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慢性疼痛が引き起こす社会的不利益とは?
note初投稿です。
こんにちは、タンケ(@tanke_94pt)です!
今回は、
慢性疼痛の基礎知識「慢性疼痛が与える社会的不利益」
に関してなるべくシンプルにまとめました。
内容は全て無料でお読みいただけます!
早速本題です!
〜〜〜
○はじめに
厚生労働省の国民生活基礎調査(2013)によると、
頻度の高い自覚症状として腰痛・肩こりのような慢性痛の訴えが、男女ともに上位を占め、慢性疼痛を保有する人は全国に約2,315万人いると推計されており、およそ5人に1人が慢性疼痛に悩んでいることになるというデータがあります。
さらに
2006年の服部らの調査では、18歳以上の男女18300人の約13.4%(約2450人)に
2012年の中村らの調査では、20歳以上の男女11507人の約15.4%(約1770人)に
慢性疼痛症状を認めたと報告しています。
このように慢性疼痛はとても身近に起こりうることですが、実際に慢性疼痛を呈する方がリハビリに来た時、慢性疼痛に対して十分に理解し対応することができる方は多くないのではないかと思います。(自分もその中の一人です...)
慢性疼痛患者へのリハビリテーションを考える上で最近は痛みのBPSmodelを基に考察することが多くなってきました。
BPSmodelに関しては後述しますが、大きく「生物学的要因」「心理的要因」「社会的要因」に大別され、それぞれが相互に作用する結果がその人の痛みとして表出されます。
理学療法士としてリハビリを行う中でどうしても偏りやすいのが機能障害・構造障害・組織学的な問題などの「生物学的要因」だと思います。
もちろんそれが患者さんにとって大きな要因になっている場合も多く経験していますが、中には「心理・社会的要因」に起因する症状を知っていた事でその人のリハビリテーションを考察する上で役立ったことも多くありました。
しかし、「心理・社会的要因という言葉は聞いたことあるし、疼痛治療の中で重要なのはわかるけど、じゃあどうしたらいいのかはわからん...」と感じる方も多いのではないのかなと思います。
今回はその「心理・社会的要因」をベースにそれが患者さんに降りかかった時、どんな不利益があり、どんな症状を呈しやすいのかをいうところを掘り下げていこうと思います!
○痛みとは?
まずお話の大元になる痛みとは?というところですが
国際疼痛学会(IASP)では2020年度版の痛みの定義を約40年ぶりに更新しました。その内容は↓
これまでの痛みの概念に心理的・社会的な要因が痛みへ大きく関与することが示されました。
事実、僕の臨床経験でも器質的な障害などは軽度もしくはあまり無い状態でも痛みを自覚する方は少なくありません。
病院・クリニックへ罹ることはなくても、
失恋やリストラ、家庭環境、友人関係などで精神的に切迫し
「毎日心が重たいなぁ...」
「仕事(学校)に行きたく無いなぁ...」
「あの人(上司や失恋した相手)に会うの嫌だなぁ...」
などといった感情によって心が沈み、場合によっては日常生活に支障をきたすような状態も人によっては「(心の)痛み」として表出されている状態なのかもしれません。
我々セラピストも臨床経験の中で痛みと戦う患者さんのリハビリを担当することは多いと思いますが、なかには、
(患者さんの)気分が乗らずリハビリに積極的になれなかったり、
セルフケアを指導してもなかなか家で実践できなかったり、
痛みについて学び徒手・運動療法を実践してもなかなか効果が見られなかったり、
というようなことが起こり、治療者側・患者側がお互いにモヤモヤしてしまうこともあるかもしれません。
そんな時にこのnoteで慢性疼痛が患者さんに与える様々な影響を知ることができ、それに悩む患者さんに寄り添う心にもっとゆとりが生まれ、患者さんと二人三脚で実施されるリハビリテーションがより良い関係性で行われることの手助けになれれば良いなと思っています。
○人それぞれの「痛み」・・・痛みのBPS model
各種疾患において痛みはほとんどの場合で必発しますが、同じ疾患名でも「同じ痛み」を持っている人はほとんどいないのではないのでしょうか?
