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新しい生活様式によって、これから当たり前になる(なってほしい)地方での働き方を考える【前編】

富山県でも緊急事態宣言が解除され、大型連休の時のような厳戒態勢からは少し緩んだ感じがします。しかし私の住む南砺市では、解除間際に立て続けに4人の方の感染がわかり、市役所でも月末まではいろいろな自粛が継続されることになりました。高齢者の多い土地なので、やむを得ないと思います。
今日NHKでこんなニュースを目にしました。

なるほど、震災の直後の状況と似ていますね。ただあの時は、原発からの放射能のリスクを感じた人たち、大都市という消費・生産システム自体に違和感や限界を覚えた人たちなど、「リスクや自らの生き方を積極的に考える敏感な人たち」が、地方へと目を向けていったことが多かった記憶があります。古民家を活用したビジネス、クリエイティブ産業によるまちおこしなど、震災前には少なかった動きが、その後各地で拡がりました。ただ今回の新型コロナウイルス感染拡大の状況は、その時と似ているようで少し違うのではないかと思い、記事を書くことにしました。

なぜ震災時と違うと思ったのか


「テレワークで場所を選ばずに仕事ができることがわかった」
「都市部で働くことにリスクを感じた」
「地元に帰りたい」

前述のNHKの記事にはこのようなコメントが紹介されています。このコメントから感じたことは、都市部へごく普通に通勤し働いている人たち、「仕事とは人が集まるところでやるのが当たり前」と思っていた人たちが、少しずつですが変化し始めているのでは、ということです。
これまでも殺人的な混雑の通勤ラッシュ、災害時の帰宅難民化など、都市部への通勤リスクの緩和は議論されてきました。ただ震災が起きたあとも満員電車は無くならず、実際にテレワークを推進した企業は少なかったのではないかと思います。ただ今回のコロナ禍では、人間である限り誰でも感染する可能性があるウイルスの脅威を前に、当たり前と思われていた「働くこと」のルールが、前触れ無く強制的にリセットされることになりました。

実際オフィスワークは必要なのか?(実体験にもとづく)

ここまでやる会社はまだ珍しいと思いますが、実際首都圏などでは、オフィスの規模を縮小したり、集約したりする動きもあるようです。実は4月からテレワーク中心になっている私たちの会社でも、緊急事態宣言の解除を受けて、主要スタッフでオフィスワークの是非について議論しました。

●仕事の効率はどうなのか?
・・・落ちていない、むしろ不要不急の電話や予期せぬ来客などにいっさい対応しなくていいので良くなっている
●オフィスに来ないことで何か支障はあるのか?
・・・例えば押印が必要なものや経理関係の書類などは自宅での処理が難しいが、現状週1~2回のオフィス当番(施設管理の仕事があるのでオフィスを無人にはできないのです)があり、その時にまとめて済ませれば十分
●スタッフ間のコミュニケーションは滞っていないか?
・・・その日勤務する人の時間を決めたオンライン朝礼・夕礼、前述のオフィス当番があるので問題ない。会議も新しく導入したオンライン会議システム(Zoom)があれば開催できる。オンラインだと事前に会議資料や伝えたいことをまとめる必要があり、会議は前よりも短時間で済むようになった
●その他、変わったことは?
・・・朝夕のクルマ通勤が無くなり、時間の余裕が生まれた(=田舎の会社なのでスタッフは100%クルマ通勤)。ガソリン代の節約にもなる


結論としては、毎日オフィスに集まる必要性を特段感じないので、6月以降も基本的にテレワークで業務を進めていくことになりました。今後は会社の仕組みや業務フロー自体を、テレワークを前提に構築していきます。
もちろんバラ色な話ばかりではなく、家にいる時間のスタッフの光熱費は会社としてどう考えるかなど、今後解決が必要な問題はあります。テレワークが当たり前になることで生じる不都合も、中期的には今後生まれてくると思いますし、カフェやショップなど「現場にいる必要がある」部門のスタッフとの温度差など、常に試行錯誤していかないといけないと思います。ただ富山県の場合、危険を伴う冬季の積雪時の通勤など、地域特有のリスクもあり、テレワークのデメリットよりもメリットの方がずっと大きい、という判断になりました。私に至っては、原則オフィス当番は免除なので、ずっと在宅勤務でもいいことになりました。今後も必要な打ち合わせや現場チェック以外は、基本的に在宅で仕事ができるようにしていこうと思います。

テレワークで事業を続けていけるのか?

