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テレワーク・ワーケーション受入れ研修会Part3~福井県高浜町におけるワーケーションの取組紹介~

2023年1月26日、テレワーク・ワーケーション受入れ研修会の最終回を実施しました。
今回は、京都府のお隣福井県高浜町のコワーキングスペース「まちなか交流館」の管理運営をしながら、ワーケーションの推進に携わっておられる福井ワーケーション協会代表の浅野 容子さんにご講演頂きました。

当日は講演に合わせて、他地域でワーケーション推進において活動されているプレイヤーの方々からもお話をお伺いし、研修会の最後にはワーケーションを通して実現したい地域の未来について参加者の方々との意見交換も行いました。

SPEAKER

福井ワーケーション協会代表
浅野 容子(Yoko Asano)氏
高校卒業まで高浜町で暮らし、立命館大卒業後に渡独。
日系企業の現地法人などで働いた後、2016年にスイスに拠点を置くビジネススクールで経営学修士(MBA)を取得。 2017年に帰国。
「高浜まちなか交流館」を拠点に、ICTの普及やグローバルスキルのある人材の育成などに取り組んでいる。

1.地方創生×ワーケーション

■ カルチャーショック

大学卒業後すぐにドイツに渡って就職した浅野さんは、2017年に当時勤めていたIT企業の社員として帰国し、地元福井県高浜町でリモートワーク勤務を開始しました。
この頃日本ではまだリモートワークという働き方が浸透しておらず、特に人口約1万人ほどの高浜町では、自宅勤務をしていると言ってもなかなか周りに理解してもらえなかったそうです。

日本の労働環境について全く知らなかった浅野さんは、帰国後日本人の働き方を知り本当に衝撃を受けたといいます。

ドイツと日本の働き方の違い

身体の健康は重視されるが、心の健康はないがしろにされている”メンタルヘルス後進国の日本”
日本人の働き方の現状を知った浅野さんは「なぜ日本人はこのような働き方、生き方をするのだろう?日本人は特別にメンタルが強いのだろうか」と疑問に思ったといいます。
ちなみに、以前浅野さんのドイツ人の知人が日本の大手企業に出向した際、「仕事自体は続けたいけど、日本人の働き方にはこれ以上耐えられない…!」と半年で帰国してしまったこともあったそう。

■ 海外で学んだこと

❶ 文化の違い 
団体主義(日本) VS 個人主義(ドイツ)
自分は自分、周りは周りというドイツに対し、”超”団体主義である日本は常に周りに迷惑をかけまいと気を遣う(遣い過ぎる)傾向にあります。
浅野さんは、これにより職場で休みを取りづらくなったり、定時に帰りづらくなったりといった問題が生まれていると考えます。

❷ 評価基準の違い
残業=仕事効率が悪い、有給消化ができていない=セルフマネジメントが出来ていないとしていずれも昇進に響くドイツ。
以前浅野さんが話を聞いた高浜町役場や商工会議所の職員からは「体調不良でも熱が出ただけではなく入院をするレベルでないと休めない」という声もあったそうですが、このエピソードからもその違いは歴然です。

❸ 労働環境・労働条件の違い
浅野さんが以前ドイツで勤務していた会社のオフィスにはビリヤード台や卓球台があり、基本的に部屋は個室になっていたそう。
このように良い労働環境でないと良い人材を確保できないという考えのもと、ドイツではオフィス環境もメンタルヘルスを良くするために工夫されています。

■ ワーケーション推進までの経緯

「皆がこのようなメンタルヘルスをないがしろにするような働き方を続けていて、この先日本社会は経済を維持していけるのだろうか?」という疑問を抱いたことがきっかけとなり、浅野さんは「自分らしく、自分のスピードで、自分の好きな場所で働ける」生き方や考え方をワーケーション(テレワーク)により広めたいと活動を開始しました。
行政がよくKPIとして掲げる「ワーケーション×観光」という考え方よりは、ワーケーションによって新しい働き方・生き方を知ってもらうことが活動の大きな狙いだといいます。

