骨粗鬆症由来の痛みを理解する
こんにちは、タンケ(@tanke_94pt)です^ ^
今回のnoteでは「骨粗鬆症が引き起こす痛み」について骨粗鬆症の基本的な病態や疼痛メカニズムの例を挙げながらまとめていきたいと思います。
僕はこの痛みのメカニズムを知るまで、骨粗鬆症を患っている患者さんは二次的に脆弱性骨折などを引き起こしやすくなることで、その骨折に由来した痛みが生じているのだと思っていました。
しかし近年の骨粗鬆症研究では、骨粗鬆症自体が疼痛発生メカニズムを生じていることがわかってきているそうです。
僕もまだまだ勉強中であり、こうだ!と明言できるものではありませんが、現在なされている骨粗鬆症研究の内容を踏まえながら理学療法士としてどんな介入を心がけるべきかを考えていくきっかけとなれば幸いです。
それでは、本文に入っていきましょう!
(本文は全て無料でお読みいただけます)
①骨粗鬆症ってどんな病気?
まず最初に皆さんに質問します。
骨粗鬆症は誰もが起こる"単なる老化現象"ですか?
…
…
…
ここで「はい」と思った方
是非、下記の定義を読んでください!
骨粗鬆症とは、
骨量の減少と骨微細構造の悪化の結果、骨の脆弱性を来して骨折しやすくなった全身性疾患である。骨折を起こすようになってからの治療ではなく、早期治療や予防的観点から疾患を考えるべきであるとの観点から、骨折を来してない状態でも骨粗鬆症を診断していくとの世界的合意が1993年になされた。この背景には骨量定量法が普及したという事実がある。
と概念化されています。[1]
世界保健機関(WHO)でも、
骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患
と定義されています。
厚生労働省では
骨の代謝バランスが崩れ、骨形成よりも骨破壊が上回る状態が続き、骨がもろくなった状態のこと。
と定義され[2]、骨粗鬆症は単なる老化現象ではなく、「病的老化」をきたす「疾患」であり、骨折は骨の脆弱性をきたすために起こる合併症であることが強調されています。[3]
骨粗鬆症が骨の脆弱性を惹起し、骨折が生じれば、骨折由来の疼痛が発生します。
代表的な骨折には橈骨遠位端骨折、脊柱圧迫骨折、上腕骨近位端骨折、大腿骨近位部骨折などがありますね。これらは高齢者の4大骨折として知られ、セラピストの養成校では必ずと言っていいほど深く勉強する疾患だと思います。
他にも骨折しやすいものとして、骨盤骨折、肋骨骨折、下腿骨骨折などがあります。
平成22年度の国民生活基礎調査[4]によると要支援・要介護が必要になった主な原因疾患において「骨折・転倒」が占める割合は↓
●要支援者→全体の12.7%
「関節疾患」「高齢による衰弱」「脳卒中」に次いで4番目
●要介護者→全体の9.3%
「脳卒中」「認知症」「高齢による衰弱」に次いで4番目
さらに同調査の平成28年度版[5]では、"要介護者における原因疾患"で
●要介護者→全体の12.5%
と一概には言えませんが増加傾向にあることが伺えます。
さらに近年では、骨粗鬆症を予防することを目的に若年期から中年期以降までの対策が立てられてきており、骨粗鬆症への関心が高まってきていることが伺えます。
これらのことからも僕たち医療従事者が骨折・転倒によりリハビリテーションを利用する患者さんに関わる頻度は増加傾向であり、これまで以上に骨折・転倒やそれの惹起する可能性の高い骨粗鬆症の病態を理解することが求められていると感じています。
そんな経緯のもと、今回のnoteでは骨粗鬆症"そのもの"が疼痛を起こすメカニズムについていくつかの報告をもとに解説します。
この知識がこのnoteを読んでくださった方々の今後のリハビリテーションを考えることに役立つきっかけになれれば幸いです!
