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『コントが始まる』第3話 「水が流れて川になる」

(戸を叩く音)ああ、その音でダンカンをたたき起してくれ!頼む、そうしてくれ、出来るものなら!

シェイクスピア『マクベス』より

「コンコン、ガチャ」と、ノックの音からコントが始まる。

コントのタイトル「奇跡の水」は、抗いようのない「血」を連想させる。瞬太(神木隆之介)のバイト先の大将は「双子で還暦、どっちも独身」。つぐみ(古川琴音)がパスタにバジルを振る時、同じ動きで熱帯魚に餌をやる姉・里穂子(有村架純)。春斗(菅田将暉)が実家のテーブルに置かれた白菜をつまむと、父も同じ動きを繰り返す。

人生を感じさせる人物の動線。血の繋がりは微笑ましく見える一方で、人生を縛る呪いでもある。

コントの元ネタになった春斗と兄・俊春(毎熊克哉)の関係が描かれる。怪しい水を売るマルチ商法にハマり、周囲から孤立してしまった兄。春斗たち家族は、俊春を無意識に追い込んでしまっていたのではないかと感じている。春斗は引きこもった俊春へ、ドアの外から声をかける。

「たまには湯船に浸かったら?親父と母さんだけじゃ、お湯もったいないから」

強くあろうとすることで、周りから孤立してしまったのは中浜さんも一緒だった。中浜さんがマクベスと妹の前で、自らの過去を語る。「中浜さんが喋るターン」という台詞通り、回想シーンや音楽も無く、喋る芝居だけを見せる。誰にも話さなかった過去を語ることで、中浜さんの目から溢れる涙。潤平が足を拭いたタオルを渡すことで、場には笑いが起きる。悲劇をロングショットで喜劇に変える、このドラマを象徴するシーンだった。

3人の部屋。潤平がビールを買いに行き、残された瞬太と春斗は並んで会話する。シャワーを浴びる時しか部屋の外に出てこない兄を、春斗は「刑務所の囚人」に例えたが、瞬太は「この家のソース」に例えた。調味料を管理する潤平が、すぐに冷蔵庫にしまおうとするソースのことである。それを聞いた春斗が笑う。第2話で春斗の言葉に導かれた瞬太が、今度は春斗に言葉を投げ、縛りを解いていく。

「ドアをノックし続けることが大事なの。着信履歴はね『心配してるよ』ってメッセージなんだよ」

春斗にドアをノックされ続けてきた瞬太が言うからこその言葉。このドラマのメッセージも、言葉ではない形で視聴者へ伝えられていく。

ノックをし続けたことで、俊春のドアは開く。父はそれを、シャワーの音が「聞こえない」ことで知る。橋の上で兄からの着信を受ける春斗は、電話口から聞こえる電車の音で知る。笑う春斗の下に、俊春の前に、川が流れている。流れた水は、やがて川に行き着き、混ざり合う。兄弟は川でつながっているし、中浜さんがスマホとPCを投げ捨てた川も、きっとここへつながっているはずだ。

地図を広げてまずは自分の住む町を流れる川を見つけて指の先をとんと置いた。(中略)一番太い線を信じてうねりに合わせて指で辿っていると、つながった。

今村夏子『ピクニック』より

コントのタイトル「奇跡の水」。水は汚れを洗い流し、次の場所へ導いてくれる。汚れたラップも、水で洗えばもう一度使える。お風呂の残り湯で洗濯もできるし、洗った足を拭いたタオルで、涙も拭ける。姉妹が分け合う野菜ジュース。兄弟をつなぐ川。怪しげな「奇跡の水」が、文字通りの意味に反転する。

第1話の青のりも、第2話のスニーカーも、今回さりげなく映されていた。物語が進むごとに、そこに映るものの意味が重層的になり、川のように大きな流れを作り出していく、そんな予感を持たせる3話だった。

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