■ アクション

ワーケーションを一人で推進するのはかなり困難なので、まずはワーケーションに精通する方やコワーキングスペース同士で横の繋がりをつくることを目的に福井ワ―ケーション協会を立ち上げることに。
浅野さんはこの一連のアクションにより、一度来た方が福井のワーケーション環境を気に入り、コワーキングスペースを拠点にまた訪れるといった好循環を生み出すための環境整備を大切にされています。

ー関係人口創出Method1❝ 中と外の人をつなぐ ❞

❶学生ベンチャー

学生ベンチャー:学生でありながら会社を立ち上げて実際にビジネスをまわしている経営者たち

学生ベンチャーを高浜町に呼んでくる理由の1つとして、彼らがデジタルネイティブ&SDGSネイティブなZ世代だということがあげられます。
この世代は敢えてデジタルやSDGSの話をしなくても、日々そういった環境の中で生きているので見る事象をその視点で捉えることが出来るといった特徴があります。

このプログラムで、学生ベンチャー達は実際に高浜町に足を運び、漁業や農業など一次産業の現場でお手伝い、また漁具(産業廃棄物)の清掃など様々な体験やローカル事業者との交流を行います。
それらを通して、「自身のビジネスの中で地域が抱える課題に対して何が出来るか」を考え、最後にそのアイデアを発表するピッチイベントを行います。
このピッチイベントのポイントは、よくありがちな「出された課題に対して提案だけをして終わり」というものではなく、「自分で課題を捉え、考えたアイデアをもとに自身の事業の中で稼げる」モデルを考えるという点にあります。

実際このプログラムに参加した学生ベンチャーグループの1つが、高浜町の耕作放棄地のオーナーとなり、そこを薬草畑へ生まれ変わらせました。
これによりこの会社は、耕作放棄地の利活用、農業の継承モデルの提案、若者への魅力発信を行っています。

ちなみにこういった取組についてもデジタルネイティブな彼らは、敢えてお願いをしなくても積極的にSNSに投稿&発信をしてくれています。

❷訪日外国人ベンチャー

日本で働いている投資家や自営業を営んでいる外国人に高浜町に来ていただき、新しいビジネスを共に創っていく。

アメリカ人がNYピザ屋をオープン

たとえこのお店により大儲け出来るわけではなくても、エンジニアでどこでも仕事が出来るこのピザ屋の主人は、田舎に暮らしながらまちづくりに携わりたいという想いから、高浜町にピザ屋をオープンさせたといいます。

❸インバウンド

今後また多くの外国人が日本に入国してくることが予想されますが、浅野さんは彼らの観光ではなくワ―ケーションでの滞在の推進が鍵だといいます。

外国人のワーケーション滞在において、現在世界ではデジタルノマドVISAという新たなVISAがスタートしています。

デジタルノマドとは、パソコンさえあればどこでも仕事ができる人のことをいいますが、このVISAが発行されることによりこれまでは短期でしか日本に滞在出来なかった外国人が長期で滞在出来るようになります。
浅野さんは、デジタルノマドの方たちが長期滞在出来るようになることで彼らが日本での起業家の卵になることにも繋がり得ると考えます。

現在日本ではまだこのVISAの導入はされていませんが、浅野さんがコンシェルジュを務める日本ワーケーション協会では、今後海外市場を視野に入れていくことも重要としており、もしこのVISAが導入されれば縮小する日本経済の新たなマーケットが開けることが期待されます。

ー関係人口創出Method2❝ 中と外の人をつなぐ ❞

❶地元出身者を巻き込む仕組みづくり

高浜まちなか交流館×高浜町出身Google職員
東京都在住の高浜町出身Google職員とオンライン上で連携し、町の政策に伴うさまざまなデジタル検討業務を担ってもらうというシステム。
多くの方にとってUターンは、都市部にある様々なネットワークを断ち切る必要があることからハードルが高いのが現状ですが、このモデルだというそういった犠牲を払うことなく遠方からでもふるさとのまちづくりに関わることが出来ます。

