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今年気になった本をいくつかメモとして残しておく。

「愛という名の支配」は自分にとって救いになった本だった。「女性らしさ」とは生得的なものでなく作られ利用されてきたものだってことが事細かに書いてあって納得と同時に解放される。
これと同時期に「自分のことを女だと思えなかった人のためのZINE」も読んでわかったきたことだが、どうやら今まで「女性に生まれるのでなく女性になるのだ」的な圧力を内面化し、「女性になる」ためには身体が人と違うしそのための努力もしてないから底辺なんだって自己認識を作り、劣等感と抑圧された承認欲求をこじらせてきたっぽい。なんとなくわかってたのに今までどうしてもそこに距離を置けなかった。「女らしくできない自分が悪いんだ」という方向に思考が傾いてた。この本に勇気づけられる人は多いと思う。平易な語り口をどう思うかは人によるかもしれない。


「魂の形について」、これは魂がどういう形をしているか考察する本ではなく、様々な時代や文化において「魂がどのように表象されてきたか」を考古学・民俗学的な視点から語っているもの。古今東西の文献や神話を引用するその博識さにまず驚く。資料に基づいた慎重な語りと個人的な体験の話が入り混じる語り口は独特な感じだった。
硬質な文体ながらも著者の研究者的な興奮がひしひしと伝わってくるのがとにかくいい。こういう昂揚こそ大事にして生きていきたい。
気になったくだりは(いくつもあるけど)、魂が塵になって漂っているイメージと、エジプト神話に関して。古代エジプトでは魂が8種類あるらしい。虫や蝶や鳥を魂の化身とみなしたりみなさなかったりする日本と中国の比較も面白かった。


「ゆかいな仏教」は学者二人が仏教についてひたすら対談していくんだが、確立された教義に率直な疑問をぶつけるのがスリリングで面白い。読者向けの基本的な情報も辿りつつ進むし二人が仲よさそうなので難しくなく読みやすい(表面的なものかもしれない)。全く宗教に詳しくないのでこれがどの程度正しいのかはわからないし、例え話での女性蔑視的なところがたまに気にならなくもないし、ちょっと仏教を持ち上げ過ぎで推しきれない本ではあるけど…。
キリスト教との比較が印象的。カースト制度を取り込んだヒンドゥー教へのアンチとして成立した仏教と、ユダヤ教から発展したキリスト教との対比であるとか、一切無と因果/神の全知全能と因果という矛盾する概念をそれぞれがどう考えているか、とか。あと、仏教の慈悲とキリスト教の愛の対比のくだりを読んでいて思ったが、現代、「愛」という言葉にいろいろな概念を包括させすぎてないか。この愛という言葉を持ち出すときにはかなり慎重にならないと、大きすぎる概念に流されたり都合よく利用されやすい時代な気がする。


「なぜ人はカルトに惹かれるのか」もすごく面白かった。著者はお坊さんで、「自粛警察」などの正しさに駆られる行為への警鐘を朝日新聞で語ってたのが気になって手にした本。かつて仏教系新宗教の幹部だった著者が、その入会から脱会、その後新興宗教の脱会支援を行うまでの経緯などを記している。単純な線引きをすることの危険さを、痛みや傷を避けずにとても誠実に語っている。ありがちな偏見をとき解してくれ気付かされることも多かった。細かいことだが、この著者と「ゆかいな仏教」の橋爪氏とで仏教の定義が違っていたのも興味深い。


諸々を通して、宗教や信仰や差別などを人々がなぜ必要とし利用してきたかに関心があることがわかってきたので、そのあたり来年掘っていきたい。あんまりメジャーではない本ばかり読んでいて誰かに怒られそうだし…

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