②骨組織の基本
まずは骨組織の基本的な生理学について復習しましょう。
骨組織や骨格系の基本的な役割は↓
●支持:
軟部組織を支えたり、骨格筋の付着部になったりすることで体の枠組みを作る
●保護:
骨格は多くの内臓を外傷から守る。
●運動の補助:
筋が収縮すると骨を牽引して共同して運動を起こす。
●ミネラルのホメオスタシス:
骨組織は数種のミネラルを蓄えている。要求に応じて血液中に放出することでミネラルの平衡を保つ。
●血球産生(≒造血):
赤色骨髄と呼ばれる結合組織が赤血球・白血球・血小板を作る。
●トリグリセリドの貯蔵:
黄色骨髄は主にトリグリセリドを貯蔵した脂肪細胞からできている。
です[6]
骨組織は豊富な細胞間物質である"基質"を持っています。
細胞間物質の基質が存在するため細胞と細胞の間は広くなっています。
骨基質は水分約25%、膠原線維約25%、結晶化したミネラル塩約50%からなり、ミネラル塩が基質の膠原線維からなる枠組みに沈着し結晶化することで骨を硬くします。これを石灰化(Calcification)と呼び、この過程は骨形成細胞である骨芽細胞によって行われます。
骨の硬さ(hardness):結晶化した無機質のミネラル塩に依存
骨のしなやかさ(flexibility):膠原線維に依存
膠原線維はさらに張力に対する強さ(tensile strength)を提供します。
骨組織に存在する主要細胞↓
●骨形成細胞 osteogenic cells
結合組織の元になる組織
幹細胞であり、分裂すると骨芽細胞になる。
●骨芽細胞 osteoblasts
骨質を作る細胞。骨基質を作るために必要な膠原線維などを合成し分泌し、分泌した基質の中に埋没し骨細胞になる。
●骨細胞 osteocytes
成熟した細胞で、血液との代謝を行う。
●破骨細胞 osteoclasts
骨基質のタンパク質を消化するリソソーム酵素と酸を分泌する。
破骨細胞による骨基質の破壊を「再吸収 resorption」と呼びます。
骨粗鬆症性の疼痛のメカニズムは骨形成(膜内骨格・軟骨内骨格)の機序に大きく関わりますので、骨形成については生理学のテキストなどを眺めながら思い出していただければと思います。
ざっくりとした過程↓[7]
●膜内骨格 Intramembranous ossification
骨化中心の発生
→石灰化
→骨小柱の形成
→外骨膜の発生
●軟骨内骨化 Endochondral ossification
軟骨性雛型の発生
→軟骨性雛型の成長
→一次骨化中心の発生
→骨髄腔の形成
→二次骨化中心の発生
→関節軟骨と骨端板の形成
次項では骨代謝の基本を復習していきたいと思います。
③骨代謝の復習
骨代謝は骨形成と骨吸収のバランスによって成り立ちます。
骨吸収を僕なりにざっくり言うと、
骨に蓄えられているカルシウムを血液中に取り込むこと。です。
バランスの良い骨代謝とは骨形成と骨吸収の比率が同程度であり、さらに骨代謝回転(骨代謝のペース配分)が一定の速度であることを指します。
バランスの良い骨代謝が行われることによって骨には安定性と適切な支持性が供給されます。
バランスの悪い骨代謝には骨吸収が骨形成よりも上回っており、骨代謝回転が早い高代謝回転の状態と、骨代謝回転が遅い低代謝回転の状態があります。
骨形成よりも骨吸収が活発な状態は骨組織が破壊されていくわけですので骨量の減少を招きます。さらに骨代謝回転が早く行われるということが重なれば結果的に"硬くて脆い骨"が作り上げられることになります。
骨代謝バランス[8]
●骨吸収と骨形成のバランスが良い→正常
●骨吸収>骨形成 →骨粗鬆症や骨軟化症
●骨吸収<骨形成 →骨増殖症や骨硬化症
骨代謝により骨の強度が調節されるわけですが、
次はその骨強度についての復習です。
③-1 骨強度とは?