❷広域でローカルプレーヤーを繋ぐ

6市町で構成される福井県。各市町で人口減少や産業の担い手不足など抱える課題は同じです。
このプログラムは各市町がそれぞれで頑張るのではなく、全てのエリアのローカルプレーヤーを繋いで広域で出来ることをやろうという取組です。

■ ワーケーション受け入れ地として

活動拠点の高浜まちなか交流館

浅野さんは何か活動を進める上で、「拠点」と「人」はとても大切だといいます。
浅野さんの活動拠点である高浜まちなか交流館は、①サロン(誰でも活用自由でWi-Fi無料)②チャレンジカフェ(地元の若い子がこのスペースでカフェを経営している)③レンタルキッチン④雑貨屋で構成されており、現在ここはまちの外と中の人が集まる賑わい創出の場となっています。

【通常時】
ここは放課後の子供達の英会話教室、高齢者向けのスマホ教室など、日々老若男女問わず色々な人があらゆる用途で使用しています。
スペースごとに壁がないことからお年寄りも子供たちもスペースを共有しているという点も魅力的です。

【ワーケーションでの利用時】
ワーケーションとしても、プレゼンテーションやワークショップ、ピッチイベントなど様々な用途で大学生やビジネスパーソンに利用されています。
バケーション要素としても、自炊や宿泊ができるスペースがあったり、近くの浜へSUPボードなどのアクティビティに出かけることが出来ます。
浅野さんはこの施設のようにワークもバケーションも何でも出来る空間が理想だといいます。

■ コーディネーターの役割

最後に浅野さんはこの活動をする上で、「人をつなぐ」「まちをつなぐ」「資源をつなぐ」「課題をつなぐ」「技術をつなぐ」といったコーディネートを出来る役割の人はなくてはならないと仰っていました。
例えば京丹後市においても、まずはそのような中と外の人を上手く繋いでくれるコーディネーターの役割を担える方を見つけることが重要だといいます。

浅野さん自身も休憩時間にSUPをしに行き、水着の上からTシャツを着てそのまま会議に出るといった「仕事もする、でもやりたいこともする」といったワーケーションスタイルを実践されています。
そのようなバランスの取れたライフスタイルこそがウェルビーイングであり、浅野さんは自身もそれを実践し続けながら周りにも発信していきたいと仰っていました。

2.『大師湯』建物活用の取り組み

続いて、浅野さんの「若狭湾でつながるまちづくり」プロジェクトの中から、小浜市の大師湯とkôbô主宰 馬場 淳子さんより、東京都から小浜市に移住し、まちづくりに従事することになったご自身の立場から、現在取り組まれている活動についてお話をしていただきました。

■ 小浜市について

移住前は東京のIT企業で残業は100時間越えという働き方を当たり前にしていたという馬場さんは、ゆとりのある生活を求めて小浜市に移住されました。

その自然と人が調和する風光明媚な里山の風景や、昭和の古き良き時代が残るまちなみ、地域コミュニティのあたたかさに心惹かれたといいます。

■ 大師湯との出会いと利活用

かつてはまちの至る所に銭湯がありました。
そのほとんどはなくなってしまいましたが、唯一建物として残っていたのが大師湯。
当初はとても改修して使おうという気持ちにはなれないような状態だったそうですが、入り口に残る「湯」と書かれた鬼瓦を見た時、「ここに大師湯という銭湯があったという歴史を残さないといけない」と感じたそうです。

昔地域の人々が集い、ふれあい、疲れを癒した場所を、「ここに来れば何か発見がある、人と出逢える、新しい挑戦がしたくなる」といった新たなコミュニティの場にしたいという想いのもと、持ち主から建物を譲渡してもらい、助成金を申請した他私費も投資し、2020年に改修を開始、2021年5月にオープンさせました。

■ コワーキングスペース「OFF ROW」

コワーキングスペースの運営は小浜市にUターンしたスタッフが担当。
彼は結婚と出産を機にUターンして来た際、「地元に都会でしていた仕事を持ち帰って快適にワーク出来る場所がない」ということを不便に思いここの運営をすることにしたそうです。

施設内にはシェアキッチン「kôbô」も。
ここには馬場さんの、食べることを通じた知的好奇心の刺激や、異業種とコミュニケーションが出来る実験の場になればという想いが込められています。