なぜ人それぞれに「痛み」というものが異なるのか
それをわかりやすく表したのが「痛みのBPS model」だと僕は思っています。
このモデルでは痛みというものは
いわゆる損傷やメカニカルストレス、侵害受容によって痛みが表出される「生物学的要因」や信念・情動などが疼痛に関与する「心理学的要因(従来は心因性疼痛と呼ばれてた)」、家庭環境や職場環境、学校などでの人間関係などが関係する「社会的要因」が相互に作用する結果がその人特有の「痛み」として表出されます。
このような相互作用の中で表出された痛みが慢性疼痛において中核になってきますが、もちろん組織損傷などに起因する「生物学的要因」による痛みも重要です。
痛みには時系列的に分けて大きく「急性痛」と「慢性痛」がありますが慢性疼痛に陥った状態の方では痛みの中でもその意味合いは変化していくと言われています。
それを表したのが次のモデルになります↓
○痛みの5重円モデル
これまでお話ししたように痛みには
●痛みの「強さ」「場所」などを識別する、痛みの「感覚的」側面
●その人の記憶や思考などにより修飾される、痛みの「心理・社会的」側面
があります。
感覚的側面は一次痛として身体の警告信号として中枢神経系へ伝えられる特徴があるため、そのような人の痛みは単純にけがの強度や場所の情報伝達としての側面が大きいのが特徴ですが、
慢性疼痛に陥っている場合、怪我自体は治癒しているにも関わらず痛みは継続していることが多く、上記のような痛みの強度・部位などの情報は薄く、痛み体験として記憶された情報などに基づいた痛みの表出がされていることが多いかと思います。
痛みの慢性化に伴ってその"痛み"の内容・意味合いは異なるということですね。慢性疼痛ではそのように損傷などは治癒している(あるいはそこまで強くない)のに痛みを強く感じてしまい、その後の行動に変化が生じていきます。
ではなぜそのように思考・行動に変化が生じるのでしょう。
○痛みが与える行動の悪循環(Fear-avoidance model)
Fear avoidance modelは痛みの「恐怖-回避モデル」と言い、
痛みへの間違った解釈や思考が行動を変え、回復の妨げになってしまうことを表したモデルになります。
スポーツや日常生活、仕事中などで怪我をしてしまった際、多くの人は「痛み」を経験します。(この場合多くは一次痛)
この痛み経験に対して、
「これくらいの怪我ならほっとけば大丈夫だろう」
「少し安静にしていれば直に痛みは引くだろう」
「病院に行って適切な処置をしてもらえれば大したことないだろう」
というような、思考・行動選択ができれば適切な痛みとの対峙ができ、多くは回復に向かう事になります。
しかし、中には
そういった思考ができず、メディアからの必ずしも自分には該当しない医療情報や、周りの知人からの勧めで服薬や不適切なトレーニングをしたりといった「ネガティブな情報」「不要な病気の情報」によって自己の痛みに対して過剰に敏感になったりネガティブに捉えすぎてしまった結果、
破局化(Catastrophizing)といった状態に陥ってしまうことがあります。
痛みへの過剰な注意などは
○Default mode network(デフォルトモードネットワーク):脳の安静状態
○Salience network(セイリエンスネットワーク):刺激への顕著性評価
などの中枢ネットワークが関与しますが、ここでは割愛します。
破局化に関しては上のスライドをご参照ください。
この破局化が生じた結果、
「この動きをしたら痛みが出る(だろう)」
といった「痛み関連不安」が生じ、その動作を回避するなどの「過剰回避行動」を起こすことで「不活動・抑うつ・能力/適応障害」に発展することがあります。
これらの状態は二次的に廃用などを引き起こすことでさらなる痛み体験へと悪循環を起こす事になってしまいます。
長期にわたり痛みが継続している人では以上のような思考・行動の変化により痛みの悪循環が生じていることで痛みの回復を阻害していることが多く見受けられます。
そして、痛みの破局化は周囲の環境によりその程度が左右されることがあります。それをモデル化したものの一つが「Communal coping model」です。
○破局化に関与するCommunal coping modelとは?