骨強度は骨量と骨質に依存し、その割合はおよそ7:3であると言われます[15]
骨量は骨密度と同義です。
骨量は骨の硬さを反映します。
骨質は骨の強さを反映します。
硬さだけが反映されている場合、衝撃により粉々に粉砕されてしまいます。生体で言えば、転ぶと容易に粉砕します。
転倒した際に衝撃に耐えるには硬さだけでなく強さが必要です。
その強さを供給するのが骨質です。
骨質はしなやかさや粘りに優れています。
強さと硬さがバランスよく供給されることで骨は支持性・安定性・粘弾性をバランスよく機能させることができます。
③-2 骨代謝バランスを悪化させる要因
骨代謝バランスを悪化させる要因には
◎閉経後のエストロゲン欠乏
◎カルシウム再吸収機能不全
◎栄養素の欠乏(Vt.K/D3・タンパク質・カルシウムなど)
◎生活習慣病
◎低体重・運動不足・廃用症候群
◎関節リウマチなどの炎症疾患
◎ステロイドの長期服用
◎クッシング症候群
◎副甲状腺機能障害
など様々な要因が関与します。[9]
次項では中でも「エストロゲン欠乏」と「カルシウム再吸収機能不全」、「生活習慣病」の観点から骨代謝異常に関して深掘りしていこうと思います。
④エストロゲン欠乏による骨代謝異常
産生経路から復習です、エストロゲンは
視床下部から
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が放出
↓
GnRHが下垂体前葉での
卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)
の放出を刺激する
↓
FSHが発育中の卵胞において
エストロゲンの分泌を促進する
↓
LHは排卵を誘発し、その後、黄体形成を促進する
↓
LHの刺激を受けると黄体がエストロゲンをはじめ、プロゲステロン、リラキシン、インヒビンを産生する
↓
卵胞からエストロゲンが放出される
といったルートで生成され、標的器官に作用します。
各ホルモンの機能はそれぞれ↓
エストロゲンの機能:
①女性生殖器や女性の二次性徴および乳腺の発達と維持の促進。
②タンパク質合成を刺激する
③血中コレステロール値を下げる
プロゲステロンの機能;
①受精卵着床の準備、その後の維持の補助
②乳汁分泌の準備を行う乳腺へ作用
リラキシンの機能:
①子宮筋層の収縮を抑制することで子宮を弛緩させる
②妊娠末期は恥骨結合を柔軟にし、子宮頸を拡張させる
→新生児の出産を容易にする
インヒビンの機能:
①発育中の卵胞から分泌され、FSH・LH分泌を抑制する
②排卵後の黄体から分泌され、FSH・LH分泌を抑制する
となります。
エストロゲンの重要な作用の一つが、
骨芽細胞を活性化し、破骨細胞を抑制することです。
このエストロゲンが減少すると、骨芽細胞を活性化させることができなくなり、抑制できていた破骨細胞を抑制できなくなることで破骨細胞の働きが強くなります。言い換えると、骨吸収が促進されます。
これがまずはエストロゲンが欠乏することによる骨代謝異常の一つになります。
⑤カルシウム再吸収機能不全による骨代謝異常
カルシウムの約99%は骨に貯蔵されると言うことは一般的だと思いますが、残りの1%のカルシウムを取り込む(再吸収する)器官が体内にはいくつか存在します。
腸管・腎臓などが主たる器官になります。
カルシウムの血漿中濃度を調節するのは主に副甲状腺ホルモン(PTH)とカルシトリオールです。
血中カルシウムイオン濃度の低下では副甲状腺ホルモンが分泌されることでカルシウムの血中への取り込みが促進され、血中カルシウムイオン濃度の調節が図られます。
これは副甲状腺ホルモンが破骨細胞を刺激することで骨溶解を促したり、糸球体や消化管からの再吸収を促進することでカルシウムの濃度調節を行います。
なので副甲状腺機能亢進症などが生じると破骨細胞が過剰に活性化され骨代謝異常をきたすことが考えられます。
腎臓や肝臓などの器官はビタミンDを活性型ビタミンD3に変換することで腸管からのカルシウム吸収や、腎臓からのカルシウム再吸収を行う機能があります。
これにより血中カルシウム濃度が上昇し恒常性が保たれます。
