居心地のいい人生
『タイムバインド』という本を読んだ。
簡単に言うと、ワークライフバランスについてある企業で行ったインタビューを、小説調で綴った本だ。
ワークライフバランスというと、時短勤務や産休・育休、フレックス制などを利用して、仕事と家庭それぞれにかける時間をうまく配分することだとされることが多い。
しかし、この本で指摘しているのは、ワークライフバランスのための制度が整えられ、周知されているのに制度利用が進まない現状だ。男性の育児休暇や、子持ち女性の時短勤務制度がなかなか普及しないことを想定していただけるといい。
その理由として、筆者は「家庭は心休まる場ではなく戦場であり、仕事は仲間と支え合いながら成長していく家庭」ということを挙げている。端的にいえば、家庭より職場の方が居心地が良い。だから制度があっても家に帰りたがらないのである。
職場ではコミュニケーションを重んじ、愚痴を吐いたり励ましあったりするけれど、家庭では少しでも効率的に過ごせるように時間に追われる日々を過ごす。まさに職場と家庭の役割が逆転している。
この本を読んで真っ先に想起したのは、父だ。父は平日5日間と、土曜日も隔週で働いている。夕食までには帰ってくるけれど、朝は7時にはもう家を出ている。
今は帰省している僕がいるけれど、普段の実家の生活はどんな感じだろうか、と想像する。
僕が東京にいる時、実家には母と高校生の妹、母方の祖母、そして父のみ。
家族全体として見れば決して仲が悪いわけではなく、むしろいい方だと思う、しかし、父を起点にして考えると、ちょっと事情は複雑だ。
まず、父と母はちょっとギクシャクしている。普通に会話はするけれど、冗談を言い合う関係性ではない。むしろ2人の会話はほぼ家庭の業務連絡だし、半分くらい敬語で行われる。
僕の祖母、父から見た義母は誰にでも分け隔てなく接するけれど、やはり本当の母ではないから互いに気を遣っている雰囲気はどこか感じてしまう。
極め付けは絶賛反抗期中の妹で、父のことを汚物か何かだと思っているらしい。父と一緒に洗濯したくない、なんてよく聞くワードも飛び出すし、結構当たりが強い。
こんな状態を考えると、父にとってこの家庭はリラックスできる、居心地が良い空間になっているのかな、と疑問に思ってしまう。ひょっとしたら家庭での居心地が悪いから、相対的に職場の方が居心地よく感じているのかもしれない。父を見ているとそんなことを思う。
僕自身も、今まで父のことをこんなふうに考えることはなかった。けれど将来の自分を思い描いた時に、普通に働いていると家庭での居心地がどんどん悪くなっていくのは容易に想像できた。
だからと言ってどうすれば良いのかはわからない。わからないからこそ、家庭と職場の居心地に焦点を当てた『タイムバインド』なんて本が登場するのだろう。
明るい気持ちにしてくれる本ではないけれど、「居心地」という言葉、結構気に入っている。職場でも家庭でも、どのコミュニティでも居心地よく過ごせる、そんな欲張った将来を勝手に描いている。居心地の良さ、意識していきたい。
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