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子どもたちをみんなで育てる。家庭だけに子育てを負担させない、学童保育の新しいモデル

「子育ては家庭だけが担うのではなく、もっとみんなのものであっていいと思うんです」

そう語るのは、日本一小さな村、富山県舟橋村で学童保育「fork toyama(フォーク トヤマ)」を運営する岡山史興さん。活動に共感する個人や法人から資金を集め、保育料ゼロで学童を運営しています。

2022年には拠点となる古民家をリノベーションするクラウドファンディングを実施。257人から860万円以上の資金を集め、みんなで営む新しい学童の形を模索し続けています。そんな岡山さんにこれまでの経緯や教育へかける思いを聞きました。

とことんこだわったのは、保育料ゼロの学童

—— fork toyamaが他の学童と違うのは、保育料がかからないところですよね。どうして無料にすることにしたのですか?

家庭の経済状況によって、子どもたちに経験格差が生まれてしまうことに納得できなかったからです。月に3000円ほどの料金でただ子どもを預かっているだけの学童もあれば、月に5万円以上の料金でプログラミング教育や英語教育を提供している学童もあります。

前者は子どもたちが学童で時間を潰すだけですが、後者ではいろんな教育プログラムを受けられる仕組みになっている。でも、この経験の差って子どもたちの責任ではないですよね。それなのに、この差が生まれてしまうことが、すごく理不尽だと思ったんです。

それに、学童にお金がかかることで、子どもを預けるために親が働くという構図が生まれてしまいます。場合によっては「何のために働いているんだっけ?」みたいな話になってしまう。学童へお金を払わないといけないから働くという状況だと、保護者の方もストレスですよね。

子どもとのコミュニケーションが悪くなる一因にもなりうると思うんです。無料にすることで家族旅行に行ける回数も増えると思うんですよね。fork toyamaは子どもだけではなく親のための場所でもありたいです。こういう理由から、保育料をゼロにすることに決めました。

—— 素晴らしい取り組みですね。ただ、人件費や場所代もかかると思うのですが、具体的にどのように運営されているのでしょうか?

会員制度を取り入れています。僕らの活動に賛同してくださった個人の方や法人の方に会員になってもらい、月1000円からサポートできるようになっています。現在は約60名の個人と数社の法人のみなさんより継続的に寄付をいただいています。

「子どもたちの将来のために」という方もいれば、僕が本業にしているPRのスキルを活かしたリターンを期待されて寄付してくださる方もいますね。協賛金の他には、fork toyamaの敷地内にあるカフェの売り上げも運営費に充てています。コーヒーを1杯飲むことが子どもたちへの応援になるので、ぜひ遊びに来てほしいです。

正直なところ、これまでは赤字ではあったのですが、今は行政も僕らの活動を応援してくれていて、来年度はより連携を強めていくことも視野に入れています。どう行政の力を借りていくかも今後検討しながら、運営していけたらと思っています。

みんなで学童を運営する「みん営」という仕組みに行政も関わってくれるようになれば、ひとつのモデルケースができるのかな、と。

—— 「みん営」はあまり聞きなれない言葉ですが、どんな願いが込められているのでしょうか?

これからの社会をつくる子どもたちの子育ては、家庭だけで頑張るものではなくて、もっとみんなのものであっていいと僕らは思っているんです。そういう意味で、新しい子育ての仕組みとして、みんなで学童を営む「みん営」を大切にしたいんですよね。今は保護者だけで子育てを担うのが当たり前という風潮があります。でも、子どもたちのためにみんなで力を合わせて子育てをしていきたいんです。

自分の困りごとから、プロジェクトが始まった

—— 岡山さんの仕事のご専門はPRで、教員等の経験があるわけではないですよね。そんな中で、学童を立ち上げることに決めたのはどうしてですか?