Communal coping modelは「痛みの表現が他者からの援助と共感的反応を引き出すことで、痛みの破局化を対処戦術として特徴付ける」と表現されています。
自分なりに簡略化すると、「自分が痛みを表現(アピール)することで他者から気遣いや手助けをしてもらえると認識することで痛みの破局化を強める強化学習が成された状態」と考えています。
このモデルでは過剰な痛みの表出は第三者がいる場合といない場合では、表出の程度が異なることが示されています。痛みは第三者がいる場合の方が強く表出され、第三者がその痛みを気遣ってくれればその痛みはさらに強く表出されます。
しかし痛みの長期化によって他者からの気遣いやサポートが減っていった場合、患者本人は以前と同様のサポートを得ようと痛みの表出をさらに強めることにつながります。
こうしたメカニズムが働くことで、例えば職場や家庭で見放される・孤立するといった社会的不利益を被る可能性が高くなります。
慢性疼痛を患っている方には他にはどんなことが起こっているのでしょう。
○多く見られる行動
痛みの5重円モデル・痛みの恐怖回避モデル・破局的思考などで表現されるようなことが生じた結果、慢性疼痛に陥ってしまっている方は他にも様々な行動変容をきたしていることがあります。
代表的な例が上のスライドになります。
回避行動は恐怖回避モデルでも出てきましたね。説明書きの通り、痛みがあったり痛みが増強してしまうと思うことでその動きを起こさないようにする行動が「回避行動」に当てはまります。
「安全行動」では痛みを起こす事に過剰に恐怖を抱く事でもし痛みが出てしまった場合の対処や痛みが出さないための行動を必要以上に行ってしまいます。
「ドクターショッピング」は一度でた診断が納得いかず、何か病名がつくまでいろんな病院を転々としてしまう事です。
これに関しては、多くの方は何か「痛み」が生じている場合、その痛みが「器質的な障害による痛みなんだ」と考えます。例えば腰痛が生じている場合は椎間板ヘルニア、膝の痛みの場合は軟骨がすり減って関節が狭くなっているなどです。
しかし、慢性疼痛である場合、上記のような器質的要因すなわち生物医学的要因であるよりも社会的・心理的な要因が強いことが多いことは先ほど述べました。
器質的要因はそこまで強くないor治癒している場合、いくら画像診断などを行っても主訴である痛みと画像診断の結果に整合性がある可能性は高くありません。
そのため診断結果では「特に問題ないですね」となることが多いかと思います。
「特に問題ないですね」と言われた患者さん的には「そんなはずない!なにか器質的な問題が生じているから痛いはずなんだから!他でちゃんと診てもらおう!」という考えになってしまいます。
このような行動は痛みには"注意を引き付ける機能"があるために起こります。痛みに対して注意が過剰に引きつけられた結果、器質的問題があってもなくても、心理・社会的要因が強く反映されている痛みであっても、痛みの根本治療を求めるようになります。(Misdirected problem solving modelと呼ばれます)
これがドクターショッピングの引き金になってしまいます。
そのほかの「一時的な過活動」「昼夜逆転」「怒りに任せた行動」はそのままの意味ですね。しかしこのような行動をとってしまう患者さんは多いと思います。
このように慢性疼痛に悩まされる患者さんは痛みにとらわれてしまうが故に上記のような行動変容を起こしてしまうことが多いです。
では、これらの行動をとってしまう患者さんに対して、僕たちセラピストやその他のリハビリスタッフにできることは何かあるのでしょうか?
○慢性疼痛に苦しむ患者さんへの態度
慢性疼痛では先ほど述べたように痛感として伝達される中で一部は扁桃体や前部帯状回などの「負の感情」を司る脳領域に伝達され、「不安」などの感情を増幅させることになります。そのような状態が続いた結果、慢性疼痛患者は僕たちセラピストなどに対しても痛みに関して強い感情を表出する場面が発生する可能性があります。
そんな中で僕たちが患者さんに対してまず心得ておかなければいけないのが、「心因性・精神的なもの・メンタル」などの言葉を安易に用いないことだと僕は思います。
慢性疼痛を有する方に限らずですが、先ほど記載したように痛みを持つ方の多くはその原因を器質的なものに求めます。そんななかでもしあなたが「これはあなたの精神的な問題です」「心因性の痛みですね」などの言葉を安易に用いてしまった場合、多くの方は医療者に対して不審を抱く可能性があります。さらに家庭や職場でも「医者にはなんともないって言われたんでしょ?」とないがしろにされることもあり、それが怒りやさらなる不安・抑うつといった負の感情を強めることにつながるのではないかと思います。
この不審により病院を変え、さらなるドクターショッピング(リハビリショッピング)につながることも考えられます。
心理的要因が疼痛を修飾している可能性が高い方に対して僕たちセラピストは”患者が訴える疼痛の表現に対して、その表現を認めること。疑問を挟まない態度を示すこと。”がとても重要なことだと考えています。
○リハビリに望む上での関係性(経験談)
『態度』のところでお話ししたように疼痛の表現に対して疑問を挟まない態度を示すことが重要だと書きました。
実際のケースを軸にお話しさせていただきます。