しかし、慢性腎不全などの腎疾患や、肝硬変などの肝疾患などによりビタミンの変換ができずに活性型ビタミンD3が不足した場合、カルシウムを血中に取り込むことができなくなり、血中カルシウム濃度の低下を招きます。
そうすると血中カルシウム濃度を調節するために骨に貯蔵されていたカルシウムが溶かされることで骨吸収が促進されます。
以上がカルシウム再吸収機能不全による骨代謝異常の一例です。
⑥生活習慣病による影響
厚生労働省では生活習慣病について、
生活習慣が原因で起こる疾患の総称。重篤な疾患の要因となる。
食事や運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣が深く関与し、発症の原因となる疾患の総称です。以前は「成人病」と呼ばれていましたが、成人であっても生活習慣の改善により予防可能で、成人でなくても発症可能性があることから、1996年に当時の厚生省が「生活習慣病」と改称することを提唱しました。
日本人の三大死因であるがん・脳血管疾患・心疾患、更に脳血管疾患や心疾患の危険因子となる動脈硬化症・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などはいずれも生活習慣病であるとされています。[13]
としており、
動脈硬化、糖尿病、高血圧、脂質異常症などは生活習慣病に分類されます。
上記のような状態になった時に共通して起こるのが
酸化ストレスと呼ばれる"活性酸素の増大"が生じることです。
酸素は生命維持にとって必要不可欠な物質ですが、呼吸により体内に取り込まれた際に一部が活性酸素となって免疫機能や細胞伝達物質として機能します。[14]
酸化ストレスは動脈硬化の危険因子である、血中ホモシステインという物質の濃度上昇によってリスクが高くなるといった報告もあります。[18]
この活性酸素は神経伝達において、酸を感知するイオンチャネルであるAcid sensing ion channels (ASICs)に結合することで疼痛伝達に関与する可能性が報告されています。
次章ではそれらを中心に疼痛機序について見ていこうと思います。
⑦骨粗鬆症が惹起する疼痛メカニズム
まず骨粗鬆症の状態にあること自体が疼痛を生じさせるのかどうかに関しては様々な報告がなされていて、一定の見解が得られていないというのが現状です。
僕が調べている中で多く見かけるものとしては
◎閉経後女性の慢性疼痛において中枢神経系の可塑性変化が骨粗鬆症性疼痛に関与しているのではないか?[10]
◎現代の画像診断技術では描出できないほどの微小骨折や変性などが生じて疼痛が生じているのではないか[11]
◎骨折はしていなくても、骨代謝異常によって破骨細胞の活性化が感覚神経線維の感作を生じさせ、炎症性サイトカインの放出を促進しているのではないか[12]
といったものです。
今回のnoteでは特に3つ目、脆弱性骨折の生じていない状態で骨代謝異常が疼痛発生メカニズムに関与しているのでは?という報告からの内容が中心になっています。
疼痛機序についてはまず、先述した酸感知型イオンチャネルであるAcid sensing ion channels (ASICs)が関与する疼痛メカニズムから見ていこうと思います。
⑦-1 酸感知型イオンチャネルの関与
まずイオンチャネルとは、イオンを細胞内外へ透過させるための門のような役割があり、門を開く条件は各イオンチャネルによって様々な様式があります。
●膜電位の変化によって門を開く
→"電位依存性イオンチャネル"
●リガンドの結合によって門を開く
→"リガンド依存性イオンチャネル"
●一部温度変化によって門を開く
→"Transient receptor potential (TRP)チャネル"
などが知られており、細胞の脱分極などで登場するイオンチャネルは主に電位依存性のナトリウムイオンチャネルだったり、カリウムイオンチャネルだったりします。
今回取り上げたいのが、酸の勾配の変化によって陽イオンを透過する役割のあるチャネルで、酸感知型イオンチャネル(Acid-sensing ion channel; ASIC)と呼ばれるものです。
酸と聞いてピンときた方!