私たちの会社は、扱っている商材や従事する業務は特殊なものもありますが、スタッフを雇用して売上を上げ、利益を蓄積し、それを原資に会社を継続していく、という構造は、世間一般のサービス業と何ら変わりません。ちなみにコンテンツ関係の権利窓口はほとんどが東京ですので、従来からほぼすべての業務がメールとオンライン会議で回っています(電話はコミュニケーションエラーが多いためほとんど使いません)。今はやりとりする取引先も軒並みテレワークになっていますが、以前と変わりなく業務を行えています。顔すら知らない担当の方とのやりとりの時は少々緊張しますが(笑) 
初めての方とやりとりする場合、自分たちが何をしたいのか、どうやって実現するのか、信頼に足る事業者なのか、ということを、メールの文面や添付する企画書だけで相手に伝える必要があります。私は以前からそのスタンスで仕事をしていましたので特段変わりはないのですが、その手段が対面での打ち合わせや飲みニケーション中心だった人たちは、強制的に仕事のやり方を見直す必要が出てきているので、大変だろうと想像します。直接接触してのやりとりが難しい以上、日頃からの積み重ねや実績が大きな判断材料となるため、ある意味ではとてもシビアな関係になるとも言えます。それでも人と人との信頼関係が求められるのが仕事の常ですので(特に大きな商取引などの場合)、どうしても直接会って話さないと難しいこともあります。その場合は出張しますが、富山から何度も東京を往復すると経費や時間がいくらあっても足りませんので、できるだけ一度にまとめて済ませるクセが染みついています。今後は感染リスクと隣り合わせになりますので、出張の判断もより厳密に行う必要があります。
また以前は東京や大阪でしか行われないセミナーやシンポジウムも多く、そのために足を伸ばすこともありましたが、今や軒並みオンラインに置きかえられてしまいました。リアルの集まりだと、会場のキャパシティやオペレーションの都合で制約が大きかったのが、オンラインへと拡張されることで、セミナーやシンポジウムの可能性は一気に広がったと思っています。逆に「直接集まること」で生まれていたビジネスマッチングの機会を、今後どうやって作っていくかは、主催者の腕の見せどころだと思います。地方に住む経営者としては、今までの移動の苦労はいったい何だったんだ、やればできるんじゃない、と思いますが(笑)

経営者の資質が厳しく問われる時代

専門家会議が提唱する「新しい生活様式」は、ワクチンや治療薬の進展に合わせ、これからもアップデートされていくと思いますが、いずれにしても今までとは違った制約の中で事業を継続していく必要が出てきました。私たちの会社は規模も小さく、以前から社内SNSやクラウドサービスなどを導入していたので、比較的スムーズに新しい勤務態勢に移行できましたが、大きな会社になるとトップの決断と日頃からの積み重ねの両方が必要だろうと思います。ルールや制度はトップが決断すれば変えられますが、オフィスにいなくてもパフォーマンスが発揮できる社員を育てられるかは別の話ですので。
またオフィスという同じ空間内で仕事をしていない人たちを、どのように評価していくかという基準も、今後はかなり厳格に設ける必要があると思います。そこが曖昧なままだと、長期的に見るとパフォーマンスは落ちていってしまうと思うので、私たちの会社でも急ピッチで基準の整備を行っているところです。巷では「PCに向かっているかどうか監視するアプリ」や、「着席しているか確認できるオフィスチェア」なるものも登場していますが、これは経営する側の意識や評価基準が何ら変わっておらず、形だけテレワークを導入している企業がまだまだ多いことの証だと思います。それだけ企業側のニーズがあるということなのでしょうから(苦笑)。
私たちの会社では、年明けまでに理念やビジョンを整備し、それに基づいたアクションプランも完成に近づいていたので、何とか間に合うかな、と胸をなで下ろしています。この混乱が沈静化したあと、仕事のプロセスや社内でのコミュニケーション能力だけではなく、アウトプットした成果物や実績を正当に評価し待遇に結びつけるという、経営者にごく当たり前に必要だと思われるスキルの有無が、企業の命運を左右する時代になると思います、というか、なってほしいなと思います。

