、屋久島の本質的な価値だと考えるようになりました。そこから観光客の方に限らず、様々な人にこの屋久島の価値を伝えていけないかと思っていたとき、以前から知り合いだった磯野に自然電力の研修を屋久島でできないかと相談を受けたんです。

── キッズキャンプが生まれる前に、企業研修があったのですね。

今村:そうなんです。磯野から提案を聞いて、企業にとっても屋久島で自然の巡りや繋がりの重要性を実感することは価値があると感じました。社員間のコミュニケーションが不足すれば売上の減少に繋がりますし、持続可能ではなくなりますから。人間が、血管が少し詰まるだけで不健康になるように。それから企業研修を始めて、今は同じ視点からキッズキャンプも始めているということになります。

── おふたりの繋がりから、少しずつ取り組みが始まっていったのですね。磯野さんは、今回のキッズキャンプは会社としてではなく個人として始められたそうですね。

磯野:はい。僕個人とモスガイドクラブとのコラボレーションで、まだまだ実験段階のプログラムなんです。今は自分や友人の子どもたちに体験してもらっています。

先ほど今村が縄文杉の話をしましたが、地球がきれいであり続けるためには循環が必要です。それは企業の経営にとってもそうで、循環の概念や考え方をどうやって組織の中に組み込んでいけるのか、屋久島での企業研修ではずいぶん試行錯誤しました。

その中で、そうした見えないものを感じるための感性を磨いていくことの大事さを痛感したのが今回のキッズキャンプが生まれたきっかけになります。たとえば自分の子どもたちに、屋久島の自然の中で五感を使うことを“三つ子の魂百まで”の時期に体験させたら一体どう育っていくのだろうと考えたんですよね。

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自然を感じるには、「翻訳者」が必要だ

─ そうだったのですね。とはいえ、普通に家族旅行などで屋久島に子どもたちを連れていくのではなく、プログラムにしてみようと思われたのはなぜなのでしょうか。

磯野:僕は屋久島も他の自然豊かな地域もいくつか訪ねた経験はありますが、自然の専門家ではありません。その自分が連れていっても、おそらく子どもたちが自然を感じ取れるまでリードできないですし、大抵の親もそうだろうと思いました。

人と自然の間に立って通訳をしてくれる人が必要になると今村に相談したところ、1回目は山のセンセイとして今村、海のセンセイとして僕の友人である内野加奈子さんを招き、まずは自分の子どもを含め親しい数家族を対象にやってみようという話になったんです。

── 初回は2019年ということですが、どのような体験だったのでしょうか。

磯野:海の専門家である内野さんは、自然からの情報だけを頼りに進む伝統航海術を現代に再現したカヌー「ホクレア号」のクルーです。ホクレア号はエンジンを持たず、コンパスや海図などを使わずに星座や太陽や月、波や海鳥たちの飛ぶ姿などから情報を読み解いて航海するんですよ。

そうした人間の究極の感性を駆使する技術を持つ彼女と、20年近く屋久島の森をガイドしてきた今村と一緒に過ごすことで、都会で過ごすことがほとんどだった子どももすぐ海の中に入れるようになったり、山を走れるようになったりしていて、ずいぶんと感性が開かれたようでした。

── なんと今年はさらにアップデートされたということですが、どのようなプログラムになったのでしょうか?

磯野:今年は単純な自然体験ではなく、教育的な要素を入れるために幼児教育のプロである「学びの道教育研究所」の池田哲哉さんをお招きしました。また、自然の中で育つと身体能力が上がるということを科学的に証明したいとも思い、酒井リズ智子さんという米国医師でありながら米国アスレチックトレーナーとしてプロバスケットボール、プロゴルファー、プロサッカー、メジャーリーグまで多くのアスリートのコンディショニングを担当している方をお招きしました。

酒井さんによると、本当の自然の中で遊ぶと運動神経が育つらしいんです。具体的には空間把握能力が変わるそうで、いわゆる体育館のような人工的な箱の中は常に動いているものがないため、空間把握能力が育まれないらしいんですね。一方で自然の中は空間に常に変化があるので、その部分が育つそうです。

室内の練習時間が多い選手、室外での練習時間が多い選手で比較すると能力が全く違ってくるそうで、そうした身体的側面から外で遊ぶ価値を伝えられたら、アウトドア好きの家族だけではなく小学校受験に関心のある都会の親御さんたちも参加してくれるのではないかと考えました。

また、特に重要視したのは「ファミリービジョン」を作るということです。子どもたちが寝静まってから、池田さんをサポート役としてこれからの家族としてのビジョンを考える時間を作りました。子どもだけでなく、“子どもを通して”親が学ぶプログラムにしたいと考えたんです。

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子どもに成長を願うなら、親も成長していく必要がある

── 対象を子どもだけでなく親も含めたのはどうしてなのでしょう。

磯野:子どもたちがどう育っていくのかには、親の影響がやはり大きいです。子どもにこう成長してほしいと願っても親がそうならないと難しいですし、4歳にできることでも30歳でできないという人もたくさん見てきました。でも、僕自身ビジネスの情報は世間にあふれていても、親のための子育ての正しい情報は中々手に入らないなと感じていて。