そうです。先ほどの生活習慣病の項で、同病は活性酸素の増大を引き起こすことを先述しました。
酸素の量が多くなれば水素イオン濃度の上昇によってpH(ピーエイチ・ペーハー)が下がります。
酸感知型イオンチャネルはこの水素イオン濃度によって活性化され、pHの低下はこの酸感知型イオンチャネルによる陽イオンの透過性を亢進させます。
このASICは痛覚の他にも味覚伝達や聴覚伝達にも関与する[16]そうですが、今回のnoteでは割愛します。
生活習慣病による活性酸素の増大が水素イオン濃度を上昇させることでpHを低下させ、ASICを活性化させることに加えて、もう一つ、酸が増大する要因となることがあります。
それは、破骨細胞の活性化による局所アシドーシスによるものです。
アシドーシスとは言い換えると"水素イオン濃度の上昇"です。
ダイレクトにASICが関わることが容易に想像できますね。
以下では、水素イオン濃度のホメオスタシスについて軽く復習します。
あまり興味のない方は飛ばしてください(笑)
水素イオン濃度のホメオスタシスの維持には大きく3つのメカニズムが働いています。
●緩衝系によるpH調節
●肺からの二酸化炭素の排出
●腎臓による水素イオンの排出
の3つです。生理学のテキストでは「酸塩基平衡」の項です。
内容が曖昧な方がいらっしゃれば是非、酸塩基平衡の項を開きながら復習して見てください。
まず緩衝系はとても素早い対応力で水素イオンの活性を抑え込むことを得意とする切り込み隊長的な役割を果たします。プロ野球で言えば日ハムの西川選手のような速さです。(野球わからない方すいません笑)
水素イオンの上昇はpHの低下を招きますが、炭酸水素イオン(HCO3-)の増加はpHを上昇させこれもまた体にとってはよくありません。
pHの正常値は7.35〜7.45です。(懐かしいですね)
緩衝系は酸性に傾いても塩基性に傾いてもそれを緩衝する機能を有しますが、まず大事なのはタンパク質緩衝系の役割です。
タンパク質緩衝系は細胞内液や血漿中での最大の緩衝系です。
タンパク質の元であるアミノ酸はほとんど必ずアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)を持っています。
pHが上昇し水酸化物イオン(OH-)が増加し塩基性に傾いた際はアミノ酸はカルボキシル基(-COOH)が水素イオンを放出することにより水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)が結合し水(H2O)となることで酸塩基平衡を図ります。
逆にpHが低下し水素イオン(H+)が増加し酸性に傾いた際はアミノ酸はアミノ基(-NH2)が水素イオン(H+)と結合して(-NH3+)となることで酸塩基平衡を果たします。
腎臓でも尿細管において水素イオンを尿中へ排出するとともに炭酸水素イオンを合成や再吸収をすることで緩衝系の補助をする役割もあります。
このような感じで緩衝系は酸性に傾くor塩基性に傾く時にその平衡を保とうと機能しています。一つ一つ復習すると本題からかなり離れてしまうのでこの辺にさせていただきます。
腎臓がここでも出てきましたね。
腎臓はカルシウム再吸収においても腸管とともに重要な機能を有しています。(「⑤カルシウム再吸収機能不全による骨代謝異常」参照)
骨粗鬆症由来の疼痛に腎臓が大きく関与している可能性が考えられますね。
少し話は戻りますが、このような機序で水素イオン濃度が上昇し、pHが7.35以下になっている状態をアシドーシスと呼び、これは破骨細胞の活性化により惹起される可能性があります。
破骨細胞活性化による局所アシドーシスが水素イオン濃度の上昇を招き、酸感知型イオンチャネルやTRPV1を活性化することで痛覚信号が伝達されるといったメカニズムです。
これらは骨粗鬆症に由来する脆弱性骨折を起こしていない状態でも起こりうることが報告されているものでもあるので、"骨折所見はないけど腰に痛みを訴えてる骨粗鬆症を患った患者さん"がいらした場合に病態の一つとして考えても良いでのはないかと考えています。
では、酸感知型イオンチャネルやTRPV1チャネルが活性化した後は、何を伝って痛覚信号は伝達されるのでしょうか?