今回の国の感染症対策では、トップの判断は常に「責任を取りたくない」という態度がにじみ出る、非常に曖昧で後手に回るものでした。判断も専門家会議や自治体に丸投げの施策も多かった印象です。今回もまたしても現場、医療従事者のみなさんや保健所職員のみなさん、そして「愛する人や大切な人に感染させたくない」という多くの市民の踏ん張りが、感染爆発という最悪のシナリオだけはなんとか回避することにつながりました。欧米や中国のような強制的な措置を伴わない形で、この状況を作りあげたことは、トップ不在でも現場の力で何とかしてしまう日本独特の「慣習」のようなものなのかもしれません(でも感染爆発を食い止められず、いまだ感染が拡がり続ける、アメリカやブラジル、ロシアなどの状況を見ていると、日本に住んでいてよかったと心底思います)。
今回、都道府県知事や市町村長など、住民の直接投票で選ばれた自治体トップの対応には、特筆するものが多くありました(もちろんマズい対応も目に付きましたが・・・)。また一旦決めた制度も、状況の変化に合わせ柔軟に変更するなど、予算主義・前例主義の塊と言われる役所も、「もはやそんなことを言っていられない」状況に陥ったのだろうと思います。保守的、前例主義的と言われがちな富山県ですら、他の先進的な自治体の取組に引っ張られる形ではありましたが、矢継ぎ早に協力金やマスクあっせんなどの仕組みを作りました。これは経済活動や外出がままならない中で、トップに対して「下手なことは許さない」という、納税者・有権者の関心と監視の目がはたらいたものだと思います。県の記者会見などを、連日マスコミを通じて目にすることが多かったのも、こうした動きにつながったのでしょう。記者のみなさんが「県民が知りたがっている、教えてほしい」と食い下がっていたのも印象的でした。知り合いの新聞記者さんが「外出すらままならなくなった中で、正確な情報を編集しコンパクトに伝えられる新聞を見直した、という声が届いている」と話していたのを思い出します。

地方でもテレワークは普及するのか?

日本全体でのテレワーク実施率は、まだまだこんなものなのだそうです。富山県に至っては10%にも達していないようですね。新聞を読んでいても、「仕事は毎朝会社に行ってするものだ、テレワークなど想像もできない」という感じの富山駅前でのインタビューも目にします。平日の朝夕の県道は、以前と変わりなく通勤のクルマでいっぱいです。地方ではテレワークなど夢のまた夢、都会で汗水流さずチャラチャラ働く大きな企業の連中だからできるやり方だ、という空気も強く感じます(富山の人たちは実直でまじめな人が多いので余計にそうなのかもしれません)。でもそんなことを愚痴るばかりでは、今後地方と都市部の差はますます開いていくと思います。
都市部は今回、人が大勢集まることへのリスクを露呈しましたが、そのリスクを回避するためのアイデアやノウハウの蓄積も多くあります。移動制限が緩和され、ある程度ビジネスモデルができれば、資本にモノを言わせた都市部の企業が、それを地方の企業へ売りに回る、という未来も容易に想像できます。もうすでにそうなっているのかもしれません。そうなると、結局地方の資本を都市部に収奪されるだけに終わってしまいます。ウイルスの影響で、自分たちを縛り付けていた様々な常識やルールが、一挙に置きかえられる可能性が出てきました。世界中で連日多くの犠牲者が発生し、感染拡大がいつまた訪れるかわからない状況ですので、軽々なことは言えません。ただ私たちのような地方にある小さな会社でも、ある意味では大きな変革のチャンスが訪れたとも言えます。後編ではそのあたりを考察したいと思います。

2012年に、京都から富山県の南砺市城端(なんとしじょうはな)へ移住してきました。地域とコンテンツをつなげて膨らませる事に日々悩みながら取り組んでいます。 Twitter⇒https://twitter.com/PARUS0810