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大谷が気づかせてくれた絵の価値について

2023年WBCのMVPに選ばれた大谷さん、ここに至る直前の同志への声がけは「憧れるのをやめましょう」だった。この声がけで相手選手への過大なリスペクトの殻が破られ、各自が前向きな自身の力を発揮できたのではないだろうか、実に的を得た声がけであり、大谷さんはMVPにふさわしく、素晴らしい。

この言葉の奥にはリスペクトによりその対象の評価と価値が左右されるという心理的内面にまでもせまっている。そしてこの言葉が、これまで自身の謎でもあった「絵の価値」について、ある気づきをもたらしてくれた。 「リスペクトが価値を高める」ということに大きく影響しているということである。

先日銀座で開催中の絵画展を訪れた。10年近く絵画教室に通っている知人から今年も同じ会場でやっていて、明日が最終日なんだ、、という哀願にもとれる連絡に応えてのことであった。会場はワンフロアが9ブロックに仕切られ、全作品500点にも及ぶ大展覧会で、入口には主催の絵画教室の案内が備えられていた。お高い授業料といきなり油絵は教えてくれない教授法のネガティブ面に腹立てながら目の前の絵画を眺めていた。「一体何を描こうとしたんだろう?」「絵画から伝わってくるものがない、、。」「東京タワーの先端が歪んでいる、、いっそもっと歪めてムンクにすればそれなりの意味もあるかも、、」「建造物の直線は大事、、でも製図じゃあるまいし、、」などなど、評価というよりはアラさがしをやっている自分に気づいた。 ネガティブなアイデアを捨て、お高い授業料を払って学んでいる作家の姿を思い浮かべようと努めた。「手を描くのは確かに難しい、でも差し伸べる手によって思いやりが表現されている」「ありふれた橋の上の人と周囲そして流れる水の陰影と配色からストーリーが感じられる」「木漏れ日には救いと未来が感じられる」作家へのリスペクトを意識したとたんに、絵の評価が全く異なってきたことに自身でも驚いた。

ニアメで静子さんの絵を最初に見た時、また静子さんから直接絵の説明を受けた時でさえ、それらの絵の素晴らしさを強く感じることはなかった。私にとってのその時の絵は、国際協力機関で派遣された専門家医師のご夫人の絵で、いわゆる有閑マダムの趣味として見ていたに違いない。その後我々家族は2年間の業務を終えて帰国した。谷垣夫妻はニジェールに残り、その後はテッサワに移り住むという想像を絶するような道を選ばれた。

何かを送ってくれと言われたことのなかった谷垣雄三さんから、本を探して送って欲しいと言われ、『パリに死す-評伝・椎名其二』蜷川譲 を送り、自分でも読んでみた。 雄三さんから届いた静子さんの訃報には『パリに死す』を送ったことへの謝辞が記されていた。また静子さんとの会話に出てきた『芸術新潮』「気まぐれ美術館」洲之内徹 を神保町で探して読んでいくほどに自身の絵画を見る目も違ってきた。静子さんの言動、余裕ある愛そして常軌を逸したともみられがちなその背景に「気まぐれ美術館」が多彩な色を残しているように思えた。その頃からの静子さんの絵は多くのことを話しかけてくれ、愛おしささえも感じられるようになった。 間違いなく谷垣医師はニジェールの医療に対してのMVP。 そして静子さんは彼に人への愛のあり方を示し、困難を支え、使命の継続に貢献した影のMVPであり、彼女の絵も素晴らしい。

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