次章では僕が調べた中での(個人的に有力な)説を用いて考察したいと思います。
⑦-2 TrkA感覚神経を経由したスクレロトームに沿った痛み
骨膜に発現する感覚ニューロンにはTrkA感覚ニューロンというものがあります。
トロポミオシン受容体キナーゼA発現(TrkA発現)感覚ニューロンと言います。
骨膜での炎症や微細な損傷はこのTrKA感覚ニューロンと呼ばれる感覚神経が痛覚信号をキャッチし、それを脊髄後角に伝えます。[19]
このTrKA感覚ニューロンを活性化するのは神経成長因子(NGF)です。
神経成長因子は炎症性サイトカインの代表的な物質として炎症時に放出されます。
この神経成長因子(NGF)が破骨細胞活性化による局所アシドーシスが生じる際に放出が増大し、水素イオン濃度の上昇によって活性化される酸感知型イオンチャネルやTRPVチャネルと同様にTrKA感覚ニューロンを活性化することで痛覚伝達が行われるのではないかと考えています。
そして、TrKA感覚ニューロンによって伝えられた痛覚伝達はスクレロトーム(骨節)に沿った支配領域に疼痛を知覚させるのではないかと考えています。
*スクレロトームの図はネット・論文検索などでご確認ください
個人的にはこの様な機序でスクレロトームに沿った痛みが生じるのではないかと考えているので、骨粗鬆症を既往にもつ患者さんへの評価としてイメージすることが多いです。
⑧後根神経節・脊髄後角での変化
様々な慢性疼痛の病態と同じでこの骨粗鬆症に由来する疼痛でも後根神経節における炎症性サイトカインの産生や、脊髄後角におけるグリア細胞の活性化によるアロディニア様の変化を起こすことが報告されています。[17]
このことからも早期に骨粗鬆症の検診などを促し、適切な服薬指導・運動指導などを実施することで痛みの慢性化を防ぐ手段になり得ることが考えられます。
これらの痛みの慢性化メカニズムの一説などは過去のnoteにまとめていたりするので是非ご覧になって見てください。(一部有料記事あります)
次章ではこれまでの内容を踏まえて、僕たちセラピストが臨床において何を気をつけたら良いかというところを考えて見たいと思います。
⑨セラピストとして臨床でできること
ここでは、"今回取り上げた内容を中心に"日頃からの臨床において僕たちができそうなことについて個人的に考えて見たことを綴りたいと思います。
ここに関しては何のエビデンスもないただの独り言です。
まず最も大事なことは、骨粗鬆症の診断がついているかどうかを問診や事前評価などでしっかり確認することだと考えます。
このnoteで取り上げた様に、現在の骨粗鬆症研究では、骨粗鬆症由来の脆弱性骨折が生じていなくても、骨粗鬆症自体が痛みを発生させている可能性が説かれています。
骨粗鬆症の診断がついていることがわかったからといって"それ自体"を理学療法で改善できるかと言われれば難しいことだと思います。
ですが、もしかしたら全く別の病態を当てつけて介入を進めることを回避できる材料になるかもしれません。
骨粗鬆症をきたしていることから、それ由来の痛みが生じているのではないか?と考察できるかできないかで、その後の運動療法の際の運動強度の設定や生活習慣・セルフケアへのちょっとしたアドバイス、さらには薬物療法を医師へ相談といった選択肢が増えることが期待できると思います。
もう一つは、既往歴を確認する際のチェックポイントに腎臓や腸管、循環器系の項目を追加することです。
④、⑤、⑥章で解説した様に、これらの機能障害はカルシウム再吸収機能不全をきたしたり、ビタミンDの活性不全をきたすことで結果的に破骨細胞の活性化が骨吸収を促進することで骨強度の低下を招くことが考えられます。
既往歴あるいは問診において、これらの機能不全をチェックできれば、骨粗鬆症由来の疼痛を考える上で重要な根拠になり得るのではないかと思います。
これらのことを踏まえて臨床に臨むことができれば、骨粗鬆症性の脆弱性骨折をしたわけじゃないけど「なんかよくわからんけど腰が痛み出した」中高齢者の患者さんに対して痛みの可能性について説明する選択肢が増え、それが結果的に患者さんとの信頼関係や医師との積極的な情報共有のきっかけになるのかもしれません。
⑩おわりに
いかがでしたでしょうか?
