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アフタースクールをつくるノウハウを全国に伝えたい。「放課後NPOアフタースクール」のこれまでとこれから。

すべての子どもたちに、安全で豊かな“放課後”を届けるために活動を続けてきた放課後NPOアフタースクール代表の平岩国泰さん。アフタースクールを法人化して10年目の2019年に、新渡戸文化学園理事長にもなられています。

学校法人の理事長とNPO代表という二足の草鞋を履いて、子ども達を幸せにするための活動に全力を注いでいる平岩さんに、アフタースクールのこれまでの10年間やこれからのことを話していただきました。

学校で過ごす時間より長いのに、放課後の価値は忘れられている

——アフタースクールでは、子どもたちに安全で豊かな放課後を提供されていますね。放課後の意義について教えてください。

小学校低学年の子どもたちは、年間約1,200時間を学校で過ごしている一方で、長期休みを含めた放課後の時間は年間約1,600時間です。実は、学校よりも長い時間が学校の外にあります。子どもたちにとって学校が大事なことは間違いありませんが、学校外の時間の価値は忘れられがちです。もっと放課後は注目されて良いはずです。

放課後にはたくさんの価値があります。過ごし方を自己決定する自由があること。多様でありのままで良いこと。可能性にチャレンジできること。リアルな社会とつながることができること。好きなだけ没頭することができること。多くの仲間とつながること。放課後には、自由・多様・挑戦・社会・夢中・仲間の価値があります。

学校では勉強が評価軸になってしまうことが多いです。でも、それだけで子どもたちの価値を決めてしまうことには無理があります。「ものづくりがうまい」「面白い遊びを考えてくれる」「年下の子どもたちをまとめる抜群のリーダーシップがある」など、どの子にも絶対にいいところがあると私たちは信じています。

子どもたちの多様な良いところを発見し、伸ばすことができるのが放課後の良いところです。自分の良いところや、やってみたいことの中から生きる力を掴んでいくことが、変化が激しい今の時代には求められています。そんな力を伸ばすことのできる放課後には、大きな価値があります。

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——放課後には多くの潜在的な価値がありながらも、忙しい子どもも多いですよね。放課後をいきいきと過ごせている子どもは多くはないかもしれません。

放課後にはたくさんの価値がある一方で、課題があるのも事実です。学童クラブの待機児童問題は未だに解決されておらず、子どもが小学校に入学後、就学前よりも仕事と子育ての両立が困難になる「小1の壁」もあります。安全性や遊び場の問題で、小学生の子どもたちは自由に放課後の時間を過ごせなくなっています。

また公立小学校は無償で通うことができますが、放課後の時間をどう過ごすかは家庭の経済事情によって左右されてしまいます。現在は以前とは異なり、サッカークラブに入らないとサッカーができないような時代になってきています。どうしてもお金がかかってしまうんですよね。そうすると、経済格差は体験格差にもつながっていきます。

だからこそ、今の時代にあった放課後をデザインしていく必要があります。私たちは放課後の小学校にアフタースクールを開校し、子どもたちが安全な放課後を過ごせるように活動しています。対象は、1年生から6年生までのすべての子どもたちです。子どもたちの自由な活動に加えて、地域の方々を「市民先生」として迎え、「本物」の知恵や技を体験することのできるプログラムも提供しています。

ボランティア活動から始めて、公立で開校するまでに10年かかった

——活動の始まりについて教えてください。

会社員として働きながら休みの日を活動に充て、2005年から世田谷区の公民館で週に1度のボランティア活動を始めました。一番最初のプログラムは「和食」で、料理人の方に「市民先生」になっていただきました。

でも、1回目のプログラムを実施するまでが大変でした。私たちが見本にしていたのは、アメリカの学校で放課後に開かれているアフタースクールです。日本でも学校で活動したかったのですが、最初はどこにも相手にしてもらえませんでした。

学校に直接電話をしたこともありましたが不審者扱いで、学校の敷居は高くて。そんな経緯もあり、まずは公民館で活動を始めることになりました。2年間公民館で活動し、少しずつ信頼を積み重ね、3年目から世田谷区の公立小学校の放課後にプログラムを提供できるようになりました。

