『コントが始まる』第6話 「奈津美の指輪がイヤリングになった意味」
『コントが始まる』第6話。(おそらく)全10話の折り返し地点を過ぎたこの回で、ドラマはループからの脱却を宣言し、前半の物語が前振りだったことを示唆する。チェーンソーの刃のように、ぐるぐると同じ地点を回り続けていたマクベス。コント「金の斧 銀の斧」で池に落ちたチェーンソーは、金の斧と、合鍵に変わる。円環を断ち切る斧。新しい扉を開ける鍵。
マクベスが誕生した“聖地”である中華料理店・ポンペイに、解散を決めた3人と中浜姉妹が訪れる。彼らの背景に「福」の文字。中華料理店に貼られる「福」は逆さまに貼るのが一般的だが、ポンペイはそのままだ。反転した「倒福」のように、これまでの描写と真逆の面を見せる登場人物たち。真壁先生(鈴木浩介)は以前と違って熱い言葉をかけるが、潤平(仲野太賀)が見る奈津美(芳根京子)からのメールは、「コント面白かった!」と伝えてくれたあの頃が嘘のような、素っ気ない文である。結成と解散、高揚と倦怠、里穂子と誇り、ポジがネガに、ネガがポジに。
閉じた輪を断ち切り、新たな道を開こうとする潤平の姿が描かれる。自分には「何も無い」と認めた潤平は、恋人である奈津美と向き合うことになる。高校時代、奈津美が海で失くした指輪。円が途切れ、開かれた形のイヤリングを、水の中から出てきた潤平がプレゼントする。(やはり、このドラマに出てくる水は、すべてが繋がっている)潤平は自らをC級芸人と称する。レベルの低さを意味する「C」は外部に開かれた形をしている。自分と他人の境目が曖昧で、人の意見に流されやすいと言われてきた潤平だが、それ故に愛され、アウトドア般若心経(©︎みうらじゅん)のような告白のために、後輩たちの協力を得られる。
アパートの合鍵や、保存用/観賞用のチラシと違って、同じ人間は世界に一人しかいない。でも、チラシに表と裏があるように、どう見るか次第で変わってくる。池の女神が池野メガ美だったように、何度も向き合わないと見えないこともある。そんな当たり前のことを思い出させてくれる丁寧な脚本を肯定したいが、看過できないところもあった。芸人を「辞めること」で潤平を認める奈津美の父、実家の酒屋を継ぐと決めた潤平に「ついて行く」奈津美。登場人物たちが選ぶ道を否定したくはないが、描かれる世界は窮屈に見える。閉じている。イヤリングのように開かれてほしい。
スナックのトイレに貼られたチラシを、瞬太(神木隆之介)がラストライブのものに貼り替えた。つぐみ(古川琴音)は、もらったチラシを折り曲げる。物語のミッドポイント(中間地点)に線を引くように。折り目がつきVの字になったチラシは、下り坂の底を見た者たちが立ち上がり、坂を上っていく軌跡を描いているのだろうか。そんな期待を持たせる一言を、そばを啜る春斗(菅田将暉)が発した。
「じゃ新作1本やろうか」
6話まで、3人が向き合うものとしてではなく、物語の答え合わせとしてしか機能していなかったコント。これまで描かれてこなかったコントを作る彼らの姿を、見ることができるかもしれない。マクベスのコントが(やっと)始まる。
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