見出し画像

増える総合型選抜、今どんな力が求められている? 「大学入試を探究しよう」イベントレポート

大きな転換期を迎えている大学入試。文部科学省からペーパーテストだけの選抜はNGという明確な方針が出され、推薦・総合型選抜(いわゆるAO入試)の入学者の割合は、私立大学で56%、国公立大学で17%に。

私立大学の推薦・総合型選抜の割合が33%だった2000年に比べると、その割合がぐっと増えていることがわかります。東京大学も2016年から推薦入試を開始。毎年100名程度の学生を募集しています。

大学入試はどのように変化し、今大学ではどのような力が求められているのでしょうか。今回は、大学の教授、高校の教員、推薦・総合型選抜で大学入学を果たした現役学生の3者をお招きし、「入試を実施する側」「入試に向けてサポートする側」「入試を受ける側」のそれぞれから、お話を伺いました。聞き手は炭谷俊樹です。

ペーパーテストだけでなく、個人の考えも重視する入試

イベントは、まず東京大学工学部教授の鈴木雄二先生によるお話から始まりました。

「東京大学の使命は、さまざまな分野で指導的役割を果たすことのできる『世界的視野を持った市民的エリート』の育成です。国際性と開拓者精神を持った人材の育成を目指しています。

本学が求めているのは、主体的に学びながら、それぞれの分野で創造的役割を果たす人へ成長しようとする意志を持つ学生です。歓迎しているのは、大学の内外で自分の興味や関心を生かして学び、そのプロセスで見つけた問題を関連づける広い視野、または自分の問題意識を追求する深い洞察力を獲得しようとする学生です。

東京大学の学校推薦型選抜は、多様な学生構成の実現と学部教育の更なる活性化を目的としています。求めているのは、本学で学ぶために必要な学力以外に、ある分野や活動への卓越した能力、または極めて強い関心や学ぶ意欲を持つ学生です。提出書類や面接試験、大学入学共通テストの成績を総合的に評価し、入学者選抜を行っています。

学校推薦型選抜において、工学部では、社会の多様な課題を科学技術を通じて解決することへの強い関心や意欲を持ち、専門知識を駆使して社会課題解決やイノベーションを先導することに、主体的に貢献することが期待できる学生を求めています。また、『理数系分野における特に秀でた能力』、『明晰で柔軟な思考力があり、自ら課題を設定して幅広く学修する能力』、『異なる思考様式や文化的背景を持つ人々と協力して、グローバルな問題を発見し解決できる能力』のうちいずれか、または複数の能力を持つ学生を歓迎します。学外のコンテストなどでの入賞などは必要ではなく、高校の中での活動でも十分に推薦要件となり得ます

工学部では、アントレプレナーシップ教育、PBL型ものづくり教育、国際交流・国際化教育を行っています。社会課題解決の当事者であるアントレプレナー育成を重視しているのですが、たとえ起業家という形で社会に出なくても起業家精神は重要です。自分で新しいことを生み出す力は、東大生であれば誰でも身につけておくべきマインドセット・スキルだと考えています。実際に、東大関連のスタートアップは400社以上あります」

「学校推薦型選抜では、ペーパーテストでは測れない力も評価対象とのことだが、合格にはどのような力が求められているのか」という質問には、こんな風に答えました。

「工学部の学校推薦型選抜では、面接試験でひとりの学生につき40分程度の時間を設けています。面接の中で一人ひとりの学生の話を聞くのですが、海外研修などある取り組みに参加したこと自体より、その中でどんなことを感じて何を得てきたのかが重要だと思います。

受験生からすると、大学に入学することがゴールだと思うかもしれないですが、我々は入学後の活躍を見据えています。入学後にどのように活躍してくれそうかが面接試験で見えることが重要なのかな、と。本学の学校推薦型選抜だけではなく、他大学もそうだと思います」

スクリーンショット 2022-02-14 16.45.59

合格のカギは、自分の「在り方・生き方」を言語化できるか

続いて、現場でどういったことに取り組んできたか、追手門学院中・高等学校で探究科主任を務め受験指導にも関わられている池谷陽平先生のお話がありました。

「変化が激しい社会の中で、新しい価値を創造しなければ日本は生き残れないと言われています。学習指導要領からは、課題を解決する人材を育成する教育が必要だと国が考えていることがわかりますね。これが、探究が必要とされている背景です。

本校では、ひとつの科目として2020年から『探究科』が発足しました。週に2時間のペースで、中学の『総合的な学習の時間』、高校の『総合的な探究の時間』に授業を行っています。探究科のビジョンは、生徒が楽しみながら、自信とレジリエンスを獲得し、自己肯定感を高めて、自らの人生をよりよく選択することです。

プログラムを通じて『自分は自分でいい』『自分の役割がある』といった自己肯定感を育んでほしいと考えています。全学年で大切にしているのは『まずはやってみる』というマインドセット。まず、探究科では『自己の在り方や生き方』を考えます。やってみる経験から振り返りをして自分を理解し、自分にしか創造できないことに気づいてほしいです。

SDGsからもわかるように、世の中には課題が山積みです。でも、自分の在り方や生き方の軸がなければ、そもそも解決したい課題を発見できません。自己の在り方や生き方を持った上で、自分の身近にある課題を発見して解決する経験をする。探究科で取り組んでいるのは、こんな学びです。