息子が次の年に1年生になるというタイミングで、僕の中で安心して預けられる学童がなかったことが出発点になっています。「ないならつくろう!」と、すごく個人的なところから始まったのがfork toyamaですね。

でも、この舟橋村にはすごく思い入れがあって、5年前に子育てのために引っ越してきたんです。きっかけは舟橋村の先々代にあたる村長さんに話を聞くことができたこと。僕は元々日本各地を取材する仕事もしてきたんですが、村長さんから子どもたちが自らクラウドファンディングでつくった公園があることや、その公園で子どもたちが毎月イベントを開催していることを聞いたんです。

共助のまちづくりをされていることが胸に刺さって、妻も僕もゆかりのなかった舟橋村にIターンすることを決めました。舟橋村は日本一狭い自治体であるにもかかわらず、ここ30年の間に人口が倍増した「奇跡の村」だという話も聞いて、すごく面白い場所だな、と。舟橋村が周辺にある市町村と合併しなかったことも移住を後押ししてくれました。

合併に加わらなかったのは、「村の子どもたちが通う学校が統廃合でなくなってしまうと、遠くまで通わないといけなくなるから」という理由だったんですよ。それは子どもたちにとってよくないよね、と子どもを真ん中において考える心意気に惹かれました。

—— もともと、子どもを大事にする文化を持った地域だったんですね。

引っ越してきて村のブランディングなどに関わっていた頃は、正直に言うとよそ者が何かやっていると警戒される空気を一部感じることもありました。でも、fork toyamaの取り組みを始めてからは、そういった方々も僕らの活動を肯定してくださっているんですよね。「村のために活動してくれている」と感じてくださっている方が多いです。

子どもがここに通っている親御さんに「こういう場所があって助かる」と言ってもらえることもあってそれも嬉しいですが、子どもを通わせているわけではない、地域の人にも応援してもらえていることが嬉しいです。この間、fork toyamaの近くに住んでいるおばあちゃんが「(敷地内の)草刈りをしといたよ」と声をかけてくれたんですが、すごく嬉しかったですね。

大人だけでなく、子どもたちも学童の運営に関わる

—— 駅前にあるため仕事の帰りに迎えに来やすいし、学校からも徒歩圏で、お庭も広くて、本当に素敵な場所ですね。

もともとこのお家では、古くから学習塾をやっていたり、子どもたちの寺子屋のような場所だったそうなんです。その方が亡くなってしまってしばらく空き家になっていたところを、運よく貸していただけました。

古民家ですしリノベーションは必要だったので、資金の一部を賄うため昨年の8月にはクラウドファンディングに挑戦しました。最終的に257名もの方々に支援いただき、目標金額を上回る860万円以上の資金を集めることができました。

—— 「こうした取り組みが社会に必要だね」とたくさんの方々に伝わったんですね。

クラウドファンディングだけでなく、みんなでつくるという意味で、普段から学童に地域内外の面白い大人を呼んでいます。いろんな大人がいることを子どもたちには知ってもらいたいんですよね。

たとえば、地元のIT企業で働かれている視覚障害のあるプログラマーさんをゲストでお呼びしたことも。最初子どもたちはどう関わったらいいか戸惑っていたのですが、30分くらい経つと打ち解けて仲良く遊んでいて。その姿が印象的でしたね。

他にも、三重県さん、アソビュー株式会社さん、株式会社ModelingXさんとコラボして、VRゴーグルで伊賀忍者の体験をしたこともあります。このプログラムで「三重県って面白い!」と感じた子が、家族旅行で三重県に行ったりもして。企画の段階で企業さん側も「こういうことをしたい」と伝えてくださるのが嬉しいですね。

—— 大人たちができることを少しずつ持ち寄ることで、保育料ゼロでもさまざまな体験活動などができていて、素晴らしいです。

大人だけでなく、子どもたちも運営に関わっているんです。たとえば、fork toyamaのルールは子どもたちと決めています

最近あったことやモヤモヤしたことを共有する、サークルタイムという時間が毎週あるのですが、そこではたとえば木登りの話が出ました。子どもたちは敷地内の木に登るのが大好きなんですけど、みんなで一緒に登ると、重さで枝が折れてしまう可能性もあって危ない。