今回は骨粗鬆症自体が痛みを生じるメカニズムについていくつかの報告を参考にしながらまとめさせていただきました。
今回まとめさせていただいた内容が皆さんが臨床で痛みの可能性を考察する際の根拠の一助になれば幸いです。
僕自身、まだまだ勉強不足のところも多いですので、多くの先生方と情報共有ができればと考えております。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!
p.s.
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よろしくお願いいたします^^
●参考文献
[1]二ノ宮節夫ほか「今日の整形外科治療指針 第4版」医学書院 2000 p.260
[2]厚生労働省ホームページ(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-043.html)
[3]骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版(http://www.josteo.com/ja/guideline/doc/15_1.pdf)
[4]平成22年国民生活基礎調査の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.html)
[5]内閣府 平成30年版高齢社会白書 全体版(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_2.html)
[6]佐伯由香ほか「トートラ人体解剖生理学 原書8版」丸善出版 2012 p.119
[7]佐伯由香ほか「トートラ人体解剖生理学 原書8版」丸善出版 2012 p.123-126
[8]赤羽根良和「骨粗鬆症を原因とした脊椎圧迫骨折の病態理解と運動療法」株式会社gene 2017.9 p.12
[9]赤羽根良和「骨粗鬆症を原因とした脊椎圧迫骨折の病態理解と運動療法」株式会社gene 2017.9 p.17.18
[10]G. Papadokostakis「The effectiveness of calcitonin on chronic back pain and daily activities in postmenopausal women with osteoporosis」Eur Spine J. 2006 Mar; 15(3): 356–362.
[11]Sumihisa Orita「Osteoporotic pain–related neural pathway in rodent models」PAIN RESEARCH 31 (2016) 220–227
[12]稲毛一秀ほか「痛みの治療」脊椎脊髄ジャーナル 脊椎骨粗鬆症性椎体骨折に対する治療戦略-薬物療法を中心にUP TO DATE spine&spinal cord December 2020 vol.33 No.12 p.1105-1110
[13]厚生労働省e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-040.html)
[14]厚生労働省e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-04-003.html)
[15]赤羽根良和「骨粗鬆症を原因とした脊椎圧迫骨折の病態理解と運動療法」株式会社gene 2017.9 p.26
[16]鵜川眞也「酸感受性イオンチャネルの生理的役割」 Nagoya Med. J(. 201)51,191―196
[17]Sumihisa Orita「Osteoporotic pain–related neural pathway in rodent models」PAIN RESEARCH 31 (2016) 220–227
[18]Mitsuru Saito「Degree of Mineralization-related Collagen Crosslinking in the Femoral Neck Cancellous Bone in Cases of Hip Fracture and Controls」Published: 11 September 2006 Calcified Tissue International volume 79, pages160–168(2006)
[19]Zhu Li「Fracture repair requires TrkA signaling by skeletal sensory nerves」J Clin Invest. 2019 Dec 2; 129(12): 5137–5150 Published online 2019 Oct 22. doi: 10.1172/JCI128428
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