2007年から2010年の間はその活動を続け、2011年には第一号の直営である新渡戸文化アフタースクールを開校します。その後、何校かの私立小学校が手を挙げてくださって、活動を広げていきました。公立小学校でもアフタースクールを開校したかったのですが、「公立で活動するには、実績と体力が必要」だと教育委員会の方々に言われ、なかなか実現に至りませんでした。

——公立小学校でもアフタースクールを開校したいという思いにはどんな背景があったのでしょうか。

日本中には2万ほどの小学校がありますが、そのうち私立小学校は200ちょっとしかありません。つまり、私立小学校は全体の1%ほどです。より多くの子どもたちへアフタースクールを届けていくために、公立小学校でアフタースクールを開校したい思いが当初からありました

私立小学校で活動を続けた結果、2015年に公立小学校でアフタースクールを開校できることに。現在まで一都三県を中心に、公立・私立あわせて計21校のアフタースクールを開校しています。

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——活動を広げていく中で、壁となったものはありますか。

学校を使わせてもらうこと自体に大きなハードルがありました。校長先生の一存だけで決められる話ではないので、教育委員会といったより大きな枠組みで話を進めていく必要があります。

開校に至るまでの経緯は拠点によって様々です。自治体と話し合いを重ねながら、アフタースクールを開校した事例もあります。また、枠組みが既にある中で、放課後の拠点を運営する事業者を募集していて、私たちが手を挙げたという事例もあります。

——2015年には、特別支援学校でもアフタースクールを開校されていますね。

活動が始まったきっかけは、障がいのあるお子さんを育てている保護者の方から相談を受けたことでした。特別支援について、研修でみんなで学び、看護師のみなさんとチームを組んで子どもたちと関わっています。子どもたちがプログラムに参加している間、保護者の方々にヨガやピラティスを楽しんでいただいたり、保護者のリフレッシュにもつながるよう工夫しています。

関東中心に21校を開校、関西では企業と協働プログラムをつくって活動

——関東を中心に21校を開校され、2015年には、関西でも活動を開始されています。関西での手応えはどのようなものでしょうか。

アフタースクールは、子どもたちの現場で働くチームと、企業の方々とプログラムをつくって全国の子どもたちへ届けるチームがあります。関西では後者の活動を主に行い、企業の方々と協働し、子どもたちへ向けたプログラムづくりを行っています。関東と同じようなアフタースクール現場をこれから持つことも視野に入れています。

——どのようなプログラムを実践されたのでしょうか。

例えば、大阪に本社のある不二製油さまと、人と地球の健康を考える食育プロジェクトを共同開発して2015年よりプログラムを実施しています。不二製油さまは、植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の4つの食品素材を手がけている会社です。

不二製油さまの従業員の方たちが先生となり、子どもたちが「世界の食糧問題」や「食の大切さ」について学ぶことのできる出前授業を訪問・オンライン両方に対応して実施しています。食育に関するビンゴゲーム、献立づくりなどの体験を通して、楽しく学びを深めていきます。

——リアルの場だけでなく、オンラインも活用し、全国にプログラムを届けられているのですね。

これまではリアルの場でのプログラムを実施してきましたが、昨年のコロナ禍の状況を受けて、オンラインにも対応できるよう体制を整えました。オンラインを活用することで、複数の拠点と同時に接続が可能になり、より多くの頻度でより多くの子どもたちにプログラムを届けることができるようになりました

オンラインになると、どこの地域の企業さんでも全国の子どもたちに届けることができます。場所が意味をなさなくなってきたことは面白いですね。リアルの良さを大切にしながら、オンラインとのハイブリッド型で活動を続けていきたいです。

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拠点数を増やすのではなく、ノウハウを全国に伝える次の10年に

——オンラインを活用したことで、距離を問わずに子どもたちへアクセスしやすくなったのですね。「アフタースクール、全国で!」と掲げられていますが、全国の子どもたちの放課後をゴールデンタイムにしていくために、どのような戦略を考えられていますか。