子どもだけ屋久島に預けるのではなく、ファミリーとして屋久島に通ってもらって、自分たちがどうこの世界に向き合っていくのかサポートを受けながら家族で対話する機会を定期的に持ってもらいたいなと思っているんですね。何か問題が起きてからではなく、“家族の人間ドッグ”のようなものがあってもいいと思うんです。

何より屋久島の豊かな自然は、日常のフィルターをいい具合に外して人を素直にしてくれます。いつもとは違う対話が生まれることで、お互いに“家族”という同じ船に乗って生きていることを確認できる時間を作れたらいいなと思っています。

それに幼児教育には、会社の企業研修としての可能性を感じているんです。それこそ企業人には子育て世代が多いわけですが、自分の子どものことになると大人はおそらく本気になると思っていて。親が自立してコミュニティに貢献できることが大切なのだと池田さんから学ばせていただいたのですが、それは企業にとっても大切なことであって、まだ実践できてはいないのですがこの部分を将来的には取り組めたらいいなと構想しています。

── 感性を育てることへの関心以外に、教育プログラムを始める動機は何かありましたか?

磯野:何だかんだこの取り組みを始めた一番の理由は、まず自分たちの子どもに提供するためです。今村も僕のところも同年代の子どもがいて、僕らの友人たちも同様に同年代の子どもが多かったので、それならば一緒に何かできないかという思いでした。近い将来、その範囲をもっと広げたいなという気持ちもありますが。

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次世代に残したいのは、地球規模でものごとを考えられるような力

── 実際にキッズキャンプを始めてみて、「学び」について感じられていることを教えてください。

今村:人間の感性は、やっぱり自然の中だととても開いていきます。一方で、情報が多い場所、たとえば都会や学校、会社の中では感性を使わない方が生きやすかったりもするので、閉じていってしまうものなんだろうなと感じていて。たとえ屋久島の中だとしても、公立学校などでは校内で過ごす時間が多いので、それはとてももったいないことだなと思っています。五感を使って外で学ぶこと、体を動かすことが、もっと子どもたちの生活の一部になればいいのですが。

僕は実家が大阪で、帰省すると公園に落ちてる棒1本ですら勝手に持ち帰っちゃいけないよと子どもたちに言わなければいけません。でも屋久島では、海岸に落ちている流木も石も誰のものでもなくて、子どもたちには「誰のものでもないから自由に遊ぼう、でも皆のものだから大事にしよう」という感覚が養われていっていると感じます。

本来自然は誰のものでもないはずで、誰かが所有することで人間の色んな可能性が制限されてしまうのは、とてももったいないことですよね。そうした大人が作った枠組みの外に子どもたちを出してあげると、気づくことが結構あるんじゃないかなと思っています。特に地球規模でものを考えるときに、そうしたシェアの感覚があることは大事なことだと感じます。

磯野:自分は教育の専門家ではないので、ここをこうしたらいいと言えるような知識も経験も持っていないのですが、一方でやはり今村と共通した感覚は持っています。実は、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で6ヶ月あまり屋久島に家族で暮らしていたんですよ。20代のときも少しの期間滞在したことはありましたが、そのときと感じ方がまったく変わって、人間も自然の一部だということは頭では理解していたのですが、体では分かっていなかったなと実感させられました。

いきなり雷がすごい衝撃で落ちてきたり、洪水になりそうな大雨が降ってきたり、海のうねりがすごくて気をつけないと流されそうだとか、屋久島のむき出しの自然の中に身を置くと真剣に自然に向き合わざるをえなくなるんです。このときの、経済とか正直どうでもよくなってしまうような感覚がとても大事だなと思っていて。

世界中でSDGsが大きく掲げられていますが、これは“見えないもの”を感じることができないと、本当の意味では理解できないはずです。自分の目の前で起きている出来事ではなく、地球上で何が起きているのか、海の中、土の中で何が起きているのかを感じとる力がない限り、SDGsは国や企業のPRで終わってしまうと思うんですね。そして、次の世代ではこの“見えないもの”を感じとる感性を持つことが当たり前である状態にしないと、人類は滅びるのではないかと感じています。

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まずは近郊で、子どもたちに自然体験の場をつくってみる

── 子どもたちに自然体験の場を作りたい場合、まずは何から始めるといいでしょうか?

磯野:半年間の屋久島滞在から都会に戻って一番に感じたのは、周りの全部が人工物で、たとえて言えば遊園地に住んでいるようなものだな、自分たちがまるで檻の中の動物のようだなということでした。ただ都会が悪いということではなく、都会は都会で人と人が出会い文化を醸成する役割と機能があると思っています。

大事なのは、都会と自然の中を定期的に行き来する環境をどう作るか。それは必ずしも屋久島ほどの自然でなくてもよくて、都会の近郊でもいいと思うんです。人と自然の間に立てる翻訳者がいるかどうかが大切なのだと思います。

今村:モスガイドクラブも事業モデルを変えようとしていて、数日の観光プランを提供するのではなく、年間何日間滞在といった会員制サブスクリプションモデルを作ろうとしています。年に数回都会から通えるような自然と人をつなぐサービスにできたらいいなと思っていて、キッズキャンプもたとえば四季ごとに提供できたらと考えています。これから屋久島で、子どもの感性を育て、子どもを通して親が学び、家族のビジョンを考える時間を持てるような場所を作っていきたいです。

── ありがとうございました!


今村さんが登壇した「地方で探究の場を作る」イベントレポートはこちら


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