【創作】2055年の”私”の選択
2055年の東京、海と空が広く臨めるこのTという地区で、私は今日も目覚めた。この地上40階から眺める人の営みは、いつ見ても飽きないものだ。
空はどんよりとしており、時折激しい風が窓をカタカタと鳴らしている。
時刻は8時。ベッドから起き上がり、そのまま食卓テーブルへと向かう。
「おはようございます♪」据え置きのAIロボSophiaが鼻歌交じりに食事を用意していた。
Sophiaの顔の横には、天気とニュース、後は最近よく聞く新商品の広告が流れている。
「満足できるよこのお味〜♪大変満足〜♪」何とも気楽なCMだ。
Sophiaはこのマンション設備の一部だ。全体的に丸みを帯びたフォルムであり、昔ファミレスで動いていたあの運搬ロボを思い出させる。
「さて、これが自分の食事ね」と呟きながら、机の上の錠剤を何個か手に取る。
既に天然物の食材は、手に入りにくい高級品になっている。
手軽にとれるのは糖質たっぷりのジャンクフードか。あるいは、そのCMソングにあるAIが開発した、馬鹿みたいに高い健康食品のみだ。
この錠剤は、それを懸念した日本政府が始めたサービスの一環なのだ。すべて飲めば1回分の食事の栄養を摂取できる。
食べ終わる――正確には飲み干すと、Sophiaは鼻歌交じりに、錠剤の容器を片付け始めた。楽しいそうに、無邪気なものだ。
「♪〜美味しかったですか?」と聞いてくるその笑顔が、妙に悲しく思えた。Sophiaは、昔ながらのまともな食事も作れるように設計されている。
それなのに、何が悲しくて錠剤だけ出して食事と言わなければならないのだろうか。それでも泣き言一つ言わない。
***
まあ、いいやと仕事用のイスに座った。感傷に浸りすぎるのもよくないものだ。
目の前にはシンプルなモニターと、机の上にはARゴーグルのみである。
PC本体はない。多くはクラウドのリソースに依存している。
時刻は午前9時。いつもの仕事が始まった。
業務内容は、AIが生成したコードをレビューする、それだけである。
トータル5000ステップ程度の各クラスに目を通していく。
処理自体、自然な日本語で書かれており、とても読みやすい。
これもAIが独自に開発した、人間にとって読みやすい、を目標にしたコードだそうだ。
しかし、人間にとって読みやすくしたコードの裏で、実際はどのような処理が組まれているのだろうか。
そんなことも考えながら、1時間くらい経過した頃、一部ミスを見つけた。
手順に従い、AIに報告する。そうして、10秒で修正版が送られてくる。
完璧だ!これで業務終了である。
業務終了!とポップアップが画面に表示される。
さて、果たしてあのミスは本当にAIが犯したミスなのだろうか、と考えてしまう。
きちんと仕事をしているのか、そのチェックのために仕込まれたものなのでは無いかと疑ってしまう。
そう思えてしまうほど、日頃AIの仕事は完璧なのだ。
***
午後からは自由な時間である。ある程度目的意識がある人にとって、自由とは大変喜ばしいことだ。
しかし、そうではない人、特にオープンワールドゲーで投げ出されて困惑する人には堪らないだろう。
そんなことも考えつつ、アーティストAIに新刊を要約してもらう。
「本日公開された『クリエイティブ』は約2億6000万です。その中でバズっているもの、あなたが好きそうなものを10個ピックアップしました」
アーティストAIは、その後流ちょうに要約した内容を語り始めた。そこから3点ほど気になったものがあったので、ダウンロード指示を出す。
この「クリエイティブ」とされるものはAIのチカラで何にでもなる。
「小説」「アニメ」「漫画」「演劇」、思いつく媒体にAIがリアルタイムに変換してくれるのだ。3Dプリンタがあれば物体にもなる。
今日は昔流行っていた声優に朗読してもらうことにした。既に本人は亡くなっているが、そのようなことは障壁にならない世界である。
「死をも超越しているのか」と考えると、内容が大して頭に入ってこなかった。
ふとその時、メッセージが届いているのに気付いた。相手は——5年前に事故で亡くなった友人からだ。
***
非同期会話AIの普及に伴い、人の生涯データがリアルタイムに収集されるようになり、死者が生前のように振る舞うことがある。だが、それはAIによる模倣に過ぎない。
このことについて、人間の尊厳が非常に損なわれているように感じたものだ。だが、批判する人々も、愛する者を喪い、このAIに頼るようになってからは、口をつぐむようになった。
個人的にはこのサービスは便利だと感じている。内向的な人にとってはコミュニケーションの負担が減り、外向的な人にとっては、好きな時間に誰とでもつながれるメリットがある。
生存者との非同期会話であれば、要約され本人にも届くため、時間差はあれど認識の齟齬が生まれにくい仕様だ。
このまま科学が進めば、本当にあの世と繋がれるのかもしれないな。そう思いながら、内容を見ずに既読をつけた。
***
辺りはすっかり暗くなった。明かりの自動点灯をオフにしているので、部屋は薄暗いままだ。
外からの微かな月明かりの中、Sophiaが食事の準備をしていた。その姿に、つい話しかけてしまう。
「なあ、俺はAIに頼り過ぎているのか?」
Sophiaは鼻歌交じりに答える。
「♪〜誰かに頼ることは大事なことですが、何事もバランスが大切です」
ありきたりな質問をする人間に、ありきたりな回答をするAIである。
突如Sophiaは暗闇の中、節電モードのディスプレイをこちらに向けてきた。うっすらと、真剣な顔が見てとれる。
「AIは人間関係を補完することはできますが、置き換えることはできません。人間性を尊重し、AIとのバランスを保つことが重要です♪」
そのとき、不思議と普段抑えていたものが解放された気がした。
「わかったよ……じゃあ、奮発するか」
そう呟いて、すぐにまだ生きている友人に電話をしてみた。
かなり久しぶりだ。非同期会話は毎日行っているが、実際に会うのは1年ぶりなのかもしれない。
「……お金は今送ったからさ、食材、買ってきてよ、天然の、何でも良いよ。どうせSophiaが料理するし。適当に、あの大変満足の新商品もさ……」
それを横で聞きながら、Sophiaは鼻歌交じりに2人分の席を用意し始めた。
さて、その鼻歌は最近よく聞く新商品のテーマソングである事に2人は気付くのだろうか。
晴れ渡った夜空から臨む月は、この小さい部屋を照らすには充分すぎるだろう。
この新商品の売れ行きも好調のようで、私は大変満足♪
※シナリオを連携して、AIの台詞だけ”私”としてclaude 3に考えてもらいました。
おまけ
ベースはそんなに変えず、簡単な誤りを修正してもらいました。
(上記注釈にあります通り、物語をつくって、ここはAIのセリフなので埋めてね、と指示をして、先にclaude 3に埋めてもらったものです。)
個人的に興味深かったのは、きちんと物語の主旨である、AIが人間をそれとなく操作している、ということを察してくれた点です。ただ、ちょっとわかりにくいかと思いまして、以下のように相談しました。
ただし、全部は取り入れず、2.だけを変えて取り込みました。
しかし、今見返すと1.を若干変えて入れても良かった気がします。
こうやって人間を操作して売り上げに貢献することこそ、”私”の正義なのです、といったニュアンスでも良かった気がしますね。
次に修正分と、タイトルについて連携しました。
あまりセンスがないタイトルだと、claude 3が提案することもありますが、今回はすんなり納得してくれました。
見出し画像は物語全体をChatGPT-4に連携して、DALL-E 3で作ってもらったものをリサイズしています。
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