患者はまだ若いお母さん(40代)です。仮にCさんと呼称します。共働きで夫と娘さん(小学校高学年)の3人暮らしです。リハビリにはここ数年で痛み出した肩周囲の痛みで来院されており、医師の診断は肩関節周囲炎であり、外傷は聴取する限りありません。
初期評価時の肩屈曲角度は約110°、外転は約95°、NRSは8でした。
リハビリをしていく中でCさんは「こう動かすと痛い、家事が滅入る、まっすぐ上げきれるようになりたい」とだけ話してくれますがそれ以外のことはあまり多く語ってくれませんでした。僕をはじめCさんに介入するセラピストは組織学的・力学的側面からの考察を軸に介入を進めていましたがあまり大きな効果は見られません。家事があるので時間がなかなか作れないとのことでセルフケアにも前向きにはなれない様子でした。そんななかでもできる限りCさんの訴えに耳を傾けながら接し、1ヶ月ほど経った頃にCさんはよほどストレスが溜まっていたのか、僕に愚痴を吐くことがありました。ざっくりと内容をいうと、旦那さんが忙しく家庭のことをあまりお願いしづらく、近所に住んでいる姑との関係にもかなり参っているというような内容でした。
その時初めてCさんが抱える悩みを知ることができました。Cさんは自分の体の不調を家族には隠しながら日々の生活をしていたのです。そして僕たちセラピストにもその悩みを打ち明けることはしてこなかったのです。
痛みを抱え、隠しながらの家事や育児・仕事の中で「痛い」と言ってしまうのは逃げになってしまうんじゃないかと考えていたそうです。
ただ、このあたりからCさんの状態は快方へ向かうことになります。
その話を聞いて以降、僕は心理的要因を絡めた慢性疼痛の特徴をより勉強し、それを踏まえてCさんのリハビリに臨むようになりました。PNE(pain neuroscience education:疼痛神経科学的患者教育)というとそこまでには至らないですが、心理学的要因が慢性疼痛に関わることを少しずつCさんと共有してきました。今まで話してこなかった悩みを打ち明けたからなのかCさんの会話量は少しずつ増えていき、ペットショップで動物が見る事が好きだったことや友人とスタバの新作を飲みにいくことが以前は多かったことなどを話してくれました。そして、「現状を良い方向に向けるために何かできることないかな?」とCさんが話を持ち出した時に、旦那さんに自分の肩のこと話してみては?という結論に至りました。なんとなく躊躇している様子でしたが数日後に打ち明けたようです。その後旦那さんは家事を手伝うまではいかなかったものの、Cさんの体調を頻繁に気にかけてくれるようにはなったということでした。Cさん的にはそれだけでも気持ちは晴れた様子でした。
この事がCさん的には気持ちを切り替えるきっかけになったのか、セルフケアを積極的に取り入れてみたいと話してくれるようになりました。
肩やその周辺に関連する内容のセルフケアを数種類指導し、本人の意思で昔通っていたジムに再び通うことになりました。(*これはコロナ前のお話です)
この段階で肩の痛みはNRS 8→6ほどでした。
ほぼ毎日のセルフケアと週2回のジムを続けるようになって1ヶ月半ほど経った時、Cさんの痛みはNRS 8→6→5になりました。
可動域の変化はこの時点で屈曲約135°、外転約115°でした。
日常生活を送る上でこれが十分な角度とは言えない数字でしたが、本人はすごく生活が好転してきたという実感を抱いていました。
Cさんは当初「肩を最終域まであげきりたい」と話していましたが、この頃には「肩が上がらないのは不便だけど、それを補える方法を実践できているから生活自体は概ね満足している」といった様子でした。
徒手療法の側面から見れば可動域の改善が乏しかったことは反省すべき点で今後さらに勉強していかなければいけない気持ちですが、Cさんとリハビリスタッフが多少なりとも同じ方向を向いてリハビリを実施し計測値以上に生活の充実感(QOLの向上)を得られたことはリハビリ介入の一つの成果として考えています。
○おわりに
いかがでしたでしょうか?
慢性疼痛に苦しんでおられる方に降りかかるいくつかの問題を経験も含めて挙げさせていただきました。
慢性疼痛に限ったことではありませんが、対患者さんとのリハビリテーションにおいて、機能や構造に焦点を当てすぎては"その人"の問題を把握することは難しいです。
今回のnoteに書いたことはほんの一部ではありますがこのようなことが慢性疼痛に苦しむ方の中で起こっているんだと僕たちがしっかり理解しようと努め、向き合っていくことで"その人"が目指していきたい道を共有できるチャンスが広がっていくのではないかと考えています。
そのためにも継続した学びは必要不可欠です。
整形外科勤務だから運動器の勉強だけ。
脳卒中を患った患者さんがほとんどだから中枢の勉強だけ。
ではリハビリテーションは成立しません。
偉そうなこと言ってますが僕も今はほとんどが中途半端野郎です。
ですが目の前の患者さんとのリハビリテーションにおいて"このひと"にとって必要な介入はなんだろうとオーダーメイドに考えられる思考ができるようになるために日々学びを継続しています。
このnoteを読んだ方の学びの一助になれば幸いです!
○参考文献
○p.s.
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