それで、一緒に登る人数を何人までにしようと決めたり、ここの高さまでは登ってもいいというラインを決めたり。大人がファシリテーションを担いながら、子どもたちにルールをつくってもらっているんです。

あとは運営費集めも手伝ってくれています。この間は村のお祭りで、子どもたちが考えたドリンクを販売しました。ゼリーをいっぱい入れたジュースのアイデアを出してくれて、すごく可愛くて。いろんなアイデアの中から人気投票をして、どうしたら実現できるかや値段をどうするかをカフェの担当者と一緒に考えました。

当日は子どもたちがスタッフとなってジュースを販売して、用意していた100杯はすべて完売したんです。このお祭りは子どもたちにとっても嬉しい経験になったみたいですね。

「みん営」モデルが各地に広がる未来

—— 子どもたちの自信にもつながる取り組みですね。開始からまだ1年少しとは思えないプロジェクトですが、最後に、これからチャレンジしていきたいことを教えてください。

さまざまな方が子どもを預けられることと、安定的な運営を両立したいですね。僕らは両親が共働きじゃなくても子どもを預けられる場所にしたくて、fork toyamaではここまでは認可を取らずに運営してきました。

学童について調べれば調べるほど、学童は制度的に課題だらけなんです。たとえば、認可を取ると、両親が共働きでないと学童へ子どもを預けられなくなる。お母さんが育休中で家にいたとしたら、子どもを預けてはいけないのが、今のルールです。でも、育休中ってすごく大変だと思うんです。働くか働かないかや、学童を使うか使わないかはそれぞれの自由であるはずなので、今のルールには現実にそぐわない面があることもわかりました。

ただ、認可を取ることで補助金を得やすくなって安定運営しやすいなどのメリットもあるので、今後は認可/無認可を両輪で回せるようなちょうどいいやり方を探って運営していきたいと思っています。

—— 「子どもたちのために」と保護者に負担をさせてしまう取り組みもある中で、fork toyamaでは、保護者のことも子どもと同じくらい大切に考えてらっしゃるのを感じます。

このへんはあまり徒歩圏内に飲めるお店がないのですが、ここのカフェは週1回だけ21時までやっているんです。そうすると、保護者の方が夜に息抜きに来てくれたりして。ママ同士で集まって1時間くらいおしゃべりして帰ったりされることもあるんですが、そういう場所も必要だなって思いますね。

いずれは地域の人が来れるバーもやってみたいなとか、建物の裏にある蔵を使ってギャラリーをやれないかなとか、そういったことも考えています。12月には、県内外の面白い大人たちを招いて、ここでフェスも開催するんです。富山は保守的と言われる地域ですが、子どもたちにも保護者にも、面白い人と出会ってもらうきっかけになればいいなと思っています。

—— こうした学童が、「うちの地域にも欲しいな」「自分たちもやりたいな」という人も、たくさんいると思います。

ありがたいことに「こういうことをやりたいと思っていたんです」と声をかけてくださる方が多くて、他の地域で立ち上げに動かれている方もいます。無理にフランチャイズとかにせず、自律的にforkのモデルがあちこちに広がって、日本各地に「みん営」の学童が増えていけばいいですね。

収益についても、地域の資源を活かして、工夫できる部分があるんじゃないかと思います。fork toyamaでは、企業や行政と一緒に、耕作放棄地を活用した循環型の商品づくりの動きも出てきています。

fork toyamaを知ってもらって、「みん営」に共感する大人の輪が広がって、日本各地に僕らの活動が少しずつ広がっていけばいいなと思います。

—— ほんとうに、このモデルが日本各地に広がっていくといいですね。学童保育の新しいモデルを見せていただいて、ありがとうございました!

(文:田中美奈、写真:田村真菜

12/17に「日本一小さな村の生きかたフェス fork fes 2023」を開催されます!「わざわざ」平田はる香さんなど、さまざまなゲストも参加されるそうですので、ぜひ足を運んでみてください。


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