私たちが運営母体となってアフタースクールの開校数をどんどん増やしていくというより、私たちの経験を活用し、全国を良くしていきたいという思いがあります。開校数という量ではなく、質の高さを重視しながら、私たちが得たノウハウや知見や失敗事例をみなさんに使っていただきたいです。

私たちは2009年に法人化して、2019年で法人としては10周年を迎えています。自分たちでアフタースクールの現場を運営できるようになろうとしていたのが最初の10年でした。これから先の10年は、私たちが培ってきたノウハウを全国のみなさんにお渡ししていく、新しいフェーズに入っていきたいです。

——自分たちが拠点を運営するだけでなく、ノウハウ移転に取り組むことで地方にも取り組みを広げていくということですね。具体的にはどのようなサポートを行うのでしょうか。

アフタースクールをつくるためには、大きく3つの課題があります。1つめは、担い手の不足です。人員が確保できなかったり、育成ができなかったりしている放課後クラブは、全国にたくさんあります。また、学校が使えないなどの場所に関する課題や、運営資金をどうするかといったお金の課題もあります。

私たちはそうした課題に対して、人材募集をサポートしたり運営力を上げる研修を提供したりすることができます。また、学校とパートナー体制を構築して場所を使えるように働きかけるサポートを行ったり、補助金や利用者負担などを組み合わせながら運営資金を確保するお手伝いができます。

——それは心強いですね。もし、「アフタースクールを開催したい、つくりたい」という方が地域にいる場合、まずは何から始めたらいいのでしょうか。

自治体で放課後事業を担当されている方、放課後事業に関心のある方を対象に、年に数回勉強会や研修会を無料で行っています。大切にしたい放課後の価値についてお話ししたり、直営拠点の事例紹介を行ったりしています。様々な関わり方ができると思いますので、一度アフタースクールにご連絡いただければ嬉しいです。

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「社会全体で、子どもを育てる」をもう一度実現したい

——これから子どもたちを取り巻く社会がどんな風になっていてほしいでしょうか。

「社会全体で子どもを育てる」社会をもう一度実現できると良いなと思っています。かつては、子どもが学校から帰ってくると地域の人が「おかえり」と言い、まちの中で子どもたちが遊んでいるのを見守っていました。しかし、今は地域で子どもを育てることが難しくなっています。

また、少子化も大きな課題となっています。今は子どもが生まれてくることに不安が大きすぎる社会だと思います。子どもが生まれることに不安が大きく、どこか歓迎されない感覚さえ覚えてしまうようにいつからなってしまったのか、私はこれが少子化の真の要因だと感じています。

将来は、誰もが次世代の子どもたちのために何かをしている状態になってほしいです。大きなアクションではなくても、地域の子どもたちを見守る、教育関係の団体に寄付するなど、様々な選択肢があると思います。もちろん、会社として私たちとプログラムを共同開発してくださることや、「市民先生」として子どもたちと関わっていただくこともできます。

「社会全体で子どもを育てる」は日本人のDNAに息づいていると思います。それが新しい時代に合う形で再現したとき、少子化の流れも変わってくるのではないかと思っています。「社会全体が子どもたちを応援している!」そんな空気感が必要です。私たちは放課後の分野から子どもたちを全力で応援していきたいです。

——最後に、メッセージをお願いします。

放課後には、価値がある。そのことを知っていただけたら嬉しいです。放課後は、子どもたちが安心できる居場所で、それぞれの良いところを発揮するための時間であってほしい。子どもたち自身も自分の良いところを認識できるような時間であってほしいです。そんな社会をつくっていくために、これからも全国の仲間と共に頑張っていきます。

子どもたちの放課後をゴールデンタイムにするために、アフタースクールのノウハウや知見をご活用いただき、みなさんと手を取り合いながら前に進んでいけたらと思います。

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「わたしたちの地域でもアフタースクールを」と思う方は、まずは放課後NPOアフタースクールのwebサイトをご覧ください。企業・行政・放課後活動団体の方々との協働をはじめ、個人の方は市民先生として関わっていただくなど、様々な関わり方があります。



\探究ナビ講座のサイトがオープンしました!/


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