具体的な授業内容としては、中学1年生から高校1年生までの4年間に、アートを用いて自分の中にあるものが何かを表現します。正解がないアートで自己表現をする中で自分に気づいていく。そのプロセスを丁寧に授業の中で扱っています。

自分を見る目の解像度が上がっていくと、世界を捉える感度が高まります。『これを探究してみたい』とテーマが見つかれば、勝手に探究サイクルが回って、課題解決へ一歩踏み出すことにつながっていくんですよね。そんな課題を発見するためのベースづくりに、多くの時間を割いています。

探究科で見つけた自分を知る力は、入試にも役立っていて、推薦入試に挑戦する子どもたちが増えてきています。実際に、推薦入試の合格者がのべ700人ほどいるんですね。「自分はこんなことが得意なので、こんな役割があると思います。だから、将来こんなことをしたいです」と自分の言葉で自分を語る。そうやって子どもたちは受験を突破しています」

「大学入試で子どもたちに求められているのはどのような力だと感じるか?」との質問には、「自分のことを深く理解して話せるか。経験したことをしっかり言語化できるか」とのこと。

また、子どもたちが楽しみながら自信を育んでいくために一番重要だと思うことについての質問には、こんな風に答えてくれました。

「授業の中で、子どもたちの考えを聞く時間をつくることです。本校では、対話をしながら絵画を鑑賞する対話型鑑賞の授業を頻繁に行っています。絵画は見る人によって注目するところが違って、どう感じるかも人それぞれです。

『ここに目がいく』『自分はこう感じる』と子どもたち同士で感じたことを話す時間が、自己表現になっているんですね。『こんなことを話せた』という成功体験も、子どもたちの自信を育むきっかけになっていると思います。

何に興味を持つかは、一人ひとり違いますよね。教師が子どもたちの可能性を潰してしまわないよう、子どもたちが本当にやりたいことを授業の中でやらせてあげることが、その後の人生にとって重要なのかなと思います」

スクリーンショット 2022-02-14 16.46.10

合格した学生の声は?なぜそのテーマかを掘り下げる

推薦・総合型選抜で大学入試に合格した現役学生の海藤皇成さん、末広多聞さんにも、実際にどうだったか話を聞きました。

—— 面接試験の準備は大変だと思うのですが、どのように準備されたのでしょうか。

海藤:東北大学工学部の材料科学総合学科に総合型選抜で入学しました。高校で何度か面接試験の練習をすることができたので、聞かれそうなことはある程度準備して試験に臨めましたね。

当日面接官だった方が、溶接・接合などのスペシャリストでした。父が日曜大工をしていて子どもの頃から工学の技術に触れたことがあったので、面接官の方の専門分野に関する知識を持っていたんですね。それで、面接試験でスムーズに話せたという実感はありました。

末広:学校推薦型選抜で、東京大学工学部の航空宇宙工学科に入学しました。面接試験で話せることを事前に考えていましたね。例えば、研究したいことやなぜそのテーマなのかなど、知識以外のこともスムーズに話せるように事前に整理していました。

また、自分の強みを英語で話す課題があると先輩から聞いていたので、その練習もしていました。高校2年生のときに国際物理オリンピックで銀メダルを受賞した経験から、面接試験ではそこで得たことや、自分の得意分野をどのように航空宇宙分野に活かせるかなどを話しました。研究したいテーマがかなり具体的に決まっていたので、そのことについて説明する練習をしましたね。

—— 探究したいテーマについて話されたのですね。一方で、探究したいテーマがまだ見つかっていない子どもたちもいます。そんなとき、学校の先生はどのようなアプローチができると思いますか。

海藤:大学は必要であれば行けば良いと私は思っています。大学にはいずれ行きたい気持ちはあるものの、他にやりたいことがあるなら、そのことを優先しても良いのではないかな、と。本人のタイミングが来なければ、周りの人が何を言っても仕方ないというのは、僕の経験からも言えることだと思います。本人に任せて、待つしかないのではないでしょうか。

末広:授業内容に興味を持ってもらうことが大事だと思います。興味を持たないと勉強したいと思わないというのが、僕の中でありますね。物理の分野だと「なぜ空は青いのか」など、小さな「なぜ」を深く掘り下げていくのが学問だと僕は捉えています。楽しめるような学びがあれば、子どもたちが興味を持つ機会が増えていくのかなと思います。

—— 推薦・総合型選抜で大学入試に挑戦する子どもたちを応援する、周りの先生や保護者の方へメッセージをお願いします。

海藤:「何をしたいか」によって、しっかりと情報収集をすることが大事だと思います。僕は鉄について学びたいと思ったので、その分野に強い東北大学を選びました。行きたい大学へ入学できるように、頑張ってほしいです。

末広:自分のやりたいことを探究していく姿勢が大事かなと思います。塾で勉強をさせるよりも、好きな本を渡すといったことをしてもらえた方が、僕のようなタイプは成長できるのかなと感じています。

—— 画一的な偏差値型の試験だと、自分の好きなことを探究したい子がいたとしても、それがあまり見えないですよね。大学入試が多様になってくることで、一人ひとりの個性を見てもらえるチャンスが出てきたと思います。この変化をぜひ活かしていただきたいですね。

※本イベント全編の録画については、探究コネクト"探究する仲間をつなぐコミュニティ"のメンバーになっていただくと視聴ができます。


\探究ナビ講座のサイトがオープンしました!/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?