褐色細胞腫闘病記 第34回「淵の底」
「野乃ちゃん、ほら、また忘れ物っ!」
昨日は体操服入れを忘れ、今日は絵の具セットを置き忘れ、この子のうっかり屋は本当に私にそっくりだ。
「ママー、プリントのお返事今日までだった!」
「えっやだぁっ! なんなのよぉ」
もうこんなやり取りはすっかり慣れすぎてまったく驚かない。
最後の手術から5年経った。
娘の野乃子は小学6年になった。ずっと誰にも分け隔てなく人に優しく接する女の子に育った。
あれから、棚沢教授も、梶並教授も、みどり先生も転院になり、私の主治医は肝移植を専門とす