大師湯では毎月26日を「お風呂の日」として、ランチ会やお味噌作りワークショップなど、利用者同士が交流できる場も企画しています。

■ 未来へ遺すもの、伝えること

大師湯の建物には、今では失われつつある様々な伝統建築の技術や暮らしの知恵が詰まっています。
ここはそのような技術や知恵を生で見てもらえる場所でもあるといいます。

■ めざすもの

・SNSに頼らないコミュニティ
→ニッチなファン作り
・継続性と伝統の共栄
→新しいビジネスとして継続させながら伝統も共に残して栄えるようなモデル
・ニッチのなかに圧倒的存在感
→古民家再生や伝統的建築という要素を含むニッチでユニークなコワーキングスペースとして継続させたい

3.ワーケーションでひとと地域が活きる

続いて合同会社FUJIONE代表、ふくいテレワーク女子代表の後藤美佳さんよりお話をしていただきました。

後藤さんはキャリアコンサルタントとしての仕事の傍ら、自身も2人のお子さんを持つことから、子育てをする女性含め誰もが「活躍できるまちづくり」をビジョンに活動されています。

■ 地域ならではの特徴を活かした取組み

「おてlabo」~地域に愛着を持つことができる仕掛けづくり~

敦賀市の地域に根付くお寺「本勝寺」でお寺の文化を啓蒙するため説法や写経、境内のお掃除を地域の方を交えて行ったり、食育の観点から地域で採れる食材や廃棄野菜を使って皆でヴィーガンカレーを作ったり、アクセサリー作りなどの体験型ワークショップなどを行っています。

■ 観光資源を発信できる担い手育成

ふくいテレワーク女子

多くの地方で悩みとして挙げられるのが「広報戦略不足」や「女性のチカラが発揮できない(時間の自由度が高い土壌が無い)」という課題です。
ふくいテレワーク女子ではその2つを掛け合わせ、テレワークでWebマーケティングができる女性人材を育成しています。
これにより仕事のモチベーションも上がり福井への愛着が強い女性も増えているといいます。

■ 県外の専門家×地域住民との交流

合同会社FUJIONE(フジオネ)
敦賀発のまちづくり民間会社~

ここは敦賀信用金庫の空きスペースをリノベーションし、コワーキングスペースとカフェスペースを設置してオープンされました。
2階部分はホステルにしたことで宿泊も出来るよう工夫されています。

今までDXセミナーやママ向けセミナー、たこ焼きパーティーなど地域内外の方に様々な用途で利用されてきました。

後藤さんは、ここが福井県の中間地点にあるという立地を活かして、南の方と北の方を繋ぎ、ここでの出会いを通して新しいアイデアや事業が生まれる施設であることを目指しています。

後藤さんはメディアリテラシーやプレゼンテーションスキルなどの啓蒙と同時に、地域内外様々な視点を持つ方が対話を進め、皆が能力を最大化するための活動を大切にされています。

4.さいごに

講演会の最後に、飲食、観光、宿泊、行政関係など様々なバックグラウンドを持つ参加者から、それぞれの立場でワーケーション推進やまちづくりにどう関わればいいかという悩みが発表されました。

浅野さんからまちづくりに対する質問のヒントとして、学生ベンチャーを巻き込んだ取組について共有がありました。
まちで関わる課題や悩みを学生と対話する中でざっくばらんに共有&相談し、アイデアを交換し合ったり、そのアイデアを彼らが挑戦する機会としても共創していく流れをつくることで、結果的に学生にとってもまちにとってもプラスになるといいます。

今回、学生ベンチャーを巻き込んだ地域の活動事例のお話をお聞きし、京丹後市が直面しているリアルな地域課題をテーマに若い力を取り込み、新たなビジネスやつながりを共創していくための良いモデルになるのではと感じました。

今回3名の講師の方から教えていただいたアイデアを参考に、今後丹後リビングラボのフィールドを活かし皆さんと共に少しずつ形にしていきたいです。

Writer:丹後リビングラボ